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番外編 浅宮くんの事情3

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 次の日は、朝から不吉だった。
 俺が授業中、消しゴムを使おうと思って筆箱を見たら、『三倉大好き』消しゴムがすっかり消えていた。
 授業中なので騒ぐことはできないが、俺の心はザワザワしっぱなしだ。だってあの消しゴムは浅宮からもらった大切な消しゴムなんだから。

 いつからないんだろう。昨日の午前の授業のときまではあったはずだけど……。午後は体育だったからあったかどうかは確認してはいない。
 気づかないうちに落としたのか。家で眺めていたときに置いてきてしまったのか。
 俺は浅宮からもらった消しゴムを保存するために、予備の消しゴムを持っていたからそれを使ったが、あの消しゴムだけはどうしても見つけなきゃいけない。





 授業の合間の休み時間に、俺の席のすぐ前を浅宮が通り過ぎようとしていたので、俺はこっそり浅宮に視線を送る。
 いつもならなんとなく浅宮と視線を交わしているのに、浅宮は俺のほうを見ようともしない。

「おい、目黒。昨日言ってた日本史のノート貸してやる」

 浅宮は俺の隣の席に座っている、目黒に声をかけ、浅宮の日本史のノートを差し出している。

「うわぁ! ありがとう! 浅宮!」

 目黒はめちゃくちゃ嬉しそうだ。

「ねぇ、浅宮はどこがテストに出ると思う?」

 目黒の質問に浅宮はノートを開いて指差しながら、丁寧に答えている。
 浅宮は誰にでも親切でホントにいい奴だな。そのくらいはいい。

 でも、目黒と浅宮って、仲良かったかな……。俺はふたりが話してるとこ初めてみたかも……。




 昼休み、廊下を俺がひとりで歩いていると浅宮たちのグループが前からやってくる。
 浅宮たちのグループは皆ハイスペック野郎ばっかりで、当然優れたビジュアルの持ち主たちだ。その中でも浅宮は群を抜いてかっこいい。
 背が高いのに頭ちっさいし、顔はめちゃくちゃかっこいい。
 浅宮の容姿の良さはやばすぎるよな……。一般人とレベルが違いすぎる。
 浅宮は学校一のビジュアル男だと思っていたけど、日本一かっこいい高校生なんじゃないだろうか。今度ネットでそういうコンテストを探して浅宮に出場を薦めてみようか。


 浅宮とすれ違う。

 そこには何のリアクションもない。ただすれ違っただけだ。
 すれ違ったあと、俺は思わず振り返る。浅宮の背中はどんどん遠ざかっていき、一度も俺を振り返ることはなかった。




 次の日、また浅宮は俺の目の前を通り過ぎて、俺の隣の席の目黒と話している。

「浅宮が昨日教えてくれた動画、むっちゃ楽しかったよ! マジ笑ったよ」
「そ?」
「うん! また面白そうなのあったら俺に送ってよ」

 はぁ……。浅宮と話す目黒の楽しそうな声を聞くとなんだかイライラする。
 昨日は俺、一度も浅宮と連絡取り合ってないぞ。なのに目黒には動画のリンクを送る暇があったのかよ!



 そんな状態が一週間も続いた。
 酷くないか?
 浅宮は前みたいに学校で俺に視線を送ってくれなくなった。
 浅宮にメールすればちゃんと返事は返ってくるけど、学校での浅宮の態度に心折れた俺はこの三日間、浅宮に連絡することをやめた。
 そうしたら浅宮からの連絡はない。浅宮は忙しいのかもしんないけど、たまには浅宮からメールくれてもよくねぇ?
 なんでいつも俺から連絡しないといけないんだよ……。





 今日は木曜日。今日こそ放課後、浅宮から事情を問いただしてやるんだ!

 HRが終わり、帰りの支度も済ませた。俺はいつも木曜日に浅宮と待ち合わせている空き教室に向かう。

 教室をチラッと覗くとそこに浅宮がいた。浅宮の姿を見た途端に俺は緊張MAXだ。だってこれから浅宮と言い合いをしなきゃいけないんだから。

 なんて言おう。
 まずはどんなふうに切り出そう。

 浅宮のことを責めるのをやめ、ここは何にもなかったふうに笑顔で浅宮に声をかけて、ジワジワと聞き出すべきか……?
 それともいきなり「酷いぞ、浅宮!」と怒ってみせるべきか……?

 俺がひとり躊躇していると、俺の横を通り越して目黒が空き教室の中に入っていく。

 ……え?

 目黒と何やら話をしている浅宮。
 そしてふたりはそのまま仲良くふたりで教室を出ていく。

 どういうことだ……? 浅宮は俺を待っていたんじゃなくて、目黒を待ってたってことなのか?!

 俺はショックでヨロヨロと壁に寄りかかる。
 嘘だろ。浅宮。

 お前、俺のことが好きだったんじゃなかったのかよ!


 
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