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番外編 浅宮くんの事情1

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 授業中。後ろの席の奴からトントンと背中を叩かれた。
 振り返った俺に、そいつは消しゴムを手渡してくる。さらにそいつは浅宮のことを指す。これは『浅宮から』ということを言いたいのだろう。

 ぱっと見た感じはただの消しゴムだった。でもケースをずらすと消しゴムに文字が書いてある。

『三倉大好き』

 うわっ! と授業中なのに声が出そうになる。
 浅宮はなにをしてるんだ?! さっきまで眠かったのに一発で目が覚めたわ!!

 浅宮は消しゴムを二個持っているのだろうか。俺にこの消しゴムを送ってしまったら、もう手持ち消しゴムがないのでは……?

 『三倉大好き』消しゴムを浅宮にそのまま送り返すことはできない。ここは俺の消しゴムを浅宮に渡してやるべきだ。
 でもでもでも大問題が起きてるぞ。消しゴムに何を書いたらいい?! 俺も『浅宮大好き』と書いて送るべきか?!
 それってかなり恥ずかしい! いや好きだけど、大好きには違いないんだけどさ。

 白いままの消しゴムを送ったら浅宮はがっかりするかな……。「俺のこと好きじゃないの?」なんて思ったりするかな……。

 しばらく悩んでいたが、俺は意を決して『浅宮大好き』と消しゴムに書いてそれを消しゴムケースで隠す。
 教師が黒板に向かっている隙をついて、俺の後ろの席の奴に消しゴムを託す。

 うわぁ、浅宮はあれをみてどんな反応するんだろう……。
 授業中で振り向けないし、まさか引かれたりしないよな、と不安な気持ちもある。


 俺はもう一度浅宮から送られてきた消しゴムの文字をチラ見する。
『三倉大好き』かぁ……。やばい、むっちゃ嬉しいぞ。この消しゴムを見るたびにニヤニヤしてしまいそうだ。



 授業が終わったあと、それとなく斜め後ろの席を振り返る。
 うっわ! 浅宮も俺のほうを見ていたから即座に目が合った。
 浅宮はさっき俺が渡した消しゴムを手に持ちながら、俺に意味深な視線を送ってくる。あのドヤっとした笑顔はなんなんだ?! あー! もう! 嬉しそうにしやがって! 見てるこっちが恥ずかしいわ!
 まぁ、俺も浅宮と消しゴム交換できて嬉しかったけど。ドキドキしちゃったけど。


 ◆◆◆


 次の授業は体育館で体育だったので休み時間も着替えをして移動もしてと慌ただしい。
 今日の授業は試合形式でのバスケットボール。今は俺のチームは見学で、浅宮のいるチームが戦っている。
 浅宮は大活躍だ。見ていてかっこよすぎる。
 浅宮は背が高いからバスケをするには有利だ。でも運動神経もいいらしく、ドリブルで相手のガードを抜き去ってからの高いジャンプ! ゴールにボールを置くようにシュートしてる。その一連の動きが流れるようですごくキレイだ。
 はぁ、惚れ惚れするな……。バスケ部の奴らが浅宮にやられて悔しがってる。すごくないか? 浅宮は確かバスケはほぼやったことないんじゃないかな。ホント浅宮はなんでもできるんだな……。


 授業が終わり、みんなで片付けをする。俺は点数板をガラガラと押して体育倉庫に戻そうとしていた。
 すると前からボールを片付け終わった浅宮がやってくる。隣にいるクラスメイトと「浅宮お前、ガチで強ぇわ!」「そうか?」と話をしながら。

 基本的に浅宮は陽キャグループの奴らとつるんでる。俺はずっと親友の有栖と一緒。普段学校では楽しそうな浅宮を遠くから眺めているだけだ。

 俺は浅宮とは目も合わせずにすぐ横を通り抜けていく。
 浅宮と最も距離が近くなった瞬間。
 すれ違いざまに浅宮は俺の頭をポンポンしてきた。

 えっ! と思って俺が浅宮を振り返ると、浅宮も俺を見ていてニヤッと笑う。そのまま浅宮は立ち去っていったが、俺はひとり体育倉庫でにやけてしまった。

 やっば嬉しい。浅宮はちゃんと俺の存在を意識してくれているんだ。


 ◆◆◆


 昼休みに有栖とふたりでいつものように昼メシを食べてから教室で駄弁だべっていたらスマホに通知がきた。

『今度の日曜日デートしたい』

 浅宮からのLINEだ。思わず俺は斜め後ろの席をばっと振り返った。
 浅宮の机の周りには男女グループがワイワイ集まってテンション高めに盛り上がっている。浅宮もその輪に入って話をしているように見えるのに、俺にさりげなくLINEを送ってきたみたいだ。

 浅宮とデート……。学校では浅宮と付き合ってることは内緒にしているから、こんなに近くにいるのにほとんど話をすることもできないけど、デートなら浅宮とずっと一緒にいられる。心置きなく話ができる——。


「——三倉? 聞いてた?」

 有栖に言われてハッと我にかえる。

「ごめんもう一回言って。ボーッとしてた」

 俺は謝ったのに、有栖は「もういい」と拗ねてしまった。俺の隣の席に座ってたのに、立ち上がり俺から離れていってしまう。


「有栖、ごめん!」

 慌てて有栖を追いかける。友達が話をしてくれてるのに、LINEを見てぼんやりするなんて俺は最悪だ。

「ごめんってば!」

 廊下に出てすぐの場所で、有栖の腕をぐいっと掴む。俺に腕を引っ張られ、振り向いた有栖はもう怒ってなかった。


「俺こそごめん。なんか話の途中で三倉がよそ見してたから少しイライラした。でもそのくらいで怒るなんておかしいよね」
「そんなことない。俺が悪かったんだ」

 謝り合う俺と有栖。よかった。有栖は笑顔になった。

「そうだ、三倉。今度の日曜日、空いてる? うちでバーベキューやるんだけど三倉も来ない? 三倉のお母さんは参加するらしいんだけど」

 有栖家と三倉家は昔から家族ぐるみの付き合いをしている。両親同士も仲がよく、幼い頃から二家族でバーベキューやスキーなどに出掛けた思い出がある。
 今度の日曜日……。さっき浅宮からLINEでお誘いが来ていたような……。

「いや、俺は——」

「悪りぃ。通して」

 浅宮は急に現れ、俺たちふたりを押し退けて、無理に間に割って入ってきた。
 いや別にわざわざ俺と有栖の間を抜けなくても他に通るとこあるのに。
 有栖も「浅宮感じ悪いな……」と浅宮にイラついてる。
 なんだか浅宮らしくない。どうしたんだろう……。


「おーい! 浅宮!」

 浅宮に続いてきた木場きばが、浅宮に声をかけ、浅宮は立ち止まった。

「今度の日曜日、一緒に佐伯さえきんちに遊びにいかね?」

 浅宮は一瞬俺を見た。そして俺に聞こえるように言う。

「行く! 遊びに誘ったんだけど、無視されたし、そいつ俺じゃなくて他の奴と仲良くしたいらしいから」

 俺は無視なんかしてない。ついさっきLINEを送ってきたばっかじゃんか! それなのになんで今度の日曜日に友達との予定を入れちゃったんだよ!
 しかもわざと俺に聞こえるように嫌味なことを言って!

 浅宮を睨みつけてやろうと思ったのに、浅宮は木場とふたりでさっさとその場からいなくなってしまった。

 浅宮の奴、なんなんだよ!
 いつも即レスなんてできるわけないだろ。浅宮のばかばかばか! もういい。別に浅宮とのデートなんかどうでもいい! 知るか! あんな奴!
 
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