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番外編 有栖くんの憂鬱1
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三倉の魅力に気がついているのは自分だけだと思っていた。
三倉は優しくて強い。見た目はごくごく普通で、決してそんなふうには見えないのに、いつだって自らの正義を突き通す気概がある。
有栖だって最初はわからなかった。ただの友達のひとりにすぎなかった。有栖が三倉の強さに初めて気がついたのは小学五年生の終わり頃だ。
2月14日。その日は毎年有栖にとって、憂鬱になる日だった。
いちいち返すのが面倒くさくなるくらいの数のチョコレートを手渡される日。
でもそんなことを人に言ってはいけないとわかってた。チョコレートを貰うのは嬉しいことで、名誉なこと。
要らない、面倒くさいとは言ってはいけないこと。
三倉と一緒に通っていたサッカークラブの帰りに、女の子たちが有栖を待ち伏せしていた。そこで例年通りたくさんのチョコレートを手渡され、思ってもいない「ありがとう」を言わなきゃいけなくて、有栖はやっぱり憂鬱な気分になった。
話はそれだけじゃ終わらない。
「おい、有栖! お前ふざけんなよ!」
有栖に突然罵声を浴びせてきたのは同じサッカークラブに通っている高橋だった。
「なに?」
「なんだよ、そのチョコ、自慢かよ!!」
高橋は有栖が手にしているたくさんのチョコレートを睨みつけている。
「別に」
自慢なんかしていない。全部欲しくもないのに貰ったものだ。
「——有栖。高橋は美琴ちゃんのことが好きなんだ」
隣にいた三倉が有栖にそっと耳打ちしてきた。
「有栖がさっき美琴ちゃんからチョコをもらったから悔しくて八つ当たりしてるんだ」
へぇ。そうだったのか。
正直有栖は、美琴ちゃんの顔すらあまり思い出せないくらいだ。
「有栖。ちょっとこっち来いよ!」
高橋は有栖と決闘でもするつもりなのか、有栖をサッカーグラウンドの裏に呼びつけた。
「三倉、先に帰って。俺は高橋と話をしてから帰るから」
これは有栖の問題だ。三倉を巻き込むわけにはいかない。
「えっ! う、うん……」
三倉は不安そうな顔を浮かべている。そんな三倉を置いて有栖は高橋についていった。
グラウンドの準備倉庫。普段は鍵がかかっているのに、その日はなぜか鍵があいていた。
高橋に連れられて来てみたら、中には数人の高橋の仲間たちがいた。
「有栖。お前のムカつくそのキレイなツラをボッコボコにしてやる!」
威勢のいいことを言って、こちらにじりじりと近づいてくる。しかも、みんな揃ってご丁寧に尖った木の棒や、石などを持っている。
愛想の悪い有栖は昔から何かと目をつけられることはあったが、そのたび負けじと戦ってきた。
でも、今回だけはすごく嫌な予感がする。
相手は四人。こちらはひとり。
さすがにやられるかもしれない、と思った。
そんな有栖のとった手立ては『逃げる』だ。
有栖はその場からダッシュで逃げた。
「待て!」
すかさず高橋たちが追いかけてくる。必死で走ったが、仲間のひとりに追いつかれ、背中側から服を引っ張られ、有栖はその場に転倒した。
「逃げるなんて卑怯だぞ!」
高橋が有栖の腹を蹴飛ばしてきた。有栖は「ゔっ……」とうずくまる。
その時だ。
「どっちが卑怯なんだよ!!」
三倉だ。三倉がその場に現れた。
「なんだ、三倉か。あっちいけよ!」
高橋が三倉を見てフンと鼻で笑った。
「高橋、お前、かっこ悪いぞ! みんなで寄ってたかって有栖をいじめるなんて俺は絶対許さない!!」
三倉は高橋の胸ぐらを掴んで、高橋にくってかかる。三倉が高橋を離さないから、高橋の仲間が高橋から三倉を引き剥がそうとしている。
「離せっ!」
「嫌だ!! 有栖に謝れ!!」
有栖としては信じられない。三倉はこの状況で有栖を助けることを怖いと思わなかったのか……?
「しつこいな! 三倉!」
「あ、や、ま、れぇ!!!」
三倉の声がデカかったせいか、騒ぎに気がついた周りの大人がやってきた。
「やっべ!」
大人に発見されそうになり、高橋たちは木の枝や石をその場に捨てて走って逃げていった。
残されたのは有栖と三倉。大人たちも二人の無事を確認して立ち去っていった。
「有栖っ! 大丈夫か?!」
高橋たちがいなくなったから、三倉は有栖のほうに駆け寄ってきた。起き上がった有栖の服についた土や葉っぱを手で払ってくれている。
「うん……大丈夫……」
「良かった!」
三倉は有栖の顔を見てほっとした笑顔をしているが、その顔はよく見るとすり傷だらけだ。高橋との取っ組み合いで引っ掻かれたのかもしれない。
「三倉のほうが酷い怪我だよ。顔じゅう傷だらけだ」
有栖がそう言うと三倉はまた笑った。
「いいんだよ。有栖が無事なら。俺の顔は普通だけど、有栖の顔はすごくキレイなんだよ? 将来モデルとか、芸能人になるかもしれないじゃないか」
いや、三倉。そういう問題じゃなくて、有栖のいざこざに巻き込まれたせいで、無関係の三倉が怪我をしていることが問題なんだ。
「有栖、立てる?」
三倉は有栖に肩を貸そうとして、有栖の腕に触れてきた。
「だ、大丈夫だよ。俺は怪我はないから」
有栖は三倉の手は借りずに自力で立ち上がる。ほとんど怪我はないから。
あの時、わざわざ差し伸べてくれた三倉の手を振り払ってしまったのはなんでだろう。
今思い出そうとしても古い記憶で、有栖には、はっきりとその理由がわからない。
それから、有栖と三倉は同じ中学校に上がった。相変わらずふたりはいつも一緒にいたし、いざこざに巻き込まれやすいタチの有栖を三倉はいつも全力で守ってくれた。
中学も後半になる頃には有栖の身長は175センチを超え、三倉よりも10センチ以上高かった。だから小柄な三倉が有栖を庇うように立ち塞がる、というなんとも奇妙なかたちだったが。
「有栖っ! ここわからないんだけど、教えて!」
高校受験を控えて、三倉と有栖はいつもふたりで放課後勉強会をしていた。といっても三倉は勉強が苦手なので、有栖が教えるばかり。
「もちろんいいよ」
三倉と勉強するのはすごく楽しかった。いつも三倉と過ごす時間は穏やかだ。
有栖は友達になりたくてもすぐに恋愛対象にされがちだった。女子と友達になったと思ったら告白されて、気まずくなって終わり。
同じサッカー部の友達だと思ってた奴に「俺は有栖のことが好きだ。お前のことは友達として見られない」なんて言われた事もある。
でも三倉はいっさいそんな素振りはなかった。純粋に友達として接してくれる。それが有栖にとってはすごく心地よかった。
中学校三年生の頃の2月14日の話だ。有栖が毎年憂鬱な気分になる、世間ではバレンタインデーと呼ばれる日。
放課後呼び出しや、勝手に机の中にチョコをねじ込まれていたり、散々な目に遭った。
クラスの奴からは「いいなあ有栖」とか「独り占めすんなよ」とか言われるし、気分は最悪だ。
そんな時の癒しはやっぱり三倉。
「有栖! 待ってたよ、一緒に帰ろうぜ!」
笑顔でこちらに向けてひらひらと手を振っている三倉は最高の友達だ。
「はい、有栖」
その日の学校からの帰り道。いつも通りに三倉と歩いていた時に、何の気なしに三倉がチョコを手渡してきた。
丁寧にラッピングされた、手紙付きの手作りらしきチョコ。
「えっ!」
有栖はドキッとした。まさか三倉がチョコを手渡してくるなんて思いもしなかったから。
「どうせ要らないだろうけど受け取って」
今まで誰からチョコをもらっても、こんなにドキドキしなかった。なのに三倉からだと思うとどうしてこんなに心臓がバクバクするんだろう。
友人だと思ってた三倉まで恋愛対象になってしまい、三倉を失うのが怖いから?
それとも、自分は三倉に対して特別な感情を抱いているから?
「これは、3-2の北上真那ちゃんって子からだよ」
「えっ……!」
「頼まれた。有栖に渡して欲しいって」
なんだ。三倉からのチョコじゃなかった。
真実がわかってほっとしているはずなのに、まだ心臓はドキドキしている。
「あ、そう……。わかった……」
とりあえず三倉からチョコを受け取る。
「有栖がこの前の都大会で、シュートを決めた時に一目惚れしたんだってさ。たしかにあの時の有栖はすごくかっこよかったよな! あんなところから何人もドリブルで抜いて、シュートを決めてさ。マラドーナかと思ったわ」
「やめろよ」
サッカーはチーム競技なのに、有栖はチームプレイが苦手なところがあるから、全部ひとりでやってしまっただけのことだ。
つい照れ隠しで「やめろよ」なんて言ったけど、三倉に褒められてちょっと嬉しかった。
「本当に有栖はなんでもできるし、すごいよな! 俺の自慢の親友だ!」
三倉の屈託のない笑顔。
ああ。こいつとずっと親友でいたい、そう思った。
中学校卒業式の日。有栖は卒業の余韻に浸る間もなく、次々と呼び出された。同級生、後輩、なぜか他校の生徒まで。みんな揃いも揃って有栖に対する愛の告白だ。
「ずっと好きでした」「遠くから眺めているだけじゃもう耐えられないんです」「お試しでもいいから付き合ってください」
みんなどうしてこんな無愛想な自分のことを好きになってくれたのか有栖としては不思議でしょうがない。みんな必死な顔をしているから邪険にもできずにひとりひとり丁寧に話を聞いて、しっかりとお断りをした。
卒業式後、解散せずにワイワイと生徒たちの人だかりができていた。その中のひとつ、クラスの数人が集まっている輪に三倉がいた。
やっと告白の山から解放されて三倉と話せる、とそこの輪に近づこうとした時だ。
「なぁ、三倉は有栖に告白しないの?」
クラスの鈴木が三倉にそんなことを訊ねていた。思わず人混みに紛れて聞き入ってしまった。
「何言ってんだ、有栖は俺の友達だよ、そんなことするわけない。そんな目で有栖を見たことなんて一度もないよ」
そっかー、アハハー、と鈴木と三倉は笑っている。
有栖も三倉と友達でいられることに安心と喜びを感じていた。
でも、あの時ショックを受けたような気がしたのは何かの間違いだろうか。
三倉は優しくて強い。見た目はごくごく普通で、決してそんなふうには見えないのに、いつだって自らの正義を突き通す気概がある。
有栖だって最初はわからなかった。ただの友達のひとりにすぎなかった。有栖が三倉の強さに初めて気がついたのは小学五年生の終わり頃だ。
2月14日。その日は毎年有栖にとって、憂鬱になる日だった。
いちいち返すのが面倒くさくなるくらいの数のチョコレートを手渡される日。
でもそんなことを人に言ってはいけないとわかってた。チョコレートを貰うのは嬉しいことで、名誉なこと。
要らない、面倒くさいとは言ってはいけないこと。
三倉と一緒に通っていたサッカークラブの帰りに、女の子たちが有栖を待ち伏せしていた。そこで例年通りたくさんのチョコレートを手渡され、思ってもいない「ありがとう」を言わなきゃいけなくて、有栖はやっぱり憂鬱な気分になった。
話はそれだけじゃ終わらない。
「おい、有栖! お前ふざけんなよ!」
有栖に突然罵声を浴びせてきたのは同じサッカークラブに通っている高橋だった。
「なに?」
「なんだよ、そのチョコ、自慢かよ!!」
高橋は有栖が手にしているたくさんのチョコレートを睨みつけている。
「別に」
自慢なんかしていない。全部欲しくもないのに貰ったものだ。
「——有栖。高橋は美琴ちゃんのことが好きなんだ」
隣にいた三倉が有栖にそっと耳打ちしてきた。
「有栖がさっき美琴ちゃんからチョコをもらったから悔しくて八つ当たりしてるんだ」
へぇ。そうだったのか。
正直有栖は、美琴ちゃんの顔すらあまり思い出せないくらいだ。
「有栖。ちょっとこっち来いよ!」
高橋は有栖と決闘でもするつもりなのか、有栖をサッカーグラウンドの裏に呼びつけた。
「三倉、先に帰って。俺は高橋と話をしてから帰るから」
これは有栖の問題だ。三倉を巻き込むわけにはいかない。
「えっ! う、うん……」
三倉は不安そうな顔を浮かべている。そんな三倉を置いて有栖は高橋についていった。
グラウンドの準備倉庫。普段は鍵がかかっているのに、その日はなぜか鍵があいていた。
高橋に連れられて来てみたら、中には数人の高橋の仲間たちがいた。
「有栖。お前のムカつくそのキレイなツラをボッコボコにしてやる!」
威勢のいいことを言って、こちらにじりじりと近づいてくる。しかも、みんな揃ってご丁寧に尖った木の棒や、石などを持っている。
愛想の悪い有栖は昔から何かと目をつけられることはあったが、そのたび負けじと戦ってきた。
でも、今回だけはすごく嫌な予感がする。
相手は四人。こちらはひとり。
さすがにやられるかもしれない、と思った。
そんな有栖のとった手立ては『逃げる』だ。
有栖はその場からダッシュで逃げた。
「待て!」
すかさず高橋たちが追いかけてくる。必死で走ったが、仲間のひとりに追いつかれ、背中側から服を引っ張られ、有栖はその場に転倒した。
「逃げるなんて卑怯だぞ!」
高橋が有栖の腹を蹴飛ばしてきた。有栖は「ゔっ……」とうずくまる。
その時だ。
「どっちが卑怯なんだよ!!」
三倉だ。三倉がその場に現れた。
「なんだ、三倉か。あっちいけよ!」
高橋が三倉を見てフンと鼻で笑った。
「高橋、お前、かっこ悪いぞ! みんなで寄ってたかって有栖をいじめるなんて俺は絶対許さない!!」
三倉は高橋の胸ぐらを掴んで、高橋にくってかかる。三倉が高橋を離さないから、高橋の仲間が高橋から三倉を引き剥がそうとしている。
「離せっ!」
「嫌だ!! 有栖に謝れ!!」
有栖としては信じられない。三倉はこの状況で有栖を助けることを怖いと思わなかったのか……?
「しつこいな! 三倉!」
「あ、や、ま、れぇ!!!」
三倉の声がデカかったせいか、騒ぎに気がついた周りの大人がやってきた。
「やっべ!」
大人に発見されそうになり、高橋たちは木の枝や石をその場に捨てて走って逃げていった。
残されたのは有栖と三倉。大人たちも二人の無事を確認して立ち去っていった。
「有栖っ! 大丈夫か?!」
高橋たちがいなくなったから、三倉は有栖のほうに駆け寄ってきた。起き上がった有栖の服についた土や葉っぱを手で払ってくれている。
「うん……大丈夫……」
「良かった!」
三倉は有栖の顔を見てほっとした笑顔をしているが、その顔はよく見るとすり傷だらけだ。高橋との取っ組み合いで引っ掻かれたのかもしれない。
「三倉のほうが酷い怪我だよ。顔じゅう傷だらけだ」
有栖がそう言うと三倉はまた笑った。
「いいんだよ。有栖が無事なら。俺の顔は普通だけど、有栖の顔はすごくキレイなんだよ? 将来モデルとか、芸能人になるかもしれないじゃないか」
いや、三倉。そういう問題じゃなくて、有栖のいざこざに巻き込まれたせいで、無関係の三倉が怪我をしていることが問題なんだ。
「有栖、立てる?」
三倉は有栖に肩を貸そうとして、有栖の腕に触れてきた。
「だ、大丈夫だよ。俺は怪我はないから」
有栖は三倉の手は借りずに自力で立ち上がる。ほとんど怪我はないから。
あの時、わざわざ差し伸べてくれた三倉の手を振り払ってしまったのはなんでだろう。
今思い出そうとしても古い記憶で、有栖には、はっきりとその理由がわからない。
それから、有栖と三倉は同じ中学校に上がった。相変わらずふたりはいつも一緒にいたし、いざこざに巻き込まれやすいタチの有栖を三倉はいつも全力で守ってくれた。
中学も後半になる頃には有栖の身長は175センチを超え、三倉よりも10センチ以上高かった。だから小柄な三倉が有栖を庇うように立ち塞がる、というなんとも奇妙なかたちだったが。
「有栖っ! ここわからないんだけど、教えて!」
高校受験を控えて、三倉と有栖はいつもふたりで放課後勉強会をしていた。といっても三倉は勉強が苦手なので、有栖が教えるばかり。
「もちろんいいよ」
三倉と勉強するのはすごく楽しかった。いつも三倉と過ごす時間は穏やかだ。
有栖は友達になりたくてもすぐに恋愛対象にされがちだった。女子と友達になったと思ったら告白されて、気まずくなって終わり。
同じサッカー部の友達だと思ってた奴に「俺は有栖のことが好きだ。お前のことは友達として見られない」なんて言われた事もある。
でも三倉はいっさいそんな素振りはなかった。純粋に友達として接してくれる。それが有栖にとってはすごく心地よかった。
中学校三年生の頃の2月14日の話だ。有栖が毎年憂鬱な気分になる、世間ではバレンタインデーと呼ばれる日。
放課後呼び出しや、勝手に机の中にチョコをねじ込まれていたり、散々な目に遭った。
クラスの奴からは「いいなあ有栖」とか「独り占めすんなよ」とか言われるし、気分は最悪だ。
そんな時の癒しはやっぱり三倉。
「有栖! 待ってたよ、一緒に帰ろうぜ!」
笑顔でこちらに向けてひらひらと手を振っている三倉は最高の友達だ。
「はい、有栖」
その日の学校からの帰り道。いつも通りに三倉と歩いていた時に、何の気なしに三倉がチョコを手渡してきた。
丁寧にラッピングされた、手紙付きの手作りらしきチョコ。
「えっ!」
有栖はドキッとした。まさか三倉がチョコを手渡してくるなんて思いもしなかったから。
「どうせ要らないだろうけど受け取って」
今まで誰からチョコをもらっても、こんなにドキドキしなかった。なのに三倉からだと思うとどうしてこんなに心臓がバクバクするんだろう。
友人だと思ってた三倉まで恋愛対象になってしまい、三倉を失うのが怖いから?
それとも、自分は三倉に対して特別な感情を抱いているから?
「これは、3-2の北上真那ちゃんって子からだよ」
「えっ……!」
「頼まれた。有栖に渡して欲しいって」
なんだ。三倉からのチョコじゃなかった。
真実がわかってほっとしているはずなのに、まだ心臓はドキドキしている。
「あ、そう……。わかった……」
とりあえず三倉からチョコを受け取る。
「有栖がこの前の都大会で、シュートを決めた時に一目惚れしたんだってさ。たしかにあの時の有栖はすごくかっこよかったよな! あんなところから何人もドリブルで抜いて、シュートを決めてさ。マラドーナかと思ったわ」
「やめろよ」
サッカーはチーム競技なのに、有栖はチームプレイが苦手なところがあるから、全部ひとりでやってしまっただけのことだ。
つい照れ隠しで「やめろよ」なんて言ったけど、三倉に褒められてちょっと嬉しかった。
「本当に有栖はなんでもできるし、すごいよな! 俺の自慢の親友だ!」
三倉の屈託のない笑顔。
ああ。こいつとずっと親友でいたい、そう思った。
中学校卒業式の日。有栖は卒業の余韻に浸る間もなく、次々と呼び出された。同級生、後輩、なぜか他校の生徒まで。みんな揃いも揃って有栖に対する愛の告白だ。
「ずっと好きでした」「遠くから眺めているだけじゃもう耐えられないんです」「お試しでもいいから付き合ってください」
みんなどうしてこんな無愛想な自分のことを好きになってくれたのか有栖としては不思議でしょうがない。みんな必死な顔をしているから邪険にもできずにひとりひとり丁寧に話を聞いて、しっかりとお断りをした。
卒業式後、解散せずにワイワイと生徒たちの人だかりができていた。その中のひとつ、クラスの数人が集まっている輪に三倉がいた。
やっと告白の山から解放されて三倉と話せる、とそこの輪に近づこうとした時だ。
「なぁ、三倉は有栖に告白しないの?」
クラスの鈴木が三倉にそんなことを訊ねていた。思わず人混みに紛れて聞き入ってしまった。
「何言ってんだ、有栖は俺の友達だよ、そんなことするわけない。そんな目で有栖を見たことなんて一度もないよ」
そっかー、アハハー、と鈴木と三倉は笑っている。
有栖も三倉と友達でいられることに安心と喜びを感じていた。
でも、あの時ショックを受けたような気がしたのは何かの間違いだろうか。
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