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番外編 慣れない距離感
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「なぁ、紘星、いい加減離れろよ!」
「嫌だ。もう柊介から離れたくない」
まいった。本当にまいった。寝るのも一緒、風呂も一緒、食べるときまで「俺が食べさせてやるよ」と構ってくる。
「変なことはしない。だから抱っこさせて」
今はベッドのヘッドボードに寄りかかりながら、紘星からクリスマスプレゼントとしてもらったばかりのiPad Proでサブスク映画を観ている。それも普通に観ればいいのに紘星は柊介を自分の膝に乗せたがった。
仕方がないと受け入れたが、紘星にバックハグされてしまっていると、どうにも落ち着かず、映画にも集中できない。
紘星が柊介のうなじへキスをしてきた。
「おい! 何もしないっつっただろ?!」
「ごめん。ぶつかった」
言い訳下手か?! 今のは明らかにわざとキスしたに決まっている。
いい加減にして欲しい。そういうことをされると妙な気持ちになってしまう。でも、柊介の身体は昨晩からの紘星の攻めで限界だ。なるべくそういう雰囲気に持っていきたくはない。
「いい加減にしろよ、紘星! こっち来んな!」
紘星の膝から逃げ出して、隣のベッドに移る。
「おい柊介、どうしたんだよ」
すかさず紘星が追いかけてくるから、柊介はまたまた紘星から逃げるためにベッドを移る。
「しつこいんだよ、紘星は!」
「はっ? 何言ってんだ、どうせ照れ隠しだろ?」
「違う! ホントに嫌がってんの!」
なんでわからないんだよ。これ以上紘星に触られたら無理だって!
「そうだったのか……。俺、勘違いしてた。気がつかなくてごめん……」
紘星はスッと柊介から離れた。
「俺、ラウンジで仕事してくる。柊介は部屋でのんびりしてろよ、この部屋は十六時まで使えるから」
「あ、ああ……」
柊介が引き止める間もなく、紘星はパソコンを片手にさっさと部屋からいなくなった。
——なにも部屋からいなくなることないだろ!
紘星を拒絶したのは他でもない柊介だ。だがそれはベタベタせずに普通の距離感でそばにいて欲しかっただけで、決して離れたくはなかったのに。
「あー! クソっ!」
紘星がいなくなって、ゆっくり映画が観れるかと思ったのに、さっき以上に頭に内容が入ってこない。
紘星は実は怒っているのだろうか。それとも拒絶されて寂しいと思ったのだろうか。
柊介は紘星のことばかり考えている。
「早く帰って来いよ……」
ついには映画を観るのもやめて、ひとりふて寝することにした。
遅い。遅すぎる。
紘星がいなくなってかれこれ二時間が過ぎた。
何が『クリスマスは一緒に過ごそう』だ!
これじゃさすがに一緒にいるとは思えない。
柊介は立ち上がり、ルームキーを持った。
紘星の話では、部屋番号が確認できればクラブフロア専用のラウンジが無料で使えるらしい。ラウンジに向かえばそこに紘星がいるに違いない。
紘星が来ないなら、会いにいけばいい。ラウンジなら人の目もあるから紘星がベタベタしてくることもないだろう。
ラウンジの受付を突破して、紘星の姿を探す。紘星はすぐに見つかった。こちらに背を向けた状態でパソコンを開いて画面に見入っている。
「こうせ——」
声をかけようとして躊躇した。紘星の目の前に、コーヒーをふたつ手にした美人が現れ紘星の目の前に座ったからだ。
大学では見たことがない。その美人は紘星より年上に見える。
美人はコーヒーのうちのひとつを紘星に差し出し、もうひとつは自分が飲み始めた。
——俺を放置して紘星は何やってんだよ。
美人とふたりきりお楽しみのところ悪いが、柊介は紘星に近づいていく。
「おい、紘星」
ジトっとした目で紘星を見ると、紘星は明らかに動揺した様子だ。
「なんでお前がここにいんの?!」
「いちゃ悪いか?」
「いや……いいんだけど、びっくりした」
なぜ驚くんだ? やましいことでもあるのかよ。
「で、なに? 俺に用?」
紘星はクリスマスに二時間も恋人を放置しておいてなんとも思わないのか?!
「仕事なら部屋でやればいいじゃん」
「柊介がそばにいるのに仕事なんてできねぇよ」
チッ、と心の中で舌打ちした。美人を目の前にしてなら仕事ができるのに、なんで柊介だと駄目なのか。
「もういい。わかった」
腹が立ってきて、柊介はそのまま踵を返して部屋に戻ることにした。
このまま帰り支度をして、いなくなってやる! バラバラに過ごすならここにいる意味なんてない。
部屋に戻るなり、鞄に荷物を適当にぶち込んでいく。
「紘星のバカ野郎っ……!」
恋人になんてなるんじゃなかった。
友達の頃は紘星の隣に取っ替え引っ替え女がいても笑ってそばにいられたのに、それができなくなった。
紘星の一番になりたくて、紘星にも一番大切に想ってもらいたいと考えている。たかが二時間放置されたことがなんだ。それだって柊介が追い払ったようなものなのに。
「俺のバカ!」
感情がぐちゃぐちゃになる。こんな小さなことで大きく心が振り回されている自分が嫌になる。
「嫌だ。もう柊介から離れたくない」
まいった。本当にまいった。寝るのも一緒、風呂も一緒、食べるときまで「俺が食べさせてやるよ」と構ってくる。
「変なことはしない。だから抱っこさせて」
今はベッドのヘッドボードに寄りかかりながら、紘星からクリスマスプレゼントとしてもらったばかりのiPad Proでサブスク映画を観ている。それも普通に観ればいいのに紘星は柊介を自分の膝に乗せたがった。
仕方がないと受け入れたが、紘星にバックハグされてしまっていると、どうにも落ち着かず、映画にも集中できない。
紘星が柊介のうなじへキスをしてきた。
「おい! 何もしないっつっただろ?!」
「ごめん。ぶつかった」
言い訳下手か?! 今のは明らかにわざとキスしたに決まっている。
いい加減にして欲しい。そういうことをされると妙な気持ちになってしまう。でも、柊介の身体は昨晩からの紘星の攻めで限界だ。なるべくそういう雰囲気に持っていきたくはない。
「いい加減にしろよ、紘星! こっち来んな!」
紘星の膝から逃げ出して、隣のベッドに移る。
「おい柊介、どうしたんだよ」
すかさず紘星が追いかけてくるから、柊介はまたまた紘星から逃げるためにベッドを移る。
「しつこいんだよ、紘星は!」
「はっ? 何言ってんだ、どうせ照れ隠しだろ?」
「違う! ホントに嫌がってんの!」
なんでわからないんだよ。これ以上紘星に触られたら無理だって!
「そうだったのか……。俺、勘違いしてた。気がつかなくてごめん……」
紘星はスッと柊介から離れた。
「俺、ラウンジで仕事してくる。柊介は部屋でのんびりしてろよ、この部屋は十六時まで使えるから」
「あ、ああ……」
柊介が引き止める間もなく、紘星はパソコンを片手にさっさと部屋からいなくなった。
——なにも部屋からいなくなることないだろ!
紘星を拒絶したのは他でもない柊介だ。だがそれはベタベタせずに普通の距離感でそばにいて欲しかっただけで、決して離れたくはなかったのに。
「あー! クソっ!」
紘星がいなくなって、ゆっくり映画が観れるかと思ったのに、さっき以上に頭に内容が入ってこない。
紘星は実は怒っているのだろうか。それとも拒絶されて寂しいと思ったのだろうか。
柊介は紘星のことばかり考えている。
「早く帰って来いよ……」
ついには映画を観るのもやめて、ひとりふて寝することにした。
遅い。遅すぎる。
紘星がいなくなってかれこれ二時間が過ぎた。
何が『クリスマスは一緒に過ごそう』だ!
これじゃさすがに一緒にいるとは思えない。
柊介は立ち上がり、ルームキーを持った。
紘星の話では、部屋番号が確認できればクラブフロア専用のラウンジが無料で使えるらしい。ラウンジに向かえばそこに紘星がいるに違いない。
紘星が来ないなら、会いにいけばいい。ラウンジなら人の目もあるから紘星がベタベタしてくることもないだろう。
ラウンジの受付を突破して、紘星の姿を探す。紘星はすぐに見つかった。こちらに背を向けた状態でパソコンを開いて画面に見入っている。
「こうせ——」
声をかけようとして躊躇した。紘星の目の前に、コーヒーをふたつ手にした美人が現れ紘星の目の前に座ったからだ。
大学では見たことがない。その美人は紘星より年上に見える。
美人はコーヒーのうちのひとつを紘星に差し出し、もうひとつは自分が飲み始めた。
——俺を放置して紘星は何やってんだよ。
美人とふたりきりお楽しみのところ悪いが、柊介は紘星に近づいていく。
「おい、紘星」
ジトっとした目で紘星を見ると、紘星は明らかに動揺した様子だ。
「なんでお前がここにいんの?!」
「いちゃ悪いか?」
「いや……いいんだけど、びっくりした」
なぜ驚くんだ? やましいことでもあるのかよ。
「で、なに? 俺に用?」
紘星はクリスマスに二時間も恋人を放置しておいてなんとも思わないのか?!
「仕事なら部屋でやればいいじゃん」
「柊介がそばにいるのに仕事なんてできねぇよ」
チッ、と心の中で舌打ちした。美人を目の前にしてなら仕事ができるのに、なんで柊介だと駄目なのか。
「もういい。わかった」
腹が立ってきて、柊介はそのまま踵を返して部屋に戻ることにした。
このまま帰り支度をして、いなくなってやる! バラバラに過ごすならここにいる意味なんてない。
部屋に戻るなり、鞄に荷物を適当にぶち込んでいく。
「紘星のバカ野郎っ……!」
恋人になんてなるんじゃなかった。
友達の頃は紘星の隣に取っ替え引っ替え女がいても笑ってそばにいられたのに、それができなくなった。
紘星の一番になりたくて、紘星にも一番大切に想ってもらいたいと考えている。たかが二時間放置されたことがなんだ。それだって柊介が追い払ったようなものなのに。
「俺のバカ!」
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