毎年クリスマスに俺を見下してた奴につい見栄を張ったらそいつが告白してきた話

雨宮里玖

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4.そばにいたかった 〜紘星side〜

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 絋星の目の前で繰り広げられる大学での講義。そこにははっきりとアンサーが導かれている。
 だが絋星はそれどころじゃない。まったく講義に集中できない。こんなにも難しい問題に立ち向かうことなんて初めてだ。
 そしてそれらを引き起こしたのは自分自身というジレンマにも苛まれている。




 絋星は、今まで自分の目論みが外れたことなどなかった。昔からなんでも思い通りになったし、欲しいものは全て手にしてきた。それで当然だと思っていた。

 でも人生イージーモードが続くわけがない。どうして自分だけはそうだと思い込んでいたのか。浅はかな過去の自分をぶん殴ってやりたい。


 大切なものを失って初めて気づくなんて遅すぎる——。


 ヤバい、冷静になれ。
 落ち着け落ち着け落ち着け。自分自身に言い聞かせる。
 まだ間に合うまだ間に合うまだ間に合うかもしれない。
 諦めるのはもう少し先でもいいはずだ。



 大学の入学式で柊介に一目惚れ。相手が女なら秒で口説いてたに違いない。でも柊介は男だった。同性の自分はスタートラインに立つことすらできずに恋愛圏外に決まっている。
 とりあえず友達になろうと声をかけた。柊介のそばにいたくて履修科目を丸パクリ。一緒に講義を受けるようになった。とりあえず友達になる作戦は成功。友達として柊介のそばにいられて本当に幸せだった。

 絋星が柊介に付きまといすぎたのがアダとなったのか、ある日、とある噂を偶然聞いてしまった。
 「絋星と柊介は一緒にいすぎる。あいつら時々距離感バグってる。もしかして、ゲイ?」という危険な噂だ。言ってる奴らからしたら半分冗談かもしれないが、こんな噂が流れていると柊介が知ったら柊介は「気持ちが悪い」と確実に絋星の元から離れて、友達をやめるに決まっている。

 噂をなくすためには柊介と距離を置くしかないのだろうが、それは無理だ。柊介のそばに居られなかったら絋星の心が死んでしまう。

 柊介のそばにいながらも、変な噂を立てられないようにする方法。

 そうだ。
 彼女がいればいい。

 そうすれば柊介にべったりでも、妙な噂は立たないし、柊介もまさか自分が男友達から恋愛対象にされているなどとは思いもしないだろう。柊介からも警戒されなくなるかもしれない。


 幸いにも絋星の彼女になりたがる女はたくさんいた。

 その中のうち「俺には本命がいて、本気で好きになることはない。それでもいいなら付き合う」と伝え、オーケーをくれた女とだけ付き合うことにした。
 そんな条件でオーケーをくれる女は大抵は絋星の中身なんて見ちゃいない。見た目や金、そんなものに興味のある奴ばっかりだ。
 でもかえってそれで都合がいい。だって絋星もそこに本当の愛などなかったから。『絋星の彼女』という偽物の冠がついただけの女友達。

 だがそれでも一応、彼氏彼女だ。「本気で愛して欲しい」と泣かれたり、「どうしてキスをしてくれないの」せがまれたり、「友達ばっか優先する彼氏なんて嫌い」と頬を叩かれたり、散々な目にも遭った。

 お互い本気じゃないから必然的に長く付き合うことにもならない。だから取っ替え引っ換えいろんな子と付き合うことになった。



 珠莉はインスタで彼氏自慢がしたいだけの単純な女だった。「彼と一緒にホテルのナイトプール」とか「彼からのプレゼント」とかそんなものを求めてばかり。やがて本当の彼氏を見つけたらしく、「別れよ、絋星。友達に戻ろう」と言ってきた。

 昨日別れた凛には申し訳ないと思ってる。あと少しだけなら彼氏でいてもいいと約束したのに、それよりも早く別れを告げてしまった。
 完全に柊介の言葉に動揺したせいだ。
 まさか柊介に彼女がいたなんて。

 凛は怒っていたけど、「どうせクリスマスは元から私と過ごす気なかったんだもんね」と最後には諦められた。

 そして最後に訊かれた。

「絋星は誰とクリスマス過ごすの?」

 凛の問いには答えられなかった。
 きっと今年もクリスマスはひとりきりで過ごすことになるのだろうから。



 ——今年こそ、柊介に告白したかったな……。

 毎年クリスマス前に、柊介にこの想いを告白したいと思っていた。柊介にクリスマスの予定を訊いて「バイト」だの「彼女なんていない」だのと言われるたびに嬉しくなった。まだ自分がつけいる隙があることに。

 それでも告白できなかった。いざとなると勇気が出ない。「好きだ」とも「一緒にクリスマスを過ごそう」とも言えなかった。

 玉砕するくらいなら友達のままでいいという臆病な言い訳と、できることなら恋人同士になりたいという甘美な誘惑。二律背反。二つの感情のせめぎ合い。

 毎年それに答えを出せないまま、柊介に本音を言うことなどできずに、時間だけが経ってしまい、結局クリスマスは毎年ひとりきり。


 何も知らない柊介は、絋星は毎年クリスマスはその時の彼女と過ごしてると思っているに違いない。本当はクリスマスに彼女なんていなかったのに。


 いつか告白するじゃダメだった。柊介はもう手に入らない。

 柊介の性格はよく知ってる。絋星と違って真っ直ぐで、一途で、誠実だ。
 そんな奴に彼女ができたら、きっと別れることなんてない。柊介が彼女をすごく大切にする姿が目に浮かぶ。
 穏やかで優しい柊介はケンカをすることもないだろう。あっても些細な可愛いケンカ。二人の愛のスパイスみたいなものだろう。


 ——柊介に愛されるなんて幸せな女だな。

 柊介の彼女が羨ましくて仕方がない。SNSで知り合ったと柊介は言っていたが、お前がSNSで偶然引き当てたその彼氏はSSR級にいい奴だと言ってやりたい。


 友人としてそばにいるだけでは絶対に叶わないことがある。はなから諦めていたし、そんなものなくてもいいと思っていたが、柊介が彼女とキスをした話を聞いてショックを受けた。
 柊介とキスしたい。あいつをこの手で抱き締めてみたい。もっともっと柊介の深いところまで触れてみたい。
 
 それを叶えられるのは、柊介の恋人だけだ。


 友人としていつか柊介の結婚式に呼ばれることもあるのかな。
 その時自分は祝福の拍手をすることができるのだろうか。


 本当に柊介のことを愛しているのなら、柊介の幸せを願ってやらないといけない。
 でも、できない。
 絋星の心の底には、醜い自分勝手な感情しかない。
 柊介が愛する人を失うことを願うほどに絋星の心は汚れている。



 隣に座る柊介から、突然スッとメモを渡された。
 目の前に飛び込んできた文字。

『俺が出て5分したらここを出ろ。お前と行きたいところがある。付き合えよ』

 チラッと柊介を見る。柊介は講義サボる気満々の悪ガキの面構えでニヤッと視線を返してきた。
 そして徐に机の上を片付けて、何も言わずに講義室を立ち去った。

 もう一度柊介からのメモに視線を落とす。
 そういえば、柊介から絋星を誘ってくるなんて初めてのことだ。

 いつも絋星のペースで柊介を振り回してばかりだったのに。絋星ばかりがイニシアティブを握り、柊介はそれに素直に従うだけだったのに。

 だが昨日から急に立場逆転。いまや身も心も振り回されているのは、絋星だ。
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