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20.
しおりを挟む ラルスは、帰りはアルバートの乗ってきた馬車に乗ることになった。フィンとは帰る場所が違うからとフィンと別れることになったのだ。
「今日はいろいろと疲れました」
帰りの馬車の中でラルスは溜め息をつく。
「でも、祝宴に参加してみてわかったことがあります」
「なんだ?」
「あの、殿下のおっしゃるとおり、パートナーと参加するとよいですね」
ラルスはすぐ横に座っているアルバートを見上げる。
「僕はやはりダメです。僕ひとりでは、殿下がいらっしゃらないと、うまく話せないのです。それにダンスの時間があるなんて知らなくて、パートナーがいないから不安で、ちゃんとパートナーがいる人たちが羨ましくなって……」
アルバートが来る前まで、何も楽しくなかった。マナーにばかり気を取られて、会話も楽しめない。つまらない場所だと思っていた。
でもアルバートが来てくれた。アルバートが隣にいてくれる安心感はとても大きかった。
「殿下、今日は会いに来てくださり、ありがとうございます。いつも頼ってばかりで申し訳ありませんが、やはり殿下がそばにいてくださるととても安心するのです。何もわからない僕に、優しくダンスを教えてくださり、あの、すごく楽しかったです。殿下がいるといないとでは、こうも気持ちが違うんだって、身に沁みてよくわかりました」
アルバートは無理をしてまでラルスに会いに来てくれた。ダンスの時間にラルスをひとりきりにしたくないと駆けつけてくれた。アルバートがいなかったら、あのまま惨めな時を過ごすことになっていたに違いない。
隣にいるアルバートが愛おしくなって、ラルスはすぐそばにあるアルバートの右手に手を伸ばす。
「ラルスにダメなところなどひとつもない」
アルバートは優しく握り返してくる。
「ベルトルト侯爵から話を聞いた。ラルスはベルトルト家の使用人にも気遣ってくれたと。ニトという名の者が、ラルスが実は王太子妃だと聞いて、ひっくり返るほど驚いたそうだ。こんな王族がいるのかと、すっかりラルスのファンに……」
「ファンっ!?」
「何も知らぬのはラルスだけだ。そうやって無自覚に誘うから、私は毎日気が気でない。いくら熱を測るためとはいえ、いきなり触れられたら誰でも驚くだろう? そのようなこと、夫の私ですらしてもらったことがないのに、使用人の分際でなんたる役得なんだ……」
アルバートの様子がおかしい。話しているうちにだんだんと機嫌が悪くなってきているような気がする……。
「いえっ、そんなつもりはなく……」
「ラルス。これ以上私を嫉妬させてどうするつもりだ?」
アルバートはラルスの顔を至近距離から眺めてくる。
「常に私が張りついたらラルスに嫌がられるだろうと思って、日々我慢しているのだ。だがこんなことが続くようでは不安でラルスを手放せなくなる」
「えっ……」
ラルスにしてみれば、十分すぎるほど朝昼夜アルバートと一緒にいる。これ以上一緒にいたら、どうなってしまうのだろう。
「ラルス。そろそろ私のことを殿下ではなく名前で呼んでくれまいか?」
「えっ?」
「殿下ではさみしい。他人行儀だ。ラルスにはアルバートと名前で呼んでもらいたい」
「わっ……!」
アルバートは結ばれた手を引っ張り、ラルスを自身の膝の上に座らせる。
「で、殿下っ! これは、いけませんっ」
ラルスは慌てる。いくら馬車の中で二人きりとはいえ、アルバートの膝の上で横抱きにされているような格好は恥ずかしすぎる。
「殿下ではない。アルバートと呼んでほしい」
アルバートはラルスの首筋に口づけする。しかも二度、三度とされ、その行為にだんだん気持ちが高ぶってきてしまう。
「あっ……そこは、殿下っ」
アルバートがオメガのうなじにキスをするのでラルスは思わずビクッと身体を震わせる。
「ラルス。早くしないと大変なことになるぞ」
アルバートはラルスのうなじに舌を這わせてくる。それと同時にアルバートは片手で器用にラルスのウエストコートのボタンを外し、服の隙間から艶めかしい手を差し入れてきた。
「だ、だめっ、こんなところでっ、殿下、あっ……」
アルバートはラルスのシャツを乱し、そこに顔をうずめるようにして、ラルスの胸の小さな蕾を口に含み、舌で弄ぶ。
「あっ……んうっ……んっ……!」
思わず甘い声が洩れてしまうが、馬車の外にいる御者に聞かれてしまったら大変だとラルスは必死で声を抑える。
「ラルスっ……!」
アルバートによって馬車の椅子の上に押し倒される。ここは寝室のベッドじゃない。こんなところでアルバートと乱れるなんて、できるはずがない。
それなのに。
「すまない、ラルス。興奮がおさまらない。いけないとわかっていても、今ここでラルスと交わりたい」
「ひぁ……っ!」
不意にアルバートの手がラルスの下半身に触れた。そこをアルバートに弄られたら絶対に耐えられない。
「殿下……ちがっ、アルバートっ! 待って! アルバート!」
よくないことになりそうで、ラルスは必死でアルバートの名前を呼ぶ。
「やっと呼んでくれた。ああ、たまらない。ラルス、もう一度名を呼んでくれ」
「えっ? アルバート、そこ撫でちゃだめ、感じちゃうからっ、気持ちよくなっちゃう……あっ、あぁっ……」
ラルスは喘ぎながら快感に身を震わせる。アルバートに直接的なところを触れられて、みっともなく腰が揺れてしまう。
だって目の前にいるのは、ラルスに触れているのは、ラルスの最愛の人だ。
この熱い手で、情熱的な唇で、いつもラルスを感じさせてくれる。その記憶と感覚が身体にしみついていて、アルバートにされると蕩けてしまいそうになる。
「ラルス。あまり私を煽らないでくれ。こんな姿を見せられたら、余計に熱くなる」
アルバートはたまらないといった様子で、ラルスの上に覆いかぶさってくる。
「アルバートって呼んだのにっ」
「すまぬが止まれない。ラルス、なんて可愛いんだっ」
「あぁっ……んっ!」
アルバートはちょっといけない場所ですることに、熱情を駆り立てられてしまう性分らしい。
王太子妃の受難はまだまだ続くこととなる。
――番外編『王太子妃の受難』完。
「今日はいろいろと疲れました」
帰りの馬車の中でラルスは溜め息をつく。
「でも、祝宴に参加してみてわかったことがあります」
「なんだ?」
「あの、殿下のおっしゃるとおり、パートナーと参加するとよいですね」
ラルスはすぐ横に座っているアルバートを見上げる。
「僕はやはりダメです。僕ひとりでは、殿下がいらっしゃらないと、うまく話せないのです。それにダンスの時間があるなんて知らなくて、パートナーがいないから不安で、ちゃんとパートナーがいる人たちが羨ましくなって……」
アルバートが来る前まで、何も楽しくなかった。マナーにばかり気を取られて、会話も楽しめない。つまらない場所だと思っていた。
でもアルバートが来てくれた。アルバートが隣にいてくれる安心感はとても大きかった。
「殿下、今日は会いに来てくださり、ありがとうございます。いつも頼ってばかりで申し訳ありませんが、やはり殿下がそばにいてくださるととても安心するのです。何もわからない僕に、優しくダンスを教えてくださり、あの、すごく楽しかったです。殿下がいるといないとでは、こうも気持ちが違うんだって、身に沁みてよくわかりました」
アルバートは無理をしてまでラルスに会いに来てくれた。ダンスの時間にラルスをひとりきりにしたくないと駆けつけてくれた。アルバートがいなかったら、あのまま惨めな時を過ごすことになっていたに違いない。
隣にいるアルバートが愛おしくなって、ラルスはすぐそばにあるアルバートの右手に手を伸ばす。
「ラルスにダメなところなどひとつもない」
アルバートは優しく握り返してくる。
「ベルトルト侯爵から話を聞いた。ラルスはベルトルト家の使用人にも気遣ってくれたと。ニトという名の者が、ラルスが実は王太子妃だと聞いて、ひっくり返るほど驚いたそうだ。こんな王族がいるのかと、すっかりラルスのファンに……」
「ファンっ!?」
「何も知らぬのはラルスだけだ。そうやって無自覚に誘うから、私は毎日気が気でない。いくら熱を測るためとはいえ、いきなり触れられたら誰でも驚くだろう? そのようなこと、夫の私ですらしてもらったことがないのに、使用人の分際でなんたる役得なんだ……」
アルバートの様子がおかしい。話しているうちにだんだんと機嫌が悪くなってきているような気がする……。
「いえっ、そんなつもりはなく……」
「ラルス。これ以上私を嫉妬させてどうするつもりだ?」
アルバートはラルスの顔を至近距離から眺めてくる。
「常に私が張りついたらラルスに嫌がられるだろうと思って、日々我慢しているのだ。だがこんなことが続くようでは不安でラルスを手放せなくなる」
「えっ……」
ラルスにしてみれば、十分すぎるほど朝昼夜アルバートと一緒にいる。これ以上一緒にいたら、どうなってしまうのだろう。
「ラルス。そろそろ私のことを殿下ではなく名前で呼んでくれまいか?」
「えっ?」
「殿下ではさみしい。他人行儀だ。ラルスにはアルバートと名前で呼んでもらいたい」
「わっ……!」
アルバートは結ばれた手を引っ張り、ラルスを自身の膝の上に座らせる。
「で、殿下っ! これは、いけませんっ」
ラルスは慌てる。いくら馬車の中で二人きりとはいえ、アルバートの膝の上で横抱きにされているような格好は恥ずかしすぎる。
「殿下ではない。アルバートと呼んでほしい」
アルバートはラルスの首筋に口づけする。しかも二度、三度とされ、その行為にだんだん気持ちが高ぶってきてしまう。
「あっ……そこは、殿下っ」
アルバートがオメガのうなじにキスをするのでラルスは思わずビクッと身体を震わせる。
「ラルス。早くしないと大変なことになるぞ」
アルバートはラルスのうなじに舌を這わせてくる。それと同時にアルバートは片手で器用にラルスのウエストコートのボタンを外し、服の隙間から艶めかしい手を差し入れてきた。
「だ、だめっ、こんなところでっ、殿下、あっ……」
アルバートはラルスのシャツを乱し、そこに顔をうずめるようにして、ラルスの胸の小さな蕾を口に含み、舌で弄ぶ。
「あっ……んうっ……んっ……!」
思わず甘い声が洩れてしまうが、馬車の外にいる御者に聞かれてしまったら大変だとラルスは必死で声を抑える。
「ラルスっ……!」
アルバートによって馬車の椅子の上に押し倒される。ここは寝室のベッドじゃない。こんなところでアルバートと乱れるなんて、できるはずがない。
それなのに。
「すまない、ラルス。興奮がおさまらない。いけないとわかっていても、今ここでラルスと交わりたい」
「ひぁ……っ!」
不意にアルバートの手がラルスの下半身に触れた。そこをアルバートに弄られたら絶対に耐えられない。
「殿下……ちがっ、アルバートっ! 待って! アルバート!」
よくないことになりそうで、ラルスは必死でアルバートの名前を呼ぶ。
「やっと呼んでくれた。ああ、たまらない。ラルス、もう一度名を呼んでくれ」
「えっ? アルバート、そこ撫でちゃだめ、感じちゃうからっ、気持ちよくなっちゃう……あっ、あぁっ……」
ラルスは喘ぎながら快感に身を震わせる。アルバートに直接的なところを触れられて、みっともなく腰が揺れてしまう。
だって目の前にいるのは、ラルスに触れているのは、ラルスの最愛の人だ。
この熱い手で、情熱的な唇で、いつもラルスを感じさせてくれる。その記憶と感覚が身体にしみついていて、アルバートにされると蕩けてしまいそうになる。
「ラルス。あまり私を煽らないでくれ。こんな姿を見せられたら、余計に熱くなる」
アルバートはたまらないといった様子で、ラルスの上に覆いかぶさってくる。
「アルバートって呼んだのにっ」
「すまぬが止まれない。ラルス、なんて可愛いんだっ」
「あぁっ……んっ!」
アルバートはちょっといけない場所ですることに、熱情を駆り立てられてしまう性分らしい。
王太子妃の受難はまだまだ続くこととなる。
――番外編『王太子妃の受難』完。
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うわぁい✨
感想ありがとうございます✨✨✨
そうなの、アルバートの癖が😂垣間見えるという……。
ほら、どんな人も欠点のひとつやふたつあるでしょう!?
まぁ、でもね、ラルスもまんざらでもないと思うんです。だから、大丈夫かな!?
皆さま、ニトの存在にドキドキしてくださり(?)ありがとうございます(*´罒`*)ニヒヒ
フィンが主役だったらワンチャン……⁉️
いえいえ大丈夫です。やっぱりここはマリク×フィンですよね。
殿下はあらゆるものに嫉妬しそうです😂
感想ありがとうございます✨とても嬉しいです☺️
ニトについてすごい読みをされてるΣ(ʘωʘノ)ノ
これがフィン主人公の物語だったら、違った展開になっていたかもしれません🥰
完結までお付き合いくださりありがとうございました。
これからもちょこちょこ執筆活動するつもりなので、どうぞよろしくお願いします🙇