6 / 20
6.身代わりとして
しおりを挟む そうだった。今夜のラルスの役目は、アルバートの閨の練習台になることだ。アルバートが気さくに話をしてくれるから、ついアルバートの友人にでもなったつもりになってしまった。
「殿下。どうぞこの身体を自由にしてくださって構いません」
アルバートは優しい。話をすればするほど、身分の低い者を権力で無理に閨の練習台にするような人ではないとわかる。
でもこれから迎える大事な妃さまを相当愛しているのだろう。夜の睦事で失敗して妃に嫌われないために、さらなる練習を積みたいと伯爵家にもう一度声をかけてきたに違いない。
平民のラルスの身体などになんの価値もない。どうなったっていいのだ。アルバートの役に立てるのなら、痛い目に遭わされたっていい。
「この身体は練習台です。ボロボロになさってもよいのです。どうか、殿下の好きなように」
「そのようなことを言うな。今日はお前の顔がもう一度見たくて呼んだだけだ。抱いたりしない」
アルバートにそう言われて、急にさみしく思った。
アルバートはラルスの身体に興味などない。ラルス自身にも興味はない。
アルバートが会いたかったのはフィンだ。フィンの良い噂話を聞いて、一度話をしてみたいと思ったのだろう。
たしかにアルバートには閨の練習など必要ないと思う。前に抱いてもらったとき、とても気持ちよかった。あれなら妃を迎えても上手くいくに違いない。
それなのに、抱きたくもない小汚いオメガに手を出す必要などない。
「申し訳ございません……余計なことを言った僕をどうぞ罰してください……」
アルバートに失礼なことを言ってしまった。「この身体をボロボロに」なんてアルバートがそんなことをするわけがない。それなのに、まるでアルバートが見境なしにオメガを貪る卑しい男かのようなことを言ってしまった。
「そうだな。さっきの言葉は私も傷ついた」
あっ、とラルスは顔を上げる。
やっぱりそうだ。アルバートは怒っている。酷いことを言って、アルバートの心を傷つけてしまった。
「この場でお前に罰を与える。いいな?」
「はい……」
ラルスは胸が苦しくなる。罰せられることが嫌なのではない。こんなに心の広いアルバートを怒らせるようなことをしてしまった自分自身に対して、憤りを感じているのだ。
「今宵は何もせず、無事に返してやろうと思っていたのに。これは、さみしくなるようなことを言うお前のせいだ。あのようなことを言うから触れたくて仕方がなくなった」
アルバートはラルスの唇に唇を重ねてきた。アルバートの柔らかな唇は、ラルスの唇を味わうように何度もキスをする。
アルバートはやっぱりキスが上手だ。さっきまであんなに胸が苦しかったのに、アルバートにキスをされ、辛かった心も、強張っていた身体も蕩けていく。
「はぁっ……ん、う……っ」
やがてアルバートはより深く求めるようにラルスの口内を犯し始めた。
気持ちいい。たまらない。アルバートのことしか考えられなくなっていく。
こんなの全然罰じゃない。ラルスにとっては最上の褒美だ。
「んっ……んんっ……」
身体を抱き寄せられ、キスをされ、あまりに良すぎてラルスの腰が自然と揺れてしまう。
でも、目の前にいるこの御方は、ラルスの恋人でもなんでもない。
「可愛い……フィン、フィン……」
ラルスの本当の名前も知らない、本当ならば平民のラルスは触れることすら叶わない相手。
「殿下っ、殿下……」
アルバートは、ラルスと会っていることすら秘密にしなければならない。王太子殿下が婚姻前に閨の練習をしているなんて誰にも知られてはいけないことだ。
アルバートはまもなく妃を迎え、将来この国を背負って立つような、素晴らしい人なのだから。
「殿下。どうぞこの身体を自由にしてくださって構いません」
アルバートは優しい。話をすればするほど、身分の低い者を権力で無理に閨の練習台にするような人ではないとわかる。
でもこれから迎える大事な妃さまを相当愛しているのだろう。夜の睦事で失敗して妃に嫌われないために、さらなる練習を積みたいと伯爵家にもう一度声をかけてきたに違いない。
平民のラルスの身体などになんの価値もない。どうなったっていいのだ。アルバートの役に立てるのなら、痛い目に遭わされたっていい。
「この身体は練習台です。ボロボロになさってもよいのです。どうか、殿下の好きなように」
「そのようなことを言うな。今日はお前の顔がもう一度見たくて呼んだだけだ。抱いたりしない」
アルバートにそう言われて、急にさみしく思った。
アルバートはラルスの身体に興味などない。ラルス自身にも興味はない。
アルバートが会いたかったのはフィンだ。フィンの良い噂話を聞いて、一度話をしてみたいと思ったのだろう。
たしかにアルバートには閨の練習など必要ないと思う。前に抱いてもらったとき、とても気持ちよかった。あれなら妃を迎えても上手くいくに違いない。
それなのに、抱きたくもない小汚いオメガに手を出す必要などない。
「申し訳ございません……余計なことを言った僕をどうぞ罰してください……」
アルバートに失礼なことを言ってしまった。「この身体をボロボロに」なんてアルバートがそんなことをするわけがない。それなのに、まるでアルバートが見境なしにオメガを貪る卑しい男かのようなことを言ってしまった。
「そうだな。さっきの言葉は私も傷ついた」
あっ、とラルスは顔を上げる。
やっぱりそうだ。アルバートは怒っている。酷いことを言って、アルバートの心を傷つけてしまった。
「この場でお前に罰を与える。いいな?」
「はい……」
ラルスは胸が苦しくなる。罰せられることが嫌なのではない。こんなに心の広いアルバートを怒らせるようなことをしてしまった自分自身に対して、憤りを感じているのだ。
「今宵は何もせず、無事に返してやろうと思っていたのに。これは、さみしくなるようなことを言うお前のせいだ。あのようなことを言うから触れたくて仕方がなくなった」
アルバートはラルスの唇に唇を重ねてきた。アルバートの柔らかな唇は、ラルスの唇を味わうように何度もキスをする。
アルバートはやっぱりキスが上手だ。さっきまであんなに胸が苦しかったのに、アルバートにキスをされ、辛かった心も、強張っていた身体も蕩けていく。
「はぁっ……ん、う……っ」
やがてアルバートはより深く求めるようにラルスの口内を犯し始めた。
気持ちいい。たまらない。アルバートのことしか考えられなくなっていく。
こんなの全然罰じゃない。ラルスにとっては最上の褒美だ。
「んっ……んんっ……」
身体を抱き寄せられ、キスをされ、あまりに良すぎてラルスの腰が自然と揺れてしまう。
でも、目の前にいるこの御方は、ラルスの恋人でもなんでもない。
「可愛い……フィン、フィン……」
ラルスの本当の名前も知らない、本当ならば平民のラルスは触れることすら叶わない相手。
「殿下っ、殿下……」
アルバートは、ラルスと会っていることすら秘密にしなければならない。王太子殿下が婚姻前に閨の練習をしているなんて誰にも知られてはいけないことだ。
アルバートはまもなく妃を迎え、将来この国を背負って立つような、素晴らしい人なのだから。
811
お気に入りに追加
931
あなたにおすすめの小説

騎士隊長が結婚間近だと聞いてしまいました【完】
おはぎ
BL
定食屋で働くナイル。よく食べに来るラインバルト騎士隊長に一目惚れし、密かに想っていた。そんな中、騎士隊長が恋人にプロポーズをするらしいと聞いてしまって…。

薬屋の受難【完】
おはぎ
BL
薬屋を営むノルン。いつもいつも、責めるように言い募ってくる魔術師団長のルーベルトに泣かされてばかり。そんな中、騎士団長のグランに身体を受け止められたところを見られて…。
魔術師団長ルーベルト×薬屋ノルン

愛されて守られる司書は自覚がない【完】
おはぎ
BL
王宮図書館で働く司書のユンには可愛くて社交的な親友のレーテルがいる。ユンに近付く人はみんなレーテルを好きになるため、期待することも少なくなった中、騎士団部隊の隊長であるカイトと接する機会を経て惹かれてしまう。しかし、ユンには気を遣って優しい口調で話し掛けてくれるのに対して、レーテルには砕けた口調で軽口を叩き合う姿を見て……。
騎士団第1部隊隊長カイト×無自覚司書ユン

上がり症の僕は帽子を被る【完】
おはぎ
BL
魔術付与店で働く上がり症のリュン。知らない人と対峙する時は深く帽子を被り、会話は何とかできる程度。そんな中、密かに想いを寄せる副団長のヴァンが店に来店。リュンが対応するも不測の事態に。反省しつつ、その帰りにヴァンが待ち構えていて…?

パン屋の僕の勘違い【完】
おはぎ
BL
パン屋を営むミランは、毎朝、騎士団のためのパンを取りに来る副団長に恋心を抱いていた。だが、自分が空いてにされるはずないと、その気持ちに蓋をする日々。仲良くなった騎士のキトラと祭りに行くことになり、楽しみに出掛けた先で……。

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる