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22.オメガの巣作り

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 七日目の夜。先に湯浴みを終えたリオルは、シグルドが湯浴みをしているあいだに、いそいそとシグルドの服を集める。

 今日こそ完璧な巣を作ろうと思っていた。シグルドが喜んでくれるような、可愛くて立派な巣が作りたい。


 ただし問題はひとつ。シグルドは湯浴みを終えたらすぐにこの部屋に戻ってきてしまう。だから限られた時間の中、精一杯作らなければならない。
 それなのにリオルの身体はほてってきた。七日目とはいえヒート期間中だ。一日目ほどの辛さはないが、少し頭がぼうっとする。


「ダメダメっ、頑張らなきゃ」

 シグルドの服をベッドの上に並べて山積みにする。リオルのこだわりは、巣の中に入ったときに気持ちよくなれるようにボタンなどの固い部分はあらかじめ服を折って布地で包んでおくことだ。
 そうして作った服を並べて居心地のいい巣を作り上げていく。

「よしっ!」

 短時間にしては、自分の納得のいく巣が作れた。なかなか上出来だ。



 リオルは形を乱さないように、そっと巣の中に身を委ねてみる。

「はぁ~~最高だ……」

 ふわふわで居心地のいい巣だ。すぅーっと深呼吸してみると、シグルドのいい匂いがする。最近はこの匂いを感じるたびに、シグルドのことを思い出して心がぽうっとあったかくなる。

 前からシグルドのことは好きだったが、今日までの七日間、シグルドと濃密な時間を過ごしてきてさらにシグルドのことを好きになった。
 ヒート期間ということをいいことに、リオルは寝ても覚めてもシグルドにくっついている。シグルドも喜んでそれを許してくれるから、食事のときまでベタベタくっつくことになってしまう。



「まったくシグルドったら、そんなに僕のことが好きなのかな」

 リオルはシグルドのことを思い出して巣の中でひとりニヤニヤして頬が緩みっぱなしだ。
 シグルドは「リオル、リオル」と常にリオルの姿を探しているし、一緒にいると「こっちにおいで」とすぐにリオルを抱き締めようとする。
 リオルが何かを望むとすぐにそれを叶えようとするし、目が合うと嬉しそうに目を細めてリオルに微笑みかけてくる。

 リオルにもシグルドにも、お互い離れる気はない。これは一緒にいるしかないみたいだ。

「幸せだ……」

 リオルが幸せの溜め息をついて、シグルドの服に頬をすりすりしていたときだ。


 部屋の扉が開く音がして、リオルがハッと身体を起こすとそこには最愛の人が立っていた。
 その姿を見ただけで心が跳ねた。長身で男らしい体格のシグルドを見て、相変わらず惚れ惚れする。やっぱりシグルドは世界一の旦那さまだ。

「立派な巣だな。まさか、俺が喜ぶと思って作ってくれたのか?」

 シグルドは巣を見て絵画のように整った美顔を綻ばせる。その顔がまた奇跡みたいにかっこいい。
 シグルドの様子を見て、リオルも笑顔になり、うんうんと二度頷いた。

「リオルは俺がそんなに好きなのか。嬉しいな。こんな……こんな……」

 感極まっているシグルドを見てリオルは声を出して笑う。巣を作っただけでこんなに喜んでくれるなんて、シグルドは以外と感動しやすいタイプなのかもしれない。



「シグルド」

 リオルはオメガの巣の真ん中で、巣の山のてっぺんをポンポンと叩く。
 シグルドはリオルの行動の意味を理解しあぐねているようだ。

 でもリオルの身体はヒートの熱で欲情していて、顔まで熱くて、頬がほてっていることは自分でもわかるくらいだ。こんなときに番のシグルドにお願いしたいことはただひとつしかない。

「……ここで子作り、しよ?」

 今夜はシグルドとふたりで巣の中に潜り込みたい。この中で大好きなアルファと愛を育むのがリオルの夢だった。その夢をシグルドは叶えてくれるだろうか。

「リオルっ!」
 
 シグルドは巣の中に飛び込んできて、リオルを勢いよくガバッと抱き締めてきた。
 シグルドとふたり、リオルの作った巣の中で抱き締め合う。
 これこそリオルが求めていたものだ。シグルドと一緒に巣の中に入ってイチャイチャしてみたかった。

 
「リオルの作った愛の巣に誘われて、断るわけがない。リオルは巣作りが上手なんだな。ここはとても居心地がいい」

 シグルドに巣を褒められて、リオルはつい顔が綻ぶ。
 これからは、もう巣作りを我慢しなくていいようだ。シグルドが喜んでくれるなら、シグルドの前でも心置きなく巣作りできる。

「俺に甘えてくるリオルはたまらないほど好きだ。こんな可愛い妻を娶った俺は幸せだな。リオル、俺と結婚してくれてありがとう」

 シグルドはリオルを愛おしそうに見つめてくる。

「僕たちの結婚は政略結婚なのに」

 リオルはふふっと笑う。

「そうだぞ、リオル。これは政略結婚だ。俺とリオルは、お互いの家の存続のために仲良くしなければならない。だからリオルはもっと俺に甘えてくれ。俺にできることならなんでも叶えてやる」
「う、うん……」

 シグルドは政略結婚をたてにして、リオルをさらに自分に甘えさせたいと思っているようだ。

「俺もふたりきりのときだけでなく、誰かが見ている前でもリオルと仲良くすることにする。俺たちの仲の良さを見せつければ、両家のためになるのだからな」
「えっ? そ、そうなのっ?」

 それはどうだろう。
 そこまでやらなくても、今のままで十分なのではないかとリオルは思ったが、シグルドはどうやら外でも仲良しを見せつけたいようだ。

「そうだぞ。だからリオルも覚悟しておけ。俺が人前で何かをしても恥ずかしがらずに受け入れるのだぞ」
「えぇっ!」

 シグルドと仲良くしていれば不仲の噂は立たなくなるかもしれないが、今度は反対にシグルドの熱愛を噂にされてしまいそうだ。

「ああ、可愛いな。リオルの何もかもが可愛い」

 シグルドは壊れやすい宝物に触れるようにしてリオルの頬に手を這わせた。
 シグルドの優しい手に触れられると、とても心地がいい。大袈裟かもしれないが、シグルドに触れられれば触れられるほどシグルドを好きになる、そんな感覚がする。



「今度シグルドは社交界に初めて参加しないといけないね」

 平民のシグルドの家は家柄を欲していた。
 王族、貴族ばかりの社交界でもシグルドの名はすでに知られているから、シグルドは注目の的になるだろう。リオルも最大限の手伝いはするつもりだが、きっと社交界デビューはうまくいくに違いない。

「リオルは俺の子を産まないといけないな」

 リオルの家はシグルドの家からの契約金を欲している。契約金を手に入れるためには、リオルはシグルドの子を身ごもって産まなければならない。

「できるだけたくさん産んでほしい。そのための努力なら俺は惜しまない」
「えっ? たくさん……?」

 シグルドはいったい何人子どもが欲しいと思っているのだろう。

「夜泣きだって俺が面倒をみる。リオルに負担のないよう乳母と教育係を雇おう。俺にとっての一番はリオルだが、子どもたちは二番目に愛すると約束する」

 シグルドはリオルの腰を抱いて、自分のほうへと引き寄せた。
 シグルドに熱を持った視線で見つめられ、リオルの胸はドキドキと高鳴っていく。

「リオルが懐妊したら、父上に報告しないとな。子どもの誕生を今か今かと待ち構えているのだ」
「僕の父上と母上、兄弟たちもです。子どもはまだかってうるさいくらいに手紙を送ってくるから」

 もしリオルがシグルドの子を孕んだら、みんな大騒ぎすることだろう。両家は子どもの誕生を首を長くして待ち望んでいるのだから。



 
「リオル。お喋りはこのくらいにして、そろそろ子作り始めても、い、いいか……?」

 少し頬を赤らめながらもシグルドの手はがっちりとリオルを抱いて離さない。

「はい」

 リオルが頷くと、すぐにリオルの唇にシグルドのキスが落ちてきた。

 こんな幸せな七日間なら、毎月迎えたっていい。

 リオルは幸せの巣に包まれながら、何度も何度も最愛のアルファの夫と口づけを交わした。



 その後、シグルドに巣の中でめちゃくちゃに愛されて、喘がされて、自らシグルドを巣に誘ったことを後悔することになろうとは、リオルは思いもしなかった。


 ——完。
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