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王妃の資質

6.

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 次の日、城の皆が慌ただしい雰囲気を感じて、「なんだろう……」とユリスが呟くとそばにいたナターシャが答えてくれた。

「町でバラディスの国王様の即位二十年を祝して祭りが行われているんですよ。出店があったり、ダンス会場や、美しい演奏があったりとそれはそれは賑わっているそうですよ」

 ナターシャは目をキラキラさせている。きっと町で行われている祭りに興味があるのだろう。だがそこは真面目なナターシャだ。ユリスに付き添うという仕事があるからと参加を諦めているのではないか。

「ナターシャ。少し街へ出てみないか?」
「えっ? 駄目ですよ、知らない国の城の外へ出るなど……」
「少しだけだ。私も祭りに興味がある。ちょっとだけ覗いてみたい」

 それは嘘ではない。生まれてから一度も祭りなど参加したことがないから、行ってみたい。東国ナルカでできなかったことをやってみたい。

「ユリス様は無理ですよ、高貴な方だとバレて、盗賊に狙われ金品を奪われたり、もっと危険な目に遭うかもしれませんっ」

 リュークが止めに入った。
 リュークの言うことは正しい。そうとわかってはいるけれど。

「リューク頼む。従者の姿で行くし、ほんの僅かな時間だけにする」
「ですが……」
「バラディスに来た記念にお買い物してみたいですね……。お土産に何かひとつくらい……」

 ナターシャは乗り気のようだ。

「お土産か……。カイル様に何か贈り物をして差し上げたいな……」

 いつも城にいるから、カイルに何か贈ったことなどない。ちょっとしたものでもいいから贈り物を買って渡したら、カイルはどんな顔をするだろう。
 そんな想像をしたら、ユリスも俄然行きたくなってきた。

「まったくふたりとも! ほんの少しの間ですからね! 危ないと判断したらすぐに帰ります、それでいいですね!」
「はいっ!」

 ナターシャと言葉が揃った。それがおかしくてふたりで顔を見て笑い合った。




 ユリスはリュークの服を借りて、従者になりきった。いい具合にくたびれた旅用のブラウン色のフード付きマントも羽織り、高価なものは一切身につけはしない。
 そして万が一のときのために短剣と毒薬は忍ばせている。レイピアは身分がバレるので置いていくことにした。それでも事足りるはずだ。
 
 ユリスはリュークとナターシャと三人で城を抜け出した。
 抜け出す、と言っても今日は祭りであちこち騒がしく出入りの警備などは緩かった。

「すごいな……」

 町並みは花や手づくりの看板などで彩られ、あちこちで楽器の演奏や歌が聴こえてくる。
 路上には人々があふれて、出店をひやかして歩いたり、昼間からワインを呷って語り合っている者もいる。
 大人から子供まで皆一様に楽しそうだ。

「ユリス様は、カイル様のために何か買われるおつもりなのですか?」

 ナターシャがニヤニヤと意味深な目を向けてきた。

「ま、まぁ……。カイル様に似合うものがあれば……」
「カイル様に贈り物をして、喜ぶ顔がみたいのでしょう?」
「そ、そんなことないっ! 少しでも恩を返せたらと思ってるだけだ!」

 ナターシャの言うことが的を得ていてすごく恥ずかしくなる。

 まさにそのとおり、「ユリスから贈り物をされるとは思ってもみなかった!」とカイルに喜んでもらえたら。と考えただけで頬が緩む。

「早速探しましょう! あのカイル様のことですから、ユリス様からの贈り物なら石ころひとつでも喜ばれると思いますけどねっ」
「ナターシャ!」

 石ころとはなんだ、石ころとは!

「ごめんなさい。でもなんでしょうね、カイル様が喜ばれる物。カイル様はきっと足りないものなどないでしょうから」
「そうだな……」

 カイルは国王だ。服、装飾品、部屋の調度品。何もかも最高級のものを余るほど手にしている。

 ——何をあげたらいいだろう……。

 カイルへの贈り物選びはとても難しい。




 何十件もの店を見て回ったあと、ふと目についたのは御守りだ。綺麗な布で作られた小さな袋に魔力を帯びた石が入っているもの。普通は祈祷師が売るものだが、この店の店主はどう見ても子供だった。歳は十歳にも満たないのではないか。

「これは、君が魔力を込めたものなの?」

 店主の子供に訊ねる。その子はコクンと頷いた。

「騎士様のご武運をお祈りしています」

 なぜかとても興味を持った。カイルは今の世は大戦はないので戦地に赴くことはないが、見えない敵とも呼べる治世と戦っているようなものだと自分勝手に解釈した。

「これはどうだろう……」

 翡翠色の布で作られた御守りを手にする。銀の糸も、翡翠色も、なんとなくカイルを連想させた。

「素敵じゃないですか?」

 ナターシャも、リュークもうんうんと頷いている。

「ついでにユリス様もこちらを買われてはいかがですか? カイル様とお揃いになりますよ?」

 リュークが手渡してきたのは同じく翡翠色の布でできた、金の糸の御守りだ。
 カイルとお揃い……。それだけで胸が弾んだ。

「これにする」

 金額としては高いものではなかった。それゆえにカイルが大切にしてくれるかはわからないけれど、ユリスは心惹かれた物を買うことにした。
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