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カイルの溺愛
4.
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「ユリス。ユリスはいるか」
夜になり、椅子に腰をかけて書斎で書物を読んでいると、王妃の部屋にカイルがやってきた。ナターシャたち従者は突然のカイルの登場に皆、驚いている。
「ユリス、ここにいたのか」
カイルはユリスの姿を見た瞬間に顔を綻ばせる。
「どうしたんですか?」
「今日は城中ユリスの話で持ちきりになっていた。ケレンディア始まって以来、初めてのオメガの王妃が誕生するとな」
「はい……噂話は私の耳にもたくさん届きました」
今日は城のどこを歩いていても痛いくらいの視線を感じた。それは決して全部が好意的ではなく、冷ややかなものもあった。
他でもない国王カイルの相手なのだから注目されるのも仕方がない。
「ユリスは大丈夫だったか?」
カイルはユリスを後ろから抱き締めてきた。
「怖い思いはしてないか? 俺ですら陰で散々な言われようだ。ユリスはしばらくはひとり行動は控えろ。ユリスが嫌な目に遭うのではと心配で仕方がない」
「大丈夫です。カイル様」
たしかに今日もアルファの貴族女性から「オメガはすぐにアルファを誘惑するんだから。はしたないわよね」とあからさまに嫌味を言われたし、王家を支える爵位を持つ者たちに「オメガの下で働けるわけがない」と陰口を叩かれた。でも今までも虐げられてきまのだからそのくらい耐えてみせる。
「ユリス。無理するな。辛いことはなんでも俺に言え。ひとりで抱えることはない」
カイルに言われてドキリとした。
今まではひとりきりだった。でも今はいざとなればカイルがそばにいる。無理して心を強くする必要もないのかもしれない。
「夜は共に過ごそう。何かあったときにユリスのすぐそばにいたいのだ」
ユリスを抱き締めるカイルの身体は少し震えている。本当に不安みたいだ。
「はい」
とユリスが頷くと、カイルは嬉しそうにユリスの頬にキスをした。
「ユリス。書物で勉強するのも感心なことだが、今日は疲れただろう? もう休まないか?」
「えっ……あっ!」
ユリスの身体が突然持ち上げられる。カイルがユリスの身体を横抱きにして抱えたからだ。
「寝室はどこだ」
カイルの問いに、ナターシャが慌てて寝室の場所を示し、部屋の扉を開けた。
「ちょっとカイル様……っ!」
「もう寝るぞ。ユリス」
寝室に連れ込まれ、ユリスの身体はベッドの上に下ろされた。
「待って、あのっ!」
すぐさまカイルはユリスの身体を組み敷いた。そして首筋にキスを繰り返すカイルを制しようとするが、カイルはやめる気はないようだ。
「カイル様。私は発情期でもありませんしそんなことをする必要は——」
「どうしたユリス。俺はアルファだ。こんな可愛いオメガを前にして黙っていられるわけがなかろう」
「えっ、あっ……! あぁぁ……っ!」
駄目だ。オメガの身体は簡単にアルファから与えられる快感を拾ってしまう。
「カイル様っ、オメガに意地悪をしないでくださいっ!」
やる気もなかったのに、フェロモンに当てられてあっという間に身体が熱を持つ。淫乱な自分が恥ずかしくて、カイルに八つ当たりだ。
「意地悪じゃない。これは匂い付けだ。ユリスの身体を俺のものにしなければならないだろう?」
「えっ……? あっ、あぁぁぁ……っ」
カイルの手によって呆気なく快楽に呑まれていく。こんなはずではないのに、身体をピクっと震わせて、あっという間に白濁を放つ自分の身体が恨めしい。
「可愛いなユリスは。夜は長い。存分に楽しもう」
なんて人だ。疲れているから休もうと言ったくせに、寝かせない気なのか?!
結局何度もカイルと交わって行為が終わる頃にはユリスの身体はクタクタになり、気絶するように眠りについた。
「ううん……」
ユリスは微睡んでいて、目を開ける気にならない。
何も見えないが、すぐ近くからすごいい匂いがする。嗅いでいるだけで心が満たされて、思わず頬が緩んでしまうくらいだ。
もっとその匂いを感じたくて、ユリスはそこに顔を埋める。
温かい。ずっとこうしていたいと思うくらいの心地よさだ。
「俺の匂いが気に入ったのか? なんて可愛いんだ」
優しい腕で身体を抱き締められる。なんていい夢なんだろう。最高の気分だ。
「早くヒートが来るといいな。その日が楽しみだ」
心地よさの中、ユリスは目覚める気にならず、もう一度眠りについた。
夜になり、椅子に腰をかけて書斎で書物を読んでいると、王妃の部屋にカイルがやってきた。ナターシャたち従者は突然のカイルの登場に皆、驚いている。
「ユリス、ここにいたのか」
カイルはユリスの姿を見た瞬間に顔を綻ばせる。
「どうしたんですか?」
「今日は城中ユリスの話で持ちきりになっていた。ケレンディア始まって以来、初めてのオメガの王妃が誕生するとな」
「はい……噂話は私の耳にもたくさん届きました」
今日は城のどこを歩いていても痛いくらいの視線を感じた。それは決して全部が好意的ではなく、冷ややかなものもあった。
他でもない国王カイルの相手なのだから注目されるのも仕方がない。
「ユリスは大丈夫だったか?」
カイルはユリスを後ろから抱き締めてきた。
「怖い思いはしてないか? 俺ですら陰で散々な言われようだ。ユリスはしばらくはひとり行動は控えろ。ユリスが嫌な目に遭うのではと心配で仕方がない」
「大丈夫です。カイル様」
たしかに今日もアルファの貴族女性から「オメガはすぐにアルファを誘惑するんだから。はしたないわよね」とあからさまに嫌味を言われたし、王家を支える爵位を持つ者たちに「オメガの下で働けるわけがない」と陰口を叩かれた。でも今までも虐げられてきまのだからそのくらい耐えてみせる。
「ユリス。無理するな。辛いことはなんでも俺に言え。ひとりで抱えることはない」
カイルに言われてドキリとした。
今まではひとりきりだった。でも今はいざとなればカイルがそばにいる。無理して心を強くする必要もないのかもしれない。
「夜は共に過ごそう。何かあったときにユリスのすぐそばにいたいのだ」
ユリスを抱き締めるカイルの身体は少し震えている。本当に不安みたいだ。
「はい」
とユリスが頷くと、カイルは嬉しそうにユリスの頬にキスをした。
「ユリス。書物で勉強するのも感心なことだが、今日は疲れただろう? もう休まないか?」
「えっ……あっ!」
ユリスの身体が突然持ち上げられる。カイルがユリスの身体を横抱きにして抱えたからだ。
「寝室はどこだ」
カイルの問いに、ナターシャが慌てて寝室の場所を示し、部屋の扉を開けた。
「ちょっとカイル様……っ!」
「もう寝るぞ。ユリス」
寝室に連れ込まれ、ユリスの身体はベッドの上に下ろされた。
「待って、あのっ!」
すぐさまカイルはユリスの身体を組み敷いた。そして首筋にキスを繰り返すカイルを制しようとするが、カイルはやめる気はないようだ。
「カイル様。私は発情期でもありませんしそんなことをする必要は——」
「どうしたユリス。俺はアルファだ。こんな可愛いオメガを前にして黙っていられるわけがなかろう」
「えっ、あっ……! あぁぁ……っ!」
駄目だ。オメガの身体は簡単にアルファから与えられる快感を拾ってしまう。
「カイル様っ、オメガに意地悪をしないでくださいっ!」
やる気もなかったのに、フェロモンに当てられてあっという間に身体が熱を持つ。淫乱な自分が恥ずかしくて、カイルに八つ当たりだ。
「意地悪じゃない。これは匂い付けだ。ユリスの身体を俺のものにしなければならないだろう?」
「えっ……? あっ、あぁぁぁ……っ」
カイルの手によって呆気なく快楽に呑まれていく。こんなはずではないのに、身体をピクっと震わせて、あっという間に白濁を放つ自分の身体が恨めしい。
「可愛いなユリスは。夜は長い。存分に楽しもう」
なんて人だ。疲れているから休もうと言ったくせに、寝かせない気なのか?!
結局何度もカイルと交わって行為が終わる頃にはユリスの身体はクタクタになり、気絶するように眠りについた。
「ううん……」
ユリスは微睡んでいて、目を開ける気にならない。
何も見えないが、すぐ近くからすごいい匂いがする。嗅いでいるだけで心が満たされて、思わず頬が緩んでしまうくらいだ。
もっとその匂いを感じたくて、ユリスはそこに顔を埋める。
温かい。ずっとこうしていたいと思うくらいの心地よさだ。
「俺の匂いが気に入ったのか? なんて可愛いんだ」
優しい腕で身体を抱き締められる。なんていい夢なんだろう。最高の気分だ。
「早くヒートが来るといいな。その日が楽しみだ」
心地よさの中、ユリスは目覚める気にならず、もう一度眠りについた。
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