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カイルの溺愛

3.

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「ユリス様! 大丈夫ですか?!」

 部屋に戻るなり、ミハルドが駆け寄ってきた。
 ミハルドは不安げな顔をしている。それもそうだろう。昨夜、ユリスはカイルを暗殺するために出かけていったのだから。カイルが生きているということは任務は失敗。さらにユリスがカイルと関係を結んだことはこの城じゅうの周知となっている。



 ミハルドと王妃の間の書斎に閉じこもり、顔を突き合わせる。

「いったいどのようなことが……」

 ミハルドは小声で訊ねてきた。

「すまない。私には無理だ。この任務は果たせそうにない……」

 ユリスの心がカイルを殺すことを拒絶している。国に家族を置いてきているのに。

「ユリス様。駄目ですよ、弱気にならないでください! 妹君はユリス様の帰りを待ってます!」
「その件はカイル様が力を貸してくださると——」
「ユリス様。なりません。ナルカでのことにカイル王の力は及びません。そしてユリス様がカイル王のお相手に選ばれたことはすぐにレオンハルト様の耳に届くでしょう」

 カイルはなんとかすると豪語していたが、いくらカイルとはいえ、東国ナルカのことはどうしようもないのではないか。

「そうなればユリス様は裏切り者と思われても仕方のないお立場になります」
「ではどうすれば……」
「諦めずにカイル王を殺めるのです、ユリス様がとどめを刺すのが難しければ私がやります。ユリス様は私にお力添えを」
「なんてことを……」
「ユリス様はご自身さえよければいいのですか? カイル王はナルカの敵ですよ? 国王がいなくなれば、ケレンディアの治世は乱れ、その隙にナルカが領土を広げることができるかもしれません。ナルカに生まれた者としては、国のために尽くすのが道理ではありませんか?」

 ミハルドの言うとおりなのだろう。ユリスには忠誠心が足らない。

 だが、東国ナルカでは虐げられていたオメガが、この国ではバース性に寄らずに自分の望む形を叶えることができる。
 ユリスの正直な気持ちはこの国とカイルに傾いてしまっている。あんなに真摯な目で見つめてくるカイルを想ってしまうのは悪いことなのか。

「ユリス様!」

 ミハルドに叱咤されても「わかってる……」と力無く答えることしかできない。

「はぁ……。ユリス様のお気持ちはわかりました」

 ミハルドは呆れている。

「私も道を模索してみます。ユリス様のお立場はカイル王の懐に最も近いのですから、それを利用しない手はないでしょう」
「利用か……」

 王族は大変だ。婚礼ひとつとっても政略結婚だのなんだので、自由がない。

 カイルは窮屈な世界を変えるべく、ユリスを選んだのかもしれないなと思った。
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