17 / 91
二度めの夜
1.
しおりを挟む
パーティーの時間は刻一刻と過ぎていくのに、カイルにまったくつけ入る隙がない。カイルに話しかけようとしても、もはや周りの従者に止められて、話す人が選ばれている状態だ。
「国への陳情があればまた別の機会に聞く。少しだけ風に当たってくる。一度離れるがすぐ戻る」
カイルはその場から離れた。少し疲れた様子のカイルは護衛が追いかけることすら拒否してひとり大広間を出ようとしている。
来た。絶好の機会だ。
ユリスは素早くカイルのあとを追いかける。この機会を逃したら次はない。
慣れないドレスの裾をひるがえし、カイルを追いかける。だがカイルが角を曲がったところで見失った。どこにも姿がない。
カイルはどこに行った? この機会を逃したら作戦は失敗になるというのに。
「…………っ!」
突然背後から身体を引っ張られ、喉元に銀色に光る短剣を当てられる。
「お前、何者だ? ずっと俺を狙ってただろ」
カイルだ。つけ狙っていたことが、いつからかカイルに見抜かれていたのか。
「何が目的だ? 誰かの手の者か? 答えによっては殺す」
カイルは変な答え方をしたら、このままユリスの喉をかっ切るつもりなのだろう。
「私はただ、陛下を慕っているだけで、特別な意味はございません……」
小さな声で答えると、カイルはユリスの顔を横から覗き込んできた。
「慕ってる……? 本当か?」
「はい……。陛下とゆっくりお会いしたくて……」
パーティーの場にはカイルに憧れる貴族の娘たちばかりだった。カイルと話がしたくて追いかけてきた、そんな娘たちのふりをしてもおかしくはないだろう。
「わかった。ではついてこい」
カイルは短剣を鞘に戻し、ユリスの手を乱暴に引っ張る。こちらのことなど気にせずズカズカと歩くカイルはどこか怒っている様子だ。
「俺は今、心が穏やかではないのだ」
やはりそうだ。でも、カイルが怒る理由がわからない。パーティーのときはそんな素振りはまったく見せなかった。
「お前は知っているか? 俺はわざわざナルカから妃にするためオメガの王子を連れてきた。だが、その者は俺をまったく受け入れない。今日のパーティーももうすぐ終わりになるのに少しも顔を出さない。そんな無礼があるか?」
カイルの怒りの原因はユリスがパーティーに訪れなかったことのようだ。
「もう愛想が尽きた。あんな奴は知らん。そんなに妃になりたくないのなら、国に帰るなり、なんなり勝手にしろ」
愛想が尽きた……?
カイルの吐き捨てるような物言いに、ユリスの胸がズキンと痛んだ。
なぜだろう。カイルの妃になる未来など始めからなかったはずなのに。
「俺はヒイラと約束したんだ。今回のパーティーで、誰かを見初めることにするとな。一国の王に世継ぎがいないのは由々しきことだと俺も理解はしている。だからこそユリスに来てもらいたいと思ったのに、来ないことがユリスの答えなのだろう? それなら俺はユリスを諦める」
カイルの言うとおりだ。いつまでも王妃の座を空けておくわけにはいかないのだろう。西国ケレンディアはカイルの統治で平和で豊かな国だ。あとは世継ぎさえいれば安泰となるだろう。
カイルは兵士に命じ、荘厳な扉を開けさせた。ここは国王の部屋だ。なぜここに名も知らぬ娘を連れてきたのだろう。
「陛下?! パーティーの途中では?!」
「その娘はどなたですか?!」
中にいた従者たちはカイルの奇行に驚いている。だがカイルは何も答えない。
「さて。お前はさっき、俺を慕っていると言ったな?」
カイルはこちらを振り返った。その目に優しさなどない。感情が凍りついたような、冷たい視線。
ユリスは頷く。さっきの言葉を撤回することなどできない。
「それならば、お前を抱いても構わないな」
「…………っ!」
ユリスは言葉を失った。カイルの目はどう見ても本気だ。ユリスはその強い瞳に囚われ動けない。
「陛下、まさかこの娘を見初められたのですか……?」
周りの従者も怯えたようにカイルをみている。
「いいや。誰でもいいから適当な者を連れてきた。どこの誰とも知らん。だが世継ぎさえできれば問題ないだろう?」
カイルのひと睨みに従者が「ヒッ……」と震え上がった。
「陛下がご乱心を……」
「なんだと! お前たちも世継ぎを望んでただろう? この娘も俺に惚れてるそうだ。それなのに何が問題だ?」
カイルが睨みを効かせ、従者はカイルのもとからそそくさと離れていく。
「こっちに来い!」
カイルに強く掴まれた手首がジンジンと痛む。その手を引っ張られ、連れてこられたのは寝室だ。
寝室の扉が閉められる。
この部屋にはカイルとユリスのふたりしかいない。
「ユリスが駄目なら相手は誰でもいい。お前も王の子を産みたいのだろう? お互いの利益が揃ったな。早く服を脱げ。早速始めるぞ」
カイルはユリスの身体を抱えてベッドに放り投げた。そのままカイルは、ユリスの上に覆いかぶさってきた。
「国への陳情があればまた別の機会に聞く。少しだけ風に当たってくる。一度離れるがすぐ戻る」
カイルはその場から離れた。少し疲れた様子のカイルは護衛が追いかけることすら拒否してひとり大広間を出ようとしている。
来た。絶好の機会だ。
ユリスは素早くカイルのあとを追いかける。この機会を逃したら次はない。
慣れないドレスの裾をひるがえし、カイルを追いかける。だがカイルが角を曲がったところで見失った。どこにも姿がない。
カイルはどこに行った? この機会を逃したら作戦は失敗になるというのに。
「…………っ!」
突然背後から身体を引っ張られ、喉元に銀色に光る短剣を当てられる。
「お前、何者だ? ずっと俺を狙ってただろ」
カイルだ。つけ狙っていたことが、いつからかカイルに見抜かれていたのか。
「何が目的だ? 誰かの手の者か? 答えによっては殺す」
カイルは変な答え方をしたら、このままユリスの喉をかっ切るつもりなのだろう。
「私はただ、陛下を慕っているだけで、特別な意味はございません……」
小さな声で答えると、カイルはユリスの顔を横から覗き込んできた。
「慕ってる……? 本当か?」
「はい……。陛下とゆっくりお会いしたくて……」
パーティーの場にはカイルに憧れる貴族の娘たちばかりだった。カイルと話がしたくて追いかけてきた、そんな娘たちのふりをしてもおかしくはないだろう。
「わかった。ではついてこい」
カイルは短剣を鞘に戻し、ユリスの手を乱暴に引っ張る。こちらのことなど気にせずズカズカと歩くカイルはどこか怒っている様子だ。
「俺は今、心が穏やかではないのだ」
やはりそうだ。でも、カイルが怒る理由がわからない。パーティーのときはそんな素振りはまったく見せなかった。
「お前は知っているか? 俺はわざわざナルカから妃にするためオメガの王子を連れてきた。だが、その者は俺をまったく受け入れない。今日のパーティーももうすぐ終わりになるのに少しも顔を出さない。そんな無礼があるか?」
カイルの怒りの原因はユリスがパーティーに訪れなかったことのようだ。
「もう愛想が尽きた。あんな奴は知らん。そんなに妃になりたくないのなら、国に帰るなり、なんなり勝手にしろ」
愛想が尽きた……?
カイルの吐き捨てるような物言いに、ユリスの胸がズキンと痛んだ。
なぜだろう。カイルの妃になる未来など始めからなかったはずなのに。
「俺はヒイラと約束したんだ。今回のパーティーで、誰かを見初めることにするとな。一国の王に世継ぎがいないのは由々しきことだと俺も理解はしている。だからこそユリスに来てもらいたいと思ったのに、来ないことがユリスの答えなのだろう? それなら俺はユリスを諦める」
カイルの言うとおりだ。いつまでも王妃の座を空けておくわけにはいかないのだろう。西国ケレンディアはカイルの統治で平和で豊かな国だ。あとは世継ぎさえいれば安泰となるだろう。
カイルは兵士に命じ、荘厳な扉を開けさせた。ここは国王の部屋だ。なぜここに名も知らぬ娘を連れてきたのだろう。
「陛下?! パーティーの途中では?!」
「その娘はどなたですか?!」
中にいた従者たちはカイルの奇行に驚いている。だがカイルは何も答えない。
「さて。お前はさっき、俺を慕っていると言ったな?」
カイルはこちらを振り返った。その目に優しさなどない。感情が凍りついたような、冷たい視線。
ユリスは頷く。さっきの言葉を撤回することなどできない。
「それならば、お前を抱いても構わないな」
「…………っ!」
ユリスは言葉を失った。カイルの目はどう見ても本気だ。ユリスはその強い瞳に囚われ動けない。
「陛下、まさかこの娘を見初められたのですか……?」
周りの従者も怯えたようにカイルをみている。
「いいや。誰でもいいから適当な者を連れてきた。どこの誰とも知らん。だが世継ぎさえできれば問題ないだろう?」
カイルのひと睨みに従者が「ヒッ……」と震え上がった。
「陛下がご乱心を……」
「なんだと! お前たちも世継ぎを望んでただろう? この娘も俺に惚れてるそうだ。それなのに何が問題だ?」
カイルが睨みを効かせ、従者はカイルのもとからそそくさと離れていく。
「こっちに来い!」
カイルに強く掴まれた手首がジンジンと痛む。その手を引っ張られ、連れてこられたのは寝室だ。
寝室の扉が閉められる。
この部屋にはカイルとユリスのふたりしかいない。
「ユリスが駄目なら相手は誰でもいい。お前も王の子を産みたいのだろう? お互いの利益が揃ったな。早く服を脱げ。早速始めるぞ」
カイルはユリスの身体を抱えてベッドに放り投げた。そのままカイルは、ユリスの上に覆いかぶさってきた。
78
お気に入りに追加
1,004
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】
きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。
オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。
そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。
アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。
そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。
二人の想いは無事通じ合うのか。
現在、スピンオフ作品の
ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子
葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。
幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。
一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。
やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。
※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる