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オメガの妃
4.
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招待状を見せ、中に入る。この城一番の大きな広間には大勢の着飾った男女がいる。カイルの即位一周年を祝うために集まってきた貴族たちなのだろう。皆、それぞれ料理や会話を楽しんだり、中央では音楽に合わせ男女ペアでダンスをしている者もいる。
カイルは壇上に座っている。その顔にずっと笑顔はなかったが、そばにいた大臣のヒイラに呼ばれ、カイルは席から立った。
カイルは誰と話しているのだろう。すごく綺麗な女性だ。
ユリスは人の影に隠れながらできるだけふたりに近づいていく。幸いにもカイルとその女性の周りには人が多い。従者に護衛。皆から注目されるふたりなのかもしれない。
「クローディア。バラディスからわざわざ来てくれたのか。まずは礼を言わせてくれ」
カイルが頭を垂れた。ということはかなり身分の高い女性のようだ。
周りの者がクローディアを姫殿下と呼んでいて気がついた。
北国バラディスの王と王妃の間に生まれた子供は男も女も含めたったひとり。その娘の名前はクローディアだ。
レオンハルトがかつてクローディアを妃にするべく画策していたという噂話だけは聞いたことがある。
「カイル様のお力でケレンディアは本当に良い国になりましたね。あとはカイル様がご結婚されお世継ぎが生まれればこの国は安泰ですね」
「それが最も厳しいな。俺もそれを望んではいるのだが、俺自身が法を変えてしまったせいで、苦戦してる」
「え?! カイル様がですか?」
「きっと無理なのだ。その証拠に今日もその相手はここに現れない。俺が酷いことを言ったから嫌われたに違いない……」
「カイル様は幼い頃から変わりませんね。こんなに素敵な御方なのにご自分の魅力に全然気づいていらっしゃらないんですもの」
たしかにカイルは変わっている。黙っていてもカイルの結婚相手など余るほど寄ってくるはずだ。
「大丈夫です。いざとなれば私はいつでもカイル様のもとに嫁ぐ準備はできておりますから」
「クローディアこそ変わらないな。そんなに俺がいいのか? お前ならいくらでも嫁の貰い手はあるだろう」
「私は昔からずっとカイル様をお慕いしております。側室でも構いません。カイル様のおそばに——」
「姫殿下、いけません! 側室は絶対になりません!」
クローディアのそばに仕えていた従者が慌てて言葉を遮った。バラディスの姫ならば正式な王妃でなければ、西国ケレンディアに従したように見えてしまうのだろう。
「いいのです。カイル様には意中の方がいらっしゃるのですから。私は側室になるしか道はありませんもの」
「姫殿下……」
従者でも、クローディアの想いは抑えられない。あんなに慕われてもカイルは首を縦に振らない。健気なクローディアが可哀想に思えるくらいだ。
「クローディアにもユリスを紹介したかったが、当の本人が来ないのであれば仕方がない。またいつかの機会にな」
「はい。ユリス様にお会いできるときを楽しみにしております」
「姫殿下、ユリス様という方はオメガですから大した身分の者ではありません。様づけで呼ぶ必要はございません」
「そんなことはありません。ここはケレンディアですから、オメガにも身分は与えられるんですものね? カイル様」
「そうだ。クローディアは相変わらず聡明だな」
カイルは感心している。たしかにクローディアは賢い女のようだ。
「そう思われるなら、早く私をもらってくださいね。どんどん歳をとってしまいます。私はカイル様のお世継ぎをたくさん生みたいのです」
「姫殿下!!」
なかなかに自由な娘のようだが、同じく自由なカイルとはお似合いのカップルに見えてきた。お互いの国の和平にもなるし、クローディアはカイルにとって完璧な相手だ。
なんだか自分が邪魔者に思えてきた。ユリスさえいなければ何の問題もなく結ばれたふたりなのかもしれない。
そして今日ここにいるのはカイルを祝うために集まった人々だ。こんなに大勢に慕われている国王の命を奪ってもよいものなのか、またユリスの心が揺れる。
駄目だ。
妹を見放す……?
そんなこと、できるわけがない。ユリス以外に助けてやれる者などいないのに。
カイルは壇上に座っている。その顔にずっと笑顔はなかったが、そばにいた大臣のヒイラに呼ばれ、カイルは席から立った。
カイルは誰と話しているのだろう。すごく綺麗な女性だ。
ユリスは人の影に隠れながらできるだけふたりに近づいていく。幸いにもカイルとその女性の周りには人が多い。従者に護衛。皆から注目されるふたりなのかもしれない。
「クローディア。バラディスからわざわざ来てくれたのか。まずは礼を言わせてくれ」
カイルが頭を垂れた。ということはかなり身分の高い女性のようだ。
周りの者がクローディアを姫殿下と呼んでいて気がついた。
北国バラディスの王と王妃の間に生まれた子供は男も女も含めたったひとり。その娘の名前はクローディアだ。
レオンハルトがかつてクローディアを妃にするべく画策していたという噂話だけは聞いたことがある。
「カイル様のお力でケレンディアは本当に良い国になりましたね。あとはカイル様がご結婚されお世継ぎが生まれればこの国は安泰ですね」
「それが最も厳しいな。俺もそれを望んではいるのだが、俺自身が法を変えてしまったせいで、苦戦してる」
「え?! カイル様がですか?」
「きっと無理なのだ。その証拠に今日もその相手はここに現れない。俺が酷いことを言ったから嫌われたに違いない……」
「カイル様は幼い頃から変わりませんね。こんなに素敵な御方なのにご自分の魅力に全然気づいていらっしゃらないんですもの」
たしかにカイルは変わっている。黙っていてもカイルの結婚相手など余るほど寄ってくるはずだ。
「大丈夫です。いざとなれば私はいつでもカイル様のもとに嫁ぐ準備はできておりますから」
「クローディアこそ変わらないな。そんなに俺がいいのか? お前ならいくらでも嫁の貰い手はあるだろう」
「私は昔からずっとカイル様をお慕いしております。側室でも構いません。カイル様のおそばに——」
「姫殿下、いけません! 側室は絶対になりません!」
クローディアのそばに仕えていた従者が慌てて言葉を遮った。バラディスの姫ならば正式な王妃でなければ、西国ケレンディアに従したように見えてしまうのだろう。
「いいのです。カイル様には意中の方がいらっしゃるのですから。私は側室になるしか道はありませんもの」
「姫殿下……」
従者でも、クローディアの想いは抑えられない。あんなに慕われてもカイルは首を縦に振らない。健気なクローディアが可哀想に思えるくらいだ。
「クローディアにもユリスを紹介したかったが、当の本人が来ないのであれば仕方がない。またいつかの機会にな」
「はい。ユリス様にお会いできるときを楽しみにしております」
「姫殿下、ユリス様という方はオメガですから大した身分の者ではありません。様づけで呼ぶ必要はございません」
「そんなことはありません。ここはケレンディアですから、オメガにも身分は与えられるんですものね? カイル様」
「そうだ。クローディアは相変わらず聡明だな」
カイルは感心している。たしかにクローディアは賢い女のようだ。
「そう思われるなら、早く私をもらってくださいね。どんどん歳をとってしまいます。私はカイル様のお世継ぎをたくさん生みたいのです」
「姫殿下!!」
なかなかに自由な娘のようだが、同じく自由なカイルとはお似合いのカップルに見えてきた。お互いの国の和平にもなるし、クローディアはカイルにとって完璧な相手だ。
なんだか自分が邪魔者に思えてきた。ユリスさえいなければ何の問題もなく結ばれたふたりなのかもしれない。
そして今日ここにいるのはカイルを祝うために集まった人々だ。こんなに大勢に慕われている国王の命を奪ってもよいものなのか、またユリスの心が揺れる。
駄目だ。
妹を見放す……?
そんなこと、できるわけがない。ユリス以外に助けてやれる者などいないのに。
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