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6.さよなら
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——どれくらい寝たのだろう。
紀平が起きて時間を確認するともう昼過ぎだった。
とりあえず顔でも洗うかと、洗面所に向かい、そこでいつも通りのモーニングルーティン。
歯磨きをしていて、紀平はあることに気がついた。
ゴウンゴウンと回っている洗濯機。
「あれ俺、回したっけ?」と一瞬思ったがそんなはずはない。だとしたら、こんなことをするのはひとりしかいない。
「遠堂。帰ったのか?」
遠堂の姿を探す。リビングにはいない。だがテーブルの上に何か置いてあることに気がついた。
小さな箱と、手紙。
これって、まさかとは思うが遠堂からの贈り物なんだろうか。
手に取ってみて字を見て遠堂からではないとわかった。これは宮内の字だ。なんで宮内からの手紙がこんなところに——。
「紀平」
遠堂が部屋から出てきて、静かにこちらを見ている。狭いはずのリビングなのに遠堂が遠く感じるし、昨日会ったばかりなのになぜか懐かしく思う。
「ハハ……。びっくりしたよ。家が妙に片付いてるからさ」
散らかしているのはほとんど遠堂だが、遠堂を待っていて時間があったし、最後の餞別に荷造りしながら片付けてやったのだ。
「なんか別の家みたいだな」
紀平もそれは同意だ。この家も、二人の心もすっかり変わってしまった。
「お前本気で出て行くつもりなのか……?」
「まぁな」
「まさか、紀平はここを出ていって、宮内のところに行くつもりか?」
またその話か。
宮内とはなんでもないって説明したし、遠堂に言われて最近は会ってもいないのに。
「遠堂。俺のことなんてどうでもいいだろ。お前こそ今すぐ環と一緒に暮らしたいんだろ? 安心しろ。今日中には出てってやるから」
遠堂と別れを決めたのは正解だ。
浮気束縛男になんて縋り付くもんじゃない。
キッと遠堂を睨みつけたときに、遠堂の様子がおかしいことに気がついた。
遠堂の顔には青アザがあるし、首や腕、あちこち怪我だらけだ。
「紀平。いつの話してるんだよ……。俺が環と電話やLINEをしてたの、まだ許してくれてないのか? だから、その時からお前は宮内と……」
傷だらけの顔で、さらに遠堂は泣き出した。男前のくせに見る影もない。
「遠堂。なんでお前がさっきから被害者ヅラしてんだよっ」
「え……? だって振られたのは俺だろ……?」
クッソムカつく野郎だな。散々悪事を働いたのは遠堂だ。それなのに『なんにもしてないのに振られた俺は可哀想』みたいな顔しやがって!
「あー! もう許せねぇ!」
どうせ最後だ。今までの不満を全部こいつにぶちまけてやる!
「遠堂。俺は全部知ってるんだからな!」
紀平の豹変ぶりに、遠堂が驚いている。
「遠堂! この前、久しぶりに環に会うってバイトの飲み会に行った日、お前、この部屋に男を連れ込んだだろ?!」
「え?! お前、なんでそのことを……」
遠堂は明らかに狼狽えている。だろうな。自分の浮気はバレてないと思っていただろうから。
「あの日、俺は、二次会まで行かないで早く帰ってきてたんだよ!」
「え?! 嘘だろ?! だってお前、夜の12時くらいに俺に『ただいま』っつって外から帰って来たじゃん」
「俺はどうしようか迷ったけど、結局気づかなかったふりをすることにしたんだよ。あの頃の俺はまだお前のこと……」
——好きだったから。と続く言葉は思わず飲み込んでしまった。
「だからあの日、お前は俺を避けたのか……」
そうだよ。浮気した日の夜に、恋人とも寝ようだなんて最低絶倫野郎だ。
「あと俺と宮内の仲を詮索するのはやめろ。あいつはただの友達だ。お前に「会うな」と言われてからは宮内と会ってもいない。でももうお前の言う事なんて聞く必要ないもんな? 今後は自由にさせてもらうよ」
遠堂は「マジで会ってなかったのか……?」と弱々しい言葉を吐いた。
「記念日とかそういうの、面倒くせぇと思ってたけどさ、『おめでとう』のひと言くらい言ってくれてもいいだろ?! 俺のことなんて興味なくても一応恋人なんだからさ」
恋人に「一応」を付けてしまった。自虐的で笑えてくる。
「あと『外泊しない』って約束はお前が言い出したんだぞ。口約束だったけど、俺は真面目に守ってたんだ。それなのによりによって俺の誕生日に約束破って外泊することねぇだろ? おい、遠堂。昨日の夜はどこにいたんだ? どうせ終わりなんだから正直に言えよ。俺はお前が他の男と寝たって聞いても今さら驚かない。いくら待っててもお前が帰ってこないから眠れなくて一晩中考えて、もう覚悟はできたんだ」
サヨナラ遠堂。
最後にみっともない言い訳を並べるお前の姿をこの目に焼き付けてやるよ。
「紀平ごめん……俺が悪かった。俺もずっと考えてたんだけど、やっぱり俺にはお前しかいないんだ。だから許してくれ」
何が「許してくれ」だ。だったら環なんて家に連れ込むな!
「あの日、紀平は大学の飲み会だったから帰りは遅くなると俺は思ってたんだ」
「へぇ。もしかして俺が飲み会に行くたびに誰か連れ込んでたのか? まさかあれが最初の浮気じゃなかったとか?」
やっぱり遠堂は紀平がいない隙を狙って環を家に呼んだのだ。だとしたら、今まで紀平が気付かなかっただけで他にも余罪があるのかもしれない。
紀平が起きて時間を確認するともう昼過ぎだった。
とりあえず顔でも洗うかと、洗面所に向かい、そこでいつも通りのモーニングルーティン。
歯磨きをしていて、紀平はあることに気がついた。
ゴウンゴウンと回っている洗濯機。
「あれ俺、回したっけ?」と一瞬思ったがそんなはずはない。だとしたら、こんなことをするのはひとりしかいない。
「遠堂。帰ったのか?」
遠堂の姿を探す。リビングにはいない。だがテーブルの上に何か置いてあることに気がついた。
小さな箱と、手紙。
これって、まさかとは思うが遠堂からの贈り物なんだろうか。
手に取ってみて字を見て遠堂からではないとわかった。これは宮内の字だ。なんで宮内からの手紙がこんなところに——。
「紀平」
遠堂が部屋から出てきて、静かにこちらを見ている。狭いはずのリビングなのに遠堂が遠く感じるし、昨日会ったばかりなのになぜか懐かしく思う。
「ハハ……。びっくりしたよ。家が妙に片付いてるからさ」
散らかしているのはほとんど遠堂だが、遠堂を待っていて時間があったし、最後の餞別に荷造りしながら片付けてやったのだ。
「なんか別の家みたいだな」
紀平もそれは同意だ。この家も、二人の心もすっかり変わってしまった。
「お前本気で出て行くつもりなのか……?」
「まぁな」
「まさか、紀平はここを出ていって、宮内のところに行くつもりか?」
またその話か。
宮内とはなんでもないって説明したし、遠堂に言われて最近は会ってもいないのに。
「遠堂。俺のことなんてどうでもいいだろ。お前こそ今すぐ環と一緒に暮らしたいんだろ? 安心しろ。今日中には出てってやるから」
遠堂と別れを決めたのは正解だ。
浮気束縛男になんて縋り付くもんじゃない。
キッと遠堂を睨みつけたときに、遠堂の様子がおかしいことに気がついた。
遠堂の顔には青アザがあるし、首や腕、あちこち怪我だらけだ。
「紀平。いつの話してるんだよ……。俺が環と電話やLINEをしてたの、まだ許してくれてないのか? だから、その時からお前は宮内と……」
傷だらけの顔で、さらに遠堂は泣き出した。男前のくせに見る影もない。
「遠堂。なんでお前がさっきから被害者ヅラしてんだよっ」
「え……? だって振られたのは俺だろ……?」
クッソムカつく野郎だな。散々悪事を働いたのは遠堂だ。それなのに『なんにもしてないのに振られた俺は可哀想』みたいな顔しやがって!
「あー! もう許せねぇ!」
どうせ最後だ。今までの不満を全部こいつにぶちまけてやる!
「遠堂。俺は全部知ってるんだからな!」
紀平の豹変ぶりに、遠堂が驚いている。
「遠堂! この前、久しぶりに環に会うってバイトの飲み会に行った日、お前、この部屋に男を連れ込んだだろ?!」
「え?! お前、なんでそのことを……」
遠堂は明らかに狼狽えている。だろうな。自分の浮気はバレてないと思っていただろうから。
「あの日、俺は、二次会まで行かないで早く帰ってきてたんだよ!」
「え?! 嘘だろ?! だってお前、夜の12時くらいに俺に『ただいま』っつって外から帰って来たじゃん」
「俺はどうしようか迷ったけど、結局気づかなかったふりをすることにしたんだよ。あの頃の俺はまだお前のこと……」
——好きだったから。と続く言葉は思わず飲み込んでしまった。
「だからあの日、お前は俺を避けたのか……」
そうだよ。浮気した日の夜に、恋人とも寝ようだなんて最低絶倫野郎だ。
「あと俺と宮内の仲を詮索するのはやめろ。あいつはただの友達だ。お前に「会うな」と言われてからは宮内と会ってもいない。でももうお前の言う事なんて聞く必要ないもんな? 今後は自由にさせてもらうよ」
遠堂は「マジで会ってなかったのか……?」と弱々しい言葉を吐いた。
「記念日とかそういうの、面倒くせぇと思ってたけどさ、『おめでとう』のひと言くらい言ってくれてもいいだろ?! 俺のことなんて興味なくても一応恋人なんだからさ」
恋人に「一応」を付けてしまった。自虐的で笑えてくる。
「あと『外泊しない』って約束はお前が言い出したんだぞ。口約束だったけど、俺は真面目に守ってたんだ。それなのによりによって俺の誕生日に約束破って外泊することねぇだろ? おい、遠堂。昨日の夜はどこにいたんだ? どうせ終わりなんだから正直に言えよ。俺はお前が他の男と寝たって聞いても今さら驚かない。いくら待っててもお前が帰ってこないから眠れなくて一晩中考えて、もう覚悟はできたんだ」
サヨナラ遠堂。
最後にみっともない言い訳を並べるお前の姿をこの目に焼き付けてやるよ。
「紀平ごめん……俺が悪かった。俺もずっと考えてたんだけど、やっぱり俺にはお前しかいないんだ。だから許してくれ」
何が「許してくれ」だ。だったら環なんて家に連れ込むな!
「あの日、紀平は大学の飲み会だったから帰りは遅くなると俺は思ってたんだ」
「へぇ。もしかして俺が飲み会に行くたびに誰か連れ込んでたのか? まさかあれが最初の浮気じゃなかったとか?」
やっぱり遠堂は紀平がいない隙を狙って環を家に呼んだのだ。だとしたら、今まで紀平が気付かなかっただけで他にも余罪があるのかもしれない。
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