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42.サイン

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「神乃は昔っからそうだ。思ってることがあるなら、言ってくれればいいのに、いつもお前は黙ってる」
「ごめん……」
「俺が何のためにお前のそばにいると思ってるんだ? お前が藍羅に復讐したいなら俺に相談してくれ。あいつを抹殺するくらい、わけないことだ」
「おい富永。さらっと恐ろしいことを言うな!」

 富永はすぐに「冗談だよ」と言ったが、神乃が富永に復讐を依頼したら、いったい藍羅に何をするつもりだったのだろう。


「俺の考えでは、富永たちが部屋に来たときに、富永には全部藍羅を騙すためのものだったと話して、彼氏を交換しようとしたことを言い逃れできない藍羅はヒロくんに責められて振られるっていうシナリオだったんだ」

 まさかあそこでヒロくんに襲われるとは思いもしなかった。ヒロくんの本性を見抜けなかった自分の落ち度だ。

「神乃が他の男とベッドにいるところなんて見たくなかった。神乃は俺を捨ててあいつを選んだのかと思った」
「そうだよな……」

 本当に富永はあの場面でよく助けてくれたと思う。
 恋人交換したんだと、神乃の行動に呆れて立ち去ってしまう可能性だってあった。

「でも、神乃の左手がさ」
「左手?」
「うん。神乃はいつも何も言わない代わりに俺に小さなサインを送ってくる」
「サイン……?」

 神乃にはまったく自覚がない。無意識のうちにしてしまう仕草のことなのだろうか。

「あのときの神乃は俺を求めてた。俺に行くなって、誤解するなって手を伸ばしたんだろ?」

 まったくもってその通りだ。ヒロくんに口を塞がれて話すことができなくて、それでも富永に伝えたくて——。

「富永はすごいな……」

 そんな小さなサインに気がついてくれるなんて富永はなんて男だ。



「この前のセックスのときもそうだった」
「へっ?」
「いつもは終わりになるところなのに、あのときの神乃は俺に左手を伸ばしてきた。あれって『一回じゃ足りない、もっとシたい』って意味だろ?」
「はっ……? バカ、違うよっ」

 わかった。この前保険会社への派遣が終わった日の夜の話だ。開放的な気持ちになって、ついセックスに溺れたくなって……。
 あのとき自分は富永に手を伸ばしていただろうか。富永のほうから「もう一回するか」と聞いてきたのに。

「いいよ。これからも俺が見逃さないようにする。お前の言葉にならない本心を俺が見抜いてみせる」
「なっ……」

 富永は実はすごい洞察力の持ち主なのか? 神乃の一挙手一投足から、神乃も気がつかないほどの本心を読まれてしまいそうだ。


「今も神乃の目を見てわかった。自分ひとりの力で解決しようとしたけど、思いのほか俺に迷惑をかけたから、俺に嫌われたんじゃないかと怯えてる」

 富永は何者だ?! この読心術で世の中渡ってきたのか?!



「安心しろ。俺は神乃が好きだ」

 富永に言われてわかった。
 やっぱり言葉にすることは大切だ。安心しろ、好きだと富永に言われて心がストンッと楽になった。

「恋人交換の生贄にされたのは根に持つけどな」
「へぁっ?!」

 根に持つ、根に持つ……ずっと神乃を恨むってことか……?
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