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31.処遇

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「神乃、ほんとごめん。俺はお前が嫌いであんなことをしたんじゃない。好きなんだ。好きなのに、神乃に振り向いてもらえないから悔しくなってつい意地悪をした……」

 好き……?
 別れてから、仁井はやたらと神乃を好きだと言う。それは本当の意味での好きなのだろうか。
 本当に好きだったのならそもそも浮気なんてしないんじゃないだろうか。

「完っ全にお前に甘えてた。俺は心を入れ替えてお前に尽くすから、もう一度だけ俺にチャンスをくれっ。ダメか……?」

 これでも一度は心を寄せた相手だ。それなりに仁井との小さな思い出もある。
 もし富永に出会ってなかったら、自分は仁井の恋人に戻ったのだろうか。

「ごめん、何度言われてももう今さらなんだ。今の俺はまったくお前に気持ちがない。そんなに俺がよかったんなら浮気するなよ」

 愛情というものは不思議だ。
 ある日突然、表と裏がひっくり返るように憎悪に変わる。相手を信じていればいるほど、裏切られたときの憎悪は強い。

「失って初めてわかることってあるだろ? 神乃の大切さがやっとわかったんだ。コンビニ飯も飽きたし、神乃の料理が恋しくてさ。藍羅なんてクソ女だった。俺はあいつの見た目に騙されたんだよ! 神乃、頼むから! 今度こそちゃんとお前を大切にする!」

 仁井はすごい熱量で迫ってくるが、神乃にはすべて戯言にしか聞こえない。
 神乃は仁井の態度に呆れて大きな溜め息をついた。

「断る。俺には今、真剣に付き合ってる人がいるから」

 はなから答えは決まっている。
 富永を捨てて仁井のもとに戻るわけがない。
 今の富永はもう偽物の恋人じゃない。正真正銘、神乃の恋人だ。
 



「聞いたか?! クビだ、クビ!」

 派遣先での仕事の最終日、DX部は朝から色めき立っていた。

「左遷じゃなくてクビ?! やばくね?」

 みんな口々に噂をしているのはどうやら仁井のことらしい。

「受け入れ先がなかったらしいよ、どこも断られたって……」
「マジか!」

 噂話を聞いて神乃も驚いた。仁井はてっきり他部署に飛ばされるとばかり思っていたのにまさかクビになるとは……。


 神乃は何も手は下していない。仁井の嫌がらせに耐えて、この三週間、無理して仁井に押し付けられた仕事をこなしただけだ。
 それによって悪行が露呈して、仁井は然るべき処遇を与えられたにすぎない。


 地獄の三週間がやっと終わった。
 システム移行も無事に終え、PG(プログラマー)やSE、派遣も出向組も保険会社のシステム担当者まで集まって打ち上げをするらしく、神乃にも声がかかったがそれは断った。今日は富永とゆっくり過ごしたいと思ったからだ。
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