27 / 44
27.会いたくない相手
しおりを挟む
「はぁ……」
疲れる。本当に疲れる。早くこの会社への派遣期間が終わって欲しい。
だが、ひとつだけ確認しなければならないことができた。
富永と藍羅の話だ。
富永が藍羅に金を支払っていたなんて知らなかった。富永がそんなことをするのは、自分が関わっているのではないかという予感がする。
以前藍羅をなぜ家に上げたのかと富永に詰め寄ったとき、富永は「神乃、お前を守りたかったからだ」と答えた。
さらに「密かに俺は藍羅と仁井を別れさせようとしたんだ」とも言っていた。その方法が、藍羅に金を支払うことだったのかもしれない。
藍羅は仁井と同じ会社に勤めているらしいと富永から聞いた。
そして、この一週間の間に藍羅の姿を神乃は何度か見かけている。
藍羅はどこかの部で事務の仕事をしているようで、よく出没するのはカフェスペースだ。そこは部署や立場の垣根を越えて話をすることができるフリーな空間となっている。
そこで藍羅が男に媚び売るように話しかけている姿を見かけて、そういう性格の女なんだなと神乃は呆れて見ていたことがある。
気がついたら神乃は立ち上がっていた。とにかく藍羅を問いただして話を聞かなければならない。
「かーみのんっ! ひっさしぶりー!」
カフェスペースに座り、ひとりコーヒーを飲んでいた藍羅のいるテーブルに近づいていくと、藍羅に笑顔で迎えられた。
「にーくん、かみのんがうちの会社に来てくれたって喜んでたよ。可愛くて仕方ないんだって! これは寄りを戻すチャンスじゃない?」
神乃は「戻るなんてあり得ない」と首を横に振った。
「まぁねー、あいつはナシ。私はもう次の彼氏作ったよ。にーくんといると、あーしろこーしろって疲れるんだもん。二週間でわかったね」
こいつ、仁井には金をもらって泣く泣く別れたとか言っておいて、そんなものなくても別れる気満々だったんじゃないか。
「かみのんはよく三年もにーくんの我儘に付き合ってたね」
たしかにそうだ。恋人のためにと思って尽くしてきたけど、今思えばやりすぎだったのかもしれない。
「私は偏見無いけど、男同士だと大変だね。一度パートナー捕まえたら無理してでも縋りつかなきゃね。男を抱いてくれる男なんてレアキャラだもんね。女の私なら嫌なら捨ててすぐ次の男にいけるもん」
いや、そんなことはない。男でも女でも、普通はポイポイ恋人を捨てたりしない。
「とみーは? 元気?」
「とみー?」
「富永さんのこと。あの人すごくいいよね。お金持ちでイケメンで、人が良いし面白いもん。かみのんもやっぱりお金に惹かれたの?」
「は……?」
富永には良いところがたくさんあるのによりによってお金……。
「富永は中学からの友達だ」
「あ、そうなの? じゃあたまたま再会して付き合ってるだけなんだね」
そんな軽い気持ちじゃない。神乃としてはこのまま生涯を添い遂げるパートナーになって欲しいと思うくらいに富永に本気だ。
「なぁ藍羅。今日は頼みがあって藍羅に声をかけたんだ」
「え? 私に?」
藍羅が大きな目をぱちくりさせている。藍羅は本当に見た目だけは美人だ。
「手切れ金……」
「手切れ金?」
「富永から受け取ったお金を返してくれないか? そんなもの貰わなくても仁井と別れる気だったんだろ?」
神乃がそう言うと藍羅は急に表情を変え、口角を上げて瞳の奥を光らせた。これはきっと何かを企んでいる。
「かみのん。気づいちゃった……? もしかしてかみのん動画のことも、とみーから聞いた?」
かみのん動画……?
いったいなんのことかわからなかったが、神乃は「当然だろ」と平然とした顔で嘯いた。
「やっば。バレちゃったんだ……とみーなら黙ってると思ったのに」
「富永は俺と違って真っ直ぐないい奴なんだ。そういう奴を俺の問題に巻き込まないで欲しい」
「えーっ……」
藍羅は少し考えていたが、意外にも「いいよ」とあっさり了承した。
「お金、返してあげる。その代わり私もかみのんにお願いがあるんだけど」
藍羅は笑った。
「恋人交換、しない?」
——恋人交換?!
疲れる。本当に疲れる。早くこの会社への派遣期間が終わって欲しい。
だが、ひとつだけ確認しなければならないことができた。
富永と藍羅の話だ。
富永が藍羅に金を支払っていたなんて知らなかった。富永がそんなことをするのは、自分が関わっているのではないかという予感がする。
以前藍羅をなぜ家に上げたのかと富永に詰め寄ったとき、富永は「神乃、お前を守りたかったからだ」と答えた。
さらに「密かに俺は藍羅と仁井を別れさせようとしたんだ」とも言っていた。その方法が、藍羅に金を支払うことだったのかもしれない。
藍羅は仁井と同じ会社に勤めているらしいと富永から聞いた。
そして、この一週間の間に藍羅の姿を神乃は何度か見かけている。
藍羅はどこかの部で事務の仕事をしているようで、よく出没するのはカフェスペースだ。そこは部署や立場の垣根を越えて話をすることができるフリーな空間となっている。
そこで藍羅が男に媚び売るように話しかけている姿を見かけて、そういう性格の女なんだなと神乃は呆れて見ていたことがある。
気がついたら神乃は立ち上がっていた。とにかく藍羅を問いただして話を聞かなければならない。
「かーみのんっ! ひっさしぶりー!」
カフェスペースに座り、ひとりコーヒーを飲んでいた藍羅のいるテーブルに近づいていくと、藍羅に笑顔で迎えられた。
「にーくん、かみのんがうちの会社に来てくれたって喜んでたよ。可愛くて仕方ないんだって! これは寄りを戻すチャンスじゃない?」
神乃は「戻るなんてあり得ない」と首を横に振った。
「まぁねー、あいつはナシ。私はもう次の彼氏作ったよ。にーくんといると、あーしろこーしろって疲れるんだもん。二週間でわかったね」
こいつ、仁井には金をもらって泣く泣く別れたとか言っておいて、そんなものなくても別れる気満々だったんじゃないか。
「かみのんはよく三年もにーくんの我儘に付き合ってたね」
たしかにそうだ。恋人のためにと思って尽くしてきたけど、今思えばやりすぎだったのかもしれない。
「私は偏見無いけど、男同士だと大変だね。一度パートナー捕まえたら無理してでも縋りつかなきゃね。男を抱いてくれる男なんてレアキャラだもんね。女の私なら嫌なら捨ててすぐ次の男にいけるもん」
いや、そんなことはない。男でも女でも、普通はポイポイ恋人を捨てたりしない。
「とみーは? 元気?」
「とみー?」
「富永さんのこと。あの人すごくいいよね。お金持ちでイケメンで、人が良いし面白いもん。かみのんもやっぱりお金に惹かれたの?」
「は……?」
富永には良いところがたくさんあるのによりによってお金……。
「富永は中学からの友達だ」
「あ、そうなの? じゃあたまたま再会して付き合ってるだけなんだね」
そんな軽い気持ちじゃない。神乃としてはこのまま生涯を添い遂げるパートナーになって欲しいと思うくらいに富永に本気だ。
「なぁ藍羅。今日は頼みがあって藍羅に声をかけたんだ」
「え? 私に?」
藍羅が大きな目をぱちくりさせている。藍羅は本当に見た目だけは美人だ。
「手切れ金……」
「手切れ金?」
「富永から受け取ったお金を返してくれないか? そんなもの貰わなくても仁井と別れる気だったんだろ?」
神乃がそう言うと藍羅は急に表情を変え、口角を上げて瞳の奥を光らせた。これはきっと何かを企んでいる。
「かみのん。気づいちゃった……? もしかしてかみのん動画のことも、とみーから聞いた?」
かみのん動画……?
いったいなんのことかわからなかったが、神乃は「当然だろ」と平然とした顔で嘯いた。
「やっば。バレちゃったんだ……とみーなら黙ってると思ったのに」
「富永は俺と違って真っ直ぐないい奴なんだ。そういう奴を俺の問題に巻き込まないで欲しい」
「えーっ……」
藍羅は少し考えていたが、意外にも「いいよ」とあっさり了承した。
「お金、返してあげる。その代わり私もかみのんにお願いがあるんだけど」
藍羅は笑った。
「恋人交換、しない?」
——恋人交換?!
52
お気に入りに追加
805
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる