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27.会いたくない相手

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「はぁ……」

 疲れる。本当に疲れる。早くこの会社への派遣期間が終わって欲しい。

 だが、ひとつだけ確認しなければならないことができた。

 富永と藍羅の話だ。
 富永が藍羅に金を支払っていたなんて知らなかった。富永がそんなことをするのは、自分が関わっているのではないかという予感がする。

 以前藍羅をなぜ家に上げたのかと富永に詰め寄ったとき、富永は「神乃、お前を守りたかったからだ」と答えた。
 さらに「密かに俺は藍羅と仁井を別れさせようとしたんだ」とも言っていた。その方法が、藍羅に金を支払うことだったのかもしれない。




 藍羅は仁井と同じ会社に勤めているらしいと富永から聞いた。
 そして、この一週間の間に藍羅の姿を神乃は何度か見かけている。

 藍羅はどこかの部で事務の仕事をしているようで、よく出没するのはカフェスペースだ。そこは部署や立場の垣根を越えて話をすることができるフリーな空間となっている。
 そこで藍羅が男に媚び売るように話しかけている姿を見かけて、そういう性格の女なんだなと神乃は呆れて見ていたことがある。

 気がついたら神乃は立ち上がっていた。とにかく藍羅を問いただして話を聞かなければならない。





「かーみのんっ! ひっさしぶりー!」

 カフェスペースに座り、ひとりコーヒーを飲んでいた藍羅のいるテーブルに近づいていくと、藍羅に笑顔で迎えられた。

「にーくん、かみのんがうちの会社に来てくれたって喜んでたよ。可愛くて仕方ないんだって! これは寄りを戻すチャンスじゃない?」

 神乃は「戻るなんてあり得ない」と首を横に振った。

「まぁねー、あいつはナシ。私はもう次の彼氏作ったよ。にーくんといると、あーしろこーしろって疲れるんだもん。二週間でわかったね」

 こいつ、仁井には金をもらって泣く泣く別れたとか言っておいて、そんなものなくても別れる気満々だったんじゃないか。

「かみのんはよく三年もにーくんの我儘に付き合ってたね」

 たしかにそうだ。恋人のためにと思って尽くしてきたけど、今思えばやりすぎだったのかもしれない。

「私は偏見無いけど、男同士だと大変だね。一度パートナー捕まえたら無理してでも縋りつかなきゃね。男を抱いてくれる男なんてレアキャラだもんね。女の私なら嫌なら捨ててすぐ次の男にいけるもん」

 いや、そんなことはない。男でも女でも、普通はポイポイ恋人を捨てたりしない。

「とみーは? 元気?」
「とみー?」
「富永さんのこと。あの人すごくいいよね。お金持ちでイケメンで、人が良いし面白いもん。かみのんもやっぱりお金に惹かれたの?」
「は……?」

 富永には良いところがたくさんあるのによりによってお金……。

「富永は中学からの友達だ」
「あ、そうなの? じゃあたまたま再会して付き合ってるだけなんだね」

 そんな軽い気持ちじゃない。神乃としてはこのまま生涯を添い遂げるパートナーになって欲しいと思うくらいに富永に本気だ。

「なぁ藍羅。今日は頼みがあって藍羅に声をかけたんだ」
「え? 私に?」

 藍羅が大きな目をぱちくりさせている。藍羅は本当に見た目だけは美人だ。

「手切れ金……」
「手切れ金?」
「富永から受け取ったお金を返してくれないか? そんなもの貰わなくても仁井と別れる気だったんだろ?」

 神乃がそう言うと藍羅は急に表情を変え、口角を上げて瞳の奥を光らせた。これはきっと何かを企んでいる。

「かみのん。気づいちゃった……? もしかしてかみのん動画のことも、とみーから聞いた?」

 かみのん動画……?
 いったいなんのことかわからなかったが、神乃は「当然だろ」と平然とした顔でうそぶいた。

「やっば。バレちゃったんだ……とみーなら黙ってると思ったのに」
「富永は俺と違って真っ直ぐないい奴なんだ。そういう奴を俺の問題に巻き込まないで欲しい」
「えーっ……」

 藍羅は少し考えていたが、意外にも「いいよ」とあっさり了承した。

「お金、返してあげる。その代わり私もかみのんにお願いがあるんだけど」

 藍羅は笑った。

「恋人交換、しない?」

 ——恋人交換?!
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