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20.外苑前のレストラン 〜富永side〜

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 日曜日は晴天で、十一月の冬の訪れに向かう木枯らしが吹く中でも日差しが暖かくて心地よかった。

 富永は外苑前にあるフレンチレストランに神乃を誘った。ここはミシュランの星を獲得し続けている海外有名フレンチレストランの東京店だ。


「富永様ですね。ご来店ありがとうございます。社長の久我くがからお話は伺っております。お席にご案内いたしますね」

 この店のディレクトール(支配人)自らが富永と神乃を案内してくれた。さまざまな席があるが、ふたりが案内された席は外の景色を楽しめる、窓側のいい席だった。

 席に着くとドリンクメニューを手渡される。

「富永様。本日はドリンクはすべてフリーとなっております」
「えっ?」

 そんなはずはないと富永がディレクトールの顔を見ると、ディレクトールは笑顔になる。

「久我からそのようにするよう申しつかっております。富永様へのお祝い、とのことです」

 久我はレストラン経営を主とした上場企業の社長で、起業家の集まりで知り合い、友人になった。この外苑前の店も久我の経営するレストランだ。

 昨日の夜、久我に「明日の昼に外苑前の店に行きたかったが既に予約がいっぱいだった。なんとか二名入れてもらえないか」と連絡したら、二名なら大丈夫だと特別に予約を取ってくれた。

 それだけでもありがたかったのに、まさか飲み物代までフリーにしてもらえるとは思わなかった。あとで久我にひと言礼を言わねばならないだろう。



「ここ、人気店だぞ? 昨日の今日でたまたま予約が取れたのか?」

 ドリンクを頼み終えて、ディレクトールが去ったあと、神乃が顔を寄せ、富永に訊ねてきた。

「予約サイトだといっぱいだったけど、俺、実はこの店の社長と友達なんだ。だからそっちのコネを使った」
「富永はすごいな。やっぱり社長だといろんなところに顔が効くんだな。だって飲み物もタダになっちゃうんだろ?」

 神乃はしきりに感心して、「この店に一度来てみたかったんだ」と嬉しそうだ。

 神乃が喜んでくれるならなによりだ。いつも家で過ごしてばかりで、こうしてふたりで休日にデートらしいことをするのは初めてのことだ。今日はいい思い出をたくさん作りたい。

「秋のコースの前菜です」

 富永たちのテーブルを担当しているギャルソン(給士係)の若い男がふたりの前に料理の皿を置いた。
 皿の上にあるものは、一見すると枯れ葉とどんぐりにしか見えない。どうやらイノベーティブ料理のようだ。

「枯れ葉に見せかけているのは、ジャガイモを揚げたものです。こちらのどんぐりに見せかけているのはフォアグラです。フォアグラは本物のどんぐりの中に混ざっております。どんぐりは飾りになりますので、食べられません。よく見極めてお召し上がりください」

 なるほど。遊び心のある前菜だなと思った。

「面白いですね」
「ありがとうございます。食べるだけでなく、見た目でもお楽しみください」

 どうやらここは丁寧な接客をする店らしい。担当のギャルソンの子も若いが教育はしっかりされているようだ。ネームプレートには二ノ坂にのさかとある。あまり見ない苗字だなと思った。

 二ノ坂は一歩下がって丁寧に頭を下げてからテーブルを離れていった。
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