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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール
エンディング⑥ 4.
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「おーい。おふたりさん、ちょっと長くねぇ? ここは夢の国なんですけど」
聞き覚えのある声がした。これは岩野の声だ。
「どうせこんなことだろうと思ったよ」
紙屋の声もして、吉良も小田切も慌ててバッと身体を離す。
やばい。
言い訳が浮かばないくらいにやばい。
「なっ、お前ら場所取りは……」
小田切もめちゃくちゃ動揺している。それもそのはず、まさかこんなところを岩野と紙屋のふたりに見られることになるとは思いもしなかった。
食料買い出し係のくせに、買い出しを全然していないこともやばいが、小田切と抱き合ってたところを見られてしまったことのほうが何百倍もやばい。
「お前らの後をつけてたに決まってんじゃん」
あまり前のように岩野がとんでもないことを言うから吉良は青ざめた。
いつから、ふたりに見られていたのだろう……。
「そんなびっくりすんなよ。俺たちなんとなく勘づいてたから。小田切。よかったな」
紙屋はいつもの人懐っこい顔で笑顔を見せる。
「まぁ、順当にいったら俺らじゃなくて小田切になるよなぁ。でもさ、俺らだけじゃなくて吉良の親衛隊はすげぇことになってたから、俺は小田切とうまくいってくれて嬉しいよ。小田切、お前なら許す!」
岩野は「やったな」と小田切に親指を立ててグッドと示してきた。
「お前ら……」
小田切は安心したような、少し恥ずかしそうな複雑な表情だ。でも喜んでいることだけはわかる。
ふたりには祝福されたかったのかもしれない。
「いつから見てたんだよ」
小田切はベンチから立ち上がり、岩野と紙屋にくってかかる。
「いつからって、なぁ……? 紙屋」
「岩野、どうするよ?」
「おい! 正直に言え! ……嘘だろ、ちょっと待ってくれよ……吉良に夢中で全っ然、気が付かなかった。マジやべぇ……」
あの小田切が珍しく頭を抱えてしまった。でもその気持ちは痛いほどよくわかる。吉良もふたりにどこまで見られていたのかめちゃくちゃ気になっている。
まさか、手を繋いでいたところからすべて見られていたら……と思うと居た堪れない気持ちでいっぱいだ。
「気にすんなって! な、小田切っ」
岩野が小田切の肩を叩く。
「あー、いいもん見せてもらっちゃったなぁ」
紙屋が小田切をからかうようなことを言う。
小田切は「あーっ! もう!」と顔を手で覆い隠している。
「吉良は、どうしたい? ここから別行動がいい?」
紙屋が近づいてきて、そっと吉良に訊ねてきた。
「小田切とふたりきりがいいか?」
「へっ……?」
なんてことを言うんだと思ったが、紙屋は気を遣ってくれているのだろう。小田切とふたりがいいか、四人でこのまま一緒に行動するか、吉良の気持ちを確かめにきてくれたのだ。
「俺は、四人がいいけど……」
今日は四人で行こうと約束して、卒業前に遊びに来た。それなのにここでバラバラになるのはなんとなく寂しかった。でも紙屋たちはどう思うだろう。小田切と結ばれ、今までみたいには接してもらえなくなるのだろうか。
「さすが吉良だな。じゃあ四人で過ごそっか」
紙屋はニヤッと笑い、「腹減った。ピザ食わない?」と三人を誘う。
「おー、いいねいいね。吉良と小田切も行こうぜ」
岩野は紙屋と並んで歩き始めた。吉良もふたりのあとを追う。
「吉良」
小田切が吉良の隣に並び、耳元に顔を寄せてきた。
「あいつらに俺らが両思いだってこと秒でバレた。あり得なくねぇ?」
「あぁ、まさか見られてるとは思わなかった……」
小田切と抱き合ってるところを見られたのは確実だ。下手したらキスまで……と想像するだけでめちゃくちゃ恥ずかしくなる。
「でもこれで、やりやすくなったな」
小田切は遠慮なしに吉良のこめかみにキスをする。
「おいっ!」
「なんで? もうバレてんだからいいじゃん」
「ダメだって!」
吉良は小田切を睨みつけてやったのに、小田切は「怒った顔も可愛い」とまったく取り合ってくれない。
「吉良。俺たち付き合うってことでいいよな?」
「えっ?」
「だって両想いなんだから。吉良は俺の恋人つって思っていい?」
親衛隊サイトでは結ばれたが、小田切はそのあたりをはっきりとさせたいらしい。
「ま、まぁ……そうなれたら俺は嬉しいけど……」
小田切と付き合う——なんて素敵な響きなんだろうと思った。自分に特別な存在ができるなんて思いもしなかった。
「吉良、俺の恋人になってください」
小田切の言葉に吉良がうんと頷くと、小田切は「マジか」と笑顔になる。
「じゃあ吉良、恋人になるってことで、誓いのキスしよう」
「はっ? やめろよ、ダメだろ」
いやだからここはテーマパークで、今歩いているところで、そんな雰囲気じゃ全然なくて……。
「理由なんでもいいから今すぐキスしたい。……いい?」
「はぁっ?」
小田切がグイグイ迫ってくる。普段、吉良に指一本触れない男だったのに、恋人になった途端に甘すぎる。
言ってるそばから今にもキスしそうな角度と距離で迫ってくる。
「吉良。大好きだ。キスしていい?」
おい! 好きって言ったら何しても許されるって思ってんじゃないだろうなっ!?
——エンディング⑥ 小田切Ver. 完。
聞き覚えのある声がした。これは岩野の声だ。
「どうせこんなことだろうと思ったよ」
紙屋の声もして、吉良も小田切も慌ててバッと身体を離す。
やばい。
言い訳が浮かばないくらいにやばい。
「なっ、お前ら場所取りは……」
小田切もめちゃくちゃ動揺している。それもそのはず、まさかこんなところを岩野と紙屋のふたりに見られることになるとは思いもしなかった。
食料買い出し係のくせに、買い出しを全然していないこともやばいが、小田切と抱き合ってたところを見られてしまったことのほうが何百倍もやばい。
「お前らの後をつけてたに決まってんじゃん」
あまり前のように岩野がとんでもないことを言うから吉良は青ざめた。
いつから、ふたりに見られていたのだろう……。
「そんなびっくりすんなよ。俺たちなんとなく勘づいてたから。小田切。よかったな」
紙屋はいつもの人懐っこい顔で笑顔を見せる。
「まぁ、順当にいったら俺らじゃなくて小田切になるよなぁ。でもさ、俺らだけじゃなくて吉良の親衛隊はすげぇことになってたから、俺は小田切とうまくいってくれて嬉しいよ。小田切、お前なら許す!」
岩野は「やったな」と小田切に親指を立ててグッドと示してきた。
「お前ら……」
小田切は安心したような、少し恥ずかしそうな複雑な表情だ。でも喜んでいることだけはわかる。
ふたりには祝福されたかったのかもしれない。
「いつから見てたんだよ」
小田切はベンチから立ち上がり、岩野と紙屋にくってかかる。
「いつからって、なぁ……? 紙屋」
「岩野、どうするよ?」
「おい! 正直に言え! ……嘘だろ、ちょっと待ってくれよ……吉良に夢中で全っ然、気が付かなかった。マジやべぇ……」
あの小田切が珍しく頭を抱えてしまった。でもその気持ちは痛いほどよくわかる。吉良もふたりにどこまで見られていたのかめちゃくちゃ気になっている。
まさか、手を繋いでいたところからすべて見られていたら……と思うと居た堪れない気持ちでいっぱいだ。
「気にすんなって! な、小田切っ」
岩野が小田切の肩を叩く。
「あー、いいもん見せてもらっちゃったなぁ」
紙屋が小田切をからかうようなことを言う。
小田切は「あーっ! もう!」と顔を手で覆い隠している。
「吉良は、どうしたい? ここから別行動がいい?」
紙屋が近づいてきて、そっと吉良に訊ねてきた。
「小田切とふたりきりがいいか?」
「へっ……?」
なんてことを言うんだと思ったが、紙屋は気を遣ってくれているのだろう。小田切とふたりがいいか、四人でこのまま一緒に行動するか、吉良の気持ちを確かめにきてくれたのだ。
「俺は、四人がいいけど……」
今日は四人で行こうと約束して、卒業前に遊びに来た。それなのにここでバラバラになるのはなんとなく寂しかった。でも紙屋たちはどう思うだろう。小田切と結ばれ、今までみたいには接してもらえなくなるのだろうか。
「さすが吉良だな。じゃあ四人で過ごそっか」
紙屋はニヤッと笑い、「腹減った。ピザ食わない?」と三人を誘う。
「おー、いいねいいね。吉良と小田切も行こうぜ」
岩野は紙屋と並んで歩き始めた。吉良もふたりのあとを追う。
「吉良」
小田切が吉良の隣に並び、耳元に顔を寄せてきた。
「あいつらに俺らが両思いだってこと秒でバレた。あり得なくねぇ?」
「あぁ、まさか見られてるとは思わなかった……」
小田切と抱き合ってるところを見られたのは確実だ。下手したらキスまで……と想像するだけでめちゃくちゃ恥ずかしくなる。
「でもこれで、やりやすくなったな」
小田切は遠慮なしに吉良のこめかみにキスをする。
「おいっ!」
「なんで? もうバレてんだからいいじゃん」
「ダメだって!」
吉良は小田切を睨みつけてやったのに、小田切は「怒った顔も可愛い」とまったく取り合ってくれない。
「吉良。俺たち付き合うってことでいいよな?」
「えっ?」
「だって両想いなんだから。吉良は俺の恋人つって思っていい?」
親衛隊サイトでは結ばれたが、小田切はそのあたりをはっきりとさせたいらしい。
「ま、まぁ……そうなれたら俺は嬉しいけど……」
小田切と付き合う——なんて素敵な響きなんだろうと思った。自分に特別な存在ができるなんて思いもしなかった。
「吉良、俺の恋人になってください」
小田切の言葉に吉良がうんと頷くと、小田切は「マジか」と笑顔になる。
「じゃあ吉良、恋人になるってことで、誓いのキスしよう」
「はっ? やめろよ、ダメだろ」
いやだからここはテーマパークで、今歩いているところで、そんな雰囲気じゃ全然なくて……。
「理由なんでもいいから今すぐキスしたい。……いい?」
「はぁっ?」
小田切がグイグイ迫ってくる。普段、吉良に指一本触れない男だったのに、恋人になった途端に甘すぎる。
言ってるそばから今にもキスしそうな角度と距離で迫ってくる。
「吉良。大好きだ。キスしていい?」
おい! 好きって言ったら何しても許されるって思ってんじゃないだろうなっ!?
——エンディング⑥ 小田切Ver. 完。
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