親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

文字の大きさ
上 下
59 / 69
二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング⑥ 2.

しおりを挟む
 それから散々アトラクションで遊んで、パレードを観ようという話になった。
 ジャンケンで場所探し係と、食料買い出し係に分かれることになり、吉良と小田切は買い出し係になった。
 吉良は小田切とふたりで並んでパーク内を歩く。

「小田切、楽しんでる? あいつら変にテンション高いから疲れたんじゃないのか?」

 テーマパークに行こうと言い出したのは岩野だし、どのアトラクションに乗ってどう動くか計画を立てたのは紙屋だ。そこに小田切の意見なんて一切反映されていないことが気になっていた。

「ううん。楽しいよ。俺、普段から表情筋死んでるからかな。そんなにつまんなそうに見えた?」
「そんなことないだろ。小田切は嬉しいときは笑ってる。お前だって普通に怒ったり泣いたりするだろ?」

 小田切はクラスのみんなにもクールだと言われるが、そんなことはないとそばにいた吉良は知っている。
 なんとなく感じていることだが、小田切はいつも自分を抑えているように感じるのだ。

「あいつらのペースに付き合ってやってるんだろ? 文句も言わないで、俺ら三人で乗れってみんなの分のポップコーン買いに行っちゃうしさ、そんなのダメだろ、今日はみんなで楽しむんだ!」

 放っておくといつも小田切ばかりが荷物番だの、買い出しだの、自ら望んでそういうポジションになろうとする。吉良としては今日くらいは平等に楽しく過ごしてほしいという思いがあった。

「小田切、何がしたい? お前のやりたいに付き合うから。あいつらのやりたいことはほぼほぼ叶ったんだ。少しくらい小田切もワガママ言え」

 吉良は小田切にくってかかる。小田切は「ふーん」と冷めた反応を見せていたが、急にピタリと足を止めた。

「このまま吉良をさらってふたりで逃げたい」

「え……?」

 つまらない冗談を、と笑ってやろうとしたのに意外にも小田切が本気の顔をしていて吉良の動きが止まる。
 小田切は吉良の手に指を絡ませてきた。

「俺だってわかってる。でも卒業最後に吉良との思い出がほしい。少しだけ、少しの間でいから……」
「あっ、おいっ……!」

 小田切は吉良の手を引き、人混みをかき分けズンズン進んでいく。ネズミ耳のカチューシャが頭から落っこちそうになって、吉良は慌てて片手で押さえた。

「待てって!」

 なんとか小田切に追いついて早歩きの小田切をなだめる。

「慌てんな、小田切と思い出作りたいのは俺も一緒だ。俺は逃げないよ、だから手を離しても大丈夫だ」

 小田切の肩を叩いてやると、ようやく小田切は落ち着きを取り戻したようだ。いつもはこんなことをする奴じゃないのに、今日の小田切はやっぱり何かおかしい。

「……わかった。でも手は離さない。どうしても離したくない……」

 小田切は吉良の手に絡ませた指をぎゅっと固く握りしめてきた。
 いくら辺りは暗くなって来ているとはいえ、さすがに男ふたりで手を繋いでいるのは恥ずかしい。
 それに、妙にドキドキする。小田切の僅かな指の動きを感じて、それを意識すると心臓がうるさく高鳴ってきた。

「うん……」

 恥ずかしいけど、吉良もこのまま手を繋いでいたいと思った。
 理由はわからない。でもこのまま小田切と離れるのは嫌だと思った。


 小田切と手を繋いだまま無言で歩いていく。
 そういえば、運動会のときに黒田に吉良が絡まれて小田切が助けてくれたことがあった。そのあと力強く小田切は吉良の腕を引いた。あのとき初めて小田切に身体に触れられたことを思い出した。
 そんなことをぼんやり思い出していたら、小田切とのさまざまな思い出が吉良の頭の中によみがえってきた。

 数学で目も当てられないひどい点数を取って再テストになったとき、小田切は放課後に毎日吉良に付き合って根気強く勉強を教えてくれた。
 その教え方がとてもいい。「答えは違ってもここまで解法を導けたのはすごい」「計算速いな」などと誉めながらも丁寧につきっきりで教えてくれるのだ。
 
 他の奴らには塩対応のくせに、吉良が頼むと小田切は「吉良が言うならやってやる」と力を貸してくれた。
 学園祭で『他校の子に何人告白されるかチャレンジ』という、ふざけた企画があった。全然参加者が集まらなくて、企画倒れになりそうだったとき吉良が声をかけたら小田切は『参加してやるよ』と引き受けてくれた。
 そのまま小田切が優勝したのは後日談として。

 小田切は吉良のSPとあだ名がつくくらい、常にそばにいて守ってくれた。
 この高校は当たり前のように優秀な奴らばかりで、鈍臭い吉良は邪険にされてもおかしくない。でも小田切がいつも目を光らせていたから学校で嫌な目になど遭ったことがない。いつも何かトラブルが起きそうになると小田切が吉良の一歩前に出て、助けてくれるからだ。

 吉良はそれらの恩に対して何も返せない。小田切にしてあげられることなどなくて、小田切にとっては負担でしかないはずなのに、いつも静かに隣にいてくれる。

 そして今も。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

参加型ゲームの配信でキャリーをされた話

ほしふり
BL
新感覚ゲーム発売後、しばらくの時間がたった。 五感を使うフルダイブは発売当時から業界を賑わせていたが、そこから次々と多種多様のプラットフォームが開発されていった。 ユーザー数の増加に比例して盛り上がり続けて今に至る。 そして…ゲームの賑わいにより、多くの配信者もネット上に存在した。 3Dのバーチャルアバターで冒険をしたり、内輪のコミュニティを楽しんだり、時にはバーチャル空間のサーバーで番組をはじめたり、発達と進歩が目に見えて繁栄していた。 そんな華やかな世界の片隅で、俺も個人のバーチャル配信者としてゲーム実況に勤しんでいた。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

処理中です...