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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング⑤ 2.

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 夕方の西日に照らされながら、観客席にいたサッカー部メンバーと、ベンチ入りしていた生徒たちが戻ってくるのを会場の外で待っていたときだ。
 大きなカメラを肩に乗せたカメラマンと報道者らしき人が、こちらへ向かってくる。
 注目のサッカー部を取材して回っているのだろうか。


「すみませんっ! 上杉選手とどんな関係なんですかっ?!」

 上杉を追っかけていた記者が、急に吉良にマイクを向けてきた。

「高校の先輩なんですか?! MVP獲ったらどんな約束をしてたんですか?!」
「えっ……」

 たたみかけるように質問をされて、吉良はどうしたらいいのかわからない。今までの人生で、テレビカメラを向けられたことも初めてだし、もちろんマイクを向けられたこともない。

「サッカー部ではありませんよね?! 上杉選手は誰よりもあなたに会いたがっていたみたいですが、特別な関係なんですか?!」

 吉良が逃げようとしても記者はしつこくマイクを向けて追いかけてくる。上杉とはただの先輩後輩で、なんでもないのに。

「しつこくするのはやめてください」

 記者と吉良の間に突然割って入ってきたのは上杉だった。さっきまでは上杉はここにはいなかったのに、記者に問い詰められる吉良を見つけて他のベンチ入りメンバーよりも早く飛んできたようだ。

 上杉本人が出てきたことで、記者のマイクとカメラは上杉に向けられる。上杉はそれに動じることもなく、真っ直ぐに向き合った。

「俺のことに関して聞きたいことがあれば、俺に質問してください。答えられる限り、お答えしたいと思っています。だから先輩を困らせるようなことだけはしないでください」

 上杉はきっぱりと言いきり、ゆっくりと頭を下げた。
 上杉の丁寧な態度に記者のほうがたじろいでいる。

 それから上杉は逃げることもなく、記者に対して誠心誠意対応している。取材の最後のほうは記者も上杉も笑顔で、和やかな雰囲気になっていた。

 上杉の記者対応は完璧だ。あれでまだ十六歳。MVPインタビューのときも上杉の発言は自分をおごることもなく、ファンやチームに感謝の気持ちをしっかり伝える完璧なものだった。上杉の誠実な人柄が言葉の端々に垣間見えて、会場で聞いていた吉良も舌を巻いた。

 高校生にしてサッカーの腕前もプロ顔負けの凄さだが、精神的な面でも上杉は落ち着いている。
 そういえば上杉がチームメンバーをなじったり、責めたり、怒鳴ったりする姿など見たことがない。
 メンバーを励まし、鼓舞して、自ら先頭に立って敵陣に切り込んでいく。敵のマークを集めながらもそれをくぐり抜けてシュートを決め、点数をもぎ取ってくる。上杉は最強のフォワードだ。

 記者の対応を終え、サッカー部の集団に合流した上杉は皆にあたたかく迎えられた。

 上杉は宇佐美と肩を叩き合いながら「今年は優勝したから、来年はお前ら頼んだぞ!」などと笑い合っている。
 はたで見ていて上杉が部員たちからも慕われていることが伝わってくる。上杉は良き部長なのだろう。
 サッカー部の絆を見ていて、この中で唯一部員でない吉良は引け目を感じてきた。サッカー部の奴らがいい奴らばかりで「試合を一緒に観ましょう!」「吉良先輩が応援してくれれば上杉先輩は最高の力を発揮できます!」などと誘われて来たものの、場違いだったかもしれない。

「吉良先輩っ!」

 上杉が部員の輪を抜けて、吉良の隣にやってきた。

「先輩、この後時間ありますか? サッカー部で打ち上げしようって話になったんですが、先輩も一緒にどうですか? 吉良先輩ならみんな大歓迎です!」
「いや、俺は部外者だし遠慮しとくよ」

 サッカー部の集まりに、帰宅部の吉良の存在は邪魔になるだろう。それにちょっと気まずい。

「そうですか……じゃあ俺も打ち上げには行きません。吉良先輩を寮まで送ります」
「はぁ? 上杉、お前が主役だろ?!」

 部長でMVPの上杉が何を言いだすのか。上杉がいないと始まらないくらいの打ち上げなのに。

「いいえ、サッカーはチーム競技なので誰が主役なんてありません。それに部活の奴らは俺が一番何を優先するか知ってますから」

 上杉の最優先することは、サッカーだろうと思っていた。意味がわからなくて吉良が首をかしげると、上杉は「相変わらずですね」と笑った。

「とにかく吉良先輩を絶対にひとりにはさせません。四六時中、俺を先輩のそばに置いて欲しいくらいなんですから」

 上杉は唯一の部外者の吉良を気遣ってくれているのかもしれない。優等生の、あの上杉だ。四方八方への気配りは完璧なのだろう。
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