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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール
エンディング④ 2.
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鳴宮とふたり、席に座って顔を寄せ合う。
「どうしてここに……?」
小声で鳴宮に問うと、「歌ってるとき吉良を見つけたから」と同じく小声で返された。
「見えたのか?!」
信じられない。吉良がいたのはスタンド席だし事前に鳴宮は吉良が来ることを知る術はなかったはずだ。
それなのに八千人の中から見つけ出したのか……?!
「俺、目は良い方だからさ」
たしかに前も、体育館の後方に吉良がいたのに「吉良が見えた」と言っていた。とうてい信じられないが。
「いや、お前ヤバいだろ?! こんなところにいちゃ……!」
「わかってる。でもどうしても吉良に会いたかった」
鳴宮に会いたかったと言われて嬉しくなる。吉良もずっと鳴宮に会いたいと思っていたが、まさか鳴宮も同じ気持ちでいてくれてたとは思いもしなかった。
「鳴宮……」
「俺、高校の友達に会えんの、ひっさしぶりなんだ!」
「あ……そっか……」
友達と言われてショックを受けた。鳴宮がわざわざ会いに来てくれたのもあって、吉良は一瞬あわい期待してしまっていたが、そんなことあるわけないよなと思い直した。
「吉良。ついてきてっ」
鳴宮は立ち上がり、吉良の手首を掴んだ。
「えっ? おい!」
吉良は鳴宮に引っ張られるようにして、走らされる。
どこに行くのかわからないまま、鳴宮につ連れていかれる。鳴宮は会場の外を目指しているようだ。
「なるくんじゃない?!」
ファンの中のひとりが驚いて声をあげると、あたりがざわついた。
「鳴宮翔?!」
「ウソッ?! 鳴宮くん?!」
鳴宮がここにいることがバレた。今この会場にいるのは鳴宮のファンばかりだ。鳴宮が通る先、キャーキャー悲鳴があがる。
よくこんな無謀なことをと思うのに、鳴宮は人混みをかき分け進み、止まる様子はない。吉良の手首を掴む手も、痛いくらいに強い。離す気なんてないみたいだ。
騒ぎの中を鳴宮とふたりで駆け抜ける。会場の出口を抜け、鳴宮は混雑している駅とは反対方向へと走る。
「なっ、鳴宮っ……! ちょっと待ってくれ……」
鳴宮はすごい体力だ。ライブで散々歌って走ったくせに余裕でどこまでも駆けていく。吉良はさすがに疲れてきて鳴宮にストップをかけた。
「あっ! ごめん、吉良!」
やっと鳴宮が止まってくれた。ここならほぼ人気はなく、少し落ち着けそうだ。
ここは湾岸エリア。整然とした道路を外れて鳴宮とふたり、植え込みの陰になっているベンチに座った。
「お前、相変わらずだな……」
鳴宮はどこか行動がぶっ飛んでいるところがある。
今だってファンが大勢いるのを気にもかけずに飛び出していくし、こんなにガチでめちゃくちゃ走らされるとは思わなかった。
「そう? 俺にはわかんないな」
黒キャップとマスクを外し、微笑む鳴宮の姿を見てドキッとした。
鳴宮が妙に大人びて見えた。少し垢抜けて少年から大人になったみたいな感じだろうか。
鳴宮の歌も当然人気があるが、鳴宮はビジュアルがいいのでその人気に拍車がかかっている面もある。
そういえばネットで「最近鳴宮に色気が出てきた」という書き込みをみたことがある。久しぶりにみた鳴宮は、以前のような破天荒でやんちゃな雰囲気はなく、妙に色っぽく感じた。
「吉良は? 相変わらずモテモテなの?」
「はぁ?!」
「わかってるくせに。誰が親衛隊なのか俺が吉良にわざわざ教えてやったんだから。そうそうたるメンバーだったね」
「おい、鳴宮……」
「ねぇ。あれから吉良は誰を『選んだ』の?」
「お前、何言って——」
「当ててもいい?」
鳴宮はずいっと吉良に近づき、吉良の顔を覗き込んできた。
「……ああ。当ててみろよ」
いっそ鳴宮に言い当てて欲しい。吉良からは鳴宮に想いを伝えることはできないのだから。
吉良は何もできないが、鳴宮に伝われ伝われと念を送る。
「んー……」
鳴宮に間近で舐め回すような視線で見られてドキドキする。
鳴宮との距離は20センチもないかもしれない。こんな距離で見つめ合うのもだんだん恥ずかしくなってきて、吉良は視線を下に逸らした。
何も言わずに気持ちを伝えるなんて無理だ。
どうすれば、鳴宮にわかってもらえる……?
どうすれば、これからも鳴宮と会える……?
「吉良。わかった」
「え……」
吉良は恐る恐る視線を鳴宮に戻す。
「もし外れたら俺を殴って」
鳴宮が近づいてきたと思ったあとはもう、ほんの一瞬だった。
気がついたら、鳴宮に唇を奪われていた。だからすぐには何が起こったのか吉良は理解ができなかった。
ただ訳もわからず目が潤んできて、溢れ出した涙が吉良の頬を伝った。
「俺、間違えた……?」
鳴宮は不安気な表情で様子を伺っている。
「間違えたよね……これ……どうしよう……ごめん、もう会えないと思ってたのに、吉良を見つけてきっと俺、舞い上がっちゃったんだ。違う違う、それは言い訳だ。吉良、泣かないで……ああもう! なんてことを……」
鳴宮はオロオロしている。こんなに動揺している鳴宮なんて見たことがない。
「なる……」
言いかけたとき、鳴宮のツアーグッズを身につけた女子二人組の姿が吉良の目に入った。
「お前、これ被ってろよっ!」
鳴宮の手から黒キャップを奪い取り、バサッと鳴宮の頭に被せてやる。鳴宮の顔がほとんど隠れてしまうくらい目深にして。
「吉良……?」
鳴宮の綺麗な形の唇が吉良の名前を呼んだ。キャップのせいで鳴宮の顔は半分以上隠れて見えないのでその唇が余計にセクシーにみえた。
「どうしてここに……?」
小声で鳴宮に問うと、「歌ってるとき吉良を見つけたから」と同じく小声で返された。
「見えたのか?!」
信じられない。吉良がいたのはスタンド席だし事前に鳴宮は吉良が来ることを知る術はなかったはずだ。
それなのに八千人の中から見つけ出したのか……?!
「俺、目は良い方だからさ」
たしかに前も、体育館の後方に吉良がいたのに「吉良が見えた」と言っていた。とうてい信じられないが。
「いや、お前ヤバいだろ?! こんなところにいちゃ……!」
「わかってる。でもどうしても吉良に会いたかった」
鳴宮に会いたかったと言われて嬉しくなる。吉良もずっと鳴宮に会いたいと思っていたが、まさか鳴宮も同じ気持ちでいてくれてたとは思いもしなかった。
「鳴宮……」
「俺、高校の友達に会えんの、ひっさしぶりなんだ!」
「あ……そっか……」
友達と言われてショックを受けた。鳴宮がわざわざ会いに来てくれたのもあって、吉良は一瞬あわい期待してしまっていたが、そんなことあるわけないよなと思い直した。
「吉良。ついてきてっ」
鳴宮は立ち上がり、吉良の手首を掴んだ。
「えっ? おい!」
吉良は鳴宮に引っ張られるようにして、走らされる。
どこに行くのかわからないまま、鳴宮につ連れていかれる。鳴宮は会場の外を目指しているようだ。
「なるくんじゃない?!」
ファンの中のひとりが驚いて声をあげると、あたりがざわついた。
「鳴宮翔?!」
「ウソッ?! 鳴宮くん?!」
鳴宮がここにいることがバレた。今この会場にいるのは鳴宮のファンばかりだ。鳴宮が通る先、キャーキャー悲鳴があがる。
よくこんな無謀なことをと思うのに、鳴宮は人混みをかき分け進み、止まる様子はない。吉良の手首を掴む手も、痛いくらいに強い。離す気なんてないみたいだ。
騒ぎの中を鳴宮とふたりで駆け抜ける。会場の出口を抜け、鳴宮は混雑している駅とは反対方向へと走る。
「なっ、鳴宮っ……! ちょっと待ってくれ……」
鳴宮はすごい体力だ。ライブで散々歌って走ったくせに余裕でどこまでも駆けていく。吉良はさすがに疲れてきて鳴宮にストップをかけた。
「あっ! ごめん、吉良!」
やっと鳴宮が止まってくれた。ここならほぼ人気はなく、少し落ち着けそうだ。
ここは湾岸エリア。整然とした道路を外れて鳴宮とふたり、植え込みの陰になっているベンチに座った。
「お前、相変わらずだな……」
鳴宮はどこか行動がぶっ飛んでいるところがある。
今だってファンが大勢いるのを気にもかけずに飛び出していくし、こんなにガチでめちゃくちゃ走らされるとは思わなかった。
「そう? 俺にはわかんないな」
黒キャップとマスクを外し、微笑む鳴宮の姿を見てドキッとした。
鳴宮が妙に大人びて見えた。少し垢抜けて少年から大人になったみたいな感じだろうか。
鳴宮の歌も当然人気があるが、鳴宮はビジュアルがいいのでその人気に拍車がかかっている面もある。
そういえばネットで「最近鳴宮に色気が出てきた」という書き込みをみたことがある。久しぶりにみた鳴宮は、以前のような破天荒でやんちゃな雰囲気はなく、妙に色っぽく感じた。
「吉良は? 相変わらずモテモテなの?」
「はぁ?!」
「わかってるくせに。誰が親衛隊なのか俺が吉良にわざわざ教えてやったんだから。そうそうたるメンバーだったね」
「おい、鳴宮……」
「ねぇ。あれから吉良は誰を『選んだ』の?」
「お前、何言って——」
「当ててもいい?」
鳴宮はずいっと吉良に近づき、吉良の顔を覗き込んできた。
「……ああ。当ててみろよ」
いっそ鳴宮に言い当てて欲しい。吉良からは鳴宮に想いを伝えることはできないのだから。
吉良は何もできないが、鳴宮に伝われ伝われと念を送る。
「んー……」
鳴宮に間近で舐め回すような視線で見られてドキドキする。
鳴宮との距離は20センチもないかもしれない。こんな距離で見つめ合うのもだんだん恥ずかしくなってきて、吉良は視線を下に逸らした。
何も言わずに気持ちを伝えるなんて無理だ。
どうすれば、鳴宮にわかってもらえる……?
どうすれば、これからも鳴宮と会える……?
「吉良。わかった」
「え……」
吉良は恐る恐る視線を鳴宮に戻す。
「もし外れたら俺を殴って」
鳴宮が近づいてきたと思ったあとはもう、ほんの一瞬だった。
気がついたら、鳴宮に唇を奪われていた。だからすぐには何が起こったのか吉良は理解ができなかった。
ただ訳もわからず目が潤んできて、溢れ出した涙が吉良の頬を伝った。
「俺、間違えた……?」
鳴宮は不安気な表情で様子を伺っている。
「間違えたよね……これ……どうしよう……ごめん、もう会えないと思ってたのに、吉良を見つけてきっと俺、舞い上がっちゃったんだ。違う違う、それは言い訳だ。吉良、泣かないで……ああもう! なんてことを……」
鳴宮はオロオロしている。こんなに動揺している鳴宮なんて見たことがない。
「なる……」
言いかけたとき、鳴宮のツアーグッズを身につけた女子二人組の姿が吉良の目に入った。
「お前、これ被ってろよっ!」
鳴宮の手から黒キャップを奪い取り、バサッと鳴宮の頭に被せてやる。鳴宮の顔がほとんど隠れてしまうくらい目深にして。
「吉良……?」
鳴宮の綺麗な形の唇が吉良の名前を呼んだ。キャップのせいで鳴宮の顔は半分以上隠れて見えないのでその唇が余計にセクシーにみえた。
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