親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

文字の大きさ
上 下
51 / 69
二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング③ 2.

しおりを挟む
「いつからいたの?! 吉良、すごく冷えてるよ」

 佐々木は吉良の手を握り、ひどく慌てている。

「——入って。少しあったまってから帰ったほうがいい」

 佐々木は鍵を開け、吉良をマンションの室内に入れてくれた。

 佐々木の部屋は美術室みたいな部屋だった。
 書きかけの油絵や、デッサンに使うための模型やたくさんの画材道具。何かのコンクールで賞を取ったのだろうか。トロフィーも飾ってある。

 そしてかなり気になるのはキッチンに大量のワカメスープがストックしてある。それに茎ワカメ、乾燥カットワカメ、炊き込みワカメ……。
 ワカメ教の信者なのだろうか。



「ごめん、くつろぐ場所なんてないんだ」

 部屋の大部分は美術道具で、吉良が案内されたのは少し奥まったベッドが置かれている場所だった。
 ベッドに座ると「とりあえずこれにくるまって」とベッドの布団を身体にかけられた。
 さらには温かいフルーツティーを持ってきてくれた。お茶を飲んでいると、吉良の冷えた身体も少しずつ温まってきた。

「まさか吉良がうちまで来るとは思わなかったよ」

 佐々木は吉良の横に座り、吉良の行動に呆れているようだ。

「すみません……どうしても今日会いたかったから」

 吉良は持ってきた紙袋を佐々木に無理矢理押し付けた。

「これ。どうぞ」

 佐々木は紙袋の中身を見て、驚いている。今日、あれだけのチョコをもらったのだから、今さら驚くことなどないはずなのに。
 それか、たったこれだけのために家にまで押しかけた吉良に呆れたのかもしれない。

「先生は、今日たくさんもらったみたいですけど、俺のももらってください」

 この意味、佐々木に通じるだろうか。2月14日にわざわざチョコを渡すという、この意味を。

 佐々木は紙袋からチョコとメッセージカードを取り出し、「これを、俺に……?」と目をしばたかせている。

「はい。もしかして要らないですか?」
「そんなはずない。嬉しいよ、吉良」

 嬉しい、と言われてキュンと胸が痛くなった。
 よかった。ここまでして受け取ってもらえなかったら吉良はまともな精神状態ではいられなかったかもしれない。

「吉良。このメッセージカードに書いてある言葉は本気?」
「え? はい。そうですけど……」

 本気もなにも、メッセージカードに大したことは書いていない。吉良からのチョコだとわかればいいかな、程度の内容のはずだ。

「それで、わざわざ俺の部屋に?」
「はい。だって、どうしても今日がよかったから……」
「え……どうしても?!」

 なぜそんなに驚いているのだろう。まぁ、2月15日にチョコを渡しても別に悪くはないという意味なのだろうか。



「まいった。俺、卒業までは絶対に手は出さないって決めてたのに……」

 ん? 佐々木はいったい何の話をしているのだろう。

「吉良」

 佐々木はぎゅっと吉良の手を握り込んできた。指を絡ませて、親指で吉良の手の甲を撫でる。

「吉良の手。少しあったかくなってきたね」
「は、はい……」

 どうしよう。好きになる前はなんとも思わなかったのに、今はこれだけで妙に佐々木を意識してしまう。

「吉良。俺が暴走したら止めてくれる?」
「暴走? 何の話ですか?」

 さっきから佐々木の話の意図がまったく見えてこない。

「生徒にこんな邪な気持ちになるなんて、いけないことだとわかっているんだ。だからずっと吉良とは一定の距離感を持って接しようと決めてたのに」

 佐々木はぎゅっと吉良の手を握る。

「ある日、俺の理性が壊れるような通知が届いたんだ」
「通知……?」
「親衛隊サイトから、信じられない通知だよ。吉良が、俺の親衛隊だって。相思相愛だって、そんなこと絶対に起こり得ないはずだったんだ。吉良が卒業するのを指を咥えて眺めているだけだとずっと思っていたんだ」

 吉良が思わず佐々木を見上げると、佐々木も吉良を振り返った。
 佐々木の意味深な視線が吉良に向けられている。



「吉良。今日あったことは、ふたりだけの秘密にして」

 佐々木は吉良のうなじに手を当て、吉良の唇にキスをした。

 こういうことをするのは初めてだ。すごくドキドキする。

「せ、先生……んっ……」

 佐々木の唇で口を塞がれ、声がくぐもった。今度は長いキスだ。

「吉良、口開けて」
 
 佐々木の指が吉良の唇に触れ、そのまま吉良の口をこじ開けてくる。半開きになった口に佐々木は唇を重ねて熱い舌を這わせていた。

「んっ……せんせ、待って……」

 これは大人のキスだ。頭がじんとして、変な気持ちになってきて、危険な麻薬みたいな感じだ。

「もう待てない。ずっと抑えてたのに、吉良のほうから誘われたら我慢できない」
「あっ……」

 やばい。気持ちよくなってきた。

「吉良、これから先生がすることはよくないことだから、終わったら全部忘れて。そして今日のこと、誰にも話しちゃダメだよ。バレたら俺、学校をクビになる」

 ベッドに押し倒され、上から佐々木が覆いかぶさってきた。
 これから、『よくないこと』を吉良にするつもりなのだろうか。

「卒業まで待つつもりだったんだ。でも、通知のせいで両想いって知ってからは、吉良を見るだけでムラムラして仕方がなくて、それで、なるべく吉良に会わないようにした。準備室にふたりきりなんてなったら、きっと俺は吉良に何もせずにいられないと思ったから」
「先生、だから俺を避けてたんですか……?」

 両想いなのに佐々木が冷たい態度をとったのは、吉良に手を出さないためだったのか。

「そうだよ。でもわざわざ俺の部屋まできて、吉良に『食べて欲しい』なんて言われたら我慢できるはずがない」

 ん?
 食べて欲しいとはどういう意味だ……?

 吉良が首をかしげると、佐々木は「だって」と言葉を続けた。

「チョコのメッセージ。『食べてください 吉良』って書いてあった」
「えっ?! あの、それはチョコをどうぞって意味で……」

 チョコ以外にいったい何を食べる気なんだ……?! 他に食べ物ないだろ!

「え? 吉良はチョコと一緒に俺に食べられたいの?」
「へっ?」

 いやいや、食べられに来たわけじゃなくて、ただバレンタインにチョコを渡しにきただけで……。

「吉良の冷えた身体。俺が温めてあげるから。大丈夫。すぐに汗をかくくらいに気持ちよくなれるよ」
「な、なんのことですか……」

 やばい。佐々木の目がやばい。

「吉良は今、俺の部屋のベッドにいる。これで理性を保てと言われても無理だ。俺、さっきから下半身やばいから」
「先生っ、ちょ、ちょっとだけ誤解が……っ!」

 佐々木は吉良の服に手を入れ、身体を弄ってくる。

「大丈夫だよ、吉良。優しくするから」
「あぁっ……! 先生、そこはだめ……っ!」

 吉良が抵抗しても、佐々木の手は止まらない。

「先生っ、暴走してるっ、ストップ、ストップ!」

 さっき暴走したら止めろと言われていたから、吉良は必死で叫ぶが、佐々木は一向に行為をやめない。やめるどころか行為がエスカレートしている。

 これ、ダメだ。溺れるしかない……。




——エンディング③  佐々木総一郎Ver. 完。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

君の恋人

risashy
BL
朝賀千尋(あさか ちひろ)は一番の親友である茅野怜(かやの れい)に片思いをしていた。 伝えるつもりもなかった気持ちを思い余って告げてしまった朝賀。 もう終わりだ、友達でさえいられない、と思っていたのに、茅野は「付き合おう」と答えてくれて——。 不器用な二人がすれ違いながら心を通わせていくお話。

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

処理中です...