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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング③ 1.

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『あなたは佐々木総一郎さんの親衛隊に加入しました』

 吉良はスマホの画面で、親衛隊サイトを何度も確認する。
 承認ボタンも押した。迅から教えてもらったルールだと、これで佐々木にも通知が届いているはずだ。だって吉良のほうにはお互いがお互いの親衛隊であることが通知されているのだから。

 それなのに佐々木からのモーションは一切ない。廊下ですれ違っても普段どおり。吉良のことは一介の生徒としか見ていない様子だ。
 今は二月。三年生は授業はほぼ無いに等しい。あんなに授業の手伝いをさせられていたのに、美術の授業がないから、吉良は佐々木から呼ばれることもなくなった。


 ——両想いじゃないのかな……。

 佐々木の態度を見ていると両想いだなんて思えない。吉良の一方的な片想いなのではないか、と思えてくる。


 
 今日も廊下ですれ違い、挨拶をしても「おはよ」と軽くあしらわれただけ。
 その飄々とした、あまりの態度に悔しくなって、吉良は佐々木の腕を掴んで引き止めた。

「何? 吉良、どうしたの?」
「先生。話がしたい」
「いいよ、どうぞ」

 ここは昼休みの廊下だ。たくさんの生徒が通りかかり、とてもじゃないが混みいった話はできない。

「あの……えっと……」

 吉良はどう切り出そうか戸惑った。

「吉良、急ぎでないならまた後でいい?」
「えっ……?」
「俺ね、次の授業の準備あるから。吉良は三年なんだから自習か。本命の受験日はまだ? 受験勉強、頑張って」

 言いたいことだけ言って、佐々木はさっさといなくなってしまった。

 ひどい。ひどすぎる。
 忙しいとはいえ、もう少し丁寧に対応してくれてもいいんじゃないのか?!

 こんなの両想いじゃない。いくら親衛隊サイトが認めたとしても、佐々木が吉良の親衛隊などとはとても信じられない。




 2月14日。今日はバレンタインデーだ。世間一般に、意中の相手にチョコレートを渡してあわよくば告白までしてしまう日。
 この高校は男子校なので、男が想いを寄せた男にチョコレートを渡すことは珍しくない。告白はできなくても精一杯のアピールになるためだ。
 それを知って吉良も密かにチョコレートを用意して、カバンの中に忍ばせてある。
 これを佐々木に渡して、反応を伺おうと考えたのだ。


 美術準備室の前まで来て、吉良は戦々恐々とする。美術準備室の前には生徒が列をなしている。佐々木にチョコレートを渡す列、ということなのだろうか。

 あんな列に並ぶなんて恥ずかしすぎる。道ゆく人に佐々木が好きだと言っているようなものだ。恋愛の意味でない生徒もいるかもしれないが、さすがにバレンタインにチョコを持って並ぶのはちょっと……。




 ——結局渡せずじまいだったな。

 吉良は寮の部屋で、参考書を広げている。
 もう二時間も同じページのままだ。
 勉強をしようと思うのに、佐々木のことが気になって集中できない。

 誰も好きになんてならなければよかった。
 こんな大切な受験期に、恋愛にかまけている場合じゃないとわかっている。
 でも、気になって気になって気になって仕方がない。


 参考書の横には、渡すはずだった紙袋入りのチョコの箱と小さなメッセージカードが寂しそうに置いてある。

 ——このままじゃ、やっぱりダメだ。

 吉良は立ち上がり、紙袋を持って走り出す。

 寮を飛び出して、向かう先は学校だ。この時間ならまだ佐々木は学校にいるかもしれない。


 勢い余って飛び出したのに、職員室で佐々木はもう帰ったと言われてしまった。
 こうなったら、佐々木の家に突撃するしかない。
 バレンタインは、2月14日に渡すから意味がある。明日になったら、想いは伝わらないかもしれない。

 佐々木の家の場所なんて知らない。佐々木の弟の賢治と三玖から聞き出して佐々木の住むマンションへと向かう。

 ついにマンションまで来て、インターフォンを鳴らすが、なんの反応もない。佐々木はどうやらまだ帰っていないみたいだ。

 仕方がないのでドアの前にしゃがみ込んで佐々木の帰りを待つ。
 
 二十時、二十一時と刻々と時間が過ぎていく。
 このマンションのつくりは外廊下だ。コートを着ていても二月の夜はとても冷える。寒くて、手足がジンジンしてきた。それでもあと少しで帰ってくるかもしれないと思うとこの場を動く気持ちにはならない。
 待ちくたびれて吉良がウトウトしかけたときだった。

「吉良。こんなところにいたんだ……」
「先生、おかえり……」

 佐々木だ。やっと佐々木に会えた。
 佐々木はスーツに黒のカシミヤのコート姿で、手に持っている大きな紙袋の中にはチョコらしきものがたくさん入っている。
 きっと、今日一日佐々木を慕う生徒からもらったチョコなのだろう。
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