50 / 69
二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール
エンディング③ 1.
しおりを挟む
『あなたは佐々木総一郎さんの親衛隊に加入しました』
吉良はスマホの画面で、親衛隊サイトを何度も確認する。
承認ボタンも押した。迅から教えてもらったルールだと、これで佐々木にも通知が届いているはずだ。だって吉良のほうにはお互いがお互いの親衛隊であることが通知されているのだから。
それなのに佐々木からのモーションは一切ない。廊下ですれ違っても普段どおり。吉良のことは一介の生徒としか見ていない様子だ。
今は二月。三年生は授業はほぼ無いに等しい。あんなに授業の手伝いをさせられていたのに、美術の授業がないから、吉良は佐々木から呼ばれることもなくなった。
——両想いじゃないのかな……。
佐々木の態度を見ていると両想いだなんて思えない。吉良の一方的な片想いなのではないか、と思えてくる。
今日も廊下ですれ違い、挨拶をしても「おはよ」と軽くあしらわれただけ。
その飄々とした、あまりの態度に悔しくなって、吉良は佐々木の腕を掴んで引き止めた。
「何? 吉良、どうしたの?」
「先生。話がしたい」
「いいよ、どうぞ」
ここは昼休みの廊下だ。たくさんの生徒が通りかかり、とてもじゃないが混みいった話はできない。
「あの……えっと……」
吉良はどう切り出そうか戸惑った。
「吉良、急ぎでないならまた後でいい?」
「えっ……?」
「俺ね、次の授業の準備あるから。吉良は三年なんだから自習か。本命の受験日はまだ? 受験勉強、頑張って」
言いたいことだけ言って、佐々木はさっさといなくなってしまった。
ひどい。ひどすぎる。
忙しいとはいえ、もう少し丁寧に対応してくれてもいいんじゃないのか?!
こんなの両想いじゃない。いくら親衛隊サイトが認めたとしても、佐々木が吉良の親衛隊などとはとても信じられない。
2月14日。今日はバレンタインデーだ。世間一般に、意中の相手にチョコレートを渡してあわよくば告白までしてしまう日。
この高校は男子校なので、男が想いを寄せた男にチョコレートを渡すことは珍しくない。告白はできなくても精一杯のアピールになるためだ。
それを知って吉良も密かにチョコレートを用意して、カバンの中に忍ばせてある。
これを佐々木に渡して、反応を伺おうと考えたのだ。
美術準備室の前まで来て、吉良は戦々恐々とする。美術準備室の前には生徒が列をなしている。佐々木にチョコレートを渡す列、ということなのだろうか。
あんな列に並ぶなんて恥ずかしすぎる。道ゆく人に佐々木が好きだと言っているようなものだ。恋愛の意味でない生徒もいるかもしれないが、さすがにバレンタインにチョコを持って並ぶのはちょっと……。
——結局渡せずじまいだったな。
吉良は寮の部屋で、参考書を広げている。
もう二時間も同じページのままだ。
勉強をしようと思うのに、佐々木のことが気になって集中できない。
誰も好きになんてならなければよかった。
こんな大切な受験期に、恋愛にかまけている場合じゃないとわかっている。
でも、気になって気になって気になって仕方がない。
参考書の横には、渡すはずだった紙袋入りのチョコの箱と小さなメッセージカードが寂しそうに置いてある。
——このままじゃ、やっぱりダメだ。
吉良は立ち上がり、紙袋を持って走り出す。
寮を飛び出して、向かう先は学校だ。この時間ならまだ佐々木は学校にいるかもしれない。
勢い余って飛び出したのに、職員室で佐々木はもう帰ったと言われてしまった。
こうなったら、佐々木の家に突撃するしかない。
バレンタインは、2月14日に渡すから意味がある。明日になったら、想いは伝わらないかもしれない。
佐々木の家の場所なんて知らない。佐々木の弟の賢治と三玖から聞き出して佐々木の住むマンションへと向かう。
ついにマンションまで来て、インターフォンを鳴らすが、なんの反応もない。佐々木はどうやらまだ帰っていないみたいだ。
仕方がないのでドアの前にしゃがみ込んで佐々木の帰りを待つ。
二十時、二十一時と刻々と時間が過ぎていく。
このマンションのつくりは外廊下だ。コートを着ていても二月の夜はとても冷える。寒くて、手足がジンジンしてきた。それでもあと少しで帰ってくるかもしれないと思うとこの場を動く気持ちにはならない。
待ちくたびれて吉良がウトウトしかけたときだった。
「吉良。こんなところにいたんだ……」
「先生、おかえり……」
佐々木だ。やっと佐々木に会えた。
佐々木はスーツに黒のカシミヤのコート姿で、手に持っている大きな紙袋の中にはチョコらしきものがたくさん入っている。
きっと、今日一日佐々木を慕う生徒からもらったチョコなのだろう。
吉良はスマホの画面で、親衛隊サイトを何度も確認する。
承認ボタンも押した。迅から教えてもらったルールだと、これで佐々木にも通知が届いているはずだ。だって吉良のほうにはお互いがお互いの親衛隊であることが通知されているのだから。
それなのに佐々木からのモーションは一切ない。廊下ですれ違っても普段どおり。吉良のことは一介の生徒としか見ていない様子だ。
今は二月。三年生は授業はほぼ無いに等しい。あんなに授業の手伝いをさせられていたのに、美術の授業がないから、吉良は佐々木から呼ばれることもなくなった。
——両想いじゃないのかな……。
佐々木の態度を見ていると両想いだなんて思えない。吉良の一方的な片想いなのではないか、と思えてくる。
今日も廊下ですれ違い、挨拶をしても「おはよ」と軽くあしらわれただけ。
その飄々とした、あまりの態度に悔しくなって、吉良は佐々木の腕を掴んで引き止めた。
「何? 吉良、どうしたの?」
「先生。話がしたい」
「いいよ、どうぞ」
ここは昼休みの廊下だ。たくさんの生徒が通りかかり、とてもじゃないが混みいった話はできない。
「あの……えっと……」
吉良はどう切り出そうか戸惑った。
「吉良、急ぎでないならまた後でいい?」
「えっ……?」
「俺ね、次の授業の準備あるから。吉良は三年なんだから自習か。本命の受験日はまだ? 受験勉強、頑張って」
言いたいことだけ言って、佐々木はさっさといなくなってしまった。
ひどい。ひどすぎる。
忙しいとはいえ、もう少し丁寧に対応してくれてもいいんじゃないのか?!
こんなの両想いじゃない。いくら親衛隊サイトが認めたとしても、佐々木が吉良の親衛隊などとはとても信じられない。
2月14日。今日はバレンタインデーだ。世間一般に、意中の相手にチョコレートを渡してあわよくば告白までしてしまう日。
この高校は男子校なので、男が想いを寄せた男にチョコレートを渡すことは珍しくない。告白はできなくても精一杯のアピールになるためだ。
それを知って吉良も密かにチョコレートを用意して、カバンの中に忍ばせてある。
これを佐々木に渡して、反応を伺おうと考えたのだ。
美術準備室の前まで来て、吉良は戦々恐々とする。美術準備室の前には生徒が列をなしている。佐々木にチョコレートを渡す列、ということなのだろうか。
あんな列に並ぶなんて恥ずかしすぎる。道ゆく人に佐々木が好きだと言っているようなものだ。恋愛の意味でない生徒もいるかもしれないが、さすがにバレンタインにチョコを持って並ぶのはちょっと……。
——結局渡せずじまいだったな。
吉良は寮の部屋で、参考書を広げている。
もう二時間も同じページのままだ。
勉強をしようと思うのに、佐々木のことが気になって集中できない。
誰も好きになんてならなければよかった。
こんな大切な受験期に、恋愛にかまけている場合じゃないとわかっている。
でも、気になって気になって気になって仕方がない。
参考書の横には、渡すはずだった紙袋入りのチョコの箱と小さなメッセージカードが寂しそうに置いてある。
——このままじゃ、やっぱりダメだ。
吉良は立ち上がり、紙袋を持って走り出す。
寮を飛び出して、向かう先は学校だ。この時間ならまだ佐々木は学校にいるかもしれない。
勢い余って飛び出したのに、職員室で佐々木はもう帰ったと言われてしまった。
こうなったら、佐々木の家に突撃するしかない。
バレンタインは、2月14日に渡すから意味がある。明日になったら、想いは伝わらないかもしれない。
佐々木の家の場所なんて知らない。佐々木の弟の賢治と三玖から聞き出して佐々木の住むマンションへと向かう。
ついにマンションまで来て、インターフォンを鳴らすが、なんの反応もない。佐々木はどうやらまだ帰っていないみたいだ。
仕方がないのでドアの前にしゃがみ込んで佐々木の帰りを待つ。
二十時、二十一時と刻々と時間が過ぎていく。
このマンションのつくりは外廊下だ。コートを着ていても二月の夜はとても冷える。寒くて、手足がジンジンしてきた。それでもあと少しで帰ってくるかもしれないと思うとこの場を動く気持ちにはならない。
待ちくたびれて吉良がウトウトしかけたときだった。
「吉良。こんなところにいたんだ……」
「先生、おかえり……」
佐々木だ。やっと佐々木に会えた。
佐々木はスーツに黒のカシミヤのコート姿で、手に持っている大きな紙袋の中にはチョコらしきものがたくさん入っている。
きっと、今日一日佐々木を慕う生徒からもらったチョコなのだろう。
23
お気に入りに追加
829
あなたにおすすめの小説
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。
前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果
はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる