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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール
エンディング② 1.
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「この前吉良と一緒に行ったお店をインスタで紹介したら俺のファンの間で軽く聖地みたいになってんだって。やばくね? 結局一回しか行ってない。また吉良を連れて行きたかったのに半年前から予約必須の店になっちゃったんだよ」
「そうなのか?! すごいな川上は」
川上の影響力はすごい。SNSで川上が発信したものはそれがトレンドになっていくくらいだ。
この前連れて行かれた店は、座席数の少ない小さなカフェだったから、客が殺到すると対応しきれなくなって、予約制にせざるを得なかったのかもしれない。
「だから次は違う店に行こう。あのね、フルーツ爆盛りなんだけど見た目がすっごい可愛いハイブリッドスイーツがあるんだよ。店も元々結婚式? とかやってるとこのカフェだから綺麗だし、アフタヌーンティーとかやってんの。吉良、俺と一緒に行ってくれよ」
「へぇ……いいな」
フルーツ好きとしては興味がある。でもこの前川上と遊んだとき、全部川上に奢ってもらって、服までプレゼントされてしまったことが気になっている。
「いくら? 高そうだよな」
「いや、ランチとスイーツで五千円くらいだったから大したことないよ」
「は?! ランチで五千円……」
「吉良は財布も持たずに俺の隣にいてくれればそれでいいから。俺、こう見えても結構稼いでる」
そうだった。川上は実家も金持ちだが、川上本人もモデル業で稼いでいるのだろう。
「そうだ。こう考えることにしよう。俺はインスタに写真をあげるノルマのために、この店に行かなきゃいけないんだよ。ひとりで行くのもアレだから吉良を無理矢理誘いたい。吉良は俺の仕事の手伝いをするんだから、これはバイト。どう? 必要経費は俺がすべて払うし、なんならバイト代も払おうか?」
「バイトって……」
川上のインスタ写真のため、という理由にして川上は吉良に気を遣わせないようにしているのだろう。川上は本当に優しい奴だ。
「だから行こう。吉良はいつ空いてる? 日曜日とかは?」
「あー、一日くらいなら」
受験勉強はあるが、少し羽目を外すくらいならきっと大丈夫だ。
「じゃあ決まり! 予約取れたらまた吉良に言うよ」
「おう。ありがとう」
「この前もそうだったけど、当日までは周りには内緒にしておいて欲しい。どんな妨害がくるかわからない。卒業間近でみんなピリピリしてるから」
「あ、あぁ……」
なんだ? 卒業前なのに浮かれて遊びに行く話をするなってことか……?
「やばい。楯山が戻ってきたっ、じゃあな、吉良!」
川上は爽やかな笑顔で吉良の部屋から立ち去っていった。
◆◆◆
川上と出かける約束の日だ。
川上の私服はめちゃくちゃかっこいい。スタイルがいいのだから何を着ても似合うのだろうが、惚れ惚れするくらいにいい。
そしてさっきから吉良は、川上セレクトの服を着させられ、髪型まで川上に整えられている。
吉良は鏡の中の自分を見て驚いた。まるで別人のようだ。服装や髪型ひとつでここまで変われるのかと、川上のセンスの良さに舌を巻いた。
「吉良、このコート羽織って」
川上は、自分が着ているものとまったく同じコートを吉良に羽織らせる。
「吉良が着るとおっきいんだな。ロングコートみたいだ」
「そうだよ、当たり前だ……」
川上との身長差は15センチはあるだろうか。川上が着ると腰の辺りまでの長さなのに、吉良が着るとボテっとした印象だ。しかも袖も長すぎる。腕の長さが川上とは違うから。
「可愛い。オーバーサイズで行こう、吉良」
「えっ?!」
「大丈夫。似合ってるから。萌え袖だけ少し折っておこうか」
川上は袖の長さを変えたり、ボタンの留め方はこうしてみて、などと上手く着こなせるやり方を教えてくれた。
「待って、まじで可愛いっ。なにこの『俺のもの』感。半端ねぇ破壊力だな」
川上は何を言っているんだよ。自分で着せておいて……。
「吉良行こう。高校最後の思い出作りに」
川上は最高に爽やかな笑顔を吉良に向けてきた。
——こいつと一緒に並んで歩くって、キツイな……。
もはや人種が違う。川上のビジュアルは何もかもが完璧だ。みんなが川上を振り返り、中には「ファンです」と声をかけてくる人もいる。その隣にいるのはちょっと……。
「吉良。どうしたの?」
「いや、別に……」
まさか川上本人に『お前の隣にいると気が引ける』とは言えずに吉良は黙る。
「なんで吉良は自分の魅力に気がつかないの?」
川上は足を止め、吉良の顔に自身の顔を寄せてきた。その距離が、ちょっと近い……!
「こんなに可愛いのに。自覚ないところがまた可愛いんだけどね。でも、時々この気持ちを徹底的にわからせてやりたくなる」
「へっ?」
川上の声は低い。しかもさらに吉良に迫ってくる。
川上! 近いっ、近すぎるって!
「ごめん、ごめんっ、なんでもないよ、そんな自信ない顔して歩かないで。吉良はじゅうぶん素敵で、魅力的だって言いたかっただけ!」
川上は吉良の手を取った。そしてその手を握り込んでくる。
「ちょっ……川上っ!」
お前、公衆の面前で何を……! しかも表参道はお前のメインフィールドだろうが!
「嫌だ。今日くらい恋人気分を味わいたい」
川上はしっかりと手を握り離してくれそうにない。
こ、恋人って……。
「…………っ!」
川上は繋いだ手の指の間に、指を絡ませてきた。なんでこんなに仲良し過ぎる手の繋ぎかたをするんだよ……。
「手を繋ぐの、ちょっと恥ずかしい?」
「ちょっとどころじゃなくて……かなり……」
こういうのは男女がするものだ。男男でこんなんしてる奴見たことないぞ!
「可愛い。吉良。いちいち俺のツボなんだよ、吉良は。やっぱり吉良がいい」
結局、川上は店に着くまで吉良の手を離してはくれなかった。
「そうなのか?! すごいな川上は」
川上の影響力はすごい。SNSで川上が発信したものはそれがトレンドになっていくくらいだ。
この前連れて行かれた店は、座席数の少ない小さなカフェだったから、客が殺到すると対応しきれなくなって、予約制にせざるを得なかったのかもしれない。
「だから次は違う店に行こう。あのね、フルーツ爆盛りなんだけど見た目がすっごい可愛いハイブリッドスイーツがあるんだよ。店も元々結婚式? とかやってるとこのカフェだから綺麗だし、アフタヌーンティーとかやってんの。吉良、俺と一緒に行ってくれよ」
「へぇ……いいな」
フルーツ好きとしては興味がある。でもこの前川上と遊んだとき、全部川上に奢ってもらって、服までプレゼントされてしまったことが気になっている。
「いくら? 高そうだよな」
「いや、ランチとスイーツで五千円くらいだったから大したことないよ」
「は?! ランチで五千円……」
「吉良は財布も持たずに俺の隣にいてくれればそれでいいから。俺、こう見えても結構稼いでる」
そうだった。川上は実家も金持ちだが、川上本人もモデル業で稼いでいるのだろう。
「そうだ。こう考えることにしよう。俺はインスタに写真をあげるノルマのために、この店に行かなきゃいけないんだよ。ひとりで行くのもアレだから吉良を無理矢理誘いたい。吉良は俺の仕事の手伝いをするんだから、これはバイト。どう? 必要経費は俺がすべて払うし、なんならバイト代も払おうか?」
「バイトって……」
川上のインスタ写真のため、という理由にして川上は吉良に気を遣わせないようにしているのだろう。川上は本当に優しい奴だ。
「だから行こう。吉良はいつ空いてる? 日曜日とかは?」
「あー、一日くらいなら」
受験勉強はあるが、少し羽目を外すくらいならきっと大丈夫だ。
「じゃあ決まり! 予約取れたらまた吉良に言うよ」
「おう。ありがとう」
「この前もそうだったけど、当日までは周りには内緒にしておいて欲しい。どんな妨害がくるかわからない。卒業間近でみんなピリピリしてるから」
「あ、あぁ……」
なんだ? 卒業前なのに浮かれて遊びに行く話をするなってことか……?
「やばい。楯山が戻ってきたっ、じゃあな、吉良!」
川上は爽やかな笑顔で吉良の部屋から立ち去っていった。
◆◆◆
川上と出かける約束の日だ。
川上の私服はめちゃくちゃかっこいい。スタイルがいいのだから何を着ても似合うのだろうが、惚れ惚れするくらいにいい。
そしてさっきから吉良は、川上セレクトの服を着させられ、髪型まで川上に整えられている。
吉良は鏡の中の自分を見て驚いた。まるで別人のようだ。服装や髪型ひとつでここまで変われるのかと、川上のセンスの良さに舌を巻いた。
「吉良、このコート羽織って」
川上は、自分が着ているものとまったく同じコートを吉良に羽織らせる。
「吉良が着るとおっきいんだな。ロングコートみたいだ」
「そうだよ、当たり前だ……」
川上との身長差は15センチはあるだろうか。川上が着ると腰の辺りまでの長さなのに、吉良が着るとボテっとした印象だ。しかも袖も長すぎる。腕の長さが川上とは違うから。
「可愛い。オーバーサイズで行こう、吉良」
「えっ?!」
「大丈夫。似合ってるから。萌え袖だけ少し折っておこうか」
川上は袖の長さを変えたり、ボタンの留め方はこうしてみて、などと上手く着こなせるやり方を教えてくれた。
「待って、まじで可愛いっ。なにこの『俺のもの』感。半端ねぇ破壊力だな」
川上は何を言っているんだよ。自分で着せておいて……。
「吉良行こう。高校最後の思い出作りに」
川上は最高に爽やかな笑顔を吉良に向けてきた。
——こいつと一緒に並んで歩くって、キツイな……。
もはや人種が違う。川上のビジュアルは何もかもが完璧だ。みんなが川上を振り返り、中には「ファンです」と声をかけてくる人もいる。その隣にいるのはちょっと……。
「吉良。どうしたの?」
「いや、別に……」
まさか川上本人に『お前の隣にいると気が引ける』とは言えずに吉良は黙る。
「なんで吉良は自分の魅力に気がつかないの?」
川上は足を止め、吉良の顔に自身の顔を寄せてきた。その距離が、ちょっと近い……!
「こんなに可愛いのに。自覚ないところがまた可愛いんだけどね。でも、時々この気持ちを徹底的にわからせてやりたくなる」
「へっ?」
川上の声は低い。しかもさらに吉良に迫ってくる。
川上! 近いっ、近すぎるって!
「ごめん、ごめんっ、なんでもないよ、そんな自信ない顔して歩かないで。吉良はじゅうぶん素敵で、魅力的だって言いたかっただけ!」
川上は吉良の手を取った。そしてその手を握り込んでくる。
「ちょっ……川上っ!」
お前、公衆の面前で何を……! しかも表参道はお前のメインフィールドだろうが!
「嫌だ。今日くらい恋人気分を味わいたい」
川上はしっかりと手を握り離してくれそうにない。
こ、恋人って……。
「…………っ!」
川上は繋いだ手の指の間に、指を絡ませてきた。なんでこんなに仲良し過ぎる手の繋ぎかたをするんだよ……。
「手を繋ぐの、ちょっと恥ずかしい?」
「ちょっとどころじゃなくて……かなり……」
こういうのは男女がするものだ。男男でこんなんしてる奴見たことないぞ!
「可愛い。吉良。いちいち俺のツボなんだよ、吉良は。やっぱり吉良がいい」
結局、川上は店に着くまで吉良の手を離してはくれなかった。
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