親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

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二月・三月 親衛隊は承認していれば『推し』に選ばれたとき通知がくるルール

エンディング① 1.

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「おやすみ。吉良」
「ああ。おやすみ」

 吉良と楯山。暗闇の中、各々寮の部屋のベッドに入り、いつもどおり一日の最後の言葉を交わす。


 もう二月も終わりに差しかかっている。卒業式は三月一日。もうすぐ寮から出て行かなければならない。

 楯山と過ごしたこの部屋での三年間。同室者と気が合わずにぶつかり合う話だって聞くのに、自分は最高の同室者に恵まれたなと吉良は思っている。


 ハイレベルの授業に悪戦苦闘しているときも、家庭教師並みにつきっきりで勉強を教えてくれた。楯山がいなかったら勉強についていけなくてツラい思いをしていたに違いない。

 吉良が困っていると「どうした? 何かあったのか?」と言わずして察してくれる。ゆっくり話を聞いてくれて、自分のことのように一緒に悩んでくれる。そして力の限り協力してくれる。

 なによりも楯山の吉良に向けられる視線や態度の優しさだ。「お前は最高」「部屋に吉良がいてくれるだけで幸せだ」などとバカみたいに褒めてくれて、認めてくれて、優秀な生徒に囲まれて劣等感のかたまりだった吉良の心を何度も何度も救ってくれた。




 吉良は親衛隊サイトを眺めている。自身の親衛隊数を無機質に伝えるだけのサイトだが、この単なる数字にどれだけ自分が踊らされてきたことか。

 次は自分が誰の親衛隊であるかを示しているほうのサイトを開く。そこには吉良が愛しいと思う人の名前が表示されている。




『あなたは楯山大翔ひろとさんの親衛隊に加入しました』




 この文字を初めて見たときに、正直怖いと思った。自分の胸の中だけにとどめていたはずの想いがはっきりと第三者によって突きつけられたような気がしたからだ。

『承認しますか?』

 楯山大翔の名前をタップすると、承認するか否かのバナーが開く。
 この二ヶ月間、何度もこの画面を眺めては、先に進めずにいた。それというのも迅から、もし相手も親衛隊ならば通知がいくことを聞いてしまったせいだと思う。
  



 ——楯山は俺の親衛隊なのかな……。

 楯山が誰かの親衛隊に加入していることだけは明らかだ。本人が公言しているのだから。
 そして楯山は、炭酸水をくれたのだから吉良の親衛隊である可能性はじゅうぶんにある。
 もし、そうであれば吉良が承認したら、吉良だけでなく楯山にも通知がいくはずだ。お互いの気持ちを確かめ合って、この想いは成就するかもしれない。



 もし、楯山が他の誰かの親衛隊だったとしたら。
 吉良にはなんの通知も届かない。その時点で、吉良の片想い決定だ。そこから挽回するような時間も方法もない。
 吉良の想いは一方通行のまま、高校を卒業することになるのだろう。


 そんなことばかり、楯山のことばかりぼんやり考えていたら少しずつ眠くなってきた。
 気がついたらスマホを手にしたままウトウトしてしまっていたらしい。


「…………っ!!!」

 はぁっ?! えっ! 待っ……!

 眠気もぶっ飛ぶ、恐ろしいことが起きた。吉良の右手の親指は、吉良がウトウトと微睡んでいたときに親衛隊承認バナーの『はい』の位置にあったようで、さらにそれをタップしたみたいで——。


 慌てて親衛隊サイトを確認すると、楯山大翔の親衛隊を承認したことになっている。


 ——ヤバい! これってどうやって取消すんだよ!!

 吉良はサイトの中のそれっぽい場所をアレコレ探って、承認取消の方法を探す。まさかこんな事態になるとは思っていなかったから、全然やり方がわからない。



 ——ピロン。

 楯山が寝ている方角から、スマホの通知を知らせる音がした。


 吉良の親衛隊サイト画面にも『新たな通知があります』の文字。

 ——新たな通知……?

 吉良がこの親衛隊サイトにアクセスした回数もそう多くはなく、何があったら通知が届くのかすらわからない。

 まさか。
 まさかとは思うが、この通知は——。
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