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一月 親衛隊隊長には『推し』が誰かの親衛隊に加入したとき通知がくるルール
1.
しおりを挟む神埜迅(18)攻。吉良の距離感バグってる従兄弟。
「なぁ、琉平知ってるか? 兄弟は結婚できないんだぞ」
「知ってるよ。お母さんとも結婚できない。そんなのはジョーシキだ」
いとこの迅は、風呂場で吉良の髪をゴシゴシ洗い、シャンプーまみれにしながら言う。
昔から夏休みなどには吉良の家に迅が泊まりにくることが多かった。賢い迅は、吉良にいつも色々なことを教えてくれていた。
「じゃあ、いとこ同士は結婚できるか、できないか、知ってるか?」
「うーん……」
当時九歳の吉良には、そこまでの知識はなく、答えられなかった。
「わかんない。教えて」
吉良は、後ろを振り返り、迅に訊ねる。
「琉平。いとこ同士は結婚できるんだ」
「そうなのっ?」
さすが、同い年なのに迅は物知りだ。
「そう。俺と琉平はいとこ同士だから結婚できるな!」
「う、うん……」
吉良には、男同士は結婚できるのかどうかそこまでの知識はなかったが、嬉しそうに笑う、いとこの顔を曇らせてしまうようなことは言わないほうがいい、と思った。
◆◆◆
迅の両親は二人とも日本にはいない。海外での仕事がメインになってしまったため、日本での迅の世話役を吉良の両親が代わっている。
でもその頃から迅は学生寮生活に入っていたため、ほとんど手はかからない。何かあったときの緊急連絡先としての役割、夏休みや冬休みなどの長期休暇に吉良とともに過ごす程度、それだって迅は自分でなんでもできるのだから世話はない。かえって家事を引き受けてくれるので吉良家の戦力だ。
八月。高校三年生の夏休みの余暇は、ほとんどを迅とふたりで過ごした。受験生なので、もちろん勉強がメインだが、それでもふたりで昼飯を作ったり、空いた時間に息抜きで遊びに行ったり、とにかく四六時中、迅と一緒だったと言っても過言ではない状態だった。
「おい、迅、どこ行ったんだよ……」
今日は地元の夏祭りに迅とふたりで遊びに来た。吉良は面倒くさいからいいと言ったのに、「いいから着ろよ」と迅に着させられた浴衣と下駄姿で、吉良は迅を探し回る。
人が多いので、ちょっとよそ見をしただけで迅とはぐれてしまったのだ。
迅は背が高いから、人混みの中でもきっと目立つはずだ。
大丈夫、すぐに会える。
「りゅーっへい!」
「うわっ!」
びっくりした。背後から急に誰かに抱きつかれたと思ったら迅だった。
「お前どこ行ってたんだよ……」
「ごめんごめん。ちょっとコレ買ってた」
「ん?」
迅の手をみると、チョコバナナが二本握られている。
「琉平にやるよ。なんか一個買ったらもう一個プレゼントしますって言われたの」
迅は吉良から身体を離し、チョコバナナを寄越してきた。
「なんで?!」
「さぁ……。『オニーサン彼女いるの?』って聞かれて『いない。募集中』って答えたら電話番号と一緒にくれたんだ」
「すげぇな……」
見た目のいい奴は得だなと羨ましく思う。でも、迅の浴衣姿はひいき目なしでもかっこいいな、とも思う。
そういうことならと遠慮なしに迅からチョコバナナを受け取って食べる。迅の買ってきたチョコバナナの先には一つだけコアラの○ーチが付いていた。
「琉平。俺のコアラもやるよ」
迅が自分の分のチョコバナナを吉良に向けてきた。
「パクッといっちゃっていーから」
「マジで?」
ホントに食うぞ。迅のものなら、遠慮なしに。
「どーぞ」
迅は吉良の唇に触れるくらいの距離までコアラの○ーチを近づけてくるので、大きな口を開けてチョコバナナの最初のひと口をバクっと食べた。
「美味い。ありがとな」
「いーえ」
迅は吉良がひと口一番いいところを食べたあとのチョコバナナの続きを食べ始めた。
二人は道の隅っこに寄り、チョコバナナを頬張りつつ人並みを眺めている。
「てか、迅は彼女募集中なのか?」
吉良には、さっきの話で気になったことがある。迅が彼女を欲しがってることなんて一度もなかったから。
「……え? 普通に欲しくねぇ?」
「まぁ……。でも、迅ならすぐにできるだろ?」
「だっは。言ってくれるな。俺に彼女ができたことないの知ってるくせに」
「だよな。本当に不思議だ。男子校だからか?」
でも迅ならその気になればSNSでもなんでもすぐに彼女くらいできるだろう。今日だってもう数人の女の子から声をかけられているのだから。
「残念。不正解だ」
「じゃあなんだよ」
「さぁ。琉平には言わないよ」
「っざけやがって……!」
どうせ理由なんかないんだろう。全寮制男子校で彼女を作ることは迅といえどもハードルが高いようだ。
「なぁ、琉平。俺に彼女ができたら、少しは妬いてくれんの?」
「はぁ?! なんで俺が……」
「だって俺とこうやって遊べなくなるよ? さみしいとか思ってくれねぇの?」
「誰が……っ!」
迅と遊べなくなってもそれは仕方のないことだ。迅が吉良との時間よりも優先したいことができたのならば。
「なんだ。つまんねえの。じゃあ、俺、彼女作るのやめるわ」
「意味わかんねぇ」
なんなんだ迅は。彼女が欲しいのか欲しくないのかわからない。
「高校卒業したら教えてやるよ」
迅は満面の笑みを吉良に向けてきた。そのとき吉良の顔をみて、何かに気がついたようで、じっと吉良の顔を覗き込んでくる。
「……なんだよ」
「琉平。顔にチョコ付いてる」
「へっ?!」
「ここ」
迅は人差し指で吉良の頬を拭った。
「琉平は可愛いな」
迅は自分の指にキスするみたいにして、さっきのついたチョコを舐めとった。
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