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十二月 親衛隊は『推し』が卒業したら解散するルール
2.
しおりを挟む試合が始まった。見ると上杉のポジションがヤバい。ワントップのフォワード。つまりは上杉ひとりが集中的に点数を稼ぐようなフォーメーションになっている。
当然ながら上杉の周りには相手チームが常に張り付いている。エース上杉をおとりにするような作戦なのかと思ってしまう。
だが、上杉はひとりだけ、動きが違う。マークされてもさらりとかわしてパスを受け取り、どんどんゴールを攻めていく。超攻撃型のフォワードだ。
試合開始15分で、早速上杉がゴールを決める!
スタンドの観客がワッと声を上げ、拍手をしている。
点を入れたそばから、上杉は次の攻撃を開始する。敵チームを執拗に追いかけそのしつこさで相手からボールを奪いとり、そのまま、ものすごい速さのドリブルでゴール目がけて駆けていく。
「あいつ、本当にあの上杉か?!」
あの真面目な上杉が、がむしゃらにゴールを狙う、激しいプレーをするなんて意外すぎる。
「上杉、サッカーになるとすげぇ怖ぇんだ。まるで別人。あいつの気迫に押されるくらいだぜ?」
「ああ……」
たしかに。上杉のプレースタイルはどう猛な獣みたいだ。
「やべぇっ! あいつまた点入れやがったっ!」
どうなってんだ、上杉の身体能力は!
◆◆◆
結局前半だけで上杉の得点は3点。試合運びは3-1だから、このままいけばうちの学校の勝利だ。
「吉良、やるよ」
休憩時間(ハーフタイム)になり、武田が自分の飲み物を買いに行ったついでに吉良の分までペットボトルを買ってきてくれたみたいだ。
「おー、悪ぃ、いいのか?」
「ああ。もらっとけもらっとけ」
武田からスポーツドリンクを受け取る。吉良の隣に座って飲み始めた武田につられて吉良もペットボトルに口をつけた。
「上杉ってすごい奴だったんたな。俺、全然知らなかったよ」
こんなにサッカーで注目されているのに生徒会まで立候補しようだなんて、なんてバイタリティだ。
「吉良、上杉のこと見直したのか?」
「ああ。見直した」
なけなしの力だろうが、上杉が望むなら生徒会の件も手伝ってやろう。試合に勝っても勝たなくても。
「吉良は上杉の頼みごとを聞いてやったんだな。いつもサッカー部の試合なんて観にこないもんな」
「うん。なんか真剣だったからさ」
「へぇ。羨ましいな……」
知り合いが試合を観にきてくれるっていうのはやっぱり嬉しいことなんだな。
「吉良の好みのタイプって、上杉みたいなやつ?」
「はぁ?! 何言ってんだ」
おかしいだろ。あいつ男だろ!
武田にひと言ツッコミをいれてやろうと思ったときだった。
武田が、手を握ってきた。
驚いて武田のほうを見ると、あのいつもふざけてる武田が、神妙な顔をしている。
「……俺は?」
武田が呟いた。
「俺、卒業したらプロになるし。上杉はまだ内定はしてねぇし」
そうだ。武田はインターハイ後にプロリーグに内定をもらっていて、そのときクラスで大騒ぎしたことを思い出した。
「吉良が思ってる以上に、俺も真面目だし」
武田は握った手に力をこめてきた。
こいつ、どういうつもりで……。
吉良は手に持っている、ペットボトルを見て思い出した。
後夜祭のときに、武田は吉良にペットボトルの炭酸水を手渡してきた。
鳴宮が『後夜祭に吉良に想いを伝えることができる』とかいう噂を流して、どうやらそれが炭酸水を吉良に渡すこと、だったらしい。
それは、想いを伝えられない、告白できないルールに縛られた親衛隊の、ルールに則った精一杯のアピールということになるのだろうか。
鳴宮の言うことが本当ならば、ペットボトルを手渡してきた奴は、吉良の親衛隊、つまりは吉良に好意をもっている可能性が高い。
やばい。てことは、これは愛の告白みたいなものなのか……?!
「吉良」
武田はこちらに向き直り、真剣な眼差しを向けてくる。
「おい……っ」
やめろやめろ、ここをどこだと思ってんだ?!
武田が両腕を伸ばし、吉良の背中に回してくる——。
「……ま、待てっ……」
まさかここで抱き締めてくる気か?!
「吉良の背中に糸くずが付いててさ。さっきから気になってたんだわ」
「へっ……?」
武田は「ほら」と吉良に白い糸を見せる。
「なんだよ……」
びっくりした。まさかそんなことはないと思っているのに、武田から後夜祭で炭酸水をもらってしまったがために、妙に意識してしまった。
「吉良。顔、赤くない?」
「っざけんな、そんなことねぇよっ」
あーあー、恥ずかしいな!
ひとり勝手に好かれてるって勘違いして、こんなところで抱き締められるとか思っちゃって、バカみたいだ。
「ヤバ。吉良お前、可愛い……」
「言うな!」
クッソ武田の野郎! 勘違いするようなことすんなよ!
鳴宮にも文句を言ってやりたい。
ペットボトルを渡されてから、それをくれた奴のことを吉良は妙に意識するようになってしまった。
今までだったら、こんなふうに思うこともなかったのに。
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