親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

文字の大きさ
上 下
36 / 69
十一月 親衛隊は諦めたくても脱退できずに本心に従うルール

5.

しおりを挟む
 学園祭は終わりを迎え、今は生徒たちだけの後夜祭。軽音楽部やダンス部、有志の生徒たちが代わるがわる体育館の壇上に上がる。
 だがそこに出演を予定していた鳴宮の姿はなかった。急遽キャンセルしたらしい。
 そして今この後夜祭にも鳴宮はいない。まぁ、希望者のみの参加なのでそれは特段気にはされてないようだが。

「白石、おめでとう! やっぱりお前がグランプリだと思ってたよ」

 吉良は白石を見かけて声をかける。白石の隣には玄野がいて「なぁ、吉良。俺も結構頑張ったんだけど」と冗談混じりに言って笑っている。

「そうだな、玄野もありがとな」

 玄野は白石グランプリの陰の立役者だ。玄野のSNS企画はどれも面白かった。親友白石の良いところを知り尽くしているからこそ、あれだけ白石の魅力を上手く伝えられたのだろう。

「吉良のお陰だよ。俺に投票してくれてありがとう。玄野はただ俺をネタにして騒ぎたかっただけだろ?」
「は? 違ぇし。真面目にやってやったのになんだよ」
「お前と話すの面倒くさいから喋るな。俺は今吉良と話したい」

 白石は玄野に対してだけはつっけんどんな態度を取る。白石にとって玄野は気がおけない親友だということだろう。

「俺だって吉良と話したい。吉良っ、相変わらずお前は最高だな! まーまーまー俺たちと話そうぜ!」

 玄野は底抜けに明るい。玄野に腕を引っ張られ、玄野と白石の二人に挟まれる形になる。

「なぁ、吉良。俺さ、前から気になってたんだけどさ、楯山とはシた?」

 シタ…? 何をだ……?
 意味がわからず吉良が首をかしげていると「楯山とはどこまで進んだんだよ、キス止まり? それとももう一緒に寝た?」と耳元で囁かれる。

「ばっ……! ふざけんなっ! 俺と楯山は全然そんなんじゃないから……」

 いきなりなんなんだよ、これだから陽キャは……。

「うわ、照れてる可愛いなーっ。ヤバい俺、部屋に連れて帰りたい……」
「玄野! 吉良をからかうなっ」

 すかさず白石からの制止が入る。

「わりぃわりぃ」

 玄野は全然悪いとも思ってない様子だ。

「俺ね、吉良ならいつでも大歓迎だから。マジで俺の部屋、遊びに来て」
「誰が行くかよ!」
「えぇ、冷たいよ吉良」

 当たり前だろ! 恋愛経験値ゼロの俺をバカにしやがって!

「吉良ちゃん、頼むから」
「お前のお遊びになんて付き合わない」
「え? 遊びじゃなきゃいいの?」

 玄野は吉良の正面に立ち、吉良の表情を覗き込むようにして顔を近づけてきた。さっきまでヘラヘラしてたくせに、急に真面目な顔をして、まばたきもせずに強い視線でじっとこちらを捉えてくる。

「だったら俺、いけるかもじゃん」

 玄野は更に寄ってくる。思わず後ずさるがそんなものはものともせずに間合いを詰めてくる。

「玄野! 何してるっ! 離れろよ!」

 白石が割って入ってきて、玄野を追いやる。

「おーおー、白石。マジになんなよ。いつも言ってるけど、俺としてはお前と半分こでも構わねぇよ?」
「バカ言うな」
「俺は結構本気。お前とシェアできたらいいのになって考えてる。三人でデートも俺は全然アリだけど」
「玄野!」

 白石は玄野をまた制する。玄野の手綱を引っ張るのが委員長白石の仕事みたいだ。

「はいはい。うるせぇ委員長だな。そうだ、とりあえず吉良、これ受け取って」

 玄野は吉良にペットボトルのコーラを手渡してきた。なんでこの流れで急に……。

「吉良、これは俺からの」

 白石までコーラを手渡してくる。余計意味がわからない。

「あ、ありがとう……」

 なんだかわからないが、とりあえず受け取ってしまった。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い

たけむら
BL
「いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い」 真面目な幼馴染・三輪 遥と『そそっかしすぎる鉄砲玉』という何とも不名誉な称号を持つ倉田 湊は、保育園の頃からの友達だった。高校生になっても変わらず、ずっと友達として付き合い続けていたが、最近遥が『友達』と言い聞かせるように呟くことがなぜか心に引っ掛かる。そんなときに、高校でできたふたりの悪友・戸田と新見がとんでもないことを言い始めて…? *本編:7話、番外編:4話でお届けします。 *別タイトルでpixivにも掲載しております。

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

処理中です...