親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖

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十一月 親衛隊は諦めたくても脱退できずに本心に従うルール

5.

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 学園祭は終わりを迎え、今は生徒たちだけの後夜祭。軽音楽部やダンス部、有志の生徒たちが代わるがわる体育館の壇上に上がる。
 だがそこに出演を予定していた鳴宮の姿はなかった。急遽キャンセルしたらしい。
 そして今この後夜祭にも鳴宮はいない。まぁ、希望者のみの参加なのでそれは特段気にはされてないようだが。

「白石、おめでとう! やっぱりお前がグランプリだと思ってたよ」

 吉良は白石を見かけて声をかける。白石の隣には玄野がいて「なぁ、吉良。俺も結構頑張ったんだけど」と冗談混じりに言って笑っている。

「そうだな、玄野もありがとな」

 玄野は白石グランプリの陰の立役者だ。玄野のSNS企画はどれも面白かった。親友白石の良いところを知り尽くしているからこそ、あれだけ白石の魅力を上手く伝えられたのだろう。

「吉良のお陰だよ。俺に投票してくれてありがとう。玄野はただ俺をネタにして騒ぎたかっただけだろ?」
「は? 違ぇし。真面目にやってやったのになんだよ」
「お前と話すの面倒くさいから喋るな。俺は今吉良と話したい」

 白石は玄野に対してだけはつっけんどんな態度を取る。白石にとって玄野は気がおけない親友だということだろう。

「俺だって吉良と話したい。吉良っ、相変わらずお前は最高だな! まーまーまー俺たちと話そうぜ!」

 玄野は底抜けに明るい。玄野に腕を引っ張られ、玄野と白石の二人に挟まれる形になる。

「なぁ、吉良。俺さ、前から気になってたんだけどさ、楯山とはシた?」

 シタ…? 何をだ……?
 意味がわからず吉良が首をかしげていると「楯山とはどこまで進んだんだよ、キス止まり? それとももう一緒に寝た?」と耳元で囁かれる。

「ばっ……! ふざけんなっ! 俺と楯山は全然そんなんじゃないから……」

 いきなりなんなんだよ、これだから陽キャは……。

「うわ、照れてる可愛いなーっ。ヤバい俺、部屋に連れて帰りたい……」
「玄野! 吉良をからかうなっ」

 すかさず白石からの制止が入る。

「わりぃわりぃ」

 玄野は全然悪いとも思ってない様子だ。

「俺ね、吉良ならいつでも大歓迎だから。マジで俺の部屋、遊びに来て」
「誰が行くかよ!」
「えぇ、冷たいよ吉良」

 当たり前だろ! 恋愛経験値ゼロの俺をバカにしやがって!

「吉良ちゃん、頼むから」
「お前のお遊びになんて付き合わない」
「え? 遊びじゃなきゃいいの?」

 玄野は吉良の正面に立ち、吉良の表情を覗き込むようにして顔を近づけてきた。さっきまでヘラヘラしてたくせに、急に真面目な顔をして、まばたきもせずに強い視線でじっとこちらを捉えてくる。

「だったら俺、いけるかもじゃん」

 玄野は更に寄ってくる。思わず後ずさるがそんなものはものともせずに間合いを詰めてくる。

「玄野! 何してるっ! 離れろよ!」

 白石が割って入ってきて、玄野を追いやる。

「おーおー、白石。マジになんなよ。いつも言ってるけど、俺としてはお前と半分こでも構わねぇよ?」
「バカ言うな」
「俺は結構本気。お前とシェアできたらいいのになって考えてる。三人でデートも俺は全然アリだけど」
「玄野!」

 白石は玄野をまた制する。玄野の手綱を引っ張るのが委員長白石の仕事みたいだ。

「はいはい。うるせぇ委員長だな。そうだ、とりあえず吉良、これ受け取って」

 玄野は吉良にペットボトルのコーラを手渡してきた。なんでこの流れで急に……。

「吉良、これは俺からの」

 白石までコーラを手渡してくる。余計意味がわからない。

「あ、ありがとう……」

 なんだかわからないが、とりあえず受け取ってしまった。
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