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九月 親衛隊はひとりしか推せないルール
3.
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その次の日からだ。
あからさまに吉良に対する隠岐の態度が変わったのは。
挨拶をしても、返事はなくその代わりに返ってくるのは冷ややかな視線。
学園祭について、四人で話をしている時に吉良が意見を出しても隠岐はいつも全否定。確かに安居院や雪村みたいに画期的なことは言えないけれど、容赦なく頭ごなしにバッサリだ。
それでも同じチームになってしまった以上はうまくやっていくしかない。
今日の学園祭の作業が終わり、吉良と隠岐は安居院たちの部屋を出た。
「あ、ごめん」
隠岐は吉良の横を通り過ぎようとする時に、身体をぶつけてきた。そのせいで吉良は手に持っていた学園祭の資料を床に落としてしまう。落とした資料を拾いながらイライラがつのる。今のは絶対にわざとだ。
「おい、隠岐。いい加減にしろよっ」
さすがにひと言文句を言ってやろうと吉良は振り返る。
「え? 何の話?」
隠岐はとぼけている。バレバレのくせに、それが余計に腹立たしい。
「お前さっきわざとぶつかったよな?」
「まさか。そんなこと僕がするわけないよ。吉良がぶつかってきたんだろう?」
「いや、お前だろ?!」
「僕じゃない、悪いのは吉良だ」
「はぁ? どこがだよっ!」
こいつ、本当になんなんだよっ。
「吉良は変わったね」
「は?」
変わった……?
「一年の頃は補習のあと、二人でいろんな話をしてたのに」
「いや、俺は未だに補習組だ。成績上げて補習を受けなくなったのはお前だろ」
吉良から見たら変わったのは隠岐だ。入学した頃は『お互い頑張ろう』と成績底辺同士慰め合っていたのに、その後、隠岐は成績急上昇。補習に来なくなった。それは隠岐にとってはいい事なので、「俺と顔を合わせないで済むようになってよかったな」と冗談を言って笑って隠岐の肩を叩いたこともある。
それから二年になりクラスが離れたのもあって、すれ違う時に挨拶や軽い話をする程度の仲になった。
「僕は吉良みたいな平凡には親衛隊なんてできないと思ってた」
隠岐はどうしたんだ……?
「……吉良。安居院君だけは『選ばない』でよね」
「えっ……」
「安居院君のためにもならない」
隠岐は何を言ってるんだ……?
「許さない……。僕は認めないっ!」
隠岐は怒りをぶつけてくる。
これは。隠岐はもしかしたら安居院が吉良のことを好きだと勘違いしてるのでは……。
「隠岐、お前は安居院のこと——」
吉良がそう言いかけたのに、隠岐は「うるさいっ! それ以上言うな!」と聞く耳も持たずに自室に向かってしまった。
恋は盲目というが、隠岐はみる目がおかしくなってるようだ。No. 1御曹司がこんな平凡を好きになるわけがない。そんな簡単なこともわからなくなるほど安居院に夢中になっているのかもしれない。
安居院のことが好きなら、安居院にぶつかっていけばいい。なりたいなら安居院の親衛隊になればいい。そうはせずに吉良に八つ当たりしても意味はないのに、隠岐の考えていることがまるでわからない。
「吉良、スマホ落とした?」
部屋に帰って今日の宿題を片付けているところに、楯山がスマホを差し出してきた。
「あれ?! マジか! ありがとう!」
スマホのカバーだけでも吉良のものと見て分かるし、携帯の画面を確認しても見慣れたホーム画面。間違いなく吉良のものだ。
「廊下に落ちてた」
「マジか。サンキュー。気づかなかった」
隠岐とぶつかった時に落としたのかもしれない。あの時落ちたのは資料だけだと思っていたが、同時にスマホも落としてたのか。
「楯山。これが俺のスマホだってよくわかったな」
「まぁな。俺、いつもお前のこと見てるから」
「ハハ……そっか。ごめん、頼りなくて」
楯山は世話好きだ。失敗の多い吉良のことをいつも見守ってくれている。
「吉良、疲れてんじゃねぇの?」
そう言って吉良の顔を覗き込もうとする楯山を「なんでもねぇよ」と追い払う。
「学祭の準備だろ? お前のとこの、あのメンバーは何かと面倒くさそうだもんな」
「……まぁな」
楯山はすごいな。なんでもお見通しだ。
「大丈夫か? なんでもいいから俺を頼れよ。お前が暗い顔してると俺まで苦しくなるから」
「ありがとな。いつもすまない」
楯山にはいつも世話になってばかりだ。
「俺、明日からアメリカの大学見学でしばらくいないから」
「知ってる。頑張れよ」
楯山は以前からそのことを吉良に伝えてくれていた。卒業後、米国の大学に行くことを考えているらしい。同室者がいないのは少しさみしいが、仕方ない。
「吉良が心配で、アメリカなんて行きたくない」
楯山は何を言う。本当に過保護だな。
「バカか? 大事な将来のためだろ。お前がいなくてもテストは乗り切ってみせるし、大丈夫だよ」
「吉良、向こうからお前に電話してもいい?」
「別に構わねぇよ。楯山がさみしいなら、いつでも相手になってやる」
からかうつもりで言ったのに、楯山は「じゃあ電話する」とやけにしおらしい。
いつもみたいに「さみしいわけないだろ! お前を心配してやってるんだ!」と噛みついてくると思っていたのにそんな態度を取られたらこっちもやりにくい。
今日の楯山はいつにも増して心配性だな。
あからさまに吉良に対する隠岐の態度が変わったのは。
挨拶をしても、返事はなくその代わりに返ってくるのは冷ややかな視線。
学園祭について、四人で話をしている時に吉良が意見を出しても隠岐はいつも全否定。確かに安居院や雪村みたいに画期的なことは言えないけれど、容赦なく頭ごなしにバッサリだ。
それでも同じチームになってしまった以上はうまくやっていくしかない。
今日の学園祭の作業が終わり、吉良と隠岐は安居院たちの部屋を出た。
「あ、ごめん」
隠岐は吉良の横を通り過ぎようとする時に、身体をぶつけてきた。そのせいで吉良は手に持っていた学園祭の資料を床に落としてしまう。落とした資料を拾いながらイライラがつのる。今のは絶対にわざとだ。
「おい、隠岐。いい加減にしろよっ」
さすがにひと言文句を言ってやろうと吉良は振り返る。
「え? 何の話?」
隠岐はとぼけている。バレバレのくせに、それが余計に腹立たしい。
「お前さっきわざとぶつかったよな?」
「まさか。そんなこと僕がするわけないよ。吉良がぶつかってきたんだろう?」
「いや、お前だろ?!」
「僕じゃない、悪いのは吉良だ」
「はぁ? どこがだよっ!」
こいつ、本当になんなんだよっ。
「吉良は変わったね」
「は?」
変わった……?
「一年の頃は補習のあと、二人でいろんな話をしてたのに」
「いや、俺は未だに補習組だ。成績上げて補習を受けなくなったのはお前だろ」
吉良から見たら変わったのは隠岐だ。入学した頃は『お互い頑張ろう』と成績底辺同士慰め合っていたのに、その後、隠岐は成績急上昇。補習に来なくなった。それは隠岐にとってはいい事なので、「俺と顔を合わせないで済むようになってよかったな」と冗談を言って笑って隠岐の肩を叩いたこともある。
それから二年になりクラスが離れたのもあって、すれ違う時に挨拶や軽い話をする程度の仲になった。
「僕は吉良みたいな平凡には親衛隊なんてできないと思ってた」
隠岐はどうしたんだ……?
「……吉良。安居院君だけは『選ばない』でよね」
「えっ……」
「安居院君のためにもならない」
隠岐は何を言ってるんだ……?
「許さない……。僕は認めないっ!」
隠岐は怒りをぶつけてくる。
これは。隠岐はもしかしたら安居院が吉良のことを好きだと勘違いしてるのでは……。
「隠岐、お前は安居院のこと——」
吉良がそう言いかけたのに、隠岐は「うるさいっ! それ以上言うな!」と聞く耳も持たずに自室に向かってしまった。
恋は盲目というが、隠岐はみる目がおかしくなってるようだ。No. 1御曹司がこんな平凡を好きになるわけがない。そんな簡単なこともわからなくなるほど安居院に夢中になっているのかもしれない。
安居院のことが好きなら、安居院にぶつかっていけばいい。なりたいなら安居院の親衛隊になればいい。そうはせずに吉良に八つ当たりしても意味はないのに、隠岐の考えていることがまるでわからない。
「吉良、スマホ落とした?」
部屋に帰って今日の宿題を片付けているところに、楯山がスマホを差し出してきた。
「あれ?! マジか! ありがとう!」
スマホのカバーだけでも吉良のものと見て分かるし、携帯の画面を確認しても見慣れたホーム画面。間違いなく吉良のものだ。
「廊下に落ちてた」
「マジか。サンキュー。気づかなかった」
隠岐とぶつかった時に落としたのかもしれない。あの時落ちたのは資料だけだと思っていたが、同時にスマホも落としてたのか。
「楯山。これが俺のスマホだってよくわかったな」
「まぁな。俺、いつもお前のこと見てるから」
「ハハ……そっか。ごめん、頼りなくて」
楯山は世話好きだ。失敗の多い吉良のことをいつも見守ってくれている。
「吉良、疲れてんじゃねぇの?」
そう言って吉良の顔を覗き込もうとする楯山を「なんでもねぇよ」と追い払う。
「学祭の準備だろ? お前のとこの、あのメンバーは何かと面倒くさそうだもんな」
「……まぁな」
楯山はすごいな。なんでもお見通しだ。
「大丈夫か? なんでもいいから俺を頼れよ。お前が暗い顔してると俺まで苦しくなるから」
「ありがとな。いつもすまない」
楯山にはいつも世話になってばかりだ。
「俺、明日からアメリカの大学見学でしばらくいないから」
「知ってる。頑張れよ」
楯山は以前からそのことを吉良に伝えてくれていた。卒業後、米国の大学に行くことを考えているらしい。同室者がいないのは少しさみしいが、仕方ない。
「吉良が心配で、アメリカなんて行きたくない」
楯山は何を言う。本当に過保護だな。
「バカか? 大事な将来のためだろ。お前がいなくてもテストは乗り切ってみせるし、大丈夫だよ」
「吉良、向こうからお前に電話してもいい?」
「別に構わねぇよ。楯山がさみしいなら、いつでも相手になってやる」
からかうつもりで言ったのに、楯山は「じゃあ電話する」とやけにしおらしい。
いつもみたいに「さみしいわけないだろ! お前を心配してやってるんだ!」と噛みついてくると思っていたのにそんな態度を取られたらこっちもやりにくい。
今日の楯山はいつにも増して心配性だな。
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