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八月 親衛隊はルールを破って想いを伝えたら退学になるルール
3.
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「湊先輩、これはやばいです。俺、理性が崩壊しそうです」
Tシャツとジャージのハーフパンツを借りて着替えを終えた吉良を見て水谷が呟く。
「水谷耐えろ。俺だって同じ気持ちだ。吉良が今着ているのは俺のTシャツだぞ。家宝にするか」
湊はいったい何を言っているのだろう。
「湊はデカいから、服もデカいんだな。俺じゃブカブカだ」
ズボンはガバガバで、端っこを安全ピンで留めて無理矢理履いている。Tシャツは襟ぐりがデカくて肩からずり落ちそうだ。
「いい。そのままでいいぞ、吉良」
なぜか湊も水谷も嬉しそうだ。
「悪い、湊のだもんな。洗って返すから」
「いい! 洗わなくていい!」
湊が全力で遠慮してきた。
「いや、そうはいかないだろ、俺の制服だってクリーニングに出してもらったのに」
吉良の制服は日野が走ってクリーニングに出しに行ってくれた。何もかも至れり尽せりで、申し訳ないくらいだ。
「いいんだ! 俺のためを思うなら絶対に洗わずにそのまま返してくれ!」
「なんだよ、そこまで言うなんてさ……」
洗い方にこだわりでもあるのだろうか。Tシャツとジャージなんだから寮の洗濯機で普通に洗ってもいいんじゃないのか?
「あー、落ち着かねぇ。パンツがないからスースーするわ」
さすがにパンツは借りられず、ノーパン状態だ。
この格好で寮まで戻ればいいので、なんとかなるだろうが。
「湊先輩、俺、今すぐ襲いかかってもいいですか?」
「駄目だ水谷。俺だってギリギリのところで耐えてるんだから、あまりそういうことを言うな。俺までおかしくなったらここで大変なことが行われてしまう。他の部員に示しがつかん!」
このふたりはいったい何と戦っているのだろう。水泳部代表として大きな使命を抱えているのだろうか。
そのとき不意にクシュン! とくしゃみが出た。
身体が濡れて、体温が下がったのだろう。
「悪ィ、身体が冷えたみたいだ」
情けない、笑ってくれと思って苦笑いをするが、ふたりとも全然笑ってない。
「吉良、俺が温めてやる——」
「吉良先輩、俺の胸の中に飛び込んで来てくださいっ!」
はぁ? こいつらいったい何を言ってるんだ?
「じゃあな、俺は寮に帰る。色々世話になったな。ありがとう」
吉良が水泳部の部室を出ようとすると水谷に止められた。
「吉良先輩、寮まで送ります」
「俺も送る。こんな状態の吉良をひとりにはしておけない」
「はぁ?」
体調は悪くないし、何が問題なんだよ。
「水谷ひとりに任せる訳にもいかない。世の中には送りオオカミって言う言葉があるんだ」
「湊先輩。その言葉、そっくりそのまま先輩にお返しします」
このふたりは実はかなり気が合っているのか?!
「先輩。世の中には3Pって言葉があるのをご存知ですか?」
「水谷。そういう楽しいワードをこれ以上口にするな。理性が壊れるだろ」
変な奴らだが、まぁ、ふたりが楽しそうならいいか。
◆◆◆
それから三日後。水泳の補講の日、水泳部がTA(ティーチングアシスタント)についた。
泳ぎのランクでコースが二つに分かれていて、吉良のいる泳げないAコースのTA担当は湊、隣のまぁまぁ泳げるBコース担当は水谷だった。
「吉良。もっと足を開け」
「はぁっ……うっ……。湊、これ以上は無理だ」
遠泳のときに平泳ぎができるといいと言われプールの端っこでヘリに掴まった状態で指導を受けるが、湊に足首を掴まれ基本フォームから教わるとは思わなかった。これは羞恥の極みだ。
「股関節が硬いな……これじゃいざ本番ってときにヤりにくいだろ」
「しょうがないだろ。あっ……それ以上広げるなって!」
本番は九月の遠泳だ。それまでに少しはストレッチでもするべきか。
あー、それにしてもこれじゃまるで小学生だ。恥ずかしいったらない。
クッソ、こんな時間早く終わってくれ!
「吉良は本当に綺麗だな。この身体に触れられるなんて幸せでしかない……マジで勝ってよかった……」
綺麗? 湊の指導のお陰で、少しはフォームが綺麗に改善されてきたのだろうか。
休憩中に湊と水着のままで話をしていたのだが、ものすごい視線をひしひしと感じる。
というのも隣には湊がいる。逞しい体躯の水泳部の湊の身体には男ながらに惚れ惚れするのだろう。それで、皆の視線が集まっているようだった。
「吉良の水着姿だ……」
「乳首ピンク、乳首ピンク」
「やっばい、目に焼き付けよう……」
確かに自分でもやばいと思う。湊と並ぶと自分の身体がさらに貧相に思えて、ここにいることすら恥ずかしい。
そのとき、吉良の肩にふわっとジャージがかけられた。
「吉良、これ着とけよ」
ジャージをかけてくれたのは湊だ。湊は吉良がいたたまれない気持ちになっていることを察してくれたのかもしれない。
「俺のジャージ使っていいから。あいつら吉良のことをいやらしい目で見やがって! 本当男って奴は嫌だよな!」
「いや、俺もお前も男……」
「吉良の太腿の裏のあんなところにホクロがあるとか、実は結構色が白いとか、乳首が可愛いとか、そんな可愛い秘密をあいつらに見せたくないっ!」
いや、湊、お前こそ随分と俺の身体を見てたんじゃないのか?!
「吉良は見せ物じゃない。俺だけの吉良だよな?」
「んん?!」
今は湊とだけ話をして欲しいから、そういう括りにされたのか?!
「水着の吉良、すげぇ可愛い。水泳部に入れよ。毎日一緒に泳ぎたい」
「いや、水泳部なんて無理だっ」
この貧相な身体と酷い水泳技術でどうやって俺が水泳部でやっていくんだよ、絶対に無理だ!
Tシャツとジャージのハーフパンツを借りて着替えを終えた吉良を見て水谷が呟く。
「水谷耐えろ。俺だって同じ気持ちだ。吉良が今着ているのは俺のTシャツだぞ。家宝にするか」
湊はいったい何を言っているのだろう。
「湊はデカいから、服もデカいんだな。俺じゃブカブカだ」
ズボンはガバガバで、端っこを安全ピンで留めて無理矢理履いている。Tシャツは襟ぐりがデカくて肩からずり落ちそうだ。
「いい。そのままでいいぞ、吉良」
なぜか湊も水谷も嬉しそうだ。
「悪い、湊のだもんな。洗って返すから」
「いい! 洗わなくていい!」
湊が全力で遠慮してきた。
「いや、そうはいかないだろ、俺の制服だってクリーニングに出してもらったのに」
吉良の制服は日野が走ってクリーニングに出しに行ってくれた。何もかも至れり尽せりで、申し訳ないくらいだ。
「いいんだ! 俺のためを思うなら絶対に洗わずにそのまま返してくれ!」
「なんだよ、そこまで言うなんてさ……」
洗い方にこだわりでもあるのだろうか。Tシャツとジャージなんだから寮の洗濯機で普通に洗ってもいいんじゃないのか?
「あー、落ち着かねぇ。パンツがないからスースーするわ」
さすがにパンツは借りられず、ノーパン状態だ。
この格好で寮まで戻ればいいので、なんとかなるだろうが。
「湊先輩、俺、今すぐ襲いかかってもいいですか?」
「駄目だ水谷。俺だってギリギリのところで耐えてるんだから、あまりそういうことを言うな。俺までおかしくなったらここで大変なことが行われてしまう。他の部員に示しがつかん!」
このふたりはいったい何と戦っているのだろう。水泳部代表として大きな使命を抱えているのだろうか。
そのとき不意にクシュン! とくしゃみが出た。
身体が濡れて、体温が下がったのだろう。
「悪ィ、身体が冷えたみたいだ」
情けない、笑ってくれと思って苦笑いをするが、ふたりとも全然笑ってない。
「吉良、俺が温めてやる——」
「吉良先輩、俺の胸の中に飛び込んで来てくださいっ!」
はぁ? こいつらいったい何を言ってるんだ?
「じゃあな、俺は寮に帰る。色々世話になったな。ありがとう」
吉良が水泳部の部室を出ようとすると水谷に止められた。
「吉良先輩、寮まで送ります」
「俺も送る。こんな状態の吉良をひとりにはしておけない」
「はぁ?」
体調は悪くないし、何が問題なんだよ。
「水谷ひとりに任せる訳にもいかない。世の中には送りオオカミって言う言葉があるんだ」
「湊先輩。その言葉、そっくりそのまま先輩にお返しします」
このふたりは実はかなり気が合っているのか?!
「先輩。世の中には3Pって言葉があるのをご存知ですか?」
「水谷。そういう楽しいワードをこれ以上口にするな。理性が壊れるだろ」
変な奴らだが、まぁ、ふたりが楽しそうならいいか。
◆◆◆
それから三日後。水泳の補講の日、水泳部がTA(ティーチングアシスタント)についた。
泳ぎのランクでコースが二つに分かれていて、吉良のいる泳げないAコースのTA担当は湊、隣のまぁまぁ泳げるBコース担当は水谷だった。
「吉良。もっと足を開け」
「はぁっ……うっ……。湊、これ以上は無理だ」
遠泳のときに平泳ぎができるといいと言われプールの端っこでヘリに掴まった状態で指導を受けるが、湊に足首を掴まれ基本フォームから教わるとは思わなかった。これは羞恥の極みだ。
「股関節が硬いな……これじゃいざ本番ってときにヤりにくいだろ」
「しょうがないだろ。あっ……それ以上広げるなって!」
本番は九月の遠泳だ。それまでに少しはストレッチでもするべきか。
あー、それにしてもこれじゃまるで小学生だ。恥ずかしいったらない。
クッソ、こんな時間早く終わってくれ!
「吉良は本当に綺麗だな。この身体に触れられるなんて幸せでしかない……マジで勝ってよかった……」
綺麗? 湊の指導のお陰で、少しはフォームが綺麗に改善されてきたのだろうか。
休憩中に湊と水着のままで話をしていたのだが、ものすごい視線をひしひしと感じる。
というのも隣には湊がいる。逞しい体躯の水泳部の湊の身体には男ながらに惚れ惚れするのだろう。それで、皆の視線が集まっているようだった。
「吉良の水着姿だ……」
「乳首ピンク、乳首ピンク」
「やっばい、目に焼き付けよう……」
確かに自分でもやばいと思う。湊と並ぶと自分の身体がさらに貧相に思えて、ここにいることすら恥ずかしい。
そのとき、吉良の肩にふわっとジャージがかけられた。
「吉良、これ着とけよ」
ジャージをかけてくれたのは湊だ。湊は吉良がいたたまれない気持ちになっていることを察してくれたのかもしれない。
「俺のジャージ使っていいから。あいつら吉良のことをいやらしい目で見やがって! 本当男って奴は嫌だよな!」
「いや、俺もお前も男……」
「吉良の太腿の裏のあんなところにホクロがあるとか、実は結構色が白いとか、乳首が可愛いとか、そんな可愛い秘密をあいつらに見せたくないっ!」
いや、湊、お前こそ随分と俺の身体を見てたんじゃないのか?!
「吉良は見せ物じゃない。俺だけの吉良だよな?」
「んん?!」
今は湊とだけ話をして欲しいから、そういう括りにされたのか?!
「水着の吉良、すげぇ可愛い。水泳部に入れよ。毎日一緒に泳ぎたい」
「いや、水泳部なんて無理だっ」
この貧相な身体と酷い水泳技術でどうやって俺が水泳部でやっていくんだよ、絶対に無理だ!
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