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七月 親衛隊に転校生はその翌日から加入するルール
3.
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「悪い、遅くなった」
生徒会長の朝日が生徒会室にやってきた。そして「お前ら、距離が近いっ、少し離れろっ」と一喝する。
なんのことだと周りを見ると、両隣りにぴったりと土方と木瀬。気づけば吉良の背後にも生徒会の面々が集まっている。皆は朝日に言われてサッと身を引いた。
生徒会のメンバーは仲が良いんだろう。でも確かに距離が近すぎて少し気になるよな……。
「吉良、お前に相談があるんだ」
朝日は対面にあるソファに座り話を持ちかけてきた。
「吉良は生徒会に入る気はないか?」
「……は?」
朝日はどうかしたんじゃないのか?
「朝日。俺には無理だろ。だって生徒会って、みんな優等生ばっかりだろ?!」
「事情があって欠員が出たんだ。欠員が出た場合は、それを補うかどうか、補うとしたら誰を入れたいか生徒会で決められることになっている。話し合いの結果、みんな吉良に来て欲しいと言うことで話がまとまったんだ。任期は12月まで。どうだ? 吉良。生徒会に来てくれないか?」
いや、他にも優秀な奴は山ほどいる。なのにどうして吉良が選ばれたのか……。
「いや、俺何もできないよ」
「吉良。わからないことは全力でサポートするし、一緒にやらないか? もしお前がこの生徒会室に居てくれたら、みんなのモチベーションが違うというか……癒しというか……毎日が楽しくなりそうで……」
他の生徒会メンバーも、朝日の言葉に頷いている。
「頼む。吉良、どうしてもダメか……?」
土方に懇願される。
「吉良。俺はお前と思い出を作りたい。少しでも吉良と一緒にいたいんだ」
木瀬。やけに真剣だな。
なんなんだよ、急に。生徒会メンバーみんなで寄ってたかって……。
わかった。さっきの異常なおもてなしも、吉良を生徒会に取り込むためのワイロみたいなものなのだろう。
「生徒会のみんなにも良くしてもらって悪いけど、俺には生徒会の仕事はできない。朝日、断らせてくれ」
平凡でなんの取り柄もない吉良には到底務まらない。吉良は立ち上がり、皆の輪を抜け出て生徒会室を去る。
「待てよ、吉良っ!」
朝日が追いかけてきて「もう少しだけ話をさせて欲しい」と吉良の腕を掴んできた。
こんなに必死な朝日を邪険にも出来ず、二人は生徒会室を出てすぐの廊下で二人きり話をする。
廊下から窓の外を眺めながら、朝日はぽつり話し出した。
「吉良。俺だって何もない。それでも必死でこの学校の奴らに食らいついて来たんだよ」
朝日が? 何もない?! 今や学年トップの成績を誇る朝日が何もないなら、その他大勢はどうなるんだよ!
「朝日はすごいじゃん。人望もあるし、生徒会会長に相応しい能力の持ち主だ」
「そうかな。まぁ、生徒会として困ってる奴や生徒のサポートする仕事は嫌いじゃない」
だろうな。朝日はおせっかいな程、首を突っ込んでくるタイプの人間だ。いつでも誰にでも親身になってくれるから、みんな朝日のことを頼るし慕っている。
「吉良。実はさ、少し前に、俺の両親の離婚が正式に決まったんだ」
「えっ?!」
朝日。そんな大事そうな話をなんで急に……。
「俺がこの高校に入学してすぐに、親父の会社の経営が傾いてさ、借金ばっかりすごくてさ。俺の母親は親父に愛想尽かして即別居。俺はこの学校に残りたかったから、必死だよ。必死で勉強して特待生になるしか方法がなくてさ、そっからバカみたいに勉強した」
「嘘だろ、朝日。お前のそんな話、誰からも聞いたことない……」
「当たり前だ。今まで誰にも話してないからな」
「朝日の父親の会社は今も普通に経営してるだろ?」
「表向きは。でももうすぐ明るみに出ると思う。内情は偽装ばっかで、とっくに終わってるんだよ。ひどいだろ? 誤魔化し続ける親父も嫌いだし、すぐに親父を見捨てて逃げる母親も嫌いだ」
「朝日……」
全然わからなかった。朝日はいつも笑顔だったから。
「な? 俺には何もないんだよ。でもこうやって生徒会の会長出来てるんだぜ? だから吉良にも出来るよ」
いや、朝日。お前には逆境にも負けない強さと、そんな状況の最中、人の世話を焼く優しさがあるじゃないか。
「いや、俺は朝日みたいにはなれないよ」
「俺になれなんて思ってない。俺のそばにいて支えてくれないか? 吉良がいてくれさえすれば俺、これから先何があっても頑張れるから」
朝日は吉良の手をぎゅっと握る。
「もちろん吉良のことも俺が助ける。吉良が困ったり、嫌な目に遭った時は俺が守る。俺がいるから。俺を頼ってくれていいから」
確かに朝日は頼りになる。吉良が生徒会にいることで何かトラブルに遭ったら全力で守ってくれそうだ。
「だから、前向きに考えてくれないか?」
朝日が生徒会メンバーに吉良を選ぶなんてあきらかに人選ミスだと思うのに、こんなに真剣に誘われてしまうとこんな自分でもいいのかと思ってしまう。
「待ってるから。もう吉良以外は考えられないんだよ」
明日は吉良の手を引き、吉良を抱き寄せる。抱き締めるのも束の間、朝日はすぐに身体を離した。
そして「じゃあな。吉良」と軽く手を振り生徒会室へと戻っていった。
朝日……。ここまで言われたら断りにくいだろうが。
生徒会長の朝日が生徒会室にやってきた。そして「お前ら、距離が近いっ、少し離れろっ」と一喝する。
なんのことだと周りを見ると、両隣りにぴったりと土方と木瀬。気づけば吉良の背後にも生徒会の面々が集まっている。皆は朝日に言われてサッと身を引いた。
生徒会のメンバーは仲が良いんだろう。でも確かに距離が近すぎて少し気になるよな……。
「吉良、お前に相談があるんだ」
朝日は対面にあるソファに座り話を持ちかけてきた。
「吉良は生徒会に入る気はないか?」
「……は?」
朝日はどうかしたんじゃないのか?
「朝日。俺には無理だろ。だって生徒会って、みんな優等生ばっかりだろ?!」
「事情があって欠員が出たんだ。欠員が出た場合は、それを補うかどうか、補うとしたら誰を入れたいか生徒会で決められることになっている。話し合いの結果、みんな吉良に来て欲しいと言うことで話がまとまったんだ。任期は12月まで。どうだ? 吉良。生徒会に来てくれないか?」
いや、他にも優秀な奴は山ほどいる。なのにどうして吉良が選ばれたのか……。
「いや、俺何もできないよ」
「吉良。わからないことは全力でサポートするし、一緒にやらないか? もしお前がこの生徒会室に居てくれたら、みんなのモチベーションが違うというか……癒しというか……毎日が楽しくなりそうで……」
他の生徒会メンバーも、朝日の言葉に頷いている。
「頼む。吉良、どうしてもダメか……?」
土方に懇願される。
「吉良。俺はお前と思い出を作りたい。少しでも吉良と一緒にいたいんだ」
木瀬。やけに真剣だな。
なんなんだよ、急に。生徒会メンバーみんなで寄ってたかって……。
わかった。さっきの異常なおもてなしも、吉良を生徒会に取り込むためのワイロみたいなものなのだろう。
「生徒会のみんなにも良くしてもらって悪いけど、俺には生徒会の仕事はできない。朝日、断らせてくれ」
平凡でなんの取り柄もない吉良には到底務まらない。吉良は立ち上がり、皆の輪を抜け出て生徒会室を去る。
「待てよ、吉良っ!」
朝日が追いかけてきて「もう少しだけ話をさせて欲しい」と吉良の腕を掴んできた。
こんなに必死な朝日を邪険にも出来ず、二人は生徒会室を出てすぐの廊下で二人きり話をする。
廊下から窓の外を眺めながら、朝日はぽつり話し出した。
「吉良。俺だって何もない。それでも必死でこの学校の奴らに食らいついて来たんだよ」
朝日が? 何もない?! 今や学年トップの成績を誇る朝日が何もないなら、その他大勢はどうなるんだよ!
「朝日はすごいじゃん。人望もあるし、生徒会会長に相応しい能力の持ち主だ」
「そうかな。まぁ、生徒会として困ってる奴や生徒のサポートする仕事は嫌いじゃない」
だろうな。朝日はおせっかいな程、首を突っ込んでくるタイプの人間だ。いつでも誰にでも親身になってくれるから、みんな朝日のことを頼るし慕っている。
「吉良。実はさ、少し前に、俺の両親の離婚が正式に決まったんだ」
「えっ?!」
朝日。そんな大事そうな話をなんで急に……。
「俺がこの高校に入学してすぐに、親父の会社の経営が傾いてさ、借金ばっかりすごくてさ。俺の母親は親父に愛想尽かして即別居。俺はこの学校に残りたかったから、必死だよ。必死で勉強して特待生になるしか方法がなくてさ、そっからバカみたいに勉強した」
「嘘だろ、朝日。お前のそんな話、誰からも聞いたことない……」
「当たり前だ。今まで誰にも話してないからな」
「朝日の父親の会社は今も普通に経営してるだろ?」
「表向きは。でももうすぐ明るみに出ると思う。内情は偽装ばっかで、とっくに終わってるんだよ。ひどいだろ? 誤魔化し続ける親父も嫌いだし、すぐに親父を見捨てて逃げる母親も嫌いだ」
「朝日……」
全然わからなかった。朝日はいつも笑顔だったから。
「な? 俺には何もないんだよ。でもこうやって生徒会の会長出来てるんだぜ? だから吉良にも出来るよ」
いや、朝日。お前には逆境にも負けない強さと、そんな状況の最中、人の世話を焼く優しさがあるじゃないか。
「いや、俺は朝日みたいにはなれないよ」
「俺になれなんて思ってない。俺のそばにいて支えてくれないか? 吉良がいてくれさえすれば俺、これから先何があっても頑張れるから」
朝日は吉良の手をぎゅっと握る。
「もちろん吉良のことも俺が助ける。吉良が困ったり、嫌な目に遭った時は俺が守る。俺がいるから。俺を頼ってくれていいから」
確かに朝日は頼りになる。吉良が生徒会にいることで何かトラブルに遭ったら全力で守ってくれそうだ。
「だから、前向きに考えてくれないか?」
朝日が生徒会メンバーに吉良を選ぶなんてあきらかに人選ミスだと思うのに、こんなに真剣に誘われてしまうとこんな自分でもいいのかと思ってしまう。
「待ってるから。もう吉良以外は考えられないんだよ」
明日は吉良の手を引き、吉良を抱き寄せる。抱き締めるのも束の間、朝日はすぐに身体を離した。
そして「じゃあな。吉良」と軽く手を振り生徒会室へと戻っていった。
朝日……。ここまで言われたら断りにくいだろうが。
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