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七月 親衛隊に転校生はその翌日から加入するルール
2.
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「吉良。ちょっといいかな」
昼休みに水李葉が吉良のもとにやってきた。
そうだった。水李葉は、今日転校してきたばかりで学校に慣れていない。
「もちろん。この学校のこと、水李葉はよく知らないよな。俺が案内するよ」
「え? あ、ああ。そうだね。吉良と二人きりになれるならなんでもいいよ」
吉良以外の人は嫌なのか。水李葉は変わってないな。相変わらず人見知りのままなんだろう。この学校の奴らはみんないい奴だから、吉良以外の友達もいずれ作った方がいい。
「吉良。転校生の学校案内は俺がやる。だからお前は何もしなくていい」
吉良と水李葉の間に割って入ってきたのは木瀬だ。木瀬はこの学校の生徒会の副会長を務めている。
転校生には、まず生徒会が案内し、ルールを教えている。だから木瀬は水李葉に声をかけてきたのだろう。
「……は? お前誰? 邪魔するなよ。俺は吉良に案内してもらいたい。お前は嫌だ」
水李葉は初対面の木瀬をいきなり睨みつけている。いや、違う。きっと初対面の人間が苦手で、つい目つきが悪く見えてしまうだけなのだろう。
「俺は木瀬。転校生に学校のルールを教えるのは生徒会の役目になってるんだ。だから今から俺が案内してやる」
「断る。要らない。吉良がいい」
「ダメだ。お前の魂胆はわかってる。吉良と二人きりになりたいだけなんだろ。さっきからお前の行動は目に余る」
木瀬の言葉に、水李葉が眉をひそめた。
「……意味がわからない。吉良、もしかしてこの木瀬って奴と付き合ってるの?」
さらっと恐ろしいことを言う水李葉に、「そんなことあるわけないだろっ」と吉良は咄嗟に反論する。
「なぁ、木瀬もいい迷惑だよな」
と同意を求めて木瀬の方を見たら、木瀬は柄にもなく耳まで真っ赤になっている。
まさか、木瀬。照れてるのか……? 人前でいくらでも演説できる、あの木瀬が?!
確かに木瀬の浮いた話なんて聞いたことがない。生徒会らしく品行方正。文武両道。優しくてモテる話はあるが、もしかしたら恋愛面に関しては経験が浅すぎてちょっと水李葉に揶揄われただけで恥ずかしくなってしまったのだろうか。
「そ、そうだぞ、俺と吉良が付き合ってるだなんてことはない。まさか俺が吉良の恋人で、それで吉良とデートしたり、イチャついたり、そんなこと、吉良と……」
木瀬。想像が過ぎるぞ。しかもなんでそんなに嬉しそうなんだよ。
「だったら邪魔するなよっ! 俺、吉良のそばにいられないならこの学校に来た意味がない。生徒会は仕事をしたことにしてくれればいい。行こう、吉良。俺、吉良に話したいことがあるんだ」
水李葉は吉良の手首を掴んで教室を抜け出そうとしたが、その目の前に立ちはだかったのは朝日と土方だ。朝日はこの学校の生徒会の会長で、土方は生徒会の会計だ。
「ダメだ。転校生。この学校にはこの学校のルールがある。追い出されたくなければ従ってもらうからな」
朝日と土方、木瀬の三人によって水李葉は半ば強制的に連れて行かれた。
◆◆◆
放課後、吉良は生徒会室に呼ばれた。なぜ呼ばれたのかもわからないし、生徒会室に立ち入ることすら初めてだ。
だからひどく緊張していたのに、
「吉良っ、ここに座ってくれよ」
と学校らしからぬ三人がけのスタイリッシュな黒革のソファの中央に座るように促され、
「吉良先輩、紅茶でいいですか?」
とお茶とお菓子を用意され、
「吉良。良かったらこれ貰ってくれないか?」
と急にプレゼントを渡され、さっきから生徒会室でやけにおもてなしを受けている。
「あ、ありがとう……」
生徒会は、こんなにも生徒を優しくもてなすものなのだろうか。
「えっ、お前ずるくねぇ? プレゼントとかアリなのかよ」
「アリだろ。規則で禁止されてない」
吉良の背後で何やら内輪揉めをしているようだ。
「吉良。これ、お前に受け取って欲しい」
今度はまた別の奴に手紙を渡された。なんなんだ、この生徒会の奴らは……。
「吉良。俺、ちょっと吉良に確認したいことがあるんだが……」
生徒会会計の土方が、吉良の隣に座って声をかけてきた。それを見て、もう片方の隣に木瀬が座り「俺も聞きたい」と耳を寄せてきた。
「今日来た転校生と吉良は幼馴染なのか?」
土方の声は穏やかだが、眼鏡の奥の目はやけに真剣だ。
「ああ。子供の頃よく一緒に遊んだんだけど、まさか水李葉が俺のことを憶えてくれてるだなんて思わなかったよ」
水李葉の記憶力はきっと凡人には想像もつかないくらいなんだろう。
「吉良は、水李葉って奴とはなんでもないんだよな……?」
「え? あ、ああ……」
「吉良はあんな奴興味ないよな?」
今朝の水李葉の冗談を気にしているのか?
それは生徒会とは関係ないことだと思うのに。
「水李葉と俺は今日久しぶりに会ったばかりだ。それなのにどうこうすることなんてないよ」
「それならいいんだけど……俺、すごく怖いんだ……」
「怖い? 土方が?」
あり得ないだろ。何があっても鉄仮面みたいに表情一つ変えない奴が何を言う。
「ああ。怖い。あんな突然現れた奴にかっさわれたらと思うとすごく怖い。このまま誰のものにもならないで、いつまでも吉良のことを好——」
「土方!」
何かを言いかけた土方を、木瀬が制する。
「気をつけろ。ルールを思い出せ」
「……すまない」
なんだよ、この二人……。
昼休みに水李葉が吉良のもとにやってきた。
そうだった。水李葉は、今日転校してきたばかりで学校に慣れていない。
「もちろん。この学校のこと、水李葉はよく知らないよな。俺が案内するよ」
「え? あ、ああ。そうだね。吉良と二人きりになれるならなんでもいいよ」
吉良以外の人は嫌なのか。水李葉は変わってないな。相変わらず人見知りのままなんだろう。この学校の奴らはみんないい奴だから、吉良以外の友達もいずれ作った方がいい。
「吉良。転校生の学校案内は俺がやる。だからお前は何もしなくていい」
吉良と水李葉の間に割って入ってきたのは木瀬だ。木瀬はこの学校の生徒会の副会長を務めている。
転校生には、まず生徒会が案内し、ルールを教えている。だから木瀬は水李葉に声をかけてきたのだろう。
「……は? お前誰? 邪魔するなよ。俺は吉良に案内してもらいたい。お前は嫌だ」
水李葉は初対面の木瀬をいきなり睨みつけている。いや、違う。きっと初対面の人間が苦手で、つい目つきが悪く見えてしまうだけなのだろう。
「俺は木瀬。転校生に学校のルールを教えるのは生徒会の役目になってるんだ。だから今から俺が案内してやる」
「断る。要らない。吉良がいい」
「ダメだ。お前の魂胆はわかってる。吉良と二人きりになりたいだけなんだろ。さっきからお前の行動は目に余る」
木瀬の言葉に、水李葉が眉をひそめた。
「……意味がわからない。吉良、もしかしてこの木瀬って奴と付き合ってるの?」
さらっと恐ろしいことを言う水李葉に、「そんなことあるわけないだろっ」と吉良は咄嗟に反論する。
「なぁ、木瀬もいい迷惑だよな」
と同意を求めて木瀬の方を見たら、木瀬は柄にもなく耳まで真っ赤になっている。
まさか、木瀬。照れてるのか……? 人前でいくらでも演説できる、あの木瀬が?!
確かに木瀬の浮いた話なんて聞いたことがない。生徒会らしく品行方正。文武両道。優しくてモテる話はあるが、もしかしたら恋愛面に関しては経験が浅すぎてちょっと水李葉に揶揄われただけで恥ずかしくなってしまったのだろうか。
「そ、そうだぞ、俺と吉良が付き合ってるだなんてことはない。まさか俺が吉良の恋人で、それで吉良とデートしたり、イチャついたり、そんなこと、吉良と……」
木瀬。想像が過ぎるぞ。しかもなんでそんなに嬉しそうなんだよ。
「だったら邪魔するなよっ! 俺、吉良のそばにいられないならこの学校に来た意味がない。生徒会は仕事をしたことにしてくれればいい。行こう、吉良。俺、吉良に話したいことがあるんだ」
水李葉は吉良の手首を掴んで教室を抜け出そうとしたが、その目の前に立ちはだかったのは朝日と土方だ。朝日はこの学校の生徒会の会長で、土方は生徒会の会計だ。
「ダメだ。転校生。この学校にはこの学校のルールがある。追い出されたくなければ従ってもらうからな」
朝日と土方、木瀬の三人によって水李葉は半ば強制的に連れて行かれた。
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放課後、吉良は生徒会室に呼ばれた。なぜ呼ばれたのかもわからないし、生徒会室に立ち入ることすら初めてだ。
だからひどく緊張していたのに、
「吉良っ、ここに座ってくれよ」
と学校らしからぬ三人がけのスタイリッシュな黒革のソファの中央に座るように促され、
「吉良先輩、紅茶でいいですか?」
とお茶とお菓子を用意され、
「吉良。良かったらこれ貰ってくれないか?」
と急にプレゼントを渡され、さっきから生徒会室でやけにおもてなしを受けている。
「あ、ありがとう……」
生徒会は、こんなにも生徒を優しくもてなすものなのだろうか。
「えっ、お前ずるくねぇ? プレゼントとかアリなのかよ」
「アリだろ。規則で禁止されてない」
吉良の背後で何やら内輪揉めをしているようだ。
「吉良。これ、お前に受け取って欲しい」
今度はまた別の奴に手紙を渡された。なんなんだ、この生徒会の奴らは……。
「吉良。俺、ちょっと吉良に確認したいことがあるんだが……」
生徒会会計の土方が、吉良の隣に座って声をかけてきた。それを見て、もう片方の隣に木瀬が座り「俺も聞きたい」と耳を寄せてきた。
「今日来た転校生と吉良は幼馴染なのか?」
土方の声は穏やかだが、眼鏡の奥の目はやけに真剣だ。
「ああ。子供の頃よく一緒に遊んだんだけど、まさか水李葉が俺のことを憶えてくれてるだなんて思わなかったよ」
水李葉の記憶力はきっと凡人には想像もつかないくらいなんだろう。
「吉良は、水李葉って奴とはなんでもないんだよな……?」
「え? あ、ああ……」
「吉良はあんな奴興味ないよな?」
今朝の水李葉の冗談を気にしているのか?
それは生徒会とは関係ないことだと思うのに。
「水李葉と俺は今日久しぶりに会ったばかりだ。それなのにどうこうすることなんてないよ」
「それならいいんだけど……俺、すごく怖いんだ……」
「怖い? 土方が?」
あり得ないだろ。何があっても鉄仮面みたいに表情一つ変えない奴が何を言う。
「ああ。怖い。あんな突然現れた奴にかっさわれたらと思うとすごく怖い。このまま誰のものにもならないで、いつまでも吉良のことを好——」
「土方!」
何かを言いかけた土方を、木瀬が制する。
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