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六月 親衛隊に教師は含まれ、教師は生徒の親衛隊の人数を閲覧できるルール
3.
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戦いが始まろうとした時に、雑居ビルの階段の二階から突如飛び込んできて、空中からの攻撃で電光石火、不良二人をいきなり蹴飛ばした男——!
その男が身に纏っているのは白Tシャツにダークグレーのパンツに白スニーカー。顔はピ○チュウを模したお祭りでよく見かけるようなお面で覆っていてわからないが、そのふざけたお面を身に付けているせいでまるで相手をおちょくっているかのようだ。
「お前、まさか!」
柳が後ずさっている。こんなふざけたお面の男が怖いのか……?
「吉良だけは渡せない。無事に返せ」
お面の男は、言い終えると同時にまた相手のひとりを豪快に蹴り飛ばした。体格だって吉良とそう変わらないのに、こいつはやたらと強い。
あまりの強さに不良達は後ずさって、お面の男の様子を伺い始めた。
「あんまり俺を怒らすな」
お面の男は臆せずひとりで不良達に向かっていく。対して相手は攻めあぐねているようだ。
一体何者なんだよ。でも、どうやら吉良の味方みたいだ。
「こいつとやり合うのはやめとけ!」
柳の怒号と共に、不良達はさっと手を引いた。
時々吉良を振り返りながら未練がましく柳達が立ち去り、後に残されたのはお面の男と佐々木と吉良の三人だけになった。
「吉良は俺が寮まで送るよ」
お面の男が佐々木にそう言うと、佐々木は「わかった、任せる」とぽんと男の肩を叩いた。
「吉良、またね」
佐々木は笑顔で挨拶をして立ち去った。そうなると、吉良はこの謎のピ○チュウ野郎とふたりきりになる。
吉良は、誰だこいつ……? の視線をお面の男にむける。
「吉良」
お面の男は吉良の方を振り返り、ピ○チュウのお面を外した。
「お前っ……!」
「ごめん。吉良のことは騙す気なんてなかったんだ」
お面の男は賢治だった。賢治はいつもみたいに穏やかな表情だ。
「嘘だろ?! えっ?! さっき……」
ひとりサッサと逃げたんじゃなかったのか?! しかもあの機敏な動きはなんだよ。学校では大人しくしているくせに、その実、賢治はケンカが強いのか?!
「逃げたふりをしてごめん。でもああするしかなかった。俺、実は正体隠して不良やってる。しかもチームのトップだ」
「信じらんねぇ……」
吉良は賢治に対しては学校での、弱々しいイメージしかなかった。でも、さっきのお面を被った別人のような賢治が、本当の賢治なのかもしれない。
「学校では大人しくしてるんだ。だから吉良、このことは誰にも言わないで」
「あ、ああ……」
「帰ろうか、吉良。今日だけ吉良の部屋の前まで送らせてよ」
「いや大丈夫だってっ」
賢治は心配しすぎだ。寮にはさっきの不良なんていない。
「そうだよね。吉良と少しでも長く一緒にいたかっただけ。俺の我儘。なんでもないから忘れて」
なんだよ、そんな言い方ずるいだろ。
でも、吉良も賢治と少しだけ話がしたいと思っている。賢治に訊きたいことがある。
「賢治。関係ない俺が首を突っ込むことじゃないのかもしれないけど、お前さえよければさっきの男のこととか、お前のこととか俺に話してくれないか……?」
賢治にしてみればいい迷惑かもしれないなと思いながらも、吉良の興味本位。
「じゃあさ、吉良。い、今から俺の部屋に来てくれないか? あのっ、少し混み入った話であまり人に聞かれたくない話だから……」
賢治は言いながらどんどん下を向いてしまっている。耳は真っ赤だ。賢治は人とのコミュニケーションの際、緊張してしまうタイプのようだ。
「いいよ」
「えっ?! いいのっ?!」
おいおい、自分から誘っておいてびっくりすることないだろう。
◆◆◆
「入って」
賢治の部屋は、吉良と同じ棟の同じ階だ。確か弟の三玖と同室だったと思うが、三玖はまだ帰っていないようで、部屋には居なかった。
「随分キレイにしてるんだな」
兄弟二人とも、散らかってない。こういうところに性格が出るなと思う。
「うん。俺、物少ないからさ」
座るところもないので、賢治とふたりで並んでベッドを椅子代わりにして座る。
「元々は兄貴も、さっきの柳って奴も同じチームの仲間で幹部同士だったんだ。でも、その当時総長だった奴が事故で死んで、それ以来チームはすっかりバラバラになったんだよ」
「へぇ……」
事故ということは、総長がある日突然いなくなったのか。
「特に、柳のチームと、兄貴のチームはやり方の違いから犬猿の仲みたいになっちゃってさ。そのうち兄貴がカタギに戻るって辞めて、誰かが兄貴のチームを継ぐことになったんだけど兄貴は当時不良でもない俺を総長に指名しやがったんだっ」
「なんでだ?!」
「わからない。まぁ、昔から兄貴や三玖とやり合って喧嘩は強かったんだけどさ」
佐々木は賢治の強さに気づいていたからこそ、あとを継がせたかったのか……?
「その時兄貴がさ、身バレはしない方が楽だからって言うから、総長になる時はいつも顔を隠してる。確かに兄貴の言うとおり、正体を隠しているお陰で、学校生活は平和に送れるし、突然喧嘩ふっかけられることもない。兄貴は不良やってたことでカタギに戻ろうとした時、苦労したんだってさ。だから俺には普通に学校生活しながら総長も出来る策を考えてくれたのかな」
すごいな、こいつは表は大人しい高校生。裏では不良のチーム総長として動いていたのか。
「まぁ、そのせいで勉強する時間が減って、補講ばっかりだから、普通の学校生活じゃないかもしれないけど」
賢治は笑ってる。学業と裏の顔の両立は大変そうだ。
「柳は、正体を隠してる総長が誰かを探してる。俺はあんまり総長として姿を現さないから、今のところバレずに済んでるけど……」
「そうか」
さっき柳が佐々木に「知ってるんだろっ」と迫っていたのはきっと総長の正体を暴きたかったからなのだろう。
「ありがとう、賢治。でもこんな大切な秘密を俺なんかに話して大丈夫だったのか?」
さっきだって吉良を助けた後、正体を明かさずにその場からいなくなることも出来たはずだ。なんで賢治は打ち明けてくれたのだろう。
「吉良だけには、本当の俺を知っておいて欲しかったから、かな」
賢治は微かに笑う。
「吉良だけは、俺の特別で……俺の……好……な、で……」
途中からごにょごにょと小さい声で言うから賢治がなんと言ったか聞き取れなかった。
その男が身に纏っているのは白Tシャツにダークグレーのパンツに白スニーカー。顔はピ○チュウを模したお祭りでよく見かけるようなお面で覆っていてわからないが、そのふざけたお面を身に付けているせいでまるで相手をおちょくっているかのようだ。
「お前、まさか!」
柳が後ずさっている。こんなふざけたお面の男が怖いのか……?
「吉良だけは渡せない。無事に返せ」
お面の男は、言い終えると同時にまた相手のひとりを豪快に蹴り飛ばした。体格だって吉良とそう変わらないのに、こいつはやたらと強い。
あまりの強さに不良達は後ずさって、お面の男の様子を伺い始めた。
「あんまり俺を怒らすな」
お面の男は臆せずひとりで不良達に向かっていく。対して相手は攻めあぐねているようだ。
一体何者なんだよ。でも、どうやら吉良の味方みたいだ。
「こいつとやり合うのはやめとけ!」
柳の怒号と共に、不良達はさっと手を引いた。
時々吉良を振り返りながら未練がましく柳達が立ち去り、後に残されたのはお面の男と佐々木と吉良の三人だけになった。
「吉良は俺が寮まで送るよ」
お面の男が佐々木にそう言うと、佐々木は「わかった、任せる」とぽんと男の肩を叩いた。
「吉良、またね」
佐々木は笑顔で挨拶をして立ち去った。そうなると、吉良はこの謎のピ○チュウ野郎とふたりきりになる。
吉良は、誰だこいつ……? の視線をお面の男にむける。
「吉良」
お面の男は吉良の方を振り返り、ピ○チュウのお面を外した。
「お前っ……!」
「ごめん。吉良のことは騙す気なんてなかったんだ」
お面の男は賢治だった。賢治はいつもみたいに穏やかな表情だ。
「嘘だろ?! えっ?! さっき……」
ひとりサッサと逃げたんじゃなかったのか?! しかもあの機敏な動きはなんだよ。学校では大人しくしているくせに、その実、賢治はケンカが強いのか?!
「逃げたふりをしてごめん。でもああするしかなかった。俺、実は正体隠して不良やってる。しかもチームのトップだ」
「信じらんねぇ……」
吉良は賢治に対しては学校での、弱々しいイメージしかなかった。でも、さっきのお面を被った別人のような賢治が、本当の賢治なのかもしれない。
「学校では大人しくしてるんだ。だから吉良、このことは誰にも言わないで」
「あ、ああ……」
「帰ろうか、吉良。今日だけ吉良の部屋の前まで送らせてよ」
「いや大丈夫だってっ」
賢治は心配しすぎだ。寮にはさっきの不良なんていない。
「そうだよね。吉良と少しでも長く一緒にいたかっただけ。俺の我儘。なんでもないから忘れて」
なんだよ、そんな言い方ずるいだろ。
でも、吉良も賢治と少しだけ話がしたいと思っている。賢治に訊きたいことがある。
「賢治。関係ない俺が首を突っ込むことじゃないのかもしれないけど、お前さえよければさっきの男のこととか、お前のこととか俺に話してくれないか……?」
賢治にしてみればいい迷惑かもしれないなと思いながらも、吉良の興味本位。
「じゃあさ、吉良。い、今から俺の部屋に来てくれないか? あのっ、少し混み入った話であまり人に聞かれたくない話だから……」
賢治は言いながらどんどん下を向いてしまっている。耳は真っ赤だ。賢治は人とのコミュニケーションの際、緊張してしまうタイプのようだ。
「いいよ」
「えっ?! いいのっ?!」
おいおい、自分から誘っておいてびっくりすることないだろう。
◆◆◆
「入って」
賢治の部屋は、吉良と同じ棟の同じ階だ。確か弟の三玖と同室だったと思うが、三玖はまだ帰っていないようで、部屋には居なかった。
「随分キレイにしてるんだな」
兄弟二人とも、散らかってない。こういうところに性格が出るなと思う。
「うん。俺、物少ないからさ」
座るところもないので、賢治とふたりで並んでベッドを椅子代わりにして座る。
「元々は兄貴も、さっきの柳って奴も同じチームの仲間で幹部同士だったんだ。でも、その当時総長だった奴が事故で死んで、それ以来チームはすっかりバラバラになったんだよ」
「へぇ……」
事故ということは、総長がある日突然いなくなったのか。
「特に、柳のチームと、兄貴のチームはやり方の違いから犬猿の仲みたいになっちゃってさ。そのうち兄貴がカタギに戻るって辞めて、誰かが兄貴のチームを継ぐことになったんだけど兄貴は当時不良でもない俺を総長に指名しやがったんだっ」
「なんでだ?!」
「わからない。まぁ、昔から兄貴や三玖とやり合って喧嘩は強かったんだけどさ」
佐々木は賢治の強さに気づいていたからこそ、あとを継がせたかったのか……?
「その時兄貴がさ、身バレはしない方が楽だからって言うから、総長になる時はいつも顔を隠してる。確かに兄貴の言うとおり、正体を隠しているお陰で、学校生活は平和に送れるし、突然喧嘩ふっかけられることもない。兄貴は不良やってたことでカタギに戻ろうとした時、苦労したんだってさ。だから俺には普通に学校生活しながら総長も出来る策を考えてくれたのかな」
すごいな、こいつは表は大人しい高校生。裏では不良のチーム総長として動いていたのか。
「まぁ、そのせいで勉強する時間が減って、補講ばっかりだから、普通の学校生活じゃないかもしれないけど」
賢治は笑ってる。学業と裏の顔の両立は大変そうだ。
「柳は、正体を隠してる総長が誰かを探してる。俺はあんまり総長として姿を現さないから、今のところバレずに済んでるけど……」
「そうか」
さっき柳が佐々木に「知ってるんだろっ」と迫っていたのはきっと総長の正体を暴きたかったからなのだろう。
「ありがとう、賢治。でもこんな大切な秘密を俺なんかに話して大丈夫だったのか?」
さっきだって吉良を助けた後、正体を明かさずにその場からいなくなることも出来たはずだ。なんで賢治は打ち明けてくれたのだろう。
「吉良だけには、本当の俺を知っておいて欲しかったから、かな」
賢治は微かに笑う。
「吉良だけは、俺の特別で……俺の……好……な、で……」
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