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六月  親衛隊に教師は含まれ、教師は生徒の親衛隊の人数を閲覧できるルール

2.

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 今日の放課後は居残りで、吉良は補習授業を受けている。吉良なりに頑張ってはいるものの、この学校の生徒達はみんな優秀なため、吉良はいつも補習ばかりだ。

「す、すみません、遅れました……」

 補習授業中に、身体を縮こませながら入ってきたのは佐々木賢治だ。

 賢治も吉良と同じく補習の常連メンバーだ。クラスの中では地味で大人しい。それが賢治の印象だ。

 あれから三玖と賢治が会えたのかどうかはわからないが、とりあえず賢治が来たので三玖に『お前の兄貴が補習に来たぞ』と連絡を入れておいた。


 補習が終わり、吉良は「お前の弟が探してたぞ」と賢治に伝えた。

「そ、そうなんだ。三玖には会ってないけど、後で何の用事だったか聞いてみるよ……」

 いつも通り大人しい賢治だが、話していて吉良は賢治の左頬に誰かに殴られたような痕があることに気がついた。

「おいっ、賢治、それ……」
「えっ。な、なんでもない、なんでもないよ……」

 吉良に怪我を指摘され、慌てて賢治は頬を隠した。

 この学校は平和で、イジメの類いは起きないと思っていた。
 でも、大人しくて暴力とは無縁にみえる賢治が殴られている。
 まさかとは思うが——。


「なぁ、賢治。お前もう寮に帰るだろ?」
「えっ。う、うん……」
「俺と一緒に帰ろうぜ」
「いいの? 俺が、吉良と?」
「ああ。ダメか?」
「ううん、ダメじゃない、俺、吉良と一緒に帰るの夢だったんだよ。嬉しいな」

 大袈裟な奴だな、賢治は。

 たしかに賢治はいつも一人ぼっちでいることが多い。誰かと一緒に帰っているところも見かけたことがない。

 本当は友達と帰りたいと思っていたのかもしれないな。




「なぁ、賢治。それ、誰かに殴られたんだろ?」

 帰りの道すがら、賢治にもう一度訊ねてみる。

「う、うん……。でも殴られるような事をした俺が悪いんだ。だから吉良は気にしないで」

 おい。殴られておいて自分を責めるなんてそんな悲しいことをするなよ!

「賢治。困ってることがあるなら俺に相談してくれよ? ひとりで抱え込むな。俺にだって出来ることあるかもしれないし、お前には兄貴と弟もいる。俺がダメならあの二人に頼ることだって出来るんじゃないのか?」
「そうだね……。ありがとう、吉良。心配してくれて……」

 弱々しい賢治の返事。

 二人の会話はそこで途切れた。学校の敷地を出てすぐの路上から、何やら不穏な声が聞こえてきたからだ。



「おい! 佐々木ィ。お前知ってんだろ?! さっさと吐けよ!」

 声の方を見ると、そこには美術教師の佐々木と、ガラの悪そうな不良の集団。佐々木はその男達に取り囲まれている。

「俺はもう引退して、まともに仕事やってんだ。そいつが誰かも知らないし、俺には関係ない」

 佐々木は屈強な男達に囲まれても涼しい顔をしている。

「ハァ? お前に教師なんて仕事、出来るわけねぇだろ! 笑わせんな!」

 対して不良たちはいきり立っている。


「おい、賢治。お前の兄ちゃん、大丈夫なのか……?」

 小声で隣にいる賢治に訊ねてみる。佐々木は余裕ある態度だが、状況はどうみても佐々木が恫喝されているようにしか見えない。


「兄貴は昔、不良グループの幹部だったんだ」
「えっ! 嘘だろ?!」

 教師が、元不良?! 信じられない。だって今の佐々木には見た目も雰囲気も不良らしさなんてまるでない。

「だから、大丈夫だとは思うけど……でもきっと、た、助けを呼んだ方がいい」

 賢治が一歩、二歩と後ずさる。その気持ち、わかる。自分があんな奴らとまともに戦えるわけがない。助けを呼ぶのが賢明だ。


「なんだてめぇらっ!」

 二人の存在に気がついた不良がこちらに近づいてくる。

「ひぇっ! ごめんなさいっ!」

 賢治は一目散に逃げた! ものすごい逃げ足で、あっという間に姿が見えなくなるくらいの速さで……。


「えっ?」

 吉良は判断に迷い、完全に逃げそびれた。そのまま男に肩を掴まれ、「ちょっと来い」と集団の中に引っ張り込まれる。

「えっ、えっ?」

 なんで通りすがりの吉良が巻き込まれるのかわからない。佐々木も「そいつは関係ないだろ!」と怒声をあげている。そうだ、佐々木の言う通りだ。俺は無関係だと訴えたい。



「嘘だろ……こいつ……」

 なぜか不良のトップらしき男に値踏みされるような、舐めまわされるような視線を受ける。

「佐々木。これはどういうことだ……?」

 男は佐々木に説明を求めている。  

 一体何がなんなんだ……?

「俺の教えてる学校の生徒だ。柳。お前が驚くのも無理はないが、こいつは全くの別人だよ。恐ろしいことに顔だけじゃない、声までそっくりだ」
「そうなのか……? お前、名前は?」
「え……な、なんでしょう……」
「言えよ」

 怖え。個人情報を特定して危害を加える気なのか?!

「言え」
「き、吉良です……」
「吉良か。俺はお前にすごく興味がある」

 柳は不敵な笑みを浮かべている。
 いや、なんで急にこんな怖そうな奴に興味をもたれきゃいけないんだよ。わけがわからない。

「佐々木。お前、なんでこいつのこと隠してたんだ?」
「隠してたわけじゃない。吉良は吉良だから。誰の代わりにもならないだろ」
「へぇ、じゃあお前は吉良のこと、なんとも思わずにいられるって言うのか?」
「……っ!」

 佐々木は言葉を詰まらせた。何か事情があるのだろうか。

「おい。佐々木。お前、やっぱり……」
「黙れ。とにかくこいつは吉良だ。何人たりとも吉良に手出しはさせない。やなぎ、お前でも俺は容赦しない」

 佐々木は吉良を庇うような動きをみせた。

「お前、ひとりだぞ? そういうことは状況見て言えよ」

 なんか、じりじりと不良たちに囲まれていっているような……。

「吉良。大丈夫だ。俺がついてる」

 佐々木とふたり、背中合わせになるような状況下で、佐々木はそっと耳打ちしてきた。

 そう言われても、吉良は怖くて仕方ない。

「吉良。抵抗しないで俺のところに来いよ。俺はただお前と一緒に遊びたいだけだ」

 悪そうな笑みを浮かべながら遊びに誘われても無理だ。断るに決まってる。

「あ、あの、事情はわかりませんが、穏便に済ませませんか? 俺、なんでこんなことになってるか理解ができなくて——」
「知りたいなら俺についてこいよ!」

 思いっきり睨まれた。いや、誘い方っていうもんがあるだろう。ただただ怖ぇよ。

「こないなら、力ずくでいくぜ!」

 柳の声を合図に取り囲んでいた男たちが一斉に動き出した!

 わけもわからないまま、佐々木とふたりでこの状況を突破するしかないのか——!
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