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五月 親衛隊は推しを好きになってしまったら自動的に加入させられるルール
2.
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体育祭当日。
「うわー、緊張するなー」
朝から紙屋が吉良の横でぼやいている。
「紙屋は大変だな。リレ選でも、短距離でも一位取れってプレッシャーかけられてんだもんな」
クラス対抗で、皆で優勝目指して今日まで頑張ってきた。特にリレーは点数配分が高く、そのアンカーをつとめることになった紙屋の負担は半端ないだろう。
「でも俺頑張るよ。吉良、俺のこと見ててくれるよな?」
「もちろん! 全力で応援する」
「ありがとう。俺、お前のためだけに走るわ」
いや、クラスのためだろ。
「もしさ、もし俺が、どっちも一位を獲ったら吉良から何か俺にご褒美くれよ」
「え? 俺何も持ってねぇけど……」
「そういうのあったら、モチベアップして、俺、頑張れそうだから」
まぁ。何かあった方がたしかに人間やる気は出るだろう。
「ハグしたい」
「は?!」
「吉良をギュッてしたい。少しの間だけでもいいからお前を独り占めしたい」
「は?! いや、そんなんいつもしてるだろっ」
紙屋は馴れ馴れしいところがあって、スキンシップは多い方だ。「やったーっ!」と喜んで抱きついてきたりしたこともあるし、それは岩野や小田切にもしているので、吉良に限った行動ではない。
「違くて。そんなんじゃなくて。マジのやつ」
いつものはマジじゃないってことか? ハグに種類なんてないだろ。
「いいよ。よくわかんねぇけど、それで紙屋がいいなら」
「マジで?! うわ、俺、嬉しくてもうお前に抱きつきそうだよ……。でも我慢する。俺絶対に頑張るわ!」
急に紙屋は嬉しそうだ。なんでこんなことくらいで……。どうせ二位になっても「悔しいっ」と抱きついてくるんだろうが。
まぁ。紙屋がやる気を出してくれてよかったよ。
◆◆◆
紙屋は短距離走で見事一位を獲った。そして次の種目は二人三脚だ。リレーは1番盛り上がるので体育祭のラストに行われる。
「紙屋たちも頑張ってるし、俺らも頑張んないとな!」
隣にいる黒田に声をかける。黒田も「そうだな」と愛想よく返事をしてくれた。
黒田と一緒に練習していて吉良は気づいたのだが、黒田は無愛想なやつではない。
二人三脚のペアになってからというもの、やたらと「吉良、一緒に練習しようぜ」とか「一緒に帰らないか」などと声をかけてくるのだ。この前は「昼メシを一緒に食わないか」と言われ、珍しい事もあるな、たまにならいいかと吉良がOKしようとしたら、「ふざけるな!」と小田切、岩野、紙屋の三人に全力で阻止された。
黒田はなんで俺に構ってくるんだろう……。
最近こそ真面目に学校に来ているが、もともと学校をサボり気味だった黒田は、友達が少ないのかもしれない。一匹狼みたいなイメージの奴だ。
友達増やしたいのか……?
だが黒田はそんな柄じゃないような……。
二人三脚は無難な順位に終わった。二人は次の競技を遠くから眺めつつ反省会をしている。
「俺たち結構練習したのにな」と吉良が言うと「惜しかったな」と黒田から返ってきた。
「でもまぁ、結果はアレでもよかったよ、黒田と一緒に組めて。お前がこんなに愛想がいいとは知らなかったから」
「吉良だから」
「え?」
「だから、お前だけ」
「あ? ああ。俺と友達になりたいってことか?」
「違う」
「は?」
「俺は、お前が欲しいんだよ」
「はぁ?!」
黒田はこんなとこでいきなり何を言ってるんだ?! 校庭の端にいるが、周りには普通に他の生徒もいる。体育祭だから他校の生徒までいる。
それに欲しいだのなんだのって、意味がわからない。
「吉良って、誰かとキスしたことある?」
「どうした、黒田。お前、ちょっと可笑しくないか……?」
こいつ、俺を見たまま目が据わってないか?!
「お前の最初の男になりたい」
黒田は吉良の両手を握ってくる。吉良は「おいっ!」と抗議する。
「頼む。お前は何もしないでじっとしてくれればいいから」
「バカっ、離せって」
吉良は手を解こうとするが、黒田は力強く抑えて離そうとしない。
そもそも好き同士だってこんな公衆の面前でキスなんてしない。ましてや黒田は吉良の恋人でもなんでもない。
悪ふざけが過ぎるだろと吉良は黒田を突き放そうと抗う。
その時だ。
「おい、黒田。てめぇ何してんだよ!」
現れたのは小田切だ。小田切は、吉良を掴む黒田の手を思い切りひねり上げた。その隙に吉良は黒田から逃れることができた。
「小田切。今のお前、すげぇ怖い顔してんぞ。やっぱお前を怒らせるには吉良を使うのが1番みたいだな」
黒田は小田切に睨まれても構わないようだ。
「うぜぇんだよ、吉良を巻き込むのはやめろ」
「へぇ。お前、やっぱ吉良のこと——」
「黙れ!」
小田切が声を荒げるところなんて見た事がない。
「お前こそ。俺への当てつけだけじゃあんな真似できねぇだろ? 正直に言えよ。当てつけのつもりで吉良に近づいたのに、結果、マジで惚れただろ」
「うっせぇ! とにかく俺は一度でいいからお前に勝ってやるっ。力ずくでもな」
「合意がないのは許さねぇ」
「関係ねぇよ」
「てめぇ、ぶっ殺すぞ!」
「殴りたいなら、殴れよ」
黒田は小田切を煽ってるのか。
「殴るわけない。退学になりたくないからな」
小田切は拳をぐっと握りしめ、黒田を睨みつけている。
「つまんねぇ奴」
黒田は不敵な笑みを浮かべている。
小田切は、そんな黒田を無視して、吉良の腕をとった。
「探したぞ吉良。もうすぐリレーが始まる。一緒に岩野と紙屋を応援しようぜ」
「あ、ああ……」
吉良を掴む小田切の手は力強い。多分怒っているのだろう。冷静な小田切がこんなにイラついて怒るなんて珍しいことだ。
小田切に掴まれた腕から小田切の温もりを感じる。
そういえば吉良は小田切に触れられるのはこれが初めてだということに気がついた。
小田切は、岩野や紙屋には頭を叩いたり、肩を組んだり小突いたりしているが、吉良にだけは一切触れてこない。それをずっと疑問に思っていたから。
「うわー、緊張するなー」
朝から紙屋が吉良の横でぼやいている。
「紙屋は大変だな。リレ選でも、短距離でも一位取れってプレッシャーかけられてんだもんな」
クラス対抗で、皆で優勝目指して今日まで頑張ってきた。特にリレーは点数配分が高く、そのアンカーをつとめることになった紙屋の負担は半端ないだろう。
「でも俺頑張るよ。吉良、俺のこと見ててくれるよな?」
「もちろん! 全力で応援する」
「ありがとう。俺、お前のためだけに走るわ」
いや、クラスのためだろ。
「もしさ、もし俺が、どっちも一位を獲ったら吉良から何か俺にご褒美くれよ」
「え? 俺何も持ってねぇけど……」
「そういうのあったら、モチベアップして、俺、頑張れそうだから」
まぁ。何かあった方がたしかに人間やる気は出るだろう。
「ハグしたい」
「は?!」
「吉良をギュッてしたい。少しの間だけでもいいからお前を独り占めしたい」
「は?! いや、そんなんいつもしてるだろっ」
紙屋は馴れ馴れしいところがあって、スキンシップは多い方だ。「やったーっ!」と喜んで抱きついてきたりしたこともあるし、それは岩野や小田切にもしているので、吉良に限った行動ではない。
「違くて。そんなんじゃなくて。マジのやつ」
いつものはマジじゃないってことか? ハグに種類なんてないだろ。
「いいよ。よくわかんねぇけど、それで紙屋がいいなら」
「マジで?! うわ、俺、嬉しくてもうお前に抱きつきそうだよ……。でも我慢する。俺絶対に頑張るわ!」
急に紙屋は嬉しそうだ。なんでこんなことくらいで……。どうせ二位になっても「悔しいっ」と抱きついてくるんだろうが。
まぁ。紙屋がやる気を出してくれてよかったよ。
◆◆◆
紙屋は短距離走で見事一位を獲った。そして次の種目は二人三脚だ。リレーは1番盛り上がるので体育祭のラストに行われる。
「紙屋たちも頑張ってるし、俺らも頑張んないとな!」
隣にいる黒田に声をかける。黒田も「そうだな」と愛想よく返事をしてくれた。
黒田と一緒に練習していて吉良は気づいたのだが、黒田は無愛想なやつではない。
二人三脚のペアになってからというもの、やたらと「吉良、一緒に練習しようぜ」とか「一緒に帰らないか」などと声をかけてくるのだ。この前は「昼メシを一緒に食わないか」と言われ、珍しい事もあるな、たまにならいいかと吉良がOKしようとしたら、「ふざけるな!」と小田切、岩野、紙屋の三人に全力で阻止された。
黒田はなんで俺に構ってくるんだろう……。
最近こそ真面目に学校に来ているが、もともと学校をサボり気味だった黒田は、友達が少ないのかもしれない。一匹狼みたいなイメージの奴だ。
友達増やしたいのか……?
だが黒田はそんな柄じゃないような……。
二人三脚は無難な順位に終わった。二人は次の競技を遠くから眺めつつ反省会をしている。
「俺たち結構練習したのにな」と吉良が言うと「惜しかったな」と黒田から返ってきた。
「でもまぁ、結果はアレでもよかったよ、黒田と一緒に組めて。お前がこんなに愛想がいいとは知らなかったから」
「吉良だから」
「え?」
「だから、お前だけ」
「あ? ああ。俺と友達になりたいってことか?」
「違う」
「は?」
「俺は、お前が欲しいんだよ」
「はぁ?!」
黒田はこんなとこでいきなり何を言ってるんだ?! 校庭の端にいるが、周りには普通に他の生徒もいる。体育祭だから他校の生徒までいる。
それに欲しいだのなんだのって、意味がわからない。
「吉良って、誰かとキスしたことある?」
「どうした、黒田。お前、ちょっと可笑しくないか……?」
こいつ、俺を見たまま目が据わってないか?!
「お前の最初の男になりたい」
黒田は吉良の両手を握ってくる。吉良は「おいっ!」と抗議する。
「頼む。お前は何もしないでじっとしてくれればいいから」
「バカっ、離せって」
吉良は手を解こうとするが、黒田は力強く抑えて離そうとしない。
そもそも好き同士だってこんな公衆の面前でキスなんてしない。ましてや黒田は吉良の恋人でもなんでもない。
悪ふざけが過ぎるだろと吉良は黒田を突き放そうと抗う。
その時だ。
「おい、黒田。てめぇ何してんだよ!」
現れたのは小田切だ。小田切は、吉良を掴む黒田の手を思い切りひねり上げた。その隙に吉良は黒田から逃れることができた。
「小田切。今のお前、すげぇ怖い顔してんぞ。やっぱお前を怒らせるには吉良を使うのが1番みたいだな」
黒田は小田切に睨まれても構わないようだ。
「うぜぇんだよ、吉良を巻き込むのはやめろ」
「へぇ。お前、やっぱ吉良のこと——」
「黙れ!」
小田切が声を荒げるところなんて見た事がない。
「お前こそ。俺への当てつけだけじゃあんな真似できねぇだろ? 正直に言えよ。当てつけのつもりで吉良に近づいたのに、結果、マジで惚れただろ」
「うっせぇ! とにかく俺は一度でいいからお前に勝ってやるっ。力ずくでもな」
「合意がないのは許さねぇ」
「関係ねぇよ」
「てめぇ、ぶっ殺すぞ!」
「殴りたいなら、殴れよ」
黒田は小田切を煽ってるのか。
「殴るわけない。退学になりたくないからな」
小田切は拳をぐっと握りしめ、黒田を睨みつけている。
「つまんねぇ奴」
黒田は不敵な笑みを浮かべている。
小田切は、そんな黒田を無視して、吉良の腕をとった。
「探したぞ吉良。もうすぐリレーが始まる。一緒に岩野と紙屋を応援しようぜ」
「あ、ああ……」
吉良を掴む小田切の手は力強い。多分怒っているのだろう。冷静な小田切がこんなにイラついて怒るなんて珍しいことだ。
小田切に掴まれた腕から小田切の温もりを感じる。
そういえば吉良は小田切に触れられるのはこれが初めてだということに気がついた。
小田切は、岩野や紙屋には頭を叩いたり、肩を組んだり小突いたりしているが、吉良にだけは一切触れてこない。それをずっと疑問に思っていたから。
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