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五月 親衛隊は推しを好きになってしまったら自動的に加入させられるルール
1.
しおりを挟む小田切(17)攻。クール系イケメン。
岩野(17)攻。野球部。
紙屋(17)攻。陸上部。
黒田(17)攻。一匹狼。喧嘩強い。素行悪。
「おはよう」
「お! 吉良! おはよー」
吉良が教室に到着すると、既にいつめんの三人は教室で駄弁っていた。
「なぁなぁ、吉良! 今日の一限、体育祭で何の種目に出るかを決めるだろ?」
吉良にいつも明るく話しかけてくれるのは岩野だ。
「吉良は何に出るか、決めたのか?」
「あー、俺?」
この高校では5月末が体育祭だ。毎年種目は同じで、今年もきっと二年生の時と変わらないだろう。
「俺は、二人三脚にしよっかな」
吉良は特に走るのは得意ではないので、あまり個人の能力の関係ない種目を選択したかった。
「え?! お前が二人三脚に出るのか?!」
なぜか岩野は驚いている。
「まぁ。俺、お前と違って足も速くないしさ」
「お前が出るなら俺もそうしよっかな……」
岩野がそう呟いたところへ、「待てよ岩野。お前は下手な陸上部より足が速いんだから、短距離に出ろよ!」と言い返したのは紙屋だ。
「うるせぇな、紙屋。吉良と二人三脚やりてぇの! 他のやつに吉良触られるとかヤダし……」
「俺がでる。俺が吉良を守るから、岩野はリレーと短距離! それがクラスのためになるっ」
「はぁ? お前もリレ選なんだから、お前が短距離やれよっ!」
「嫌だ!」
岩野と紙屋の言い合いはいつもの風景だ。この二人の喧嘩を見ていると仲睦まじくて平和だなと感じる。
「二人三脚は、クラスで四人出場するんだから、やりたいなら二人ともやれよ」
たしかに野球部一軍1番打者である岩野と陸上部の紙屋の二人は足が速い。でも体育祭なのだから好きな種目に出たらいいのではと吉良は思う。
「小田切は? お前何に出んの?」
二人の言い合いを横目に、吉良は小田切に声をかける。
「俺は特に決めてないけど」
「そっか。お前ならどれになっても心配ないもんな」
小田切はなんでも卒なくこなせるタイプの男だ。涼しい顔をして一位をかっさらっていくので本気でやってる奴には面白くないと嫉妬されることもある。
「吉良が二人三脚に選ばれたら、このクラス波乱の予感だな」
「え?」
「吉良ってホント大変だな」
「何が?」
「気付いてねぇのがすごいけど」
「何がだよっ!」
小田切は大人びていてどこか達観したところがある。小田切には吉良にはわからないクラスのヒエラルキーのようなものがよく見えるのだろう。
やがて朝のHR(ホームルーム)が始まり、そのまま体育祭の種目決めの時間となった。なぜか二人三脚はめちゃくちゃ人気で、くじ引きの末、吉良は選ばれたが、岩野と紙屋の二人はくじにもれて落胆の声を上げていた。
◆◆◆
結局、吉良は黒田とペアになった。黒田はある有名企業の御曹司らしいが、この高校では珍しい、素行の悪い生徒だ。
昔、空手と柔道と剣道をやっていたらしく、やたらと喧嘩が強いということで有名だ。態度が悪いのに高校を辞めさせられないのは親が多額の寄付金を払ってるからではないかという噂もある。
「よろしくな」
その日の3限から早速、種目別に別れての練習だったので吉良はペアになった黒田のもとへ行き、挨拶をした。
「ああ」
素っ気ない返事だが、黒田はぽんと吉良の肩を叩いてきた。嫌われてはなさそうだ。
「早速練習すっか。足、どっちが走りやすい?」
二人三脚で縛る足のことを言っているのだろう。
「あー、右が自由な方がいいかな」
「了解」
黒田は自身の右足と吉良の左足を縛る。そして吉良の腰に腕を回してきた。
「吉良も俺にもっとくっ付けよ」
左手を取られて黒田の腰に腕を回すように指示される。確かにその方が走りやすいため、吉良は黒田の言葉に従った。そして二人練習を開始する。
「うわ、すげぇ視線。男の嫉妬はみっともねぇな」
吉良も黒田もただ普通に練習しているだけなのだが、黒田は何かを感じたのだろうか。
「へぇ。コイツがねぇ」
ひとっ走り終えた後の休憩中に、黒田は吉良の顔を覗き込んできた。
「なんだ?」
「いや、お前平凡だなと思って」
「ああ。この学校だと平凡な俺は底辺だよ。周りはみんなすごい奴しかいない」
「お前って面白い奴だよな」
「は?」
「俺、学校サボり気味だし、親衛隊だのなんだのよく知らねぇんだけど」
吉良だって親衛隊うんぬんについては、よくわからない。
「お前には興味ある」
「ふーん」
どうせ物珍しいだけだろ。
「俺、この学校で唯一許せねぇ奴がいるんだよ」
「へぇ。そいつに嫌がらせでもされたのか?」
「ああ。まぁな。でもお前がいればそいつを見返してやれるかもしれない」
見返す……?
黒田の視線はクラスの男子の集団に注がれている。だが吉良の印象ではこのクラスは平和だし、見た目かなり怖めで喧嘩の強い黒田に手を出すような奴にも心当たりはない。
◆◆◆
「ないわ、マジでない。合法的に吉良に触りやがって黒田の野郎マジでねぇわ」
「見てらんねぇんだけど……」
放課後の教室で、岩野が何かに怒り、紙屋が肩を落としている姿を吉良は遠くから見つけて、二人のもとに向かっていく。
「元気出せよ」
吉良とほぼ同時に二人のもとにやってきた小田切が慰めの言葉をかけた。
「どうした? 珍しいな、二人が落ち込んでるなんて」
岩野も紙屋も普段は明るくて元気な奴らだ。
「吉良。お前のせいだよ……」
岩野の言葉に「えっ?!」と吉良は驚いた。
俺、なんか岩野に悪いことしたのか……?!
必死で今日を振り返るが、思い当たることなど何もない。
「俺、今日部活休むわ。吉良、放課後これから俺に付き合えよ。ちょっとだけ吉良を充電させて」
「またかよ……」
岩野は寂しがり屋のようで、買い物でもなんでも一人で行けばいいものを、何かと吉良を巻き込んで一緒に行きたがる。
「岩野っ! 吉良に迷惑かけんなっ」
紙屋がすかさず間に入る。
「ありがとう紙屋。でも大丈夫だ」
吉良は紙屋にそう言い、今度は岩野のほうを向く。
「岩野、いいぜ。お前が落ち込んでんなんて落ち着かねぇし、お前に付き合うよ。で。俺と、どこ行きたいんだ?」
「えーっと。ホテル」
岩野のトンデモ発言に吉良がツッコミを入れる前に、紙屋の腹パンと小田切の頭はたきが見事に岩野にクリーンヒットした。
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