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四月 親衛隊は推しに選ばれるまでは想いを伝えてはいけないルール

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 神宮寺が退室し、川上と二人きり。意を決して吉良は話を切り出す。


「なぁ、川上。もし答えにくかったら答えなくてもいい。川上って、その……好きな人とかいるのか……?」
「え! いる。いるに決まってる……」

 川上は、愛おしむような目をしている。即答するなんてよっぽどその人のことが好きなのだろう。その人を思い出すだけで切ない気持ちになるような。

 そしてきっと川上の好きな人とは楯山なのだろう。

「俺の勘違いだったらアレなんだけど、もしかしてその人と最近両想いになれた……とか……?」
「両想いになれたらってずっと思ってるよ。でも、わからない……」

 わからない……?
 川上に告白されても、楯山は気持ちを伝えてはいなかったのか……?

「恋愛って本当に難しいよ。俺はこんなに好きで好きで堪らないのに、その人は俺のことなんてまるで興味がないみたいなんだ」
「嘘だろ?! 川上なら選びたい放題だろ?」

 あんなに大勢に告白されてるくせに、恋愛が難しい……? 楯山はどうして……。川上に楯山の気持ちは届いてないみたいだ。

「好きでもない奴にいくら告白されても意味がないんだよ。俺が好きなのはひとりだけで、俺はその人から『好きだ』と言ってもらえるのをずっと待ってる……」
「それが、まだなのか……?」
「ああ。まだだ。ていうかそんな日来るのかな……。こんなに傍にいるのに……」

 こんなにモテる男が一途に思ってるんだ。なんとか幸せになれるといいのにな……。

「そっか……。俺はてっきり今日、川上の願いが叶ったのかとばかり思ってたから……。なんかごめん。変なこと聞いて」

 あんなに良い雰囲気だったのに、川上と楯山の二人はまだ付き合ってはいないのかもしれない。少なくとも楯山の気持ちは川上には届いてないようだ。

「吉良。もう夜だけど、今日はまだあるよ。俺、今二人きりでお前の目の前にいるし」
「まぁ、そうだけど……」

 どういう意味だ?

「俺の願い、叶えて欲しいな」

 川上の願い……楯山からの言葉か……?

「あー、俺にそんなことできるとは思えないけど……」

 川上は、自分の恋を応援してくれる味方がほしいのか。

「吉良って俺のインスタ見たことある?」
「あ、ごめん、あまり見たことない……」

 川上が人気なのは知っているし、友人としてフォローはしているが、真面目に見た事はなかった。

「だよね。俺ね、インスタで片想い中ってのは仄めかしててさ。いつかその人が俺のインスタ見て、俺の気持ちに気付いてくれたらいいなって思ってるんだ」
「へぇ。なんでそんな遠回しに……。川上なら直接気持ちをぶつければ上手くいくよ。俺には川上が振られる姿なんて想像できないくらいだから」
「吉良にそう言ってもらえると嬉しいよ。本当のホントの本当のほんとにそうだったらいいのにな……」

 川上はモテるからもっと調子に乗ってるのかと思ったのにこんな謙虚な奴だったとは知らなかった。

「俺だってできることなら今すぐ告白したい。でも、出来ないんだよ。それだけが許されないんだ……」

 そうなんだ……。モデルとして脚光を浴びて、皆に好かれて華やかに見える川上も、色々悩んでる事があるんだな……。

「俺、川上のことあまりよく知らなかったみたいだ。お前っていつも明るいし、なんでも持ってるような奴だろ? だから悩みなんてないのかと思ってたよ」

 吉良が知らなかっただけで川上は案外いい奴みたいだ。「楯山を取られて寂しい」だなんて思わないで、二人の恋をできるだけ応援してやるべきだなと思った。

「そっか。俺、吉良にはそんな風に思われてたんだ……。俺はまだまだだな……」

 なぜか川上は落ち込んでいる。俺、そんなに酷いこと言ったかな……。

「大丈夫だ。川上。俺、お前のこと応援するよ。俺に出来ることなんて何もないかもしれないけど、やるだけやってみるよ」
「いや……あのさ……俺はお前に応援されたいんじゃなくて。ああ、もう……。インスタ見て早く気付いてくれよ……」

 川上は肩を落としている。確かに友人なのに川上のインスタチェックをしていないのは申し訳ないと思う。でも吉良が見ても見なくてもどうでもいいくらいのフォロワー数じゃないかと思ってしまっていた。

「そうだよな。ごめん。これからはしっかり見てみるよ」
「マジでそのレベルかよ……。うわ、これ、俺相当頑張んないとじゃん。神宮寺じゃねぇけどマジで楯山ズルいわ」

 なぜだろう。俺は川上を応援すると言ってるのに、そんなに落ち込むことないじゃないか。

「吉良。俺ともっと話そう。そうだ。今度二人で服とか見に行かないか? 吉良って確かフルーツ好きだっただろ? 表参道にお前が好きそうなカフェがあるんだ。そこも一緒に行かないか?」

 俺の好きなものとか覚えててくれてるのか。優しいな。確かに川上ならたくさんの店を知ってそうだ。

「ああ、そうだな、あ、ついでに楯山も誘ってみるか?」

 三人で出かけるふりをして、吉良が当日キャンセルすれば川上と楯山は二人きりになれるのではないか。

「はぁ? 楯山なんて要らねぇよ! 俺は吉良と二人がいーの!」

 やっぱり好きな人が一緒となると落ち着かないのか。デートじゃなくて普通に友達と買い物に行きたいのか。

「わかったよ。今度行こう」
「楯山は呼ぶなよ。てかこの話、誰にも言うな」
「わかったよ」
「本当か? 俺、期待するぞ?」
「うん」
「約束……して」
「わかった、約束する」
「ヤッバ……。俺、吉良とマジで二人で出掛けられんの。あ、あのっ、早く日付決めようっ」

 買い物くらいいつでもいいじゃないかと思うが、川上は早く予定を立てたいタイプみたいだ。




「川上。お前、何もしてないだろうな……?」

 部屋の外には神宮寺がいた。本当に言葉通りに廊下で待っていたのか。悪いことしたな……。

「するわけないじゃん」
「じゃあなんでそんなに機嫌良さそうなんだよ。なんか吉良と良いこと……まさか『選ばれた』り?!」
「安心しろ。それは無かった。『二人きりで』なんて吉良から言われたときは、ちょっと期待したけどさ」
「ったく、心臓に悪いな……。あー、俺マジで吉良と同室になりてぇんだけど……」
「ダメだっつってんだろ!」

 またその話か……。

「川上、神宮寺、ありがとう。じゃあな」

 もう夜も遅い。
 楯山とも少し話がしたいし、吉良は部屋に戻ることにした。
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