振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖

文字の大きさ
上 下
1 / 5

1.別れ 〜諒平side〜

しおりを挟む


「好きな人が出来たから、別れたい」


 初めて諒平りょうへいの家にしょうが泊まっていった次の日の朝、翔にそんな恐ろしい事を言われた。

「え……?! どういうことだよ?!」

 諒平にはまるで心当たりがなかった。翔とは上手く付き合えていたと思っていたし、諒平から見れば、翔は一生を添い遂げてもいいと思うくらいの最高の相手だ。

「だから言っただろ。二度言わせんな。お前よりも好きな人が現れたんだよ。だから俺と別れてくれないか?」

 嫌だ。絶対に嫌だ。
 諒平が必死で口説き落としてやっと翔に付き合うことを了承してもらったのだ。それからまだ三ヶ月しか経っていないのにもう別れるなどと諒平からすればあり得ない。

「翔。悪いが俺はお前と別れる気はない」

 はっきりと言った。どこぞの誰かは知らないが、翔を他の誰かに渡すことなど絶対に許せない。
 諒平のその返事に翔はため息をついた。

「何言ってんだ。いいから別れろよ!」

 吐き捨てるように言い、こちらに冷ややかな一瞥を寄越してきた。その冷酷な視線に言葉を失った。

「念のため言っとくが、お前は何も悪くない。俺の心変わりだ。お前には悪いんだけどさ、お前よりいい人が現れたんだ」

 そう話す翔は若干ではあるが、頬を赤らめている。その『いい人』の話をしたせいなのかもしれない。
 そう思った途端、諒平の心の中に醜い嫉妬心のようなものが沸々とわき上がってきた。

「ふざけんな、お前、これって浮気だろ?! だってお前は俺と付き合ってんのにさ、なんで他の奴なんか好きになるんだよ!」

 許せない。翔の心が諒平に向いていないなんて事実は受け入れられそうにない。

「だから別れてくれっつっんての!」
「嫌だ!」
「はぁ? おかしいだろ? 浮気者の俺なんかとこれ以上一緒にいたくねぇだろ? さっさと別れろよ」
「嫌だっつってんだよ!」

 諒平は翔を離したくなくて、不意の衝動に駆られて、翔を抱き締めようと手を伸ばす。
 だが、それは「やめろ」と翔によって振り払われてしまった。

 恋人なのに、触れ合うことを拒否されて諒平はかなりのショックを受けた。

 本当に、翔はもう諒平のことは好きではないのかもしれない。だからこその拒絶なのではないか。好きな相手だったら抱き締めようとするその手を振り払ったりはしないはずだ。


 互いに沈黙する二人。しばらくの間、重苦しい空気が流れた。



 やがてその沈黙を破り翔が口を開く。


「じゃ、そう言うことだから。これでお前との関係は終わりってことにしてもいいか?」

 翔からの残酷な言葉——。
 関係は、
 終わり……?

「嫌だっ! 誰だよ、お前が新しく好きになった野郎はよ! そんな奴にお前は渡さない! お前は俺のものだ!」

 今度は強く翔の腕を掴んだ。諒平はもう平静を失っている。無我夢中で翔を求め、なんとしてでも引き止めようとする。

 最初は掴まれた腕を振り払おうとしていた翔だが、不意に抵抗をやめた。
 なぜだ……? と思考し、諒平の動きも少しの間、静止した時だった。
 翔は、さっきまでの冷たい表情を一変させ、愛おしそうな顔で諒平を見つめている。 その不意に見せてくれた翔の微笑み。

 つい心を奪われる。
 懐かしい。

 翔と初めて出会った時を思い出す——。 

 そういえば付き合ってからも、二人はすれ違いや喧嘩ばかり、翔は諒平に対していつも不遜な態度をとっていた。こんな優しい笑顔など向けられた事がなかった。


 翔は自分の唇を諒平の唇に重ねてきた。そしてそのまま舌を侵入させて諒平の深い部分まで犯してくる。諒平も当然それを受け入れる。

 脳が痺れるような感覚。
 翔とのキスはこれが初めてだ。付き合って三ヶ月、プラトニックな関係が続いており、翔とは昨日の夜、やっと手を繋ぐことが出来た程度だった。

 次第に感情が昂ってきて、翔を掴んでいた腕を離し、もっと翔を求めるように翔の頭を両手で抑え、翔の髪を乱していく。翔もそれに応えるように諒平の肩を優しく抱いた。


 だがそんな甘い空気を、翔が断ち切る。

 翔は突然キスをやめ、諒平から身体を離した。

 え、どうしたと諒平が思っているところへ翔が信じたくない言葉をぶつけてきた。


「諒平。これがお前との最初で最後のキスだ。元気でな」

 呆気に取られているうちに、翔は諒平の家から出て行った。それがあまりにも唐突で、引き止めることすら出来なかった。

「翔!」

 だが不意に我に返り、慌てて家を飛び出して翔を追う。アパートの階段を駆け下り、道路に出て左右確認。翔の姿は既にない。

 思いつくまま、辺りを探して走り回った。
 でも翔は見つからなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

【幼馴染DK】至って、普通。

りつ
BL
天才型×平凡くん。「別れよっか、僕達」――才能溢れる幼馴染みに、平凡な自分では釣り合わない。そう思って別れを切り出したのだけれど……?ハッピーバカップルラブコメ短編です。

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

突然現れたアイドルを家に匿うことになりました

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 「俺を匿ってくれ」と平凡な日向の前に突然現れた人気アイドル凪沢優貴。そこから凪沢と二人で日向のマンションに暮らすことになる。凪沢は日向に好意を抱いているようで——。 凪沢優貴(20)人気アイドル。 日向影虎(20)平凡。工場作業員。 高埜(21)日向の同僚。 久遠(22)凪沢主演の映画の共演者。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

処理中です...