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7.嫉妬

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「乃木って、いつの間に早坂と仲良くなったの?!」

 昼休みに教室で友人の石井いしいに突っ込まれた。
 確かに異常な光景だろう。ある日突然早坂が俺ばかり構うようになったのだから。

「仲良くなんかないよ。あいつは……」

 早坂は告白ゲームのために俺に近づいているだけだ。それは最初からわかっていることなのに、少しさみしく思った。

「とにかく、早坂が俺に付き纏ってくるのは今だけ! もうすぐ終わるよ」
「え? なんでわかるの? てか、どういう事情?!」

 仕方がない。石井に告白ゲームの攻略対象にされていることを話してやるか。そうすれば納得するだろうから。

「石井、ちょっと来い。あまり大きな声じゃ話せないことなんだ」

 人気のない教室の隅に石井を呼び、ふたりでカーテンの中に入って上半身を隠すようにする。

「あのな、石井。これにはわけがあるって俺は思ってる」
「なに? わけって?」

 俺は石井にこっそり耳打ちしてやろうと、石井の耳に顔を寄せた。

 そのとき、急に目の前にあったカーテンがシャッと取り払われた。

「えっ?!」
「うわっ!」

 カーテンを握りしめたまま、こちらを恐い顔で見下ろしてきたのは早坂だ。
 突然のことで俺も石井もびっくりしてビクッと身体が飛び跳ねる。

「こんなところでふたりきりになって、何してる」

 怖っわ! 早坂はいつも穏やかな奴なのになんで?!

「な、な、なんでもない、ちょっとふざけて遊んでただけ」

 まさか告白ゲームの真相を石井にバラそうとしていたとは言えず、俺は適当な言葉で誤魔化した。

「へぇ。乃木と石井は前々から仲がいいと思ってたけど、まさかそういう間柄なのか?」
「は?」

 そういう間柄?!
 それって、まさか恋愛の意味での恋人的な関係ってことか?!

 これは使える!
 石井とデキてることにすれば、早坂は俺のことを攻略できないと諦めるんじゃないのか?!

「あー、俺たち結構、いい感じだよな? 石井!」

 俺は石井の肩に腕を回して『仲の良さ』をアピールする。
 石井が「はぁっ?!」って顔をするから『とりあえず合わせておけよ』と俺は高圧的な笑顔で石井を封じてやった。

「早坂知らなかった? こんなことあんまり大っぴらにはできないから黙っててくれよ」

 よし! これで早坂はきっと諦める。

 と、思ったのも束の間。

「今すぐ離れろ」

 早坂は俺と石井の間に割って入ってきて、俺たちを無理矢理引き離した。

「乃木。男でもいけるなら、俺にしないか?」
「……は……はいいっ?!」

 いきなり何を言い出す?! ほら、石井までびっくりして目を丸くしている。

「他の男とイチャつくな。見ていて気が狂いそうになる」

 なんで?!
 早坂はすっかり恋人気取りなのか?!

「俺には乃木しかいないのに」

 切なそうな目でぐいぐい迫ってきたかと思うと、早坂は突然俺の身体を抱き締めてきた。

 え……。
 ここ学校だし、石井もめっちゃ見てるのに?!

「離せって!」

 必死で早坂の身体を押して早坂の腕から逃れる。

「無理無理、俺っ、日本人だからっ!」

 早坂は海外生活が長すぎて距離感近すぎるんじゃないのか?!

「俺も日本人だけど」
「んー……っ! 海外と違って日本はあんまそういうことしないの!」
「育ってきた国とか関係ない。向こうだってこんなこと好きな人にしかしないよ」

 おい、さらっと『好きな人』とか言うな!

 石井が「俺邪魔かなぁ」なんて呟いてその場から逃げようとするから、制服のシャツの裾を掴んで引き止めた。
 ダメだ、石井行かないでくれ! 今ここでひとりにされたら俺はどうなる?! 
 マジで早坂に食われるッ!

「じゅっ、授業授業っ! 早坂それじゃまたな!」

 こうなったら強引にでも話を終わらせる作戦に出るしかない。

「石井行こう!」

 石井の背中を押しつつ、俺もこっそり早坂から距離をとる。

 早坂はこれ以上追っては来なかった。

 はぁ、びっくりしたな……。
 一瞬本気で好かれているのかと思ってしまった。

 そんなわけない。俺はただのゲームの攻略対象なんだから。
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