上 下
1 / 10

1.告白ゲーム

しおりを挟む
早坂はやさか、お前また告白されたの?!」

 昼休み、否応なしに俺の隣のグループから話し声が聞こえてくる。この声はテニス部キャプテンの波田野はたのの声だ。

「今月入って何人目だよ! 早坂、無双すぎひん?」

 大きな声で騒いでいるのは、いつも波田野とつるんでいる蓑島みのしまだ。蓑島は明るくて、面倒見がよくて、クラスの人気者だ。

「今月は八人かな。告白されたの」

 さらっとものすごいことを答えているこの男こそ、早坂だ。
 早坂は、今月だけで八人もの女子に告白を受けたようだ。

「うわーっ、エグすぎる!」
「ありえねぇーっ!」

 早坂の答えに波田野と蓑島がワッと騒ぐ。

 この三人は俺のクラスメイトだ。三人とも顔が良く、かなりモテるのにその三人が奇しくも同じクラスに集まったのだ。

 その中でも特にモテるのが早坂。早坂は、高校三年生になってから、この学校に転校してきた帰国子女だ。外交官の父親を持ち、早坂自身も日本と海外を行ったり来たりしているらしい。

 早坂は勉強も運動も学校の成績は抜群で、その上、超絶かっこいい。身長百八十三センチの長身にはっきりとした目鼻立ちの美形。海外では、スカウトされて雑誌のアジアモデルとして活動していた経験もあるらしい。

 そんな早坂がモッテモテになるのは必然と言えば必然なのだが。




 俺は自分の机に座り、勉強するふりをしながら、隣の三人の話についつい聞き耳を立てている。
 さっきから気になって気になって仕方がない。

「早坂ってあの女子大卒の英語の佐藤に卒業したら付き合ってって言われたんだろ?!」

「あぁ、あれはびっくりした」

 波田野の言葉に、俺も密かに驚いた。早坂は生徒だけじゃなく教師にまで告白されたらしい。だが、こんなかっこいい生徒がいたら手を出したくなる気持ちもわかる。

「早坂なら誰でもモノにできるんじゃね?」
「マジでそれな」

 蓑島の言葉にすぐさま波田野が同意する。
 そして俺もやっぱり同意だ。早坂に好かれて、早坂を振る女なんていないだろう。


 本当に早坂は別次元にいるような奴だ。どうしてこんなハイスペック男がこの高校に転校してきたのだろう。高校三年生からの受け入れが他の高校は難しかったのだろうか。

 俺はおもむろに席を立ち上がる。
 次の授業は移動で、そろそろ周りの皆が動き出したからだ。

「おい、早坂と蓑島、ゲームをしようぜ。それぞれが次に最初にぶつかった奴を口説いて、告白する。それで告白オッケーもらえた奴が勝ちってゲーム。もちろん、一番早く付き合えた奴が勝ち!」

 波田野は最悪なゲームを思いついたようだ。
 いくら自分たちがモテるからって、人の気持ちを弄ぶようなゲームをするなよな。

「面白いな! やろうぜやろうぜ! じゃあ今からスタートな! 俺、誰とぶつかろっかなぁ」

 蓑島はかなり乗り気だ。そしてぶつかりたい相手を物色し始めたようだ。
 蓑島の考えはわかる。どうせ口説くなら自分の好みの女子がいいだろうから。

「俺は秒で口説けそうな女にする」

 波田野の考えは最悪だ。まぁ、この告白ゲームに勝つためにはそのような戦略になるのかもしれない。

 そんなことばかり考えながら俺が次の教室へ向かおうとしたときだった。

 ドンっと、俺の背中に何かが触れた。
その何かは、正確に言えば『誰か』だ。

 えっ……?
 早坂?!

「あ、ごめん、乃木のぎ

 早坂はすぐにぶつかったことを謝ってきた。別にちょっとぶつかったくらい、普段だったら気にもかけない。
 だが俺は、さっきの三人の話を聞いてしまったばかりだ。

 今から最初にぶつかった奴を口説いて、誰が一番に告白オッケーもらえるかというゲームの話を。

 まさか。

 俺は男だ。男はさっきのゲームの相手としては相応しくない。ノーカンに決まっている。

 ないないないっ! ありえないだろっ!

 俺はその場から逃げるようにして、次の教室へと向かう他の生徒の中へと紛れていった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。 それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。 友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!! なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。 7/28 一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。

処理中です...