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番外編『ほんの少しの覚悟』
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「ただいま」
鍵を使って実家の玄関の鍵を開ける。和泉の実家は築四十年以上経つ、昭和の懐かしい一軒家だ。
「おかえり、理人」
廊下の奥から祖父がゆっくりと歩いてきた。祖父は和泉に視線を向けたあと、隣にいる佐原をまじまじと見つめている。
「……Domか?」
祖父は和泉に問う。
「うん。あの、俺のパートナーなんだ」
「パートナーか。いつからだ?」
祖父はシワの多い顔だが、その瞳の輝きは鈍ってはいない。佐原が背筋を凍らせるほどに鋭い。
「まだパートナーになって数ヶ月だけど、でも、あの、この年で俺の会社の重役で、すごく仕事ができる優秀な奴なんだ」
なんだか重苦しい空気を感じて和泉はわざと明るい声を出す。
「Domなんだから仕事ができて当たり前だろう」
ピシャリと祖父に反撃され、和泉も顔が引きつる。祖父はnormalだ。医者という職業柄、周りにはDomが多く、祖父はDom嫌いだったことを今更ながらに思い出した。
「申し遅れました。佐原真と申します。和泉……り、理人さんとはDomSubのパートナー関係で、将来的にはクレイムも考えております」
「クレイム……?」
また祖父の目が鋭く光る。
「たった数ヶ月で、もうクレイムの約束までしたのか? 理人。だから今日こいつをわざわざウチまで連れてきたのか?」
「いや、まだだよ。約束はしていない。今日もそういうつもりで来たんじゃないよ」
和泉が否定すると、祖父の矛先は、今度は佐原へと向かう。
「約束もしていないのに、簡単にクレイムという言葉を使うDomなど信用ならない。帰れ。理人、お前はせっかく来たんだから寄って行きなさい」
「えっ!」
そんな門前払いの仕方はないだろう。和泉から見れば、佐原がそんなに悪い態度を取ったとは思えない。
「爺ちゃん。佐原だって忙しいのに、わざわざ時間を作って来てくれたんだ。ちょっとくらい話をしてよ」
あまりの態度に黙っていられなくて和泉は口を出す。
祖父のDom嫌いはこんなに酷かったのか。ここまでとは知らなかった。
「いいよ、和泉」
祖父の態度に噛みつこうとする和泉を、佐原が制した。
「唐突にご自宅を訪問して、すみませんでした。あなたが理人さんの唯一の肉親と聞き、俺が会ってみたいと理人さんに無理を言ったんです」
佐原は頭を下げた。
「終わるまで外で待ってる。久しぶりの再会なんだ。俺のことは気にせず、ふたりで話せばいい」
「でも……!」
「それでは失礼いたします」
佐原はもう一度丁寧に頭を下げて、外へと出て行ってしまった。
「えっ、おい! ちょっと! 爺ちゃん!」
和泉は困惑する。佐原はあっさりいなくなるし、祖父はそれを引き止めようとしない。どうしようかオロオロしていると、祖父が「理人。こっちへ来い。ここからが見ものだ」と和泉を呼び寄せた。
「これであいつの本性がわかる」
祖父は庭の見える廊下から、外を指差した。
和泉も素早く靴を脱ぎ、家に上がって祖父の指差す方向を見る。
レースのカーテンの向こう、縁側の先には佐原の背中が見えた。
「爺ちゃん、まさか佐原を試したのかっ?」
「ああ。人間、うわべだけを取り繕うのは簡単だ。プライドの高いDomを試すなら、それを理不尽にへし折ってやればいい。そういうときに、化けの皮が剥がれるもんなんだよ。待たされてイライラし始めるんじゃないか」
「佐原は大丈夫だ。絶対に悪い奴じゃないのに」
「付き合いが浅ければ、そんなことわからんだろ」
祖父は物陰に隠れながら、佐原の行動を見ている。
佐原は最初盆栽を眺めていたが、そのうち、辺りを見回し始めた。しかもなんてことのない景色を見て、楽しそうに微笑んでいる。
「何が嬉しいんだよ、佐原は」
和泉は首をかしげる。なんで佐原がひとりであんなに楽しそうにしているのか、まったくわからない。
鍵を使って実家の玄関の鍵を開ける。和泉の実家は築四十年以上経つ、昭和の懐かしい一軒家だ。
「おかえり、理人」
廊下の奥から祖父がゆっくりと歩いてきた。祖父は和泉に視線を向けたあと、隣にいる佐原をまじまじと見つめている。
「……Domか?」
祖父は和泉に問う。
「うん。あの、俺のパートナーなんだ」
「パートナーか。いつからだ?」
祖父はシワの多い顔だが、その瞳の輝きは鈍ってはいない。佐原が背筋を凍らせるほどに鋭い。
「まだパートナーになって数ヶ月だけど、でも、あの、この年で俺の会社の重役で、すごく仕事ができる優秀な奴なんだ」
なんだか重苦しい空気を感じて和泉はわざと明るい声を出す。
「Domなんだから仕事ができて当たり前だろう」
ピシャリと祖父に反撃され、和泉も顔が引きつる。祖父はnormalだ。医者という職業柄、周りにはDomが多く、祖父はDom嫌いだったことを今更ながらに思い出した。
「申し遅れました。佐原真と申します。和泉……り、理人さんとはDomSubのパートナー関係で、将来的にはクレイムも考えております」
「クレイム……?」
また祖父の目が鋭く光る。
「たった数ヶ月で、もうクレイムの約束までしたのか? 理人。だから今日こいつをわざわざウチまで連れてきたのか?」
「いや、まだだよ。約束はしていない。今日もそういうつもりで来たんじゃないよ」
和泉が否定すると、祖父の矛先は、今度は佐原へと向かう。
「約束もしていないのに、簡単にクレイムという言葉を使うDomなど信用ならない。帰れ。理人、お前はせっかく来たんだから寄って行きなさい」
「えっ!」
そんな門前払いの仕方はないだろう。和泉から見れば、佐原がそんなに悪い態度を取ったとは思えない。
「爺ちゃん。佐原だって忙しいのに、わざわざ時間を作って来てくれたんだ。ちょっとくらい話をしてよ」
あまりの態度に黙っていられなくて和泉は口を出す。
祖父のDom嫌いはこんなに酷かったのか。ここまでとは知らなかった。
「いいよ、和泉」
祖父の態度に噛みつこうとする和泉を、佐原が制した。
「唐突にご自宅を訪問して、すみませんでした。あなたが理人さんの唯一の肉親と聞き、俺が会ってみたいと理人さんに無理を言ったんです」
佐原は頭を下げた。
「終わるまで外で待ってる。久しぶりの再会なんだ。俺のことは気にせず、ふたりで話せばいい」
「でも……!」
「それでは失礼いたします」
佐原はもう一度丁寧に頭を下げて、外へと出て行ってしまった。
「えっ、おい! ちょっと! 爺ちゃん!」
和泉は困惑する。佐原はあっさりいなくなるし、祖父はそれを引き止めようとしない。どうしようかオロオロしていると、祖父が「理人。こっちへ来い。ここからが見ものだ」と和泉を呼び寄せた。
「これであいつの本性がわかる」
祖父は庭の見える廊下から、外を指差した。
和泉も素早く靴を脱ぎ、家に上がって祖父の指差す方向を見る。
レースのカーテンの向こう、縁側の先には佐原の背中が見えた。
「爺ちゃん、まさか佐原を試したのかっ?」
「ああ。人間、うわべだけを取り繕うのは簡単だ。プライドの高いDomを試すなら、それを理不尽にへし折ってやればいい。そういうときに、化けの皮が剥がれるもんなんだよ。待たされてイライラし始めるんじゃないか」
「佐原は大丈夫だ。絶対に悪い奴じゃないのに」
「付き合いが浅ければ、そんなことわからんだろ」
祖父は物陰に隠れながら、佐原の行動を見ている。
佐原は最初盆栽を眺めていたが、そのうち、辺りを見回し始めた。しかもなんてことのない景色を見て、楽しそうに微笑んでいる。
「何が嬉しいんだよ、佐原は」
和泉は首をかしげる。なんで佐原がひとりであんなに楽しそうにしているのか、まったくわからない。
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