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番外編『You're the only one I love 』〜佐原side〜
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「……そうなったらいいな」
和泉が佐原の首に両腕を回すようにして抱きついてきた。
「途中、俺に飽きてもいいし、派手な幸せは何もなくていいから、十年後もずっと一緒がいい……」
和泉の、そのしなやかな裸体を抱きしめ返して気がついた。
和泉の身体は震えている。肌はポカポカとして温かいから冷えたわけじゃない。
泣いているから、身体を震わせているのだ。
この愛おしい男に、どうしたらわからせてやることができるのだろう。
パートナーになってまだ一週間。それでも佐原の心はすでに決まっている。
生涯好きになるのは和泉しかいない。
支配欲の弱い自分は、なぜDomとして生まれてきたのだろうとずっと思っていたが、今わかった。
Subの和泉を守るためだ。Subを守るにはDomがいい。
和泉となら、お互い支え合っていけると思う。和泉の言葉が、和泉の存在が、今までどれだけ佐原を救ってくれたか。
「クレイムするか?」
佐原の言葉に、和泉の身体がピク、と反応した。
「……バカ。パートナーになったばかりでそんな約束する奴なんていないよ」
和泉は口ではそう言うが、身体はより佐原を求めるようにぎゅっと抱き締めてきた。
「俺は構わない。未来の約束がほしいなら今日にでもクレイムを交わすよ。和泉が不安なら安心するまで隣にいる。そのくらいなんでもない、和泉のためならなんでもする」
強く言い切って、和泉の背中を撫でてやると、和泉は少しして落ち着きを取り戻したようだった。
「佐原は面白いな。いつもお前からは、俺の想像を超えて斜め上の言葉が返ってくる」
和泉は微かに笑った。その顔を見た途端にもう大丈夫だと佐原は安堵する。
「幸せすぎて怖いんだ……佐原のことを信じてないわけじゃなくて、幸せを手に入れたら、今度は急にそれがなくなることを想像しちゃって、怖くなって……」
和泉は心配性なのだろう。これは大いに愛して、散々甘やかしてわからせてやらないといけない。
「和泉。今日、カラーを買いに行こう」
「はっ?」
「俺からのクリスマスプレゼントとして、お前にカラーを贈りたい」
佐原は本気だ。和泉とは生半可な気持ちでパートナーになっていない。生涯パートナーは和泉だけと決めているのだから、今すぐクレイムを交わしてもまったく問題はない。
本当は、前々からきちんと計画を立てて、最高のシチュエーションを用意して和泉とクレイムを交わしたかった。だが、今そうすることで和泉が少しでも安心するなら、惜しくもない。
「な……っ!」
佐原としてはクソ真面目なのに、和泉は目をしばたかせて、見たこともない生物でも見るかのような目でこちらを見ている。
「落ち着こう、佐原。そういう大事なことはもっとゆっくり……」
「なんで? 俺は十分落ち着いてるし、まともだ。和泉が不安ならさっさとお互いを縛り合おう」
何を迷うことがある? まさか和泉はいつかは別れるつもりだということなのだろうか。
「あっは」
和泉が急に吹き出した。
「さは、佐原っ。お前、真面目な顔してよくそんなことを……。俺が弱音を吐いたのがいけなかったんだな。大丈夫だ。そこまでしてくれなくてもちゃんとお前のことは信じてるから」
和泉に笑われて、あっさりと流されてしまった。
佐原としては冗談半分の気持ちではなかったのに。
「佐原ってもっとこう、クールな奴かと思ってたのに。案外面白い奴だったんだな」
和泉に笑われても、佐原はちっとも笑えない。
他のことならクールでいられる。でも和泉のこととなるとまったく別だ。
和泉が困ってはいないか、和泉にしてやれることはないかと考えずにはいられない。
和泉は今どう感じているのか、どうしたら和泉は喜んでくれるのかといつも必死で考えている。
なんでこんなにも好きなのか、もはや自分でもわからない。
ただ、その姿をみるだけで頬が緩んで、会話をすると心が弾む。
常に一緒にいたいと思うし、目が合うとキスしたくなって、キスをするとその先まで欲しくなる。
プレイか。こんなに好きになったのは和泉とのプレイが原因かもしれない。
最近頻繁にプレイができるようになって気がついたが、プレイをするたびに「やっぱり可愛い」「好きだ」と思うから、
それはとどのつまり、和泉に惹かれているということなのだろう。
これはどうなるんだ?
こんなに好きなのに、プレイするたび好きになっていったら、そのうち好きが溢れるんじゃないだろうか。
好きになるのに際限はないと聞くが、このままでは自分はどこまで和泉に惚れ込んでしまうのだろう。
「……佐原?」
和泉が訝しげに佐原の顔を覗き込んできた。
ほら、可愛い。ちょっと首をかしげて上目遣いにこっちを見てくるさまが、すでに可愛い。
「和泉。大好きだ」
心がいっぱいになって、本音をこぼすと「なんだよ急に」と和泉に笑われてしまった。
その後、何を言っても和泉にケラケラと笑われて、結局佐原の決死のクレイム話は立ち消えてしまった。
まぁ、いい。
とりあえず目の前にいる和泉は笑顔を取り戻したようだし、これからゆっくり和泉と関係性を育んでいけばいい。
佐原自身も自分の変化に驚いている。
上位Domとして生まれて、人並み以上になんでもできた。
黙っていても人が寄ってくるようなタイプだったし、はっきりいって人生イージーモード。
それなのに、和泉に出会ってから歯車が狂い始める。
今では和泉に夢中だ。和泉に会いたいから仕事を早く終わらせる。和泉が好きなものだから好き。和泉が欲しがるものは惜しまず全部与えてあげたい。
佐原の行動のすべては、和泉に囚われている。佐原の世界は和泉中心に回っていると言っても過言ではない。
好きだ。好きだ。大好きだ。
「いい子だ。佐原は」
和泉に頭を撫でられて、カチンときた。
「何がGoodboyだ! Domは俺だぞ」
「なんだよ、可愛いと思ったから褒めたのに」
「だかっ……!」
すかさず佐原が言い返そうとしたとき和泉に唇を奪われた。
軽いキスのあと、和泉が佐原の耳元で囁く。
「いつかお前と本当にクレイムを交わす日を楽しみにしてるよ」
和泉に強烈な愛の言葉を告げられ、あまりのことに呆然としている佐原をよそに、和泉はベッドから上半身を起こして両腕を上げてしなやかな背中を反らして大きく伸びをした。
その女豹のように美しい背中に惚れ惚れし、俺のパートナーはやっぱり最強だと、佐原は今さらながらに感嘆のため息をついた。
番外編『You're the only one I love 』~佐原side~ ——完。
和泉が佐原の首に両腕を回すようにして抱きついてきた。
「途中、俺に飽きてもいいし、派手な幸せは何もなくていいから、十年後もずっと一緒がいい……」
和泉の、そのしなやかな裸体を抱きしめ返して気がついた。
和泉の身体は震えている。肌はポカポカとして温かいから冷えたわけじゃない。
泣いているから、身体を震わせているのだ。
この愛おしい男に、どうしたらわからせてやることができるのだろう。
パートナーになってまだ一週間。それでも佐原の心はすでに決まっている。
生涯好きになるのは和泉しかいない。
支配欲の弱い自分は、なぜDomとして生まれてきたのだろうとずっと思っていたが、今わかった。
Subの和泉を守るためだ。Subを守るにはDomがいい。
和泉となら、お互い支え合っていけると思う。和泉の言葉が、和泉の存在が、今までどれだけ佐原を救ってくれたか。
「クレイムするか?」
佐原の言葉に、和泉の身体がピク、と反応した。
「……バカ。パートナーになったばかりでそんな約束する奴なんていないよ」
和泉は口ではそう言うが、身体はより佐原を求めるようにぎゅっと抱き締めてきた。
「俺は構わない。未来の約束がほしいなら今日にでもクレイムを交わすよ。和泉が不安なら安心するまで隣にいる。そのくらいなんでもない、和泉のためならなんでもする」
強く言い切って、和泉の背中を撫でてやると、和泉は少しして落ち着きを取り戻したようだった。
「佐原は面白いな。いつもお前からは、俺の想像を超えて斜め上の言葉が返ってくる」
和泉は微かに笑った。その顔を見た途端にもう大丈夫だと佐原は安堵する。
「幸せすぎて怖いんだ……佐原のことを信じてないわけじゃなくて、幸せを手に入れたら、今度は急にそれがなくなることを想像しちゃって、怖くなって……」
和泉は心配性なのだろう。これは大いに愛して、散々甘やかしてわからせてやらないといけない。
「和泉。今日、カラーを買いに行こう」
「はっ?」
「俺からのクリスマスプレゼントとして、お前にカラーを贈りたい」
佐原は本気だ。和泉とは生半可な気持ちでパートナーになっていない。生涯パートナーは和泉だけと決めているのだから、今すぐクレイムを交わしてもまったく問題はない。
本当は、前々からきちんと計画を立てて、最高のシチュエーションを用意して和泉とクレイムを交わしたかった。だが、今そうすることで和泉が少しでも安心するなら、惜しくもない。
「な……っ!」
佐原としてはクソ真面目なのに、和泉は目をしばたかせて、見たこともない生物でも見るかのような目でこちらを見ている。
「落ち着こう、佐原。そういう大事なことはもっとゆっくり……」
「なんで? 俺は十分落ち着いてるし、まともだ。和泉が不安ならさっさとお互いを縛り合おう」
何を迷うことがある? まさか和泉はいつかは別れるつもりだということなのだろうか。
「あっは」
和泉が急に吹き出した。
「さは、佐原っ。お前、真面目な顔してよくそんなことを……。俺が弱音を吐いたのがいけなかったんだな。大丈夫だ。そこまでしてくれなくてもちゃんとお前のことは信じてるから」
和泉に笑われて、あっさりと流されてしまった。
佐原としては冗談半分の気持ちではなかったのに。
「佐原ってもっとこう、クールな奴かと思ってたのに。案外面白い奴だったんだな」
和泉に笑われても、佐原はちっとも笑えない。
他のことならクールでいられる。でも和泉のこととなるとまったく別だ。
和泉が困ってはいないか、和泉にしてやれることはないかと考えずにはいられない。
和泉は今どう感じているのか、どうしたら和泉は喜んでくれるのかといつも必死で考えている。
なんでこんなにも好きなのか、もはや自分でもわからない。
ただ、その姿をみるだけで頬が緩んで、会話をすると心が弾む。
常に一緒にいたいと思うし、目が合うとキスしたくなって、キスをするとその先まで欲しくなる。
プレイか。こんなに好きになったのは和泉とのプレイが原因かもしれない。
最近頻繁にプレイができるようになって気がついたが、プレイをするたびに「やっぱり可愛い」「好きだ」と思うから、
それはとどのつまり、和泉に惹かれているということなのだろう。
これはどうなるんだ?
こんなに好きなのに、プレイするたび好きになっていったら、そのうち好きが溢れるんじゃないだろうか。
好きになるのに際限はないと聞くが、このままでは自分はどこまで和泉に惚れ込んでしまうのだろう。
「……佐原?」
和泉が訝しげに佐原の顔を覗き込んできた。
ほら、可愛い。ちょっと首をかしげて上目遣いにこっちを見てくるさまが、すでに可愛い。
「和泉。大好きだ」
心がいっぱいになって、本音をこぼすと「なんだよ急に」と和泉に笑われてしまった。
その後、何を言っても和泉にケラケラと笑われて、結局佐原の決死のクレイム話は立ち消えてしまった。
まぁ、いい。
とりあえず目の前にいる和泉は笑顔を取り戻したようだし、これからゆっくり和泉と関係性を育んでいけばいい。
佐原自身も自分の変化に驚いている。
上位Domとして生まれて、人並み以上になんでもできた。
黙っていても人が寄ってくるようなタイプだったし、はっきりいって人生イージーモード。
それなのに、和泉に出会ってから歯車が狂い始める。
今では和泉に夢中だ。和泉に会いたいから仕事を早く終わらせる。和泉が好きなものだから好き。和泉が欲しがるものは惜しまず全部与えてあげたい。
佐原の行動のすべては、和泉に囚われている。佐原の世界は和泉中心に回っていると言っても過言ではない。
好きだ。好きだ。大好きだ。
「いい子だ。佐原は」
和泉に頭を撫でられて、カチンときた。
「何がGoodboyだ! Domは俺だぞ」
「なんだよ、可愛いと思ったから褒めたのに」
「だかっ……!」
すかさず佐原が言い返そうとしたとき和泉に唇を奪われた。
軽いキスのあと、和泉が佐原の耳元で囁く。
「いつかお前と本当にクレイムを交わす日を楽しみにしてるよ」
和泉に強烈な愛の言葉を告げられ、あまりのことに呆然としている佐原をよそに、和泉はベッドから上半身を起こして両腕を上げてしなやかな背中を反らして大きく伸びをした。
その女豹のように美しい背中に惚れ惚れし、俺のパートナーはやっぱり最強だと、佐原は今さらながらに感嘆のため息をついた。
番外編『You're the only one I love 』~佐原side~ ——完。
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