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番外編『You're the only one I love 』〜佐原side〜
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初めて和泉を見たのは、宇月家で行われた正月の親族の集まりのあと、初詣に行った神社でのことだった。
当時佐原は二十歳。
大学に入っても佐原にはパートナーはいなかった。「好きです」と告白されても相手にまったく魅力を感じず、プレイをしたいとも思えなかった。
プレイでSubに身体的精神的に負担をかけてしまうぶん、DomはSubを大切にする。自分の欲望を全身で受け止めてくれるSubの存在は貴重だ。だからDomはSubに貢いだり、時間を割いたりする。
それがどうにも佐原には面倒なことに思えてならなかった。Sub様のご機嫌とりをするなんて時間と金の無駄使いで、パートナーなんて足枷のようだと思っていた。
佐原が向かっていたのは宇月家の近くにある氷川神社だ。初詣に行かないかと尚紘を誘ったのに、先約があるからと断られ、それならひとりでふらっと行ってみようかと人混みの中、出かけて行ったのだ。
そこが、和泉との出会いの場所だ。
和泉は尚紘と初詣に行く待ち合わせをしていたのだろう。神社の鳥居の下で、白い息を吐き、時々寒がりながらスマホをいじっていたが、尚紘の姿を見つけた途端にパッと顔を上げ、笑顔で駆け寄っていく。
お互いの視線と距離感でふたりの関係が友人以上のものだとわかった。ふたりは視線が合うたび微笑み、肩を寄せ合うようにして歩いていたからだ。
高校生の頃、尚紘はかなりの数のSubに言い寄られていた。「支配して欲しい」「あなたに縛られたい」などとしつこく迫られ、心が疲弊してSub嫌いになっていたようだった。
それなのに尚紘は大学でちゃっかりSubのパートナーができたと佐原に密かに報告してきた。そのときの尚紘のニヤついた、やたら嬉しそうな顔は忘れられない。
大学の友人にも、旧友にも内緒、従兄弟の佐原以外の誰にも打ち明けていない、秘密の関係だと言われた。相手のSubがSubだということを隠しているから、というのがその理由だった。
あれが、尚紘のパートナーか。
和泉はグレーのウールコートにブルーのチェックのマフラーを巻いていた。光の加減か和泉の髪は茶色く光っていて、肌も白い。日本人にしては色素が薄いタイプなのかもしれない。
もっと近くで見てみたいと思った。でもこれ以上近づいてしまっては、ふたりに気づかれてしまうだろう。
あのSub嫌いの尚紘が選んだパートナーはどんな男なのだろうと気になった。
見た目はとてもいい。小ぶりな顔に、綺麗に顔のパーツが収まっている。透きとおるような肌も、くっきりとしたアーモンド型の目も魅力的だ。気取っている感じはないのに品がある。両親に甘やかされて育った、苦労知らずのいいところのお坊ちゃん、といった雰囲気だ。
尚紘にはああいう家柄の良さそうな男がよく似合う。尚紘自身もいずれは会社を継ぐ身なのだからお似合いだな、と思った。
同時に尚紘が羨ましくなった。あんな男を支配できるなんて。あの澄ました顔が、苦痛や快楽で歪むところを想像しただけで高ぶる自分がいた。
見てみたい。あいつがひれ伏して、恥ずかしい部分も何もかもをさらけ出すさまを。
あの男が欲しい、と思った。
Domらしくないと思っていたのに、自分自身にDomらしい支配欲があることに気がついて驚いた。
だがすぐに考えを改める。あれは尚紘のものだ。人のものを奪う趣味などない。
佐原にとって尚紘は兄のような親友のような存在だ。そんな相手のパートナーをどうこうできるわけがない。
人の物はよく見えると昔から言うではないか。手に入らないと思った途端に欲しくなることもよくある話だ。
心の中に芽生えたこの気持ちも、きっとそういう類いのものなのだろう。レアなものを欲しがる習性が働いているだけで、別に和泉のことを好きになったわけではない。
そう思っていたのに、尚紘から和泉の話を聞かされるたびに、いつも胸が握りつぶされたように苦しくなった。
当時佐原は二十歳。
大学に入っても佐原にはパートナーはいなかった。「好きです」と告白されても相手にまったく魅力を感じず、プレイをしたいとも思えなかった。
プレイでSubに身体的精神的に負担をかけてしまうぶん、DomはSubを大切にする。自分の欲望を全身で受け止めてくれるSubの存在は貴重だ。だからDomはSubに貢いだり、時間を割いたりする。
それがどうにも佐原には面倒なことに思えてならなかった。Sub様のご機嫌とりをするなんて時間と金の無駄使いで、パートナーなんて足枷のようだと思っていた。
佐原が向かっていたのは宇月家の近くにある氷川神社だ。初詣に行かないかと尚紘を誘ったのに、先約があるからと断られ、それならひとりでふらっと行ってみようかと人混みの中、出かけて行ったのだ。
そこが、和泉との出会いの場所だ。
和泉は尚紘と初詣に行く待ち合わせをしていたのだろう。神社の鳥居の下で、白い息を吐き、時々寒がりながらスマホをいじっていたが、尚紘の姿を見つけた途端にパッと顔を上げ、笑顔で駆け寄っていく。
お互いの視線と距離感でふたりの関係が友人以上のものだとわかった。ふたりは視線が合うたび微笑み、肩を寄せ合うようにして歩いていたからだ。
高校生の頃、尚紘はかなりの数のSubに言い寄られていた。「支配して欲しい」「あなたに縛られたい」などとしつこく迫られ、心が疲弊してSub嫌いになっていたようだった。
それなのに尚紘は大学でちゃっかりSubのパートナーができたと佐原に密かに報告してきた。そのときの尚紘のニヤついた、やたら嬉しそうな顔は忘れられない。
大学の友人にも、旧友にも内緒、従兄弟の佐原以外の誰にも打ち明けていない、秘密の関係だと言われた。相手のSubがSubだということを隠しているから、というのがその理由だった。
あれが、尚紘のパートナーか。
和泉はグレーのウールコートにブルーのチェックのマフラーを巻いていた。光の加減か和泉の髪は茶色く光っていて、肌も白い。日本人にしては色素が薄いタイプなのかもしれない。
もっと近くで見てみたいと思った。でもこれ以上近づいてしまっては、ふたりに気づかれてしまうだろう。
あのSub嫌いの尚紘が選んだパートナーはどんな男なのだろうと気になった。
見た目はとてもいい。小ぶりな顔に、綺麗に顔のパーツが収まっている。透きとおるような肌も、くっきりとしたアーモンド型の目も魅力的だ。気取っている感じはないのに品がある。両親に甘やかされて育った、苦労知らずのいいところのお坊ちゃん、といった雰囲気だ。
尚紘にはああいう家柄の良さそうな男がよく似合う。尚紘自身もいずれは会社を継ぐ身なのだからお似合いだな、と思った。
同時に尚紘が羨ましくなった。あんな男を支配できるなんて。あの澄ました顔が、苦痛や快楽で歪むところを想像しただけで高ぶる自分がいた。
見てみたい。あいつがひれ伏して、恥ずかしい部分も何もかもをさらけ出すさまを。
あの男が欲しい、と思った。
Domらしくないと思っていたのに、自分自身にDomらしい支配欲があることに気がついて驚いた。
だがすぐに考えを改める。あれは尚紘のものだ。人のものを奪う趣味などない。
佐原にとって尚紘は兄のような親友のような存在だ。そんな相手のパートナーをどうこうできるわけがない。
人の物はよく見えると昔から言うではないか。手に入らないと思った途端に欲しくなることもよくある話だ。
心の中に芽生えたこの気持ちも、きっとそういう類いのものなのだろう。レアなものを欲しがる習性が働いているだけで、別に和泉のことを好きになったわけではない。
そう思っていたのに、尚紘から和泉の話を聞かされるたびに、いつも胸が握りつぶされたように苦しくなった。
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