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10.最終章 雨には傘を
10-9
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「佐原」
和泉は佐原の耳梁に唇を寄せる。
「お前が一番だよ。俺は佐原のこと、誰よりも好きだ」
言ってしまってから急にカーッと顔が熱くなってきた。恥ずかしさのあまりに佐原の腕から逃れて、佐原に背を向け、落とした傘を拾って顔を隠す。
「い、和泉……」
佐原が驚いているみたいだが、自分で言っておいてこんなに真っ赤になっていることを知られたくなくて和泉は佐原のほうを振り向けない。
ザッザッと砂利を踏む音が聞こえて、佐原が近づいてきたことがわかる。
「和泉。あとでキスしよう」
佐原はさっきのお返しだとばかりに和泉に囁いてきた。
そのひと言だけでドキドキと心臓がうるさくなる。佐原とパートナーになったものの、まだ日が浅くて、こういう接触は慣れない。
でも、やっぱり佐原のことが好きだ。ここは尚紘の墓前で、そういう配慮をするところがいいなと思った。
「雨も強くなってきた。行こうか和泉」
佐原は自分の傘を持っているくせに、和泉の傘の中に頭を突っ込んできた。
「近くにいい店がある。前々から和泉を連れて行きたいと思ってたんだよ。料理のうまいダイニングバーだ。そこで夕食を食べてからうちに帰ろう」
「うん」
傘の中に佐原が入ることを許し、傘を佐原のほうに傾けてやる。
こうやって、ひとつ、またひとつと思い出が増えていくことが嬉しい。これからたくさんの時を佐原と過ごしていくのだろう。
佐原とふたり、霊園をあとにして駐車場に着く。
佐原は傘を持ったまま助手席側までついてきた。
「ありがとう、もういいよ……」
和泉が振り返ったときには、佐原に唇を奪われていた。
雨に濡れた傘で隠れているし、周囲には人影はないが、それでもここは外だ。それなのに佐原は深いキスをしようとする。
「さは……っ……んっ……」
こんなところで、と和泉の理性が一瞬働いたが、佐原からのキスを受け止める。
佐原には抗えない。これはきっと惚れた弱みだ。好きだから、なんでも許してしまいたくなる。
佐原が唇を離して、微笑みかけてくる。
「なぁ、和泉。一緒に暮らすことを前向きに考えてくれないか?」
「えっ?」
「せっかくパートナーになったのに、週末しか会えないのは寂しい。さっき尚紘も俺に和泉と暮らせって助言してきた」
「尚紘が?」
「ああ。俺には聞こえた。和泉は寂しがりやだから毎日布団を抱き締めて寝てるって。だったら毎晩俺にひっついてくれ」
「はぁっ?」
なぜそれを佐原が知っている……? 尚紘だってその秘密は知らないはずなのに。
「図星だろ? お前はいつも眠るときに俺の腕をがっつり掴んできた。あれはお前の寝るときの癖だろ」
「あ……」
それはまったくの無意識だ。でも恥ずかしいことに、眠るときには必ず目の前にある何かを抱き締めないと眠れないタチだ。
「な? 和泉。一緒に暮らそう。今すぐ俺のマンションに引っ越してこい。朝晩の食事も用意するし、うんとお前を甘やかしてやる」
「佐原と暮らす……」
一日の終わりに佐原がいる。それはとても魅力的だ。和泉は料理が苦手で、佐原が食事を用意してくれたら楽だし、なにより寂しくない。それに好きなときに佐原とプレイができる。
「いい返事を期待してるよ」
佐原は最後に軽くキスをする。こんなときにもグレアを発して和泉を支配しようとしてくるのだから、佐原はずるい。
SubはDomのいいなりだ。Domに敵うはずがないじゃないかと思いながらも、手にした幸せが愛おしくなって和泉はイエスの返事の代わりに佐原の唇にキスをした。
——完。
和泉は佐原の耳梁に唇を寄せる。
「お前が一番だよ。俺は佐原のこと、誰よりも好きだ」
言ってしまってから急にカーッと顔が熱くなってきた。恥ずかしさのあまりに佐原の腕から逃れて、佐原に背を向け、落とした傘を拾って顔を隠す。
「い、和泉……」
佐原が驚いているみたいだが、自分で言っておいてこんなに真っ赤になっていることを知られたくなくて和泉は佐原のほうを振り向けない。
ザッザッと砂利を踏む音が聞こえて、佐原が近づいてきたことがわかる。
「和泉。あとでキスしよう」
佐原はさっきのお返しだとばかりに和泉に囁いてきた。
そのひと言だけでドキドキと心臓がうるさくなる。佐原とパートナーになったものの、まだ日が浅くて、こういう接触は慣れない。
でも、やっぱり佐原のことが好きだ。ここは尚紘の墓前で、そういう配慮をするところがいいなと思った。
「雨も強くなってきた。行こうか和泉」
佐原は自分の傘を持っているくせに、和泉の傘の中に頭を突っ込んできた。
「近くにいい店がある。前々から和泉を連れて行きたいと思ってたんだよ。料理のうまいダイニングバーだ。そこで夕食を食べてからうちに帰ろう」
「うん」
傘の中に佐原が入ることを許し、傘を佐原のほうに傾けてやる。
こうやって、ひとつ、またひとつと思い出が増えていくことが嬉しい。これからたくさんの時を佐原と過ごしていくのだろう。
佐原とふたり、霊園をあとにして駐車場に着く。
佐原は傘を持ったまま助手席側までついてきた。
「ありがとう、もういいよ……」
和泉が振り返ったときには、佐原に唇を奪われていた。
雨に濡れた傘で隠れているし、周囲には人影はないが、それでもここは外だ。それなのに佐原は深いキスをしようとする。
「さは……っ……んっ……」
こんなところで、と和泉の理性が一瞬働いたが、佐原からのキスを受け止める。
佐原には抗えない。これはきっと惚れた弱みだ。好きだから、なんでも許してしまいたくなる。
佐原が唇を離して、微笑みかけてくる。
「なぁ、和泉。一緒に暮らすことを前向きに考えてくれないか?」
「えっ?」
「せっかくパートナーになったのに、週末しか会えないのは寂しい。さっき尚紘も俺に和泉と暮らせって助言してきた」
「尚紘が?」
「ああ。俺には聞こえた。和泉は寂しがりやだから毎日布団を抱き締めて寝てるって。だったら毎晩俺にひっついてくれ」
「はぁっ?」
なぜそれを佐原が知っている……? 尚紘だってその秘密は知らないはずなのに。
「図星だろ? お前はいつも眠るときに俺の腕をがっつり掴んできた。あれはお前の寝るときの癖だろ」
「あ……」
それはまったくの無意識だ。でも恥ずかしいことに、眠るときには必ず目の前にある何かを抱き締めないと眠れないタチだ。
「な? 和泉。一緒に暮らそう。今すぐ俺のマンションに引っ越してこい。朝晩の食事も用意するし、うんとお前を甘やかしてやる」
「佐原と暮らす……」
一日の終わりに佐原がいる。それはとても魅力的だ。和泉は料理が苦手で、佐原が食事を用意してくれたら楽だし、なにより寂しくない。それに好きなときに佐原とプレイができる。
「いい返事を期待してるよ」
佐原は最後に軽くキスをする。こんなときにもグレアを発して和泉を支配しようとしてくるのだから、佐原はずるい。
SubはDomのいいなりだ。Domに敵うはずがないじゃないかと思いながらも、手にした幸せが愛おしくなって和泉はイエスの返事の代わりに佐原の唇にキスをした。
——完。
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