おいてけぼりのSubは一途なDomに愛される

雨宮里玖

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9.一途に

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「一目惚れ? そんなはずがない。和泉は俺に興味なくて、俺の研修だって嫌々引き受けてたじゃないか」
「違うよ。あれは俺がSubなのに、Domと四六時中一緒にいるのは危険だと思ってたからだ」
「俺の何が危険なんだよ」

 佐原は不満気な顔をしてみせる。その目からは怒りのグレアを感じる。

「それだよ。Domはすぐにそうやってグレアを出すからSubは大変なんだ。会社で妙な気分になるのも……ひ、跪きでもしたら佐原にSubだってバレると思ったから」
「そうだったのか……悪い。グレアは無意識だ。多分、俺は和泉を好きで好きで仕方がなくて、お前をそういう目で見てたからかもな」

 そう言うそばからグレアをたたえた目でこちらを見ている。

「今後も外でグレアを出すのはやめてくれ」

 ベッドの中でふたりきりのときならいいが、外で佐原のグレアに当てられたらたまったものじゃない。これからもSubだということは佐原以外の人間には隠しておきたいと思っているのに。

「無理だ。さっき無意識だって言っただろ? 俺は和泉が好きすぎてやばい。散々我慢してこのザマなんだからこれ以上はどうしようもない」

 佐原はそう言って和泉の額にキスをする。あの魅惑的なグレアが無意識とは。まぁ、隣に佐原がいてくれるなら、何か起きてもきっと佐原が助けてくれる。

 和泉にはグレアの力はないが、和泉だっていつも佐原に見惚れて、相応の視線で佐原に愛情を向けていた気がする。いつの頃からか、佐原を見るたびに特別な感情を抱いていたように思う。



「そうだ。あのときかもしれない。お前とふたりで出張に行ったとき……」
「あぁ。あれは楽しかったな」
「営業先に向かう行きの新幹線で佐原が寝てたから、俺……」
「和泉が起こしてくれたんだよな」
「うん。今だから白状するけど、俺はあのとき佐原にキスを——」
「はっ……?」

 佐原の動きがぴたと止まる。大きな目をさらに大きく開けて和泉を見た。

「いや、あのっ。軽ーく。口じゃない、この辺に……」

 和泉は指でトンと佐原の頬に触れる。

「和泉。お前……」
「いっ、今思うとあのときすでに佐原が好きだったのかな……って……」
「なんで俺はそんな大事なときに寝てたんだよっ、おいっ、嘘だろ和泉が、だって……」

 佐原が慌てて和泉の肩を掴んで揺すってきた。なんだか混乱しているみたいだ。

「あのときの俺は、お前を好きになっちゃいけないっていろいろ雁字搦がんじがらめになってたから」
「そんな……俺はお前はプレイをしないと体調不良になるからって、それをいいことに無理矢理お前にプレイを迫ってさ。コマンドで縛ってお前の身体を支配して、プレイが終わるたびに心の中で和泉に謝って……」

 佐原は苦しそうな顔をしている。プレイのたびにずっとそんなふうに申し訳なさを感じていたとは思いもしなかった。もっと余裕があるのかと思っていた。


「よかったよ」

 和泉は佐原の頬を撫でる。愛おしい男の顔を。

「佐原とのプレイは気持ちよかったよ。俺の気持ちが素直になれなかっただけで、嫌なことは一度もなかった」

 佐原の首筋に頭を寄せる。こういうことをするのに、もう何も気にしなくていい。好きなだけDomの佐原に甘えてしまおうと思った。

「和泉。ありがとう。お前の言葉に俺がどれだけ救われてるか」

 佐原の温かい手が何度も何度も和泉の背中を撫でる。佐原に触れられるとこんなに気持ちが落ち着くのはなぜだろう。

「俺はずっと従兄弟を死に追いやったと思ってたのに、それを和泉が救ってくれたんだ。お前に許されて、やっと気がついた。あれは事故だったんだって」
「佐原……」

 佐原もやはり同じ思いを抱えていて、和泉が佐原に救われたように、佐原も和泉に同じように感じてくれていたのだ。

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