74 / 110
9.一途に
9-11
しおりを挟む
「一目惚れ? そんなはずがない。和泉は俺に興味なくて、俺の研修だって嫌々引き受けてたじゃないか」
「違うよ。あれは俺がSubなのに、Domと四六時中一緒にいるのは危険だと思ってたからだ」
「俺の何が危険なんだよ」
佐原は不満気な顔をしてみせる。その目からは怒りのグレアを感じる。
「それだよ。Domはすぐにそうやってグレアを出すからSubは大変なんだ。会社で妙な気分になるのも……ひ、跪きでもしたら佐原にSubだってバレると思ったから」
「そうだったのか……悪い。グレアは無意識だ。多分、俺は和泉を好きで好きで仕方がなくて、お前をそういう目で見てたからかもな」
そう言うそばからグレアをたたえた目でこちらを見ている。
「今後も外でグレアを出すのはやめてくれ」
ベッドの中でふたりきりのときならいいが、外で佐原のグレアに当てられたらたまったものじゃない。これからもSubだということは佐原以外の人間には隠しておきたいと思っているのに。
「無理だ。さっき無意識だって言っただろ? 俺は和泉が好きすぎてやばい。散々我慢してこのザマなんだからこれ以上はどうしようもない」
佐原はそう言って和泉の額にキスをする。あの魅惑的なグレアが無意識とは。まぁ、隣に佐原がいてくれるなら、何か起きてもきっと佐原が助けてくれる。
和泉にはグレアの力はないが、和泉だっていつも佐原に見惚れて、相応の視線で佐原に愛情を向けていた気がする。いつの頃からか、佐原を見るたびに特別な感情を抱いていたように思う。
「そうだ。あのときかもしれない。お前とふたりで出張に行ったとき……」
「あぁ。あれは楽しかったな」
「営業先に向かう行きの新幹線で佐原が寝てたから、俺……」
「和泉が起こしてくれたんだよな」
「うん。今だから白状するけど、俺はあのとき佐原にキスを——」
「はっ……?」
佐原の動きがぴたと止まる。大きな目をさらに大きく開けて和泉を見た。
「いや、あのっ。軽ーく。口じゃない、この辺に……」
和泉は指でトンと佐原の頬に触れる。
「和泉。お前……」
「いっ、今思うとあのときすでに佐原が好きだったのかな……って……」
「なんで俺はそんな大事なときに寝てたんだよっ、おいっ、嘘だろ和泉が、だって……」
佐原が慌てて和泉の肩を掴んで揺すってきた。なんだか混乱しているみたいだ。
「あのときの俺は、お前を好きになっちゃいけないっていろいろ雁字搦めになってたから」
「そんな……俺はお前はプレイをしないと体調不良になるからって、それをいいことに無理矢理お前にプレイを迫ってさ。コマンドで縛ってお前の身体を支配して、プレイが終わるたびに心の中で和泉に謝って……」
佐原は苦しそうな顔をしている。プレイのたびにずっとそんなふうに申し訳なさを感じていたとは思いもしなかった。もっと余裕があるのかと思っていた。
「よかったよ」
和泉は佐原の頬を撫でる。愛おしい男の顔を。
「佐原とのプレイは気持ちよかったよ。俺の気持ちが素直になれなかっただけで、嫌なことは一度もなかった」
佐原の首筋に頭を寄せる。こういうことをするのに、もう何も気にしなくていい。好きなだけDomの佐原に甘えてしまおうと思った。
「和泉。ありがとう。お前の言葉に俺がどれだけ救われてるか」
佐原の温かい手が何度も何度も和泉の背中を撫でる。佐原に触れられるとこんなに気持ちが落ち着くのはなぜだろう。
「俺はずっと従兄弟を死に追いやったと思ってたのに、それを和泉が救ってくれたんだ。お前に許されて、やっと気がついた。あれは事故だったんだって」
「佐原……」
佐原もやはり同じ思いを抱えていて、和泉が佐原に救われたように、佐原も和泉に同じように感じてくれていたのだ。
「違うよ。あれは俺がSubなのに、Domと四六時中一緒にいるのは危険だと思ってたからだ」
「俺の何が危険なんだよ」
佐原は不満気な顔をしてみせる。その目からは怒りのグレアを感じる。
「それだよ。Domはすぐにそうやってグレアを出すからSubは大変なんだ。会社で妙な気分になるのも……ひ、跪きでもしたら佐原にSubだってバレると思ったから」
「そうだったのか……悪い。グレアは無意識だ。多分、俺は和泉を好きで好きで仕方がなくて、お前をそういう目で見てたからかもな」
そう言うそばからグレアをたたえた目でこちらを見ている。
「今後も外でグレアを出すのはやめてくれ」
ベッドの中でふたりきりのときならいいが、外で佐原のグレアに当てられたらたまったものじゃない。これからもSubだということは佐原以外の人間には隠しておきたいと思っているのに。
「無理だ。さっき無意識だって言っただろ? 俺は和泉が好きすぎてやばい。散々我慢してこのザマなんだからこれ以上はどうしようもない」
佐原はそう言って和泉の額にキスをする。あの魅惑的なグレアが無意識とは。まぁ、隣に佐原がいてくれるなら、何か起きてもきっと佐原が助けてくれる。
和泉にはグレアの力はないが、和泉だっていつも佐原に見惚れて、相応の視線で佐原に愛情を向けていた気がする。いつの頃からか、佐原を見るたびに特別な感情を抱いていたように思う。
「そうだ。あのときかもしれない。お前とふたりで出張に行ったとき……」
「あぁ。あれは楽しかったな」
「営業先に向かう行きの新幹線で佐原が寝てたから、俺……」
「和泉が起こしてくれたんだよな」
「うん。今だから白状するけど、俺はあのとき佐原にキスを——」
「はっ……?」
佐原の動きがぴたと止まる。大きな目をさらに大きく開けて和泉を見た。
「いや、あのっ。軽ーく。口じゃない、この辺に……」
和泉は指でトンと佐原の頬に触れる。
「和泉。お前……」
「いっ、今思うとあのときすでに佐原が好きだったのかな……って……」
「なんで俺はそんな大事なときに寝てたんだよっ、おいっ、嘘だろ和泉が、だって……」
佐原が慌てて和泉の肩を掴んで揺すってきた。なんだか混乱しているみたいだ。
「あのときの俺は、お前を好きになっちゃいけないっていろいろ雁字搦めになってたから」
「そんな……俺はお前はプレイをしないと体調不良になるからって、それをいいことに無理矢理お前にプレイを迫ってさ。コマンドで縛ってお前の身体を支配して、プレイが終わるたびに心の中で和泉に謝って……」
佐原は苦しそうな顔をしている。プレイのたびにずっとそんなふうに申し訳なさを感じていたとは思いもしなかった。もっと余裕があるのかと思っていた。
「よかったよ」
和泉は佐原の頬を撫でる。愛おしい男の顔を。
「佐原とのプレイは気持ちよかったよ。俺の気持ちが素直になれなかっただけで、嫌なことは一度もなかった」
佐原の首筋に頭を寄せる。こういうことをするのに、もう何も気にしなくていい。好きなだけDomの佐原に甘えてしまおうと思った。
「和泉。ありがとう。お前の言葉に俺がどれだけ救われてるか」
佐原の温かい手が何度も何度も和泉の背中を撫でる。佐原に触れられるとこんなに気持ちが落ち着くのはなぜだろう。
「俺はずっと従兄弟を死に追いやったと思ってたのに、それを和泉が救ってくれたんだ。お前に許されて、やっと気がついた。あれは事故だったんだって」
「佐原……」
佐原もやはり同じ思いを抱えていて、和泉が佐原に救われたように、佐原も和泉に同じように感じてくれていたのだ。
137
お気に入りに追加
1,734
あなたにおすすめの小説


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
表紙絵
⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる