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7.真相は
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「佐原は俺に罪滅ぼし、してくれたんだろ?」
二月から専務取締役になることが決定した佐原は、そうなる前にリスキリング研修を装って和泉に近づいた。
和泉に対して悔恨の情を抱いていた佐原は、罪滅ぼしのために和泉の仕事を助け、和泉を守ろうとした。
これが、佐原の本心だ。
佐原が和泉を助けてくれたのは、和泉に好意を抱いているからじゃない。強い責任感と、自責の念からくるものだった。
佐原は自分のせいで和泉を不幸にしたと思い込んでいた。だから和泉を救いたかったのだろう。
そして、プレイもだ。
佐原と初めてプレイをした日、和泉はSub特有の体調不良に陥っていた。
和泉をSubだと知っていた佐原は、和泉の体調不良の原因がアルコールのせいではなくプレイをしていないことによるものだと途中で気がついたのだ。
佐原は、自分のせいでDomを失ったSubの和泉に同情した。
それで尚紘の代わりになろうとして、和泉とプレイをし、和泉を体調不良から救った。そうに違いない。
「お前、なにが『プレイに付き合えばお前がSubだということは黙っていてやる』だ。最初から俺の秘密を暴露する気なんてなかったんだろ?」
佐原は、体調不良を起こしても意固地になって誰ともプレイをしない和泉が断らないように、あんなことを言ったのだ。
和泉を脅すようなことを言えば、和泉がプレイをすることを受け入れやすくなるからという佐原の優しさからくる脅迫だったのだろう。
「ああ。お前の秘密を暴露する気なんてない。お前は俺を受け入れてくれたけど、もしお前が俺とのプレイを断っても、俺は誰にも話すつもりはなかった」
佐原はモテる。もし自分が誰かとプレイがしたいと思えば相手はいくらでも見つかるはずだ。それなのにわざわざ和泉を脅してまでプレイを強要する必要などない。
「お前、尚紘の代わりになろうとして、俺とプレイしたんだろ?」
最初のプレイのとき、和泉が精神的に不安定になったとき、佐原は和泉のことをわざわざ「理人」と呼んだ。
尚紘を求める和泉のことを可哀想に思ったのだろう。それで、尚紘を演じたに違いない。
佐原からの返事はなかった。返事がないことが、返事だと思った。間違っても「そうだ。お前に同情したんだ」なんて辛辣な言葉を佐原は言えないだろうから。
佐原は、好きでもない和泉を責任感と同情心で抱いていたのだ。
佐原の不可解なほどに優しかった行動はすべて、和泉に対する恋情じゃなかった。
佐原の気持ちは、和泉にはない。
和泉は佐原の身体を離し、佐原の目を見て訴える。
「佐原。あと一度だけ、プレイしてよ」
佐原のことは、これで諦める。
「もうやめよう、和泉。やっぱり無理だ。俺は、俺はもう……」
「これで最後でいいから。最近頭が痛くてさ。Sub安定剤の効きも悪くて、辛いんだ」
和泉は嘘をついた。
最後のプレイは佐原を忘れるための儀式みたいなものだ。責任感の強い佐原なら泣き落とせばきっと和泉を抱いてくれる。
「それなら和泉、俺以外のDomをあたってくれ。プレイ専門の店に行くなり、他にも方法はある」
「嫌だ。佐原がいい」
他のDomになど触られたくもない。佐原じゃなければ意味がない。
「尚紘のこと、今でも忘れられないんだ」
佐原の責任感と同情心を煽ってやる。
「尚紘はこの世にいないから、佐原が代わりになってくれ。佐原は尚紘に見た目が似てるし、俺の事情を理解してくれてる。俺はDomに先立たれた可哀想なSubなんだ。何回もしろとは言わない。今日だけ、一度だけ抱いてくれたらそれで終わりでいいから……」
佐原に尚紘の死の原因を押しつける気はない。ただ、佐原は尚紘の名前を出されると弱いはずだ。同情してもらうには、この手しかない。
「わかった。ごめん、和泉……」
佐原は和泉の身体を抱き締めてきた。和泉はその優しい腕の中に顔を埋める。
この身に佐原の温もりをしっかりと刻んでおかなければ。
いくら佐原が優しくても、そこにつけ込むのはよくない。同情でプレイしてもらうのはこれで最後にするべきだ。
今日限りで、佐原を解放してやらなければならない。
責任も感じなくていいし、もう十分返してもらったと、笑顔で送り出してやろう。
二月から専務取締役になることが決定した佐原は、そうなる前にリスキリング研修を装って和泉に近づいた。
和泉に対して悔恨の情を抱いていた佐原は、罪滅ぼしのために和泉の仕事を助け、和泉を守ろうとした。
これが、佐原の本心だ。
佐原が和泉を助けてくれたのは、和泉に好意を抱いているからじゃない。強い責任感と、自責の念からくるものだった。
佐原は自分のせいで和泉を不幸にしたと思い込んでいた。だから和泉を救いたかったのだろう。
そして、プレイもだ。
佐原と初めてプレイをした日、和泉はSub特有の体調不良に陥っていた。
和泉をSubだと知っていた佐原は、和泉の体調不良の原因がアルコールのせいではなくプレイをしていないことによるものだと途中で気がついたのだ。
佐原は、自分のせいでDomを失ったSubの和泉に同情した。
それで尚紘の代わりになろうとして、和泉とプレイをし、和泉を体調不良から救った。そうに違いない。
「お前、なにが『プレイに付き合えばお前がSubだということは黙っていてやる』だ。最初から俺の秘密を暴露する気なんてなかったんだろ?」
佐原は、体調不良を起こしても意固地になって誰ともプレイをしない和泉が断らないように、あんなことを言ったのだ。
和泉を脅すようなことを言えば、和泉がプレイをすることを受け入れやすくなるからという佐原の優しさからくる脅迫だったのだろう。
「ああ。お前の秘密を暴露する気なんてない。お前は俺を受け入れてくれたけど、もしお前が俺とのプレイを断っても、俺は誰にも話すつもりはなかった」
佐原はモテる。もし自分が誰かとプレイがしたいと思えば相手はいくらでも見つかるはずだ。それなのにわざわざ和泉を脅してまでプレイを強要する必要などない。
「お前、尚紘の代わりになろうとして、俺とプレイしたんだろ?」
最初のプレイのとき、和泉が精神的に不安定になったとき、佐原は和泉のことをわざわざ「理人」と呼んだ。
尚紘を求める和泉のことを可哀想に思ったのだろう。それで、尚紘を演じたに違いない。
佐原からの返事はなかった。返事がないことが、返事だと思った。間違っても「そうだ。お前に同情したんだ」なんて辛辣な言葉を佐原は言えないだろうから。
佐原は、好きでもない和泉を責任感と同情心で抱いていたのだ。
佐原の不可解なほどに優しかった行動はすべて、和泉に対する恋情じゃなかった。
佐原の気持ちは、和泉にはない。
和泉は佐原の身体を離し、佐原の目を見て訴える。
「佐原。あと一度だけ、プレイしてよ」
佐原のことは、これで諦める。
「もうやめよう、和泉。やっぱり無理だ。俺は、俺はもう……」
「これで最後でいいから。最近頭が痛くてさ。Sub安定剤の効きも悪くて、辛いんだ」
和泉は嘘をついた。
最後のプレイは佐原を忘れるための儀式みたいなものだ。責任感の強い佐原なら泣き落とせばきっと和泉を抱いてくれる。
「それなら和泉、俺以外のDomをあたってくれ。プレイ専門の店に行くなり、他にも方法はある」
「嫌だ。佐原がいい」
他のDomになど触られたくもない。佐原じゃなければ意味がない。
「尚紘のこと、今でも忘れられないんだ」
佐原の責任感と同情心を煽ってやる。
「尚紘はこの世にいないから、佐原が代わりになってくれ。佐原は尚紘に見た目が似てるし、俺の事情を理解してくれてる。俺はDomに先立たれた可哀想なSubなんだ。何回もしろとは言わない。今日だけ、一度だけ抱いてくれたらそれで終わりでいいから……」
佐原に尚紘の死の原因を押しつける気はない。ただ、佐原は尚紘の名前を出されると弱いはずだ。同情してもらうには、この手しかない。
「わかった。ごめん、和泉……」
佐原は和泉の身体を抱き締めてきた。和泉はその優しい腕の中に顔を埋める。
この身に佐原の温もりをしっかりと刻んでおかなければ。
いくら佐原が優しくても、そこにつけ込むのはよくない。同情でプレイしてもらうのはこれで最後にするべきだ。
今日限りで、佐原を解放してやらなければならない。
責任も感じなくていいし、もう十分返してもらったと、笑顔で送り出してやろう。
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