48 / 110
7.真相は
7-5
しおりを挟む
「どんなに謝っても許されない。お前に嫌われるのが怖くて、どうしても言えなかった」
佐原の漆黒の瞳が濡れ、不安げに揺れている。
いつもの佐原と雰囲気が違うことに気がついて怖くなる。
佐原は何を言おうとしているのだろう。
あの笑顔と優しい微笑みの下に、ずっと何を隠していた……?
「尚紘を殺したのは俺だ。俺がお前から大切なパートナーを奪った」
突然の佐原の告白に、時が止まったようだった。
尚紘は薬の過剰服用のせいで事故死したはずだ。
佐原は何を言っているのだろう。佐原がそれに関係しているとは到底思えない。
「五年前の六月三日、最後に尚紘に会ったのは俺なんだ。あいつに呼び出されて話をした。そこで俺はあいつとケンカして、グレアをぶつけ合って尚紘の右手に怪我を負わせた」
「怪我……?」
「運転に支障があったと思う。ついでに俺はあいつを散々怒らせたから、尚紘のメンタルも悪かった。あいつは相当イライラしてたと思う。それで尚紘は事故を起こして死んだんだ」
「知らなかった……」
事故の直前、尚紘と佐原のふたりはケンカをしていた。そんなことは想像すらしなかった。
和泉が尚紘に会ったのは事故のあとで、事故以前に尚紘が怪我をしていたかも、どんな様子だったのかもわからなかった。
ただ佐原の話を聞いていて、ひとつだけわかったことがある。
和泉が尚紘の死にずっと責任を感じていたように、佐原も長い間その責任を背負って生きていたということだ。
まさか佐原がそんな気持ちでいるとは夢にも思わなかった。
「尚紘の葬式のときに、和泉はずっと泣いてたよな。俺が何度見に行っても泣いてて、雨が降ってきたのにずぶ濡れのまま、まだ泣いてた。俺はなんてことをしたんだとあのとき思い知った。和泉から最愛のパートナーを奪ったんだ。俺がくだらない意地を張って尚紘を怒らせたせいで、和泉は、和泉は……」
佐原の目から涙が溢れる。
佐原はこのことをずっと後悔し続けていたのだろう。
それは和泉も同じことだ。何年経っても尚紘を失ったときの後悔は、決して薄れることはなかった。
「あのとき、俺に傘をくれたのはお前か?」
和泉は佐原の涙を指で拭い、頬を撫でてやる。
佐原は静かに頷く。
あのとき和泉に声をかけてきたのは、佐原だったのだ。尚紘の死を自分のせいだと思って苦しんでいた優しい佐原がくれた傘だった。
「謝ってもあいつは帰って来ないし、これは俺のひとりよがりな気持ちだとわかってる。それでも和泉に謝りたい。和泉、お前をひとりにしてごめん。お前から尚紘を奪ってごめん……」
佐原の言うとおり、謝ってもどうにもならないことだ。それでも和泉が謝罪を受け入れることで、佐原の懺悔の気持ちがほんの少しでも軽くなるならいい。佐原の気持ちが沈むたびに何度でも聞いて、受け止めてやりたい。
「お前のせいじゃない。佐原は何も悪くないよ」
和泉は佐原の身体を抱き寄せた。和泉の左肩に頭を寄せ、身体を小さく震わせている佐原の大きな背中をそっと撫でてやる。
これでわかった。
佐原がなぜ和泉の前に突然現れたのか。
あんなに和泉を助けようとしたのか。
佐原の漆黒の瞳が濡れ、不安げに揺れている。
いつもの佐原と雰囲気が違うことに気がついて怖くなる。
佐原は何を言おうとしているのだろう。
あの笑顔と優しい微笑みの下に、ずっと何を隠していた……?
「尚紘を殺したのは俺だ。俺がお前から大切なパートナーを奪った」
突然の佐原の告白に、時が止まったようだった。
尚紘は薬の過剰服用のせいで事故死したはずだ。
佐原は何を言っているのだろう。佐原がそれに関係しているとは到底思えない。
「五年前の六月三日、最後に尚紘に会ったのは俺なんだ。あいつに呼び出されて話をした。そこで俺はあいつとケンカして、グレアをぶつけ合って尚紘の右手に怪我を負わせた」
「怪我……?」
「運転に支障があったと思う。ついでに俺はあいつを散々怒らせたから、尚紘のメンタルも悪かった。あいつは相当イライラしてたと思う。それで尚紘は事故を起こして死んだんだ」
「知らなかった……」
事故の直前、尚紘と佐原のふたりはケンカをしていた。そんなことは想像すらしなかった。
和泉が尚紘に会ったのは事故のあとで、事故以前に尚紘が怪我をしていたかも、どんな様子だったのかもわからなかった。
ただ佐原の話を聞いていて、ひとつだけわかったことがある。
和泉が尚紘の死にずっと責任を感じていたように、佐原も長い間その責任を背負って生きていたということだ。
まさか佐原がそんな気持ちでいるとは夢にも思わなかった。
「尚紘の葬式のときに、和泉はずっと泣いてたよな。俺が何度見に行っても泣いてて、雨が降ってきたのにずぶ濡れのまま、まだ泣いてた。俺はなんてことをしたんだとあのとき思い知った。和泉から最愛のパートナーを奪ったんだ。俺がくだらない意地を張って尚紘を怒らせたせいで、和泉は、和泉は……」
佐原の目から涙が溢れる。
佐原はこのことをずっと後悔し続けていたのだろう。
それは和泉も同じことだ。何年経っても尚紘を失ったときの後悔は、決して薄れることはなかった。
「あのとき、俺に傘をくれたのはお前か?」
和泉は佐原の涙を指で拭い、頬を撫でてやる。
佐原は静かに頷く。
あのとき和泉に声をかけてきたのは、佐原だったのだ。尚紘の死を自分のせいだと思って苦しんでいた優しい佐原がくれた傘だった。
「謝ってもあいつは帰って来ないし、これは俺のひとりよがりな気持ちだとわかってる。それでも和泉に謝りたい。和泉、お前をひとりにしてごめん。お前から尚紘を奪ってごめん……」
佐原の言うとおり、謝ってもどうにもならないことだ。それでも和泉が謝罪を受け入れることで、佐原の懺悔の気持ちがほんの少しでも軽くなるならいい。佐原の気持ちが沈むたびに何度でも聞いて、受け止めてやりたい。
「お前のせいじゃない。佐原は何も悪くないよ」
和泉は佐原の身体を抱き寄せた。和泉の左肩に頭を寄せ、身体を小さく震わせている佐原の大きな背中をそっと撫でてやる。
これでわかった。
佐原がなぜ和泉の前に突然現れたのか。
あんなに和泉を助けようとしたのか。
150
お気に入りに追加
1,739
あなたにおすすめの小説


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…
※カクヨムにも投稿始めました!アルファポリスとカクヨムで別々のエンドにしようかなとも考え中です!
カクヨム登録されている方、読んで頂けたら嬉しいです!!
番外編は時々追加で投稿しようかなと思っています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる