おいてけぼりのSubは一途なDomに愛される

雨宮里玖

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6.芽生えた感情

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 外の明るさを感じて目が覚める。
 プレイのあと和泉は気絶するように眠ってしまったはずなのに、身体は綺麗になっているし、脱がされたはずの浴衣もきちんと着せられていた。全部、佐原の仕業だろう。

 下腹部に少しの違和感があった。それが昨夜、佐原とプレイしたことを伝えてくるようで、愛おしく思った。

 佐原に最後まで許してしまった。一度だけじゃない。前でも後ろでもイかされて、佐原の支配下に置かれ、スペースに入ったあとも、何度も佐原と身体を繋げた。

 佐原に貫かれたことを思い出しただけで身体がじんと熱を帯びてくる。昨夜は最高の夜だった。




 上半身を起こし、部屋の中を見渡してみても、佐原の姿はなかった。
 代わりに置いてあったものは『急用で先に帰る』と書いた達筆のメモだった。

 今日の予定は、富久製薬の工場見学と打ち合わせだ。佐原が残れないのなら和泉ひとりでこなすしかない。

 そういえば昨日の夜、電話のあと佐原の様子がおかしかった。佐原は多くは語らなかったが、あの電話が急用だったのかもしれない。

「佐原は先に帰ったのか……」

 佐原はいつも朝まで一緒にいてくれない。プレイのあと、こうやって佐原に取り残されることには慣れていたはずだった。プレイさえ終わってしまえば和泉など用なしなのはわかっていたから。


 でも、今日はダメだった。佐原に偽のDom/Subパートナーだという関係性をはっきりと告げられたようで、ショックを受けた。

 こんな気持ちになるのには、理由がある。

 間違いない。自分自身で認めるしかない。


 佐原のことが好きだ。


 世話好きな佐原は、いつも和泉を助けてくれる。
 仕事に行き詰まっていると「どうした?」とさりげなく声をかけてきて、手伝ってくれる。
 和泉の多すぎた仕事量を見直すように西野課長や蔵橋に意見してくれたのもきっと佐原だ。佐原が休日にふたりとゴルフコースを回った翌日から、急に周囲の態度が変わった。接待ゴルフの際に、佐原が何か提案したに違いない。


 和泉は仕事でもプライベートでも基本的にひとり行動だった。それなのに佐原が来てからというもの、常にふたり。
 研修と称して、営業先でも、湾岸にある医薬品原料倉庫でも、どこでも佐原がついてくる。
 当然昼休みも一緒、夕食も佐原と共にすることが格段に多くなった。
 減らず口の佐原は一緒にいて楽しい。言いたいことを言い合える関係はすごく楽だ。


 そして佐原とのプレイ。
 佐原のプレイスタイルは好みだ。和泉はムチで叩かれたり、蹴飛ばされ、傷つけられたりする痛いプレイは好まない。優しい性的なプレイをされるほうが好きだ。

 Domのグレアに酔いしれながら、コマンドを与えられ、快感を与え続けられる。

 昨日のプレイは気持ちよかった。気がついたらスペースに入っていた。

 Subがスペースに入るためにはDomへの絶対的な信頼がなければならない。
 このDomなら安心してすべてを任せられると思えて、心地よいプレイをされると、Subはスペースと呼ばれる一種のトリップ状態に陥ることができる。

 今まで生きてきて、二度目のスペースだった。尚紘と何年もパートナーとして過ごして、プレイをしていてもスペースに入ったのはただの一度だけ。

 佐原とのプレイでスペースに入ること自体が和泉の本音を表しているのではないか。



 佐原に特別な感情を抱いている。佐原の心は他のSubに向いているとわかっているのに、佐原に脅されて、性欲処理のための偽のパートナーになっただけだとわかっているのに、佐原に惹かれ、好きになってしまった。


 佐原のSubになりたい。 
 できれば、佐原と恋人同士になりたい。



 あと二ヶ月だけ、佐原と一緒にいられる。
 二ヶ月後には佐原は和泉のもとから消えていなくなる。それまでの間は、プレイにかこつけて佐原に縋りついていよう。




 二ヶ月後、佐原と別れるときに玉砕覚悟でこの気持ちを伝えてみようか。
 叶わない恋はやめて、いっそ俺で手を打たないかと言ったら佐原はどんな顔をするだろう。

 そんなに俺とのプレイが気に入ったのかと偉そうに見下してくるかもしれない。そのあと佐原はなんと答えてくるだろう。あのたくましい腕で和泉を抱き締めてくれるだろうか。


 佐原とプレイをしたあと朝まで一緒に過ごしてみたい。目覚めたあとも、夢の続きのようにすぐ隣に佐原がいてほしい。そして「おはよう」と言って抱き締めてもらいたい。 

 そのあとデートをしてみたい。特別なものでなくていい。買い物をしたり、誰もいない公園を手を繋いで歩くようなデートがいい。ただいつも隣に佐原がいてくれればそれだけできっと最高の一日になる。

 そんな妄想をしただけでつい頬が緩んでしまう。
 

 止められない、この湧き上がる気持ちはどうしたらいい。
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