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4.支配される
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「時々プレイするだけの関係でいい。それ以上はお前に何も求めない。プレイ中に他の男の名前を呼んでもいい。それならどうだ?」
「なんだよそれ……」
「俺もプレイする相手がいないんだよ。最近イライラしてちょっとしたことで力を使いたくなって仕方がない。大事になる前にお前を利用して力を発散したい」
なるほど。佐原の考えがわかった。佐原は想いが叶わないSubに片想いをしていて、パートナーができない。だから、手っ取り早くプレイできる手短な相手を求めているのだろう。
Domはプレイをしなければ支配欲に苛まれる。最悪の場合、Domは力を暴走させてしまうことがある。感情のコントロールができなくなり、強烈なグレアを爆発させ無関係な人を巻き込んで刑事事件を起こしてしまった例はいくらでもある。
Domのディフェンスと呼ばれる行動もそのひとつだ。Domは自分のパートナーであるSubを傷つけられることを極端に嫌う。Subを守るためにトランス状態となり、グレアで周囲を攻撃することもある。
ただDom/Subの性欲を発散させるだけの関係。冷めた刹那の関係は、DomやSubにはつきものだ。お互いマイノリティなため、恋人同士のような最高のパートナーを見つけることは難しい。だから専用のマッチングサイトやプレイ専用の店などで欲を吐き出すことになることも珍しくはない。
「期間は三ヶ月。俺がお前と同じ部署にいる間だけ付き合ってくれればいい。そうしてくれたら俺はお前の秘密を守る」
期間を指定するとはどういうことなのだろう。三ヶ月過ぎたら和泉と距離が離れるから、それ以降はプレイの相手として面倒になる、ということなのだろうか。
今の会社は、尚紘の父親の会社だ。尚紘のあとを追いかけたくて履歴書詐称まで行って今の立場をもぎ取った。その座をみすみす手放したくはない。
三ヶ月だけ佐原に従えば、今までどおりに仕事を続けられる。
「……わかった。三ヶ月だけお前のプレイの誘いに応じる」
和泉も医師から散々薬に頼らずにDomとプレイをするようにと勧められてきた。医師からプレイの店を紹介されるほどの状況だったのだから、これは治療の一環だと思いこめばいい。
和泉の身体は限界だった。Subが生きていくためには、プレイをしなければならない。尚紘のいない世界で生きていくためにはDomとプレイを行うしか方法はない。
「やっと話ができるようになったな、和泉。これで決まりだ。俺たちは三ヶ月間だけ、偽のパートナーになる」
「偽のパートナー……」
「そうだ、お互いの体調管理のための関係だよ。それ以上にも以下にもならない。お前からの愛情は求めない」
「佐原もだろ。お前だって、本当は別のSubとプレイしたいんだろ」
これはお互い割り切った関係だ。佐原の心も和泉にはまったく向いていない。佐原もその胸の内には別の人を想っている。
「なんだよ、俺を笑いたければ笑えばいいだろ」
佐原が拗ねた。つついてみれば案外面白い男なのかもしれない。
「どこの誰なんだよ、教えろよ」
「誰が言うか。お前に教える気なんてない」
「お前もプレイのときにそいつの名前を呼んでいいよ」
「別の奴の名前は呼ばない」
人には「別の男の名前を呼んでいい」と言いながら、佐原は何を意固地になっているのだろう。もしかしたら和泉には姿を重ねられない、似ても似つかない相手なのかもしれない。
「俺に遠慮なんてしなくていい。どうせ俺は偽のパートナーなんだから」
佐原が和泉とプレイをしながら他のSubのことを思い浮かべようが構わない。それこそお互い様だ。
「そうだな。偽物でもなんでも、三ヶ月間、和泉は俺のパートナーだ」
佐原は微笑む。偽のパートナー契約なのに、和泉を見る佐原の瞳が妙に優しくて、それを見たときなぜか和泉の胸が締め付けられるように痛んだ。
「これからの三ヶ月、楽しみにしてるよ」
佐原は和泉に近づき、頭のつむじに唇を寄せ、軽くキスをした。
「じゃあな和泉。また会社で」
佐原はビジネスバッグを拾い上げ、振り返りもせずに和泉の部屋から出て行った。
「なんだよそれ……」
「俺もプレイする相手がいないんだよ。最近イライラしてちょっとしたことで力を使いたくなって仕方がない。大事になる前にお前を利用して力を発散したい」
なるほど。佐原の考えがわかった。佐原は想いが叶わないSubに片想いをしていて、パートナーができない。だから、手っ取り早くプレイできる手短な相手を求めているのだろう。
Domはプレイをしなければ支配欲に苛まれる。最悪の場合、Domは力を暴走させてしまうことがある。感情のコントロールができなくなり、強烈なグレアを爆発させ無関係な人を巻き込んで刑事事件を起こしてしまった例はいくらでもある。
Domのディフェンスと呼ばれる行動もそのひとつだ。Domは自分のパートナーであるSubを傷つけられることを極端に嫌う。Subを守るためにトランス状態となり、グレアで周囲を攻撃することもある。
ただDom/Subの性欲を発散させるだけの関係。冷めた刹那の関係は、DomやSubにはつきものだ。お互いマイノリティなため、恋人同士のような最高のパートナーを見つけることは難しい。だから専用のマッチングサイトやプレイ専用の店などで欲を吐き出すことになることも珍しくはない。
「期間は三ヶ月。俺がお前と同じ部署にいる間だけ付き合ってくれればいい。そうしてくれたら俺はお前の秘密を守る」
期間を指定するとはどういうことなのだろう。三ヶ月過ぎたら和泉と距離が離れるから、それ以降はプレイの相手として面倒になる、ということなのだろうか。
今の会社は、尚紘の父親の会社だ。尚紘のあとを追いかけたくて履歴書詐称まで行って今の立場をもぎ取った。その座をみすみす手放したくはない。
三ヶ月だけ佐原に従えば、今までどおりに仕事を続けられる。
「……わかった。三ヶ月だけお前のプレイの誘いに応じる」
和泉も医師から散々薬に頼らずにDomとプレイをするようにと勧められてきた。医師からプレイの店を紹介されるほどの状況だったのだから、これは治療の一環だと思いこめばいい。
和泉の身体は限界だった。Subが生きていくためには、プレイをしなければならない。尚紘のいない世界で生きていくためにはDomとプレイを行うしか方法はない。
「やっと話ができるようになったな、和泉。これで決まりだ。俺たちは三ヶ月間だけ、偽のパートナーになる」
「偽のパートナー……」
「そうだ、お互いの体調管理のための関係だよ。それ以上にも以下にもならない。お前からの愛情は求めない」
「佐原もだろ。お前だって、本当は別のSubとプレイしたいんだろ」
これはお互い割り切った関係だ。佐原の心も和泉にはまったく向いていない。佐原もその胸の内には別の人を想っている。
「なんだよ、俺を笑いたければ笑えばいいだろ」
佐原が拗ねた。つついてみれば案外面白い男なのかもしれない。
「どこの誰なんだよ、教えろよ」
「誰が言うか。お前に教える気なんてない」
「お前もプレイのときにそいつの名前を呼んでいいよ」
「別の奴の名前は呼ばない」
人には「別の男の名前を呼んでいい」と言いながら、佐原は何を意固地になっているのだろう。もしかしたら和泉には姿を重ねられない、似ても似つかない相手なのかもしれない。
「俺に遠慮なんてしなくていい。どうせ俺は偽のパートナーなんだから」
佐原が和泉とプレイをしながら他のSubのことを思い浮かべようが構わない。それこそお互い様だ。
「そうだな。偽物でもなんでも、三ヶ月間、和泉は俺のパートナーだ」
佐原は微笑む。偽のパートナー契約なのに、和泉を見る佐原の瞳が妙に優しくて、それを見たときなぜか和泉の胸が締め付けられるように痛んだ。
「これからの三ヶ月、楽しみにしてるよ」
佐原は和泉に近づき、頭のつむじに唇を寄せ、軽くキスをした。
「じゃあな和泉。また会社で」
佐原はビジネスバッグを拾い上げ、振り返りもせずに和泉の部屋から出て行った。
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